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魔王編

女勇者が来ない…辛い

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「魔王覚悟!」
「うっせぇ、お前いま何時だと思ってんじゃゴルァ!」

 半端痴女が振るってくる剣を魔法障壁ではじき返す。
 夜中に露出度高めの女性に襲われるとか、本当ならご褒美のはずだけど。
 剣は無い、剣は……
 もう少し、こう色気のある展開が……

「つか、貴方少しは真面目に戦おうと思わないんですか! プンプン!」
「うぜぇ! 真面目にやったらお前らなんか瞬きの瞼が降りる前に消滅するわ! 感謝しやがれ!」

 エセドジッ娘の聖属性魔法も魔法障壁ではじき返す。
 性属性魔法なら、大歓迎ですけどね。
 でも、いざそんなことになったら、きっとドン引き。
 というか、いざという時にしりごみするのが、悲しいかな俺です。

「つか、その魔法障壁反則なのよ! そんなに頑なに童貞守ってどうすんの!」
「誰が童貞じゃ! つかお主ら魔王相手に失礼過ぎるじゃろうが!」

 ビッチウィッチの高位爆撃魔法も魔法障壁ではじき返す。
 童貞ちゃうわ!
 今世は童貞やけど、前世は経験……ある。
 うん、ある!
 でも、今世で童貞なら、童貞ってことに……なる。
 えっ?
 俺、童貞で間違ってない?

「今日もお仲間の皆さんはお元気ですね」
「えぇ、私はもう諦めたのですが、何故か3人が諦めてくれなくて」

 おいエリーに、イケメン勇者何寛いでやがる!
 紅茶とか飲んでねーで、この暴走3人娘連れてとっとと帰りやがれ!
 てか、深夜に呑気にサキュバスとお茶会とか。
 とんだ、色ボケ勇者もいたもんだ!
 ああ、ハーレム勇者様でしたね!
 くそがっ!

***
「はぁはぁ……今日も座ってるだけの魔王に負けた……」

 半端痴女が膝を付いて、床に落ちた折れた剣を見つめながら肩で息をしている。
 うん、物理無効持ちだからね。
 君からしたら、俺たちって相性最悪だよね?

「もぉ、なんで魔王の癖に聖属性魔法が効かないんですか!」

 僧侶も法力が尽きたようで、真っ白な顔をしている。
 うん、攻撃魔法無効持ちだからね。
 やっぱり、相性最悪だよね?
 若干やつれてるな。

「貴方……そんなにガードが固かったら一生童貞よ!」

 なんでビッチウィッチはそんなに俺の性事情が気になるんだ?
 まさかビッチルートのフラグが立ちつつあるのか?
 しかし、物理も魔法も無効の魔王って、無敵すぎないか?
 そんなのを倒す使命を負わされた勇者ってのも、難儀だな。
 俺のパッシブを剥がすような、神器とかってのは存在しないのかね?
 したらしたで、音速でぶっ壊しにいくけど。

 あと、勇者って魔王倒したら、魔王になる呪いの存在は知ってるのかな?
 勇者はもしかして、魔王倒しても魔王にならないとかかな?
 その辺、よく分かんね。
 けど、呪いだからなー……

「もう満足した? 皆帰ろうか……」

 紅茶を飲んで、ケーキまで食べて……お前が一番満足してそうだなおい!
 腹立つわー。
 爽やかなのが、本当に腹立つわー。
  
「つか、お前じゃ! お前! お主、わしを倒す気も無いくせに何しに毎日来とるんじゃ?」
「一応、3人の保護者という事で……」
「じゃったら、ちゃんと首に縄付けて見ておれ!」
「まぁまぁ……」

 エリーたんもまぁまぁじゃないよ……
 もしかして、イケメン勇者に……

「それはないです! それはないですが、魔王様の望まれる魔族に理解を示してくださってる、貴重な人間ですよ?」

 まあ、そう言われたらそうなのだが。
 だからといって絶対い魔王殺すマン達を引率してるこいつに、何か思うところとかないのかな?
 気付けばビッチ3も、お茶飲んで一休みしてた。
 こいつら……

***
 一息ついて落ち着いたころ。
 厚かましい事に、イケメン勇者が

「申し訳ないのですが、いつものように送って頂けますか?」

 とかって言い出した。
 まぁ、この状態で歩いて帰れってのもちょっと酷いか……
 いつものように……そう、いつも3人が勝手に暴れて力尽きて俺が魔法で送り返している。

 なんでこんな事になったかというと、俺が一度面白いかなと思って3人の前で勇者を殺して見せた。
 その時は、3人とも見事に髪も肌の色も真っ白になって燃え尽きてしまったからなぁ。
 アルビノって儚くて綺麗だよねー……
 一応、一瞬で髪が白くなるなんて科学的にあり得ない事らしいけど、ここはほら……ワンダーランドだからフフッ。

 流石にやり過ぎた。
 エリーたんにもやり過ぎって言われた……
 でも、俺を殺しに来てる勇者殺して何が悪いんだろ?
 普通魔王ってそういうもんじゃないのか?
 なんか、最近周りの魔物達も丸くなってきた気がする。

 最初は人間滅ぼせ的な過激派が半分以上居たが、なんか勇者の相手して適当に遊ばせてたら人間面白いってなったらしい……
 そもそも勇者が弱すぎるんじゃなくて、魔王城と城下町に住む俺の直属の魔族と魔物が強くなったらしい。
 一応魔王城の城下町に住む魔族と魔王領に住む魔物も、魔王直轄になるらしい……
 で、まぁ直轄の部下達には遊びながらここまで通せといってあるから勇者が辿り着けてるだけで、本来なら城下町にすら辿り着けないレベルの勇者ばかりらしい。
 ここまで実力差があると、もうどうでも良くなってきたとか。

 いま、この世界で一番平和なのは恐らく魔王城だろう。
 そして、人間にとって一番安全なのは魔王城だろう。
 皮肉だねフフッ……

 ちなみに、なんでイケメン勇者がこうなったかっていうと……なんでか知らないけど復活させたらこうなってた。

「完敗です……正直言ってこの実力差は努力云々でなんとかなるものでは無い事に何故今まで気付かなかったのか……」

 3人は涙を流して喜んでたけど、勇者は何か憑き物が落ちたようなスッキリした顔をしてた。
 死んだことで、何か悟ったのかな?

「どうしたの勇者?」
「また、魔王を倒しに来るんですよね勇者様?」

 戦士と僧侶が、そんな勇者の姿を見て狼狽えてた。
 正直、勇者殺したときよりちょっと面白かった。
 勇者も、自身の変化に若干戸惑いつつも、すぐに達観したような笑みを浮かべる。
 イケメンが儚げに笑うだけで、かっこよく見えるの腹立つわー。
 俺が儚げに笑ったところで、哀愁漂って余計に惨めになるだけだよな?

「キモっ!」
「なに、そのにやけづら」
「笑うならちゃんと笑ってください! その半笑い……なんだか、卑猥です」

 試しにやってみたら、散々な評価だった。
 エリーは、少し頬を赤らめていたけど。
 なるほど……人間と魔族で、美的感覚が違うってことだろうな。

 だってほら……俺、魔族とかゲテモノ系からはかなりモテモテだし。
 うん、モテモテ……
 夜の営みができそうにない相手からは、特に。
 エリー達はできるっちゃあ、できるけど……色々と吸い取られそうで怖い。
 あと睡眠時間が無くなりそうな気がして、どうしても踏み出せない。

「今まで散々失礼な事して来たのは重々承知です。ですが、もう二度と私は貴方に立て付こうなどとは考えません。なんならこの命を差し出しても構わないのでこの3人を希望の町に送り届けてもらえませんか?」

 イケメン勇者が、殊勝な態度で今までの非礼を詫びてきた。
 分かってくれたようで何より。
 そもそも、どこをどうしたら、このステータス差で俺に勝てると思ってたのかが分からない。
 部下連中が本気で魔力を解放しただけで、ビビッてたくせに。
 何度も挑んでくるって、本当に頭おかしいんじゃないかと思う。
 連日だぞ?
 これが、数ヶ月とか1年修行しての再挑戦とかなら分かるけど。
 戦いを舐めてるとしか、思えん。

 ようやく、これで少しゆっくりできそうだけど。
 イケメン勇者が理解してくれたから。
 本当に良かった。

「勇者! お前何言ってんだ?」
「ゆ……勇者様?」
「魔王! お前勇者に何したの?」

 Oh……
 しかし、納得してないのが3人も。
 なんで?
 勇者より、お前ら弱いよね?
 てか、勇者の言うこと聞けよー!

「いえ! 勇者に、何をした!」

 濡れ衣です。
 何もしてません……
 嘘です……殺しましたね。
 復活もさせました……でもそれだけです。
 本当に、それしかしてないんだけど?

「ようやく己の愚かさが分かったか……」
「はいっ、針で山を掘ってトンネルを作るような、絶対に無理だというような事が今なら分かります。逆に何故今まで分からなかったのか……」

 うん、本当になんで今まで分からなかったんだろうね?
 考えるまでもなく、今までの戦闘を振り返ったら分かりそうなものなに。

「どうしても、魔王は倒さないといけないという妄執に憑りつかれていたとしか……今となっては、勇者とは呪いなのかもしれないと思えるほどに……無謀で蛮勇と呼ぶに相応しい存在ですね」
「本当にな……今は、理解したのだろう?」
「ええ、いつでも殺せるのに、貴方はそうしなかった。本当に魔族や魔王は悪なのかという、疑念が芽生えてはいたのですが……先ほど、一度死んで生き返った時に、全てがすっきりと……そして、パズルのピースが埋まるように、腑に落ちたのです。勇者は、神が作った魔王を殺すための道具だということに、気付きました」

 なんか、一気に飛躍したなー。
 こいつの思い込みが激しいだけなんじゃないかな?
 だって、勇者じゃなくても、魔王絶対殺すマンだらけの世界だし。
 なんなら、人間全員が勇者の資質があるって方がまだ納得できるわ。
 君も勇者だ! ここにいる全員が、魔王を倒すための勇気ある者たち。
 勇者とは、選ばれてなるものではない!
 勇気と義の行動の果てに、勇者と呼ばれるのだ!
 てな感じで、また100万規模の軍勢に襲われたりして。
 やばっ、なんかフラグが立ちそうだから、これ以上考えるのはよそう。


「そこまで理解しているなら十分だ……全員無事に送り届けよう」
「やはり、貴方は何かご存知なのですね。この世界の理について……だから、無意味に勇者や人を殺さない……いつか、いつか時が来たら、あなたが知る世界の秘密を教えていただけたら」

 何を言ってるんだこいつは?
 別に俺が元人間だから、あまり殺す気がしないだけど。
 そもそも俺が強すぎて、殺す必要もないというか。
 子犬や子猫がじゃれて来てる程度にしか、感じてないんだけどな。
 必要があれば、容赦なく殺せる気もするし。

「あなたと、手を取り合える日がくるかもしれないですね」

 それは楽しみだが、どうせなら女勇者ちゃんと手を取り合いたい。
 ヴァージンロードで。
 こうして俺は4人を送り返して、たまに勇者がやってくる平穏な日常を取り返したかと思った……はずなのに……

 次の日

「魔王! 勇者を元に戻せ!」
「魔王、私達は貴方を倒して勇者の目を覚まさせます!」
「お前のせいで、勇者は全ての加護を無くした! その罪償ってもらうわよ!」
「魔王さん……すみません、どうしても止められなくて……」

 うおおおい! おまっ、舌の根も乾かねーうちに来てんじゃねーよ!
 こんにちわビッチスリーさようなら平穏……辛い……
 てか、魔王さんって気安いな、イケメン勇者!

 という事で、3人に毎日時間を問わずに襲われる日々が始まった……辛い

 ある時は睡眠中に……面倒臭くて着いた瞬間に送り返したけど。
 ある時は食事中に……飯食いながら力尽きるまで攻撃させて送り返したけど。
 また、ある時は入浴中……腹立ったからスッポンポンで出てやったら、半端痴女に鼻で笑われた……辛い……
 エセドジッ娘は赤面してキャーキャー言ってた……新しい扉が開ける気がした……怖いからやめたけど……
 ビッチウィッチに股間を凝視された……やべー滾る……アカン……新しい扉開けてたわ……
 俺もついに部下と同レベルに……
 エリーたんにめっちゃ説教されたけど。

 その間一回も女勇者が来なかった……辛い……
 俺の癒し……どこ行った?

「妾が居ますわ!」

 いまムカ娘はお呼びでない!

 ちなみに、イケメン勇者が意外と魔王城に馴染んでて面白い。
 こいつに黒い全身装備を与えて、黒騎士として魔王城幹部にしたら楽しくなるかも?
 それ、いいね! うんそうしよう!
 人型だし、見た目は良いしね……
 問題はこの3人だよなー……

「おのれ魔王! 本を読みながら戦うとかふざけんな!」

 半裸痴女五月蠅いなー……攻撃より声の方が気になって本の内容頭に入ってこないわ。

「きっと禁書に間違いありませんわ! その本を渡しなさい! 燃やして差し上げます!」

 エセドジッ娘、目的変わってるよね?

「禁書……卑猥な言葉ね……本物に興味無いのかしら?」

 ビッチウィッチがどこに向かっているのか、もはや全く理解できん。
 けど、ビッチウィッチ魔王ルートが気になったからイケメンに聞いてみた。
 一つ分かったのはビッチウィッチは凌辱系が好きだという事だ。
 本人はバレてないつもりだが、周りにはバレバレらしい。

 あぁ嫌いな相手とのそれを想像して興奮するタイプね……
 フラグはどうやら発生してないようです……辛い……

 てか、もはや3人を何回送り届けたかすら覚えてない。
 イケメン勇者の命、何個分だろう……

 ちなみにイケメン勇者一人で3万の経験値あった……勇者美味しい……
 2回殺しても経験値入らないのは、前回のハゲ親父を殺した時に分かったけど……一回ずつなら殺していいかな? 良いよね? 魔王だし……

 そして今日も女勇者が来なかった……辛い……
 イケメン勇者編が長くて……辛い……


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