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魔王編
女勇者と思ったら、イケメン勇者だった…辛い…
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「魔王様! 勇者が現れました。」
はいはい、分かったよエリーたん……
今日はやけにハスキーな声だねー?
風邪でもひいたのかなぁ?
「はいはーい! 待ってたよー!」
俺が扉を開けると山羊の骸骨が立ってた……
Oh……絶倫……
「はて? どうかされましたか?」
表情の無い山羊の骸骨が小首を傾げる。
可愛くないよ?
むしろ怖いからな!
不意打ち骸骨やめろ!
深夜のスカルナイトパニック事件で、若干トラウマなんだよ!
いきなり、目の前に骸骨シチュ。
そんなシチュエーション、前世で全然なかったからな。
「えっと、エリーたんは?」
「エリーたん? あぁ、エリー女史ですか? 彼女なら「最近女勇者の相手ばかりで疲れたので休む!」と言ってどこかにいかれましたが?」
ナンダッテー!
これは一大事!
いや、これはチャンスだ!
女勇者との仲を進行させるチャンス来た!
「うむ……それは致し方あるまいな……取りあえずわしは先に転移で玉座の間に行っておるから、くれぐれも……く・れ・ぐ・れもゆっくりくるのじゃぞ?」
「はっ? はぁ……」
絶倫が不思議そうな顔をして返事する。
だって、お前みたいな奴が来たら女勇者ちゃん怖がるじゃーん!
今日は取りあえず名前でも聞いてみるかなー……出来たら男性の好みくらいまでは聞いときたいけど。
さっさと行くベー!
俺は、絶倫を放置してとっとと玉座の間に移動した……
今日は剣戟の音が聞こえるなー。
もしかして、勇者ちゃんレベル上げしながら来てるのかなぁ……
あっ、音が止んだ。
気配が近づいてるなぁ……
おっ? 今日は4人居る。
魔法使いと僧侶復活か?
どうせすぐ飛ばしちゃうんですけどねー!
さあ、テンションが上がってきた。
やる気十分。
今夜こそ、決めるぜ。
勢いよく扉開けたなー……扉壊れちゃうよ……
なんか、今日はいつにも増して、乱暴だな。
「お前が魔王か!」
だれこのビキニアーマーのお姉さん……戦士ってお父さんじゃなかったの?
てか、魔王城にそんな装備でよく来れたな。
「おいっ、戦士勝手に進むな」
「むっ……すまない!」
続けてさらさらの赤茶色の髪をした男が入ってくる……
誰?
「待ってくださーい!」
おっ? 修道女の恰好した女が入って来た。
あっ、こけた……嘘……だろ?
こんな何もないところでこけるような、運動神経の悪い女が魔王城に辿りつけるのか?
「みんな焦り過ぎ……」
魔女っ娘キターーーーーーー!
あれっ? セクシー魔女だった……
まぁいいや……
やけに胸を強調したボディコンみたいな服着てマント羽織ってる。
ボディコンとか分かるかな? 分かるよね? 分かるといってくれ! 分かるものとして進めよう!
「さて、失礼したね。貴方が有名な魔王様かな?」
何こいつ?
様付けされてるけど、若干上から見られてる感じでイラッとするわ……
でか、有名な魔王も何も、魔王は一人しかいないだろう。
てか、お前ら全員魔王センサーついてるから、分かるだろう!
人間は、問答無用で魔王が嫌いなんだろう?
お前が俺のこと嫌いなら、俺が魔王で間違いないから安心しろ。
「ふむっ、動揺しているようですね。私はセントレアの勇者ムスカと申します。突然ですが、貴方の命頂きにあがりました」
こいつの丁寧語腹立つわ……
絶対自分がカッコいいって思ってるよね。
てかハーレムパーティで魔王城攻略とかなめてんの?
てか女勇者ちゃんは?
どこいった?
「何か、お答えいただけませんか?」
女勇者ちゃぁぁぁん!
「無理無理、勇者がカッコ良すぎて言葉も出ないってさ!」
女勇者のこと考えてたら、戦士がなんか言い出した。
おいっ、ビキニアーマー黙れ。
なんならもう、鎧着なくてもいいんじゃないか?
それ、意味あんの?
「まぁ、魔王って童貞って噂じゃない? もうちょっと若くてカッコ良かったら殺す前に相手しても良かったけど、こんなじじいじゃ枯れてるよね」
セクシー魔女がクスクス笑う。
黙れビッチ! 剥くぞ!
てか誰が童貞じゃーい!
てか、この世界の人間の人を貶める言葉のボキャブラリー貧相すぎない?
語彙が少ないというか、もう少しこう洒落た感じで煽ってくれないかな?
単純に、腹が立つけど。
「魔法使いちゃん、お下品な事言わないでください! でも勇者様と比べるとちょっと可哀想ですね……」
君も何気に酷いね……
つか、もう勇者許さん!
とくに、勇者に直接何か言われた訳じゃないけど、絶対に許さん……
取り敢えず深呼吸して、気持ちを落ち着けよう。
ここは、魔王っぽく振舞いつつ、こいつらに色々と嫌がらせをしてやる。
全力で、嫌がらせをしてやる。
なんか今回の勇者一行はもう、それこそ存在自体が嫌がらせみたいな連中だし。
とりあえず、この勇者は嫌いだ。
「ふむ……気はすんだか?」
俺は四人の目を順番に見据える。
「フッ……」
鼻で笑ってやったぜ!
あとは厳かに決める!
「余が魔王じゃ……」
よし、頑張った俺……
精一杯の威厳を保てたはずだ……たぶん……きっと……
やっべ、勇者達が冷や汗垂らしてるっぽい。
効果覿面すぎるというか、やっぱり俺の魔力が規格外だと再認識。
少し漏らしただけで、この反応……全力出したらどうなっちゃうんだろう?
「くっ、魔王の癖に生意気な!」
おい露出痴女! あっ、うちの部下の方が酷かったわ……
この半端痴女! 魔王てのは王様だぞ? てか、たぶん魔王を倒せるの勇者だけで、基本的に地上最強じゃないのかな?
しかも、勇者なら倒せる可能性があるってだけで、今の勇者で俺を倒せるのは女勇者ちゃんぐらいだぜ?
なのに、たかが人間の戦士が生意気とかどういうことよ?
お前、どう見ても平民っぽいし。
頭が高いし、態度でかいし、胸でかいし。
最後のは関係ないか。
「この余裕……流石魔王か……急に威圧感が増した……」
イケメン勇者は性格もイケメンだなー。
俺の事直接貶めたりしないし……ムカつくぜ!
うん、やっぱり嫌いだな、うん。
「まさか……童貞っていうのは嘘だったの?」
えっ? そこ?
おいっ、ちょっと待てビッチウィッチ!
いうにことかい、その反応はおかしすぎるだろう!
何基準で、それ判断してるんだお前は。
そこんとこ、詳しく聞きたいんだけど?
てか、誰がその噂広めてんの?
どれくらいの人が知ってんの?
「はぅぅぅ……怖いですぅ!」
エセドジッ娘がほざくな!
あのね、あーたここに来てる時点で相当の実力者だからね。
さっきも何もないところで転んでたりしてたけど、ステータス知ってるからね?
可愛い顔してあざといな……
なんか、顔もちょっと嘘くさく見えてきたし。
色々と、ごまかしてそうな……
とりあえずムカつくからさらにちょっとだけ、魔力開放しちゃおーっと!
おーおーおー、四人の顔が真っ青で魔族みたいだな。
「皆逃げろ! この魔王は他の魔族とは桁が違う。なんとか時間稼ぐから、魔法使い転移の魔法いけるか?」
「勇者は?」
「俺は残る! 魔法の発動時を狙われたら全滅だ! なんとか、それは阻止する!」
魔王の前で作戦暴露しちゃってるよぉ……
なんで勇者ってこんなに真面目なの?
てかバカなの? 死ぬの?
いや、普通は死ぬよね?
てか部下が本気で対応してたらここに来るまでにも、何回も死んでるだろうし。
なんなら、ここに来た瞬間に殺すこともできたし。
というか城下町含め、俺のテリトリーに入った瞬間に遠隔で魔法で殺すことも……
魔王、優秀すぎ。
ウケる。
「私も残る! 勇者を置いてなんて行けるか!」
「戦士! 分かってくれ! 俺一人ならスキをついて逃げられる! 魔法使い、どうだ?」
「んっ! 魔法陣の生成と、詠唱で4分……場所を選ばなければ詠唱省略で2分でいける! どこに飛ぶかは分からない!」
「魔法使い!」
このやりとりの間に1分くらい経ってないか?
面白いから黙って見てるけど、もうはなかっら脱出経路くらい準備しときなよー。
事前準備はできるだけ終わらせとかないと。
扉の前で、回復とかしてる場合じゃないだろう。
なんなら、俺が魔力を解放した瞬間には魔法陣作りに入らないと……絶対に、間に合わないよねそれ?
「それでいい! どこに飛んだってここよりはマシだ!」
「私は残ります! 補助魔法無しでどうにか出来ると思いますか?」
「僧侶も行くんだ!」
ふーん、君補助魔法使うんだ……
てか、黙ってても手の内ボロボロこぼしてくれるのねー……
呆れるわ……
それでも戦士がゴネてる……もう3分経ってるよ?
はなっから準備してたら、完全版の転移まで残り1分稼いだら良いだけじゃん……
まあ、一分もあれば一万回は殺せるけど。
時間を引き延ばしたり、止めたりも出来るからね。
「分かった……だが、必ず生きて戻って来いよ!」
「あぁ、俺を信じろ!」
いいねー……ドラマだねー……
君たち魔王の目の前って分かってる?
面白いから放置してるけど……
あっ、誰か来た……この気配は絶倫か。
間の悪いというか、良いというか。
「魔王様! 大丈夫ですか?」
絶倫おっせーよ! 爆笑寸劇終わっちゃったよ?
もっと急げよ……一緒に笑えたのにさ!
もうちょい早く来いよー……って、俺がゆっくりでいいって言ったんだけどな。
「まっ……魔王様?」
あっ? 顔に出てた?
「いや、口に出てました」
「あれ? すまん。ちょっと、こいつらが面白すぎて」
口に出てたのか。
なんだろう……絶倫相手だから、ついつい取り繕う気が無かったからかな?
「新手が来ましたわ!」
「なんだこいつは! この覇気……なんでこんな奴が城の守りにもつかずに今頃」
「魔法使い、時間が無い詠唱短縮で構わないから急げ!」
「無茶言うわね……分かってるわよね? 絶対に貴方も逃げるのよ!」
終わったみたいだねー。
こんだけ揉めて、絶倫が来てようやく腹を括ったかー。
リアル魔王戦だったら100000回は殺されてるとオモウヨー……
当事者的には楽しいけど、はたからみたらグダグダすぎて萎える感じかな?
絶倫がすでに、若干呆れたような表情になってるけど。
骸骨の表情が分かる俺、すげーな。
部下の感情が、割とダイレクトに伝わってくるけど。
まあ、上司としてはそれを無視することも、業務上必要なわけで。
もう殺しませんかみたいな感情も伝わってきたけど、そこはスルーしとこう。
「魔王様、これは?」
「っん? なんか、わしの目の前でわざわざ作戦や手の内をガンガン晒してくれるのが面白くて、見入ってた。こいつらさー……」
小声で絶倫に一部始終を伝える。
あっ、表情分からないけど心底可哀想な人達を見る目してる……と思う……
てか無いはずの瞳が見える……
表情が分からないってことは、もう表情が抜け落ちたんだな。
完全に馬鹿だと思ってるってことか。
お前も、大概だけどな!
「ふっ、余裕だな魔王……悪いが最初から全力で行かしてもらう……ぜ!」
そう言って勇者が一瞬で間合いを詰めてくる。
えー……こっちはこんなに待ってあげてたのに、君はいきなり来るんだ……ずるくね?
だいぶ、時間稼ぎできてたと思うんだけどね。
それこそ、扉から出て外に走って逃げるくらいの時間は、経ってるよ?
それなのに、この不意打ち。
遅いけどね。
目の前にゆっくりと剣が迫ってくるのを見つめながら、どうしようか思案する。
あっ、横から黒い手が……
絶倫に取られちゃったか。
ちょっと、下から絶倫の手を軽く押したら、目測がずれて腕に剣刺さったりしそう。
面白そうだけど、やっちゃだめだよね?
絶倫がやや怯えた表情でこっちをチラッと見たから、やめとこう。
そして、固い物同士がぶつかる音が。
「ふっ、遅すぎますね」
「なにっ?」
勇者の全力の一撃を絶倫が片手で防ぐ。
衝撃の余波が来るけど、おれにしたら微風程度の攻撃やねー。
そもそも物理無効……
防ぐ意味もない。
「魔王様大丈夫ですか?」
うんっ、だから当たっても大丈夫だけどね……
フッ……と鼻で笑って答えてみる。
勇者が歯を食いしばって悔しがってる。
これで、傷でも付けられると思ってたのかね。
「勇者! やっぱり私も残る!」
「来るな戦士! こっちの魔族だけでも俺たちより遥かに強い! だが勝つことはできなくても、俺なら死なずに戦う事はできる!」
カッコいいねー……
ムカつくねー……
だから意地悪しちゃおっと!
「おい絶倫! 手出し無用だ……好きに攻撃させてやれ……」
俺がそう言って、絶倫を下がらせる。
「御意に……」
絶倫が俺の後ろに移動する。
おー、おー、おー、おー! なんか俺大物っぽくね?
なんで今日に限ってエリーたんじゃないんだよ!
絶倫のバーカバーカ!
「っく、馬鹿にしやがって……全力じゃ足りないか……ならばその先を見せてやる!」
おー、魔力暴発させちゃってまあ……
それって結構すごいね……抑え込んでるだけでも流石勇者だわ……
コントロールは出来ないんだろうけどね。
「勇者!」
「勇者様!」
戦士と僧侶が悲壮感溢れる表情で勇者の勇姿を目に焼き付けてるのが笑える。
なに悲劇のヒロイン気取ってんの?
ここの主人公俺なんだけど?
「くっ、何故だ! 何故当たらない!」
あぁ、ごめん半端痴女とエセドジっ娘が面白くてついそっちに見入っちゃったわ。
そろそろ魔法使いちゃん準備できたかな?
「出来たわ! 【行方不明】!」
おー、きっちり2分! 仕事は確かなんだな……
「フッ……良かった……お前ら俺がいなくなってもしっかり生きろよ……」
あーあ、勇者様の魔力尽きちゃったねー……
「えっ? 嘘っ!」
「勇者様?……いやっ! 魔法使い止めて! いやだ、いやぁぁぁ……」
「ッ……」
戦士と僧侶が凄い顔してる……
魔法使いのあの表情……勇者が助からないの知ってたねー。
でもそういう覚悟嫌いじゃないよ?
魔法陣が光を放って三人を包み込む……
そして、その場から三人が姿を消すと……あら不思議! 何故かランダムで飛ばされた場所は勇者様のすぐ傍でした……
「えっ?」
「あれっ?……勇者様? それに魔王?」
「バカな! 術式は確かに発動したわよ?」
三人が狼狽してる姿がめっちゃ面白い……
「いやぁ、こんな偶然ってあるのじゃな? たまたま転移した場所が魔王城の玉座の間とはついてないのぉ……」
「魔王……きさまっ!」
やべー……超おもしれ―……
なにさっきのやり取り……
俺がいなくなってもしっかり生きろよとか言ってなかったっけー?
いやぁって……僧侶ちゃんいやぁって……凄い悲痛な声上げてたよねー……
マジウケるんですけど……
なに、魔法使いの覚悟……マジ無駄な覚悟だね……
うわぁ、後ろでめっちゃ絶倫が笑い堪えてるのが分かる。
「感動の再会だな……プッ……プクッ……」
やべー面白すぎて、魔王の演技無理ー。
ちょっ、やり過ぎた。
戦士と僧侶と魔法使いが死んだ魚の目してる。
どっかで見たな……
あっ、あれや、扉の前で回復かますアホ共を邪魔した時。
あの時の勇者パーティの目と一緒や。
「まっ、魔王さま……さすがにこれはプッ……ちょっと、可哀想過ぎる……かとプクク……」
絶倫はん、笑ってもええんやでー。
「クッ、せめて……せめて一太刀浴びせないと……死んでも死に切れん!」
うぉぉ! 勇者が鬼気迫る表情で斬りかかってきたわ……
でも残念、無念、またらいねーん!
これでもくらいやがれっ!
「【太陽の光】!」
今日のビックリドッキリチートマジック!
たった今作りました!
瞼の裏側に直接超高輝度光源を発生させて、不能グレアを発生させる魔法です。
ようは、回避不能の目くらましってやつね。
「目が、目がぁ!」
フッフッフ、勇者殿が目を押さえてのたうち回っておられる。
いや、ムスカって名前聞いたとたんにこれがどうしてもやりたくて、魔法作っちゃいました……テヘッ!
「てなわけで、サヨーナラー!」
俺がそう言うと、四人の瞳に絶望の色がはっきり映し出される。
やり過ぎちゃった……でも後悔はしていない。
安心してね?希望の町に帰すだけだから……もはや絶望の町か……
「【強制送還】」
***
はぁ、落ち着いて考えたら完全にイケメン勇者への妬みと八つ当たりだわ。
女勇者ちゃんに会いにいったら、あんないけ好かない奴がハーレム状態だったんだから仕方ないよね?
はぁぁぁぁ……自己嫌悪だわ……
魔王なのに器がちっちゃくて辛い……
はいはい、分かったよエリーたん……
今日はやけにハスキーな声だねー?
風邪でもひいたのかなぁ?
「はいはーい! 待ってたよー!」
俺が扉を開けると山羊の骸骨が立ってた……
Oh……絶倫……
「はて? どうかされましたか?」
表情の無い山羊の骸骨が小首を傾げる。
可愛くないよ?
むしろ怖いからな!
不意打ち骸骨やめろ!
深夜のスカルナイトパニック事件で、若干トラウマなんだよ!
いきなり、目の前に骸骨シチュ。
そんなシチュエーション、前世で全然なかったからな。
「えっと、エリーたんは?」
「エリーたん? あぁ、エリー女史ですか? 彼女なら「最近女勇者の相手ばかりで疲れたので休む!」と言ってどこかにいかれましたが?」
ナンダッテー!
これは一大事!
いや、これはチャンスだ!
女勇者との仲を進行させるチャンス来た!
「うむ……それは致し方あるまいな……取りあえずわしは先に転移で玉座の間に行っておるから、くれぐれも……く・れ・ぐ・れもゆっくりくるのじゃぞ?」
「はっ? はぁ……」
絶倫が不思議そうな顔をして返事する。
だって、お前みたいな奴が来たら女勇者ちゃん怖がるじゃーん!
今日は取りあえず名前でも聞いてみるかなー……出来たら男性の好みくらいまでは聞いときたいけど。
さっさと行くベー!
俺は、絶倫を放置してとっとと玉座の間に移動した……
今日は剣戟の音が聞こえるなー。
もしかして、勇者ちゃんレベル上げしながら来てるのかなぁ……
あっ、音が止んだ。
気配が近づいてるなぁ……
おっ? 今日は4人居る。
魔法使いと僧侶復活か?
どうせすぐ飛ばしちゃうんですけどねー!
さあ、テンションが上がってきた。
やる気十分。
今夜こそ、決めるぜ。
勢いよく扉開けたなー……扉壊れちゃうよ……
なんか、今日はいつにも増して、乱暴だな。
「お前が魔王か!」
だれこのビキニアーマーのお姉さん……戦士ってお父さんじゃなかったの?
てか、魔王城にそんな装備でよく来れたな。
「おいっ、戦士勝手に進むな」
「むっ……すまない!」
続けてさらさらの赤茶色の髪をした男が入ってくる……
誰?
「待ってくださーい!」
おっ? 修道女の恰好した女が入って来た。
あっ、こけた……嘘……だろ?
こんな何もないところでこけるような、運動神経の悪い女が魔王城に辿りつけるのか?
「みんな焦り過ぎ……」
魔女っ娘キターーーーーーー!
あれっ? セクシー魔女だった……
まぁいいや……
やけに胸を強調したボディコンみたいな服着てマント羽織ってる。
ボディコンとか分かるかな? 分かるよね? 分かるといってくれ! 分かるものとして進めよう!
「さて、失礼したね。貴方が有名な魔王様かな?」
何こいつ?
様付けされてるけど、若干上から見られてる感じでイラッとするわ……
でか、有名な魔王も何も、魔王は一人しかいないだろう。
てか、お前ら全員魔王センサーついてるから、分かるだろう!
人間は、問答無用で魔王が嫌いなんだろう?
お前が俺のこと嫌いなら、俺が魔王で間違いないから安心しろ。
「ふむっ、動揺しているようですね。私はセントレアの勇者ムスカと申します。突然ですが、貴方の命頂きにあがりました」
こいつの丁寧語腹立つわ……
絶対自分がカッコいいって思ってるよね。
てかハーレムパーティで魔王城攻略とかなめてんの?
てか女勇者ちゃんは?
どこいった?
「何か、お答えいただけませんか?」
女勇者ちゃぁぁぁん!
「無理無理、勇者がカッコ良すぎて言葉も出ないってさ!」
女勇者のこと考えてたら、戦士がなんか言い出した。
おいっ、ビキニアーマー黙れ。
なんならもう、鎧着なくてもいいんじゃないか?
それ、意味あんの?
「まぁ、魔王って童貞って噂じゃない? もうちょっと若くてカッコ良かったら殺す前に相手しても良かったけど、こんなじじいじゃ枯れてるよね」
セクシー魔女がクスクス笑う。
黙れビッチ! 剥くぞ!
てか誰が童貞じゃーい!
てか、この世界の人間の人を貶める言葉のボキャブラリー貧相すぎない?
語彙が少ないというか、もう少しこう洒落た感じで煽ってくれないかな?
単純に、腹が立つけど。
「魔法使いちゃん、お下品な事言わないでください! でも勇者様と比べるとちょっと可哀想ですね……」
君も何気に酷いね……
つか、もう勇者許さん!
とくに、勇者に直接何か言われた訳じゃないけど、絶対に許さん……
取り敢えず深呼吸して、気持ちを落ち着けよう。
ここは、魔王っぽく振舞いつつ、こいつらに色々と嫌がらせをしてやる。
全力で、嫌がらせをしてやる。
なんか今回の勇者一行はもう、それこそ存在自体が嫌がらせみたいな連中だし。
とりあえず、この勇者は嫌いだ。
「ふむ……気はすんだか?」
俺は四人の目を順番に見据える。
「フッ……」
鼻で笑ってやったぜ!
あとは厳かに決める!
「余が魔王じゃ……」
よし、頑張った俺……
精一杯の威厳を保てたはずだ……たぶん……きっと……
やっべ、勇者達が冷や汗垂らしてるっぽい。
効果覿面すぎるというか、やっぱり俺の魔力が規格外だと再認識。
少し漏らしただけで、この反応……全力出したらどうなっちゃうんだろう?
「くっ、魔王の癖に生意気な!」
おい露出痴女! あっ、うちの部下の方が酷かったわ……
この半端痴女! 魔王てのは王様だぞ? てか、たぶん魔王を倒せるの勇者だけで、基本的に地上最強じゃないのかな?
しかも、勇者なら倒せる可能性があるってだけで、今の勇者で俺を倒せるのは女勇者ちゃんぐらいだぜ?
なのに、たかが人間の戦士が生意気とかどういうことよ?
お前、どう見ても平民っぽいし。
頭が高いし、態度でかいし、胸でかいし。
最後のは関係ないか。
「この余裕……流石魔王か……急に威圧感が増した……」
イケメン勇者は性格もイケメンだなー。
俺の事直接貶めたりしないし……ムカつくぜ!
うん、やっぱり嫌いだな、うん。
「まさか……童貞っていうのは嘘だったの?」
えっ? そこ?
おいっ、ちょっと待てビッチウィッチ!
いうにことかい、その反応はおかしすぎるだろう!
何基準で、それ判断してるんだお前は。
そこんとこ、詳しく聞きたいんだけど?
てか、誰がその噂広めてんの?
どれくらいの人が知ってんの?
「はぅぅぅ……怖いですぅ!」
エセドジッ娘がほざくな!
あのね、あーたここに来てる時点で相当の実力者だからね。
さっきも何もないところで転んでたりしてたけど、ステータス知ってるからね?
可愛い顔してあざといな……
なんか、顔もちょっと嘘くさく見えてきたし。
色々と、ごまかしてそうな……
とりあえずムカつくからさらにちょっとだけ、魔力開放しちゃおーっと!
おーおーおー、四人の顔が真っ青で魔族みたいだな。
「皆逃げろ! この魔王は他の魔族とは桁が違う。なんとか時間稼ぐから、魔法使い転移の魔法いけるか?」
「勇者は?」
「俺は残る! 魔法の発動時を狙われたら全滅だ! なんとか、それは阻止する!」
魔王の前で作戦暴露しちゃってるよぉ……
なんで勇者ってこんなに真面目なの?
てかバカなの? 死ぬの?
いや、普通は死ぬよね?
てか部下が本気で対応してたらここに来るまでにも、何回も死んでるだろうし。
なんなら、ここに来た瞬間に殺すこともできたし。
というか城下町含め、俺のテリトリーに入った瞬間に遠隔で魔法で殺すことも……
魔王、優秀すぎ。
ウケる。
「私も残る! 勇者を置いてなんて行けるか!」
「戦士! 分かってくれ! 俺一人ならスキをついて逃げられる! 魔法使い、どうだ?」
「んっ! 魔法陣の生成と、詠唱で4分……場所を選ばなければ詠唱省略で2分でいける! どこに飛ぶかは分からない!」
「魔法使い!」
このやりとりの間に1分くらい経ってないか?
面白いから黙って見てるけど、もうはなかっら脱出経路くらい準備しときなよー。
事前準備はできるだけ終わらせとかないと。
扉の前で、回復とかしてる場合じゃないだろう。
なんなら、俺が魔力を解放した瞬間には魔法陣作りに入らないと……絶対に、間に合わないよねそれ?
「それでいい! どこに飛んだってここよりはマシだ!」
「私は残ります! 補助魔法無しでどうにか出来ると思いますか?」
「僧侶も行くんだ!」
ふーん、君補助魔法使うんだ……
てか、黙ってても手の内ボロボロこぼしてくれるのねー……
呆れるわ……
それでも戦士がゴネてる……もう3分経ってるよ?
はなっから準備してたら、完全版の転移まで残り1分稼いだら良いだけじゃん……
まあ、一分もあれば一万回は殺せるけど。
時間を引き延ばしたり、止めたりも出来るからね。
「分かった……だが、必ず生きて戻って来いよ!」
「あぁ、俺を信じろ!」
いいねー……ドラマだねー……
君たち魔王の目の前って分かってる?
面白いから放置してるけど……
あっ、誰か来た……この気配は絶倫か。
間の悪いというか、良いというか。
「魔王様! 大丈夫ですか?」
絶倫おっせーよ! 爆笑寸劇終わっちゃったよ?
もっと急げよ……一緒に笑えたのにさ!
もうちょい早く来いよー……って、俺がゆっくりでいいって言ったんだけどな。
「まっ……魔王様?」
あっ? 顔に出てた?
「いや、口に出てました」
「あれ? すまん。ちょっと、こいつらが面白すぎて」
口に出てたのか。
なんだろう……絶倫相手だから、ついつい取り繕う気が無かったからかな?
「新手が来ましたわ!」
「なんだこいつは! この覇気……なんでこんな奴が城の守りにもつかずに今頃」
「魔法使い、時間が無い詠唱短縮で構わないから急げ!」
「無茶言うわね……分かってるわよね? 絶対に貴方も逃げるのよ!」
終わったみたいだねー。
こんだけ揉めて、絶倫が来てようやく腹を括ったかー。
リアル魔王戦だったら100000回は殺されてるとオモウヨー……
当事者的には楽しいけど、はたからみたらグダグダすぎて萎える感じかな?
絶倫がすでに、若干呆れたような表情になってるけど。
骸骨の表情が分かる俺、すげーな。
部下の感情が、割とダイレクトに伝わってくるけど。
まあ、上司としてはそれを無視することも、業務上必要なわけで。
もう殺しませんかみたいな感情も伝わってきたけど、そこはスルーしとこう。
「魔王様、これは?」
「っん? なんか、わしの目の前でわざわざ作戦や手の内をガンガン晒してくれるのが面白くて、見入ってた。こいつらさー……」
小声で絶倫に一部始終を伝える。
あっ、表情分からないけど心底可哀想な人達を見る目してる……と思う……
てか無いはずの瞳が見える……
表情が分からないってことは、もう表情が抜け落ちたんだな。
完全に馬鹿だと思ってるってことか。
お前も、大概だけどな!
「ふっ、余裕だな魔王……悪いが最初から全力で行かしてもらう……ぜ!」
そう言って勇者が一瞬で間合いを詰めてくる。
えー……こっちはこんなに待ってあげてたのに、君はいきなり来るんだ……ずるくね?
だいぶ、時間稼ぎできてたと思うんだけどね。
それこそ、扉から出て外に走って逃げるくらいの時間は、経ってるよ?
それなのに、この不意打ち。
遅いけどね。
目の前にゆっくりと剣が迫ってくるのを見つめながら、どうしようか思案する。
あっ、横から黒い手が……
絶倫に取られちゃったか。
ちょっと、下から絶倫の手を軽く押したら、目測がずれて腕に剣刺さったりしそう。
面白そうだけど、やっちゃだめだよね?
絶倫がやや怯えた表情でこっちをチラッと見たから、やめとこう。
そして、固い物同士がぶつかる音が。
「ふっ、遅すぎますね」
「なにっ?」
勇者の全力の一撃を絶倫が片手で防ぐ。
衝撃の余波が来るけど、おれにしたら微風程度の攻撃やねー。
そもそも物理無効……
防ぐ意味もない。
「魔王様大丈夫ですか?」
うんっ、だから当たっても大丈夫だけどね……
フッ……と鼻で笑って答えてみる。
勇者が歯を食いしばって悔しがってる。
これで、傷でも付けられると思ってたのかね。
「勇者! やっぱり私も残る!」
「来るな戦士! こっちの魔族だけでも俺たちより遥かに強い! だが勝つことはできなくても、俺なら死なずに戦う事はできる!」
カッコいいねー……
ムカつくねー……
だから意地悪しちゃおっと!
「おい絶倫! 手出し無用だ……好きに攻撃させてやれ……」
俺がそう言って、絶倫を下がらせる。
「御意に……」
絶倫が俺の後ろに移動する。
おー、おー、おー、おー! なんか俺大物っぽくね?
なんで今日に限ってエリーたんじゃないんだよ!
絶倫のバーカバーカ!
「っく、馬鹿にしやがって……全力じゃ足りないか……ならばその先を見せてやる!」
おー、魔力暴発させちゃってまあ……
それって結構すごいね……抑え込んでるだけでも流石勇者だわ……
コントロールは出来ないんだろうけどね。
「勇者!」
「勇者様!」
戦士と僧侶が悲壮感溢れる表情で勇者の勇姿を目に焼き付けてるのが笑える。
なに悲劇のヒロイン気取ってんの?
ここの主人公俺なんだけど?
「くっ、何故だ! 何故当たらない!」
あぁ、ごめん半端痴女とエセドジっ娘が面白くてついそっちに見入っちゃったわ。
そろそろ魔法使いちゃん準備できたかな?
「出来たわ! 【行方不明】!」
おー、きっちり2分! 仕事は確かなんだな……
「フッ……良かった……お前ら俺がいなくなってもしっかり生きろよ……」
あーあ、勇者様の魔力尽きちゃったねー……
「えっ? 嘘っ!」
「勇者様?……いやっ! 魔法使い止めて! いやだ、いやぁぁぁ……」
「ッ……」
戦士と僧侶が凄い顔してる……
魔法使いのあの表情……勇者が助からないの知ってたねー。
でもそういう覚悟嫌いじゃないよ?
魔法陣が光を放って三人を包み込む……
そして、その場から三人が姿を消すと……あら不思議! 何故かランダムで飛ばされた場所は勇者様のすぐ傍でした……
「えっ?」
「あれっ?……勇者様? それに魔王?」
「バカな! 術式は確かに発動したわよ?」
三人が狼狽してる姿がめっちゃ面白い……
「いやぁ、こんな偶然ってあるのじゃな? たまたま転移した場所が魔王城の玉座の間とはついてないのぉ……」
「魔王……きさまっ!」
やべー……超おもしれ―……
なにさっきのやり取り……
俺がいなくなってもしっかり生きろよとか言ってなかったっけー?
いやぁって……僧侶ちゃんいやぁって……凄い悲痛な声上げてたよねー……
マジウケるんですけど……
なに、魔法使いの覚悟……マジ無駄な覚悟だね……
うわぁ、後ろでめっちゃ絶倫が笑い堪えてるのが分かる。
「感動の再会だな……プッ……プクッ……」
やべー面白すぎて、魔王の演技無理ー。
ちょっ、やり過ぎた。
戦士と僧侶と魔法使いが死んだ魚の目してる。
どっかで見たな……
あっ、あれや、扉の前で回復かますアホ共を邪魔した時。
あの時の勇者パーティの目と一緒や。
「まっ、魔王さま……さすがにこれはプッ……ちょっと、可哀想過ぎる……かとプクク……」
絶倫はん、笑ってもええんやでー。
「クッ、せめて……せめて一太刀浴びせないと……死んでも死に切れん!」
うぉぉ! 勇者が鬼気迫る表情で斬りかかってきたわ……
でも残念、無念、またらいねーん!
これでもくらいやがれっ!
「【太陽の光】!」
今日のビックリドッキリチートマジック!
たった今作りました!
瞼の裏側に直接超高輝度光源を発生させて、不能グレアを発生させる魔法です。
ようは、回避不能の目くらましってやつね。
「目が、目がぁ!」
フッフッフ、勇者殿が目を押さえてのたうち回っておられる。
いや、ムスカって名前聞いたとたんにこれがどうしてもやりたくて、魔法作っちゃいました……テヘッ!
「てなわけで、サヨーナラー!」
俺がそう言うと、四人の瞳に絶望の色がはっきり映し出される。
やり過ぎちゃった……でも後悔はしていない。
安心してね?希望の町に帰すだけだから……もはや絶望の町か……
「【強制送還】」
***
はぁ、落ち着いて考えたら完全にイケメン勇者への妬みと八つ当たりだわ。
女勇者ちゃんに会いにいったら、あんないけ好かない奴がハーレム状態だったんだから仕方ないよね?
はぁぁぁぁ……自己嫌悪だわ……
魔王なのに器がちっちゃくて辛い……
応援ありがとうございます!
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