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魔王編
魔物さんたちの方が人より優しくて辛い~チビコの場合~
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私はチビコ! 色々あって魔国に住んでます。
今日は私が住んでる国と、私の日常を紹介したいと思います。
今日も魔王城に遊びに行って来ようと思います。
「あらチビコちゃんまた来たの?」
城門をくぐって城の入り口に向かう途中でスッピンさんが声を掛けてきました。
庭の花に水をあげているようです。
「おはようございます! うん! ウララに会いに来ました!」
私が挨拶すると、水やりの手を止めて微笑みながらこっちに近づいてきます。
スッピンさんの笑顔はとても優しい笑顔で、昔話で聞いた聖女様か女神様のように温かい雰囲気のレディです。
「はい、おはようございます。いつも元気に挨拶出来て偉いわねー。そうそう、だったらこれを持って行ってあげるといいわ」
そういってスッピンさんが藤棚からブドウを一房とってくれました。
とても瑞々しくて美味しそうなブドウです。
「はいっ、チビコちゃんも」
スッピンさんが一つ皮を剥いて私の口に放り込んでくれました。
とても甘くて美味しいです。
こんな美味しい果物が育てられるスッピンさんは、とても優しい方に違いありません。
私も死んだらスッピンさんのようになれるでしょうか?
「美味しい! 有難うございます」
「喜んでもらえて良かったわ。それじゃぁ気を付けていってらっしゃい」
スッピンさんと別れて城の入り口に行きます。
「おっ、来たなチビッ子」
「はい、スッカラカンさんおはようございます」
「ああ、おはよう」
城門で門兵の方に挨拶をします。
ちなみに、私はチビッ子ではなくてチビコです。
いっつもこの人は間違えます。
ちなみに人じゃなくて、中身が空っぽの鎧だけの人です。
リビングアーマーさんという種族らしいです。
ウルフファングさんという名前だったらしいのですが、魔王様にスッカラカンという名前に変えてもらったそうです。
とてもしっくり来て、これが俺の真名だったような気がするとおっしゃってましたが、よく分かりません。
「今日も元気に挨拶が出来て偉いな! おっ、そうだこれをあげよう」
そう言ってスッカラカンさんが飴をくれました。
この人はいっつもお菓子を持ってますが何故でしょう。
中身はもしかして空っぽじゃなくて、お菓子が詰まっているのではないでしょうか?
凄くロマンというものを感じます。
今度中をジックリ見せてもらいましょう。
私じゃとても開けられない重くて大きな扉を、スッカラカンさんが簡単に開けてくれます。
「おや、チビコ殿か……よくぞ参ったな」
「おー、チビコ!今日も元気かモー」
「……」
ヤギの人とモー太さんとライ蔵さんです。
門を開けて目の前にこの3人が居ると、かなり怖いですがもう慣れました。
何故かヤギの人は絶対に名前で呼んではいけないと皆に言われました。
何故でしょう?不思議です。
3人で丁度出かけるところだったようで、余所行きの恰好をしています。
昔は皆さん裸だったらしいですが私が来るようになって服を着るように言われたらしく、ヤギの人は執事服、ライ蔵さんは黄金に輝く鎧を貸してもらったと言ってました。
どういうわけかモー太さんだけ腰蓑ですが……いじめでしょうか?
いじめカッコ悪いです!
「メーおじさん、モー太おじちゃん、ライ蔵おじちゃんおはようございます!」
「うむ、おはようチビコ殿。今日も元気ですな」
「おはよう! チビコは元気が一番じゃ!」
「おはよう……」ニカッ!
ヤギの人はとっても紳士な方です。
逆にモー太さんは豪快でいい加減な方です。
魔王様にお前は顔が怖いから語尾にモーと付けろと言われて、律儀に守っているところは可愛いと思います。
ライ蔵さんは魔王様に喋ると可愛くないと言われ、あまり喋りません。
たまに喋ると最後にニカッと笑ってくれますが、口の端から尖った牙が覗いてとても怖いです。
「今日もオシャレですね……」
モー太さん以外……
「はい、素晴らしい服を下賜頂いたので、ちょっと城下の皆さんに魔王様のセンスを披露しに行こうかと」
「そ……そうなんですね……また服を貸して貰えたんですね」
貸して貰った服を見せびらかしにいくとか、情けないとは思わないのでしょうか?
自分で服も買えない甲斐性なしという奴ですね!
パパがママに良く言われてます。
「うむ……何か微妙に意味をはき違えている気がするモー」
モー太さんが何か言ってますが、よく意味が分かりません。
「そうだ、そんな元気なチビコ殿の為にうちで出来た美味しいチーズを、今度部下に届けに行かせましょう」
「うむ、そうだなわしのところもまた新しい肉が手に入ったからな。またベーコンを作ってその時に一緒に持たせるモー」
「…………オレも……肉……やる」ニカッ!
おー、皆さんから色々と美味しい物を持ってきていただけるみたいです。
嬉しいです。
いつもいつもありがとうございます。
「うん、ありがとうメーおじさん、モー太おじちゃん、ライ蔵おじちゃん」
「うむ、またハインツ殿に酒でも飲もうと伝えておいてくれ」
モー太おじちゃんはパパと仲良しになってくれました。
たまに二人で飲みに出かけてます。
3人と別れてしばらく進むと玉座の間です。
「おうっ! チビコか! 良く来たな」
魔王様が玉座に座っています。
人間と同じような見た目なのにとても怖いです。
でも今日はおじいちゃんバージョンなので、ちょっと安心。
前に住んでた村の近所のおじーちゃんみたいで、親しみを感じます。
「チビコちゃんいらっしゃい、良く来たわね。こっちにおいで! 飲み物もあるわよ」
エリーさんは今日もとってもきれいです。
スタイルも抜群ですし、お肌もスベスベで羨ましいです。
「魔王様、エリーさんおはようございます」
元気よく挨拶して二人の近くまで走っていく。
二人の傍に行くと、いつも魔王様が魔法で机と椅子を出してくれる。
そんな魔王様の肩には今日もウララが眠っています。
もー! 私のウララちゃんだったのにー!
どんなに頑張ってもウララが魔王様から離れないので、仕方なく私が毎日会いに行くことにしました。
「ほれ、ウララ! チビコと遊んで来い!」
魔王様に言われてウララがパチリと目を開けると、私の顔見ていそいそと降りて来て私の膝にちょこんと座ります。
とってもモフモフしてて可愛いです。
いつまでも触っていられます。
でも……玉座の間でしか触らせてもらえません。
何度か連れ去ろうとしたのですが、いつも上手に抜け出してホームポジションに移動されます。
「どうぞチビコちゃん。それとウララのご飯がまだだから、これをあげてくれる?」
エリーさんがオレンジジュースと果物をドッサリと持ってきます。
そうでした、今日はスッピンさんに貰ったブドウもありました。
「チビコちゃんはご飯は?」
「ちゃんと食べてきました!」
今日の朝ご飯は、モー太さんがくれたベーコンとカインさんが人間の国で買ってきてくれたパンにサラダでした。
魔国で育つ野菜の種類は人間の国と変わりませんでした。
でも、味も品質もこちらの方が美味しく感じます。
何故でしょう?
村に居た時はパパが「ねんぐ」とか「ぜいきん」とかいうのをいっぱい取られて、こんなに美味しい物を毎日食べる事はありませんでした。
朝は固いパンとイモのスープ、昼は干し肉としなびた野菜と固いパン、夜は粟と干し肉とイモの入ったスープばかりです。
たまにパパが狩りや、狩猟で森の果物や木の実を採って来てくれるのがとっても楽しみでした。
肉は捕まえても売りに行くのですが、その日だけはちゃんとした肉を食べる事が出来ました。
でもパパがへたっぴなのか、獲物が居ないのか捕まえられない日の方が多かったです。
だから、月に2回の外食だけが楽しみでした。
その時と、収穫祭の時くらいしかちゃんとした肉は食べれませんでした。
「そうか、それは残念だなー……今日はこんなものがあるんだけどなー」
魔王様が掌から光を放つとクリームのたっぷり入ったサンドイッチを出してきました。
中には青い実が入ってます。
ブルーベリーですね。
ベリー類は放っておいても勝手に育つので村でも食べる事が出来ましたが、クリームはここに来てからしか食べた事ありません。
ジュルリ……
涎が止まりません。
「あっ、そういえば食べた気がするだけで……本当は食べてないかも……」
チビコ嘘吐きました。
でもこんな美味しいものが食べられるなら、後悔はありません!
「ん? そうなのか?」
魔王様がこちらの顔を覗き込んできます。
怖いです……
プイッ
「食べてませんでした……」
魔王様は意地悪です……
「ふっ、ならエリーと一緒に食べると良い」
でもすぐにくれます。
甘々ですね。
目の前にはブルーベリーのクリームサンドが置いてあります。
少しずつ口に運ぶエリーさん……おしとやかで、お上品で、どこかのお姫様みたいです。
私も見習わなければ。
となりでウララがフルーツをモキュモキュしてて可愛いです。
私もなんだかお腹が空いてきました……
私も……
こっ、これは! なんと柔らかいパンなのでしょうか!
パン自体にも微かな甘みがあります。
生クリームは甘みを抑えてあり物足りないかと思いましたが、かえってそれがブルーベリーの酸味を抑えて芳醇な香りが楽しめます。
逆にブルーベリーの酸味の後に来るクリームの甘さは、酸味のお陰で逆に強調され程よい甘みに。
幸せです! 美味しいです! 止まりません!
「チビコちゃんクリームが」
エリーさんがハンカチで口元を拭いてくれます。
ハッ! 気が付いたら皿が空っぽです。
誰が食べたのでしょうか? ……私です!
レディへの道はまだまだ遠く険しいようです……
結局ブルーベリーのサンドイッチをペロリでした……
食後にエリーさんがレモンティーを持ってきてくれました。
貴族様しか飲むことのできない憧れの飲み物です。
ここでは、ほぼいつも食後に頂いてます。
それから昼までウララと遊んで、魔王様の美味しい見た事も無いお昼ご飯を頂いた後で、魔法で城下町の家の前まで送ってもらいます。
***
私の居た村では皆自分の事でせいいっぱいでした。
子供の居ないお年寄りの方が亡くなると、その畑が貰える事もあり喜ぶ人たちも居ました。
兵隊の方々は威張ってばかりで、腹の立つ人達ばかりでした。
村の人達はそんな兵隊さんたちを嫌って、陰では悪口ばっかり言ってました。
村長さんはいつも美味しい物を自分ばかりが食べてズルく腹黒い人でした。
ここでは皆が誰かの事を気遣って生きています。
身寄りの無い方が亡くなると、周りの人達が集まって死者を弔い涙を流します。
兵隊さんたちはこの国を守る仕事に誇りを持っていて、守るべき国民の人達にも凄く優しいです。
また国民の人達もそんな兵隊さんを尊敬して、夜勤のアンデッド族の兵隊さんに対して差し入れを持って行ったりしてます。
国王様である魔王様や国の偉い人達はいつも国民の方達の事を案じ、人間でありながら国民になった私達に何かと気を遣ってくれます。
魔族と人間……本当に汚い生き物なのはどちらなのでしょうか……
魔王様に一度お尋ねしたことがあります。
その時彼はこうおっしゃってました。
「貧しい生活は人の心も貧しくする。我が国は今は恵まれているが貧しくなればチビコの……人間の国と同じく心まで貧しくなる者たちも現れるだろう。人も魔族も根本は一緒だ……大事なのはどうあるべきか、清貧を心がけ少しの恵みに感謝し、持つものが持たざるものに分かつ事……それが皆が幸せに過ごす事に必要な事だと余は思う。今のチビコなら大丈夫だよ」
と笑っておられました。
難しい事は分かりませんが、魔王様が魔王様でいる限りそんな事は無いと思いました。
人間の国に生まれた事が少し悲しくなりました。
村に残っている人たちの変わらぬ貧しい生活を想い……辛くなりました。
「魔王国移住記:チビコ・ハインツ著」より抜粋
今日は私が住んでる国と、私の日常を紹介したいと思います。
今日も魔王城に遊びに行って来ようと思います。
「あらチビコちゃんまた来たの?」
城門をくぐって城の入り口に向かう途中でスッピンさんが声を掛けてきました。
庭の花に水をあげているようです。
「おはようございます! うん! ウララに会いに来ました!」
私が挨拶すると、水やりの手を止めて微笑みながらこっちに近づいてきます。
スッピンさんの笑顔はとても優しい笑顔で、昔話で聞いた聖女様か女神様のように温かい雰囲気のレディです。
「はい、おはようございます。いつも元気に挨拶出来て偉いわねー。そうそう、だったらこれを持って行ってあげるといいわ」
そういってスッピンさんが藤棚からブドウを一房とってくれました。
とても瑞々しくて美味しそうなブドウです。
「はいっ、チビコちゃんも」
スッピンさんが一つ皮を剥いて私の口に放り込んでくれました。
とても甘くて美味しいです。
こんな美味しい果物が育てられるスッピンさんは、とても優しい方に違いありません。
私も死んだらスッピンさんのようになれるでしょうか?
「美味しい! 有難うございます」
「喜んでもらえて良かったわ。それじゃぁ気を付けていってらっしゃい」
スッピンさんと別れて城の入り口に行きます。
「おっ、来たなチビッ子」
「はい、スッカラカンさんおはようございます」
「ああ、おはよう」
城門で門兵の方に挨拶をします。
ちなみに、私はチビッ子ではなくてチビコです。
いっつもこの人は間違えます。
ちなみに人じゃなくて、中身が空っぽの鎧だけの人です。
リビングアーマーさんという種族らしいです。
ウルフファングさんという名前だったらしいのですが、魔王様にスッカラカンという名前に変えてもらったそうです。
とてもしっくり来て、これが俺の真名だったような気がするとおっしゃってましたが、よく分かりません。
「今日も元気に挨拶が出来て偉いな! おっ、そうだこれをあげよう」
そう言ってスッカラカンさんが飴をくれました。
この人はいっつもお菓子を持ってますが何故でしょう。
中身はもしかして空っぽじゃなくて、お菓子が詰まっているのではないでしょうか?
凄くロマンというものを感じます。
今度中をジックリ見せてもらいましょう。
私じゃとても開けられない重くて大きな扉を、スッカラカンさんが簡単に開けてくれます。
「おや、チビコ殿か……よくぞ参ったな」
「おー、チビコ!今日も元気かモー」
「……」
ヤギの人とモー太さんとライ蔵さんです。
門を開けて目の前にこの3人が居ると、かなり怖いですがもう慣れました。
何故かヤギの人は絶対に名前で呼んではいけないと皆に言われました。
何故でしょう?不思議です。
3人で丁度出かけるところだったようで、余所行きの恰好をしています。
昔は皆さん裸だったらしいですが私が来るようになって服を着るように言われたらしく、ヤギの人は執事服、ライ蔵さんは黄金に輝く鎧を貸してもらったと言ってました。
どういうわけかモー太さんだけ腰蓑ですが……いじめでしょうか?
いじめカッコ悪いです!
「メーおじさん、モー太おじちゃん、ライ蔵おじちゃんおはようございます!」
「うむ、おはようチビコ殿。今日も元気ですな」
「おはよう! チビコは元気が一番じゃ!」
「おはよう……」ニカッ!
ヤギの人はとっても紳士な方です。
逆にモー太さんは豪快でいい加減な方です。
魔王様にお前は顔が怖いから語尾にモーと付けろと言われて、律儀に守っているところは可愛いと思います。
ライ蔵さんは魔王様に喋ると可愛くないと言われ、あまり喋りません。
たまに喋ると最後にニカッと笑ってくれますが、口の端から尖った牙が覗いてとても怖いです。
「今日もオシャレですね……」
モー太さん以外……
「はい、素晴らしい服を下賜頂いたので、ちょっと城下の皆さんに魔王様のセンスを披露しに行こうかと」
「そ……そうなんですね……また服を貸して貰えたんですね」
貸して貰った服を見せびらかしにいくとか、情けないとは思わないのでしょうか?
自分で服も買えない甲斐性なしという奴ですね!
パパがママに良く言われてます。
「うむ……何か微妙に意味をはき違えている気がするモー」
モー太さんが何か言ってますが、よく意味が分かりません。
「そうだ、そんな元気なチビコ殿の為にうちで出来た美味しいチーズを、今度部下に届けに行かせましょう」
「うむ、そうだなわしのところもまた新しい肉が手に入ったからな。またベーコンを作ってその時に一緒に持たせるモー」
「…………オレも……肉……やる」ニカッ!
おー、皆さんから色々と美味しい物を持ってきていただけるみたいです。
嬉しいです。
いつもいつもありがとうございます。
「うん、ありがとうメーおじさん、モー太おじちゃん、ライ蔵おじちゃん」
「うむ、またハインツ殿に酒でも飲もうと伝えておいてくれ」
モー太おじちゃんはパパと仲良しになってくれました。
たまに二人で飲みに出かけてます。
3人と別れてしばらく進むと玉座の間です。
「おうっ! チビコか! 良く来たな」
魔王様が玉座に座っています。
人間と同じような見た目なのにとても怖いです。
でも今日はおじいちゃんバージョンなので、ちょっと安心。
前に住んでた村の近所のおじーちゃんみたいで、親しみを感じます。
「チビコちゃんいらっしゃい、良く来たわね。こっちにおいで! 飲み物もあるわよ」
エリーさんは今日もとってもきれいです。
スタイルも抜群ですし、お肌もスベスベで羨ましいです。
「魔王様、エリーさんおはようございます」
元気よく挨拶して二人の近くまで走っていく。
二人の傍に行くと、いつも魔王様が魔法で机と椅子を出してくれる。
そんな魔王様の肩には今日もウララが眠っています。
もー! 私のウララちゃんだったのにー!
どんなに頑張ってもウララが魔王様から離れないので、仕方なく私が毎日会いに行くことにしました。
「ほれ、ウララ! チビコと遊んで来い!」
魔王様に言われてウララがパチリと目を開けると、私の顔見ていそいそと降りて来て私の膝にちょこんと座ります。
とってもモフモフしてて可愛いです。
いつまでも触っていられます。
でも……玉座の間でしか触らせてもらえません。
何度か連れ去ろうとしたのですが、いつも上手に抜け出してホームポジションに移動されます。
「どうぞチビコちゃん。それとウララのご飯がまだだから、これをあげてくれる?」
エリーさんがオレンジジュースと果物をドッサリと持ってきます。
そうでした、今日はスッピンさんに貰ったブドウもありました。
「チビコちゃんはご飯は?」
「ちゃんと食べてきました!」
今日の朝ご飯は、モー太さんがくれたベーコンとカインさんが人間の国で買ってきてくれたパンにサラダでした。
魔国で育つ野菜の種類は人間の国と変わりませんでした。
でも、味も品質もこちらの方が美味しく感じます。
何故でしょう?
村に居た時はパパが「ねんぐ」とか「ぜいきん」とかいうのをいっぱい取られて、こんなに美味しい物を毎日食べる事はありませんでした。
朝は固いパンとイモのスープ、昼は干し肉としなびた野菜と固いパン、夜は粟と干し肉とイモの入ったスープばかりです。
たまにパパが狩りや、狩猟で森の果物や木の実を採って来てくれるのがとっても楽しみでした。
肉は捕まえても売りに行くのですが、その日だけはちゃんとした肉を食べる事が出来ました。
でもパパがへたっぴなのか、獲物が居ないのか捕まえられない日の方が多かったです。
だから、月に2回の外食だけが楽しみでした。
その時と、収穫祭の時くらいしかちゃんとした肉は食べれませんでした。
「そうか、それは残念だなー……今日はこんなものがあるんだけどなー」
魔王様が掌から光を放つとクリームのたっぷり入ったサンドイッチを出してきました。
中には青い実が入ってます。
ブルーベリーですね。
ベリー類は放っておいても勝手に育つので村でも食べる事が出来ましたが、クリームはここに来てからしか食べた事ありません。
ジュルリ……
涎が止まりません。
「あっ、そういえば食べた気がするだけで……本当は食べてないかも……」
チビコ嘘吐きました。
でもこんな美味しいものが食べられるなら、後悔はありません!
「ん? そうなのか?」
魔王様がこちらの顔を覗き込んできます。
怖いです……
プイッ
「食べてませんでした……」
魔王様は意地悪です……
「ふっ、ならエリーと一緒に食べると良い」
でもすぐにくれます。
甘々ですね。
目の前にはブルーベリーのクリームサンドが置いてあります。
少しずつ口に運ぶエリーさん……おしとやかで、お上品で、どこかのお姫様みたいです。
私も見習わなければ。
となりでウララがフルーツをモキュモキュしてて可愛いです。
私もなんだかお腹が空いてきました……
私も……
こっ、これは! なんと柔らかいパンなのでしょうか!
パン自体にも微かな甘みがあります。
生クリームは甘みを抑えてあり物足りないかと思いましたが、かえってそれがブルーベリーの酸味を抑えて芳醇な香りが楽しめます。
逆にブルーベリーの酸味の後に来るクリームの甘さは、酸味のお陰で逆に強調され程よい甘みに。
幸せです! 美味しいです! 止まりません!
「チビコちゃんクリームが」
エリーさんがハンカチで口元を拭いてくれます。
ハッ! 気が付いたら皿が空っぽです。
誰が食べたのでしょうか? ……私です!
レディへの道はまだまだ遠く険しいようです……
結局ブルーベリーのサンドイッチをペロリでした……
食後にエリーさんがレモンティーを持ってきてくれました。
貴族様しか飲むことのできない憧れの飲み物です。
ここでは、ほぼいつも食後に頂いてます。
それから昼までウララと遊んで、魔王様の美味しい見た事も無いお昼ご飯を頂いた後で、魔法で城下町の家の前まで送ってもらいます。
***
私の居た村では皆自分の事でせいいっぱいでした。
子供の居ないお年寄りの方が亡くなると、その畑が貰える事もあり喜ぶ人たちも居ました。
兵隊の方々は威張ってばかりで、腹の立つ人達ばかりでした。
村の人達はそんな兵隊さんたちを嫌って、陰では悪口ばっかり言ってました。
村長さんはいつも美味しい物を自分ばかりが食べてズルく腹黒い人でした。
ここでは皆が誰かの事を気遣って生きています。
身寄りの無い方が亡くなると、周りの人達が集まって死者を弔い涙を流します。
兵隊さんたちはこの国を守る仕事に誇りを持っていて、守るべき国民の人達にも凄く優しいです。
また国民の人達もそんな兵隊さんを尊敬して、夜勤のアンデッド族の兵隊さんに対して差し入れを持って行ったりしてます。
国王様である魔王様や国の偉い人達はいつも国民の方達の事を案じ、人間でありながら国民になった私達に何かと気を遣ってくれます。
魔族と人間……本当に汚い生き物なのはどちらなのでしょうか……
魔王様に一度お尋ねしたことがあります。
その時彼はこうおっしゃってました。
「貧しい生活は人の心も貧しくする。我が国は今は恵まれているが貧しくなればチビコの……人間の国と同じく心まで貧しくなる者たちも現れるだろう。人も魔族も根本は一緒だ……大事なのはどうあるべきか、清貧を心がけ少しの恵みに感謝し、持つものが持たざるものに分かつ事……それが皆が幸せに過ごす事に必要な事だと余は思う。今のチビコなら大丈夫だよ」
と笑っておられました。
難しい事は分かりませんが、魔王様が魔王様でいる限りそんな事は無いと思いました。
人間の国に生まれた事が少し悲しくなりました。
村に残っている人たちの変わらぬ貧しい生活を想い……辛くなりました。
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