転勤は突然に~ゴブリンの管理をやらされることになりました~

へたまろ

文字の大きさ
11 / 77
第1章:赴任

第10話:出陣式

しおりを挟む
「美味しいです!」
「……」

 俺の作った料理を一口食べて、サーシャが感嘆の声を漏らした。
 その横で、ジニーがもくもくと食べ進めている。
 いや、雌のゴブリンもいるから、立場上身の回りの世話を任せてもいいとは思うけど。
 いまいち、その一歩が踏み出せない。
 人間のようにとはいかない。
 だから、基本的に自分のことは自分でしている。
 物が無いから散らかることもないし。

 冒険者一行だが、ビーストという名前のグループらしい。
 ビーストねぇ……ガツガツと食事を進める様子を見て、思わず納得。
 確かに、食べるてる姿は野獣っぽい。

「違いますよ?」

 グレンが、違うそうじゃないと言いたげな顔をしている。
 違わない! そうだ! と思ったが。

 ここにいる冒険者たちだが。
 まずリーダーは、ギイと呼ばれるレンジャーの男性。
 ガードが重戦士。
 グレンが剣士と。
 ゲイルが回復術師。
 他にこの3人が野郎だ。

 サーシャが弓術師。
 ジニーが魔法使いと。
 でこの2人が女性。
 なかなかバランス良さそうなチームだが、この2人をめぐって恋の争いとかが起こってたら。

「ないですよ? そもそもサーシャはガードの妹ですし。グレンとゲイルは結婚してますよ」

 そうか……
 ニヨニヨと眺めていたら、ギイが教えてくれた。
 てか妻がいるのに、捕虜になって数日帰れないとなると奥さんも心配してるだろうに。
 もう少し、上手くやれなかったものか。

「というか、なんでここのゴブリンはこんなに綺麗好きなんですか?」
「ん? 俺が綺麗好きだから」

 グレンの質問に簡単に答える。
 グレンもゴブリンと手合わせをするようになってから、角が取れたというか。
 当初と比べて、随分と丸くなった印象。
 良い変化だと思いたい。

 ちなみに俺が作る料理はジャッキーさんに頼んで仕入れてもらった材料と調味料を使っているからか、普通に美味しい料理だ。
 ここでしか食べられない料理ともいえるが。
 ゴブリンに味が分かるとも思わなかったから、食べさせてないだけだけど。

「てか、本当に美味しいです! ゴブリン料理なんですか?」
「違うけど? まだまだいっぱいあるから、おかわりどんどんしてね」

 ちなみに今日の晩御飯は、ビーフシチューとシーザーサラダと白身魚のバターソテー。
 米が受け入れられるか分からなかったので、シマザキのロイヤルバターロールを2個ずつ皿に乗せて出している。

「このパンやばっ! 柔らかくて、ほんのり甘くて……このパンだけでも、食っていけますよ」

 どっちの意味だろう?
 おかずがなくてもってことかな? それとも生計がってことかな?

「てか、ゴブリンの集落でナプキン常備とか……それにこの白い薄い布みたいなのも意味が分からないです」

 この世界で紙といったら、羊皮紙やパピルスみたいなのかな?
 植物紙とかないのかな?
 ティッシュに、えらく感動しているけど。

「汚れを拭いて捨てるだけにしては、品質が良すぎますよ」

 なんでもかんでも感動してくれるのは嬉しいが、あっちで仕入れたものであって作った物じゃないからな。
 転売でも利ザヤは結構ありそうだけど。

「サトウさんは、ゴブリンロードとお伺いしたのですが本当ですか?」
「まあ、そうかもしれない」
「なんかフワッとしてますね」
「いや、俺からしたらお前らの方がフワッとしてるけど? この状況で、なんの疑念も持たずに俺の家で飯食ってるところとか」
「私たちの家が完成したらそちらで食べますし、最初の夜はお礼にこちらから食事に招待しますよ」

 俺の言葉にジニーが何か言ってるが。
 違うそうじゃない。

「ゴブリンの巣で、普通だったらどうやって逃げ出すか考えたり。あとは、いつ殺されるか分からないって、怯えたりとか?」
「いつでも殺せるのに、殺されてないってことはまだ大丈夫かなと」

 俺の疑問に、グレンが普通に答えてるけど。
 というか、俺と普通に会話してる時点でおかしいと思うんだけど。

「それにサトウさんは、見た目だけなら俺たちと変わらないですしね」
「この巣の様子も、田舎の集落と町を融合させたような感じで。人の町と大差ないというか……」
「ゴブリン達もやけに綺麗好きだし、なにより見た目が俺たちの知ってるそれと違うというか」
「かっこよく見えるのとか、可愛く見えるのがいるから……」
「子供たちは、本当に可愛いですよ!」

 それでいいのか、冒険者達よ。
 そんなに簡単に馴染めるなら、そっち側でも魔物との共存の道を模索してくれないかな?
 ちなみにこいつら、これでD級冒険者チームらしいが。

「ふう、お腹いっぱいです。お風呂先にいただきますね」
「毎日、すみません」

 ちなみにお風呂は女性陣、次に俺、最後が男性陣だ。
 別に若い女性の入った後のお風呂に入りたいわけじゃない。
 この汗苦しい野郎どもの入ったあとに、入りたくないだけだ。
 そして、女性の前に入るのも、ちょっと気が引けたからこの順番になったんだ。
 ちなみに初日は女性陣の入った後の湯船のお湯が汚れすぎてて、全部入れ替えたけど。
 男性陣があがった後は、もっとひどかった。
 次の日は風呂に入る前に身体を洗うことを、徹底して教えておいた。

「良いお湯でした。それでは失礼します」
「おやすみなさい」

 そして、当然のように俺の家を拡張して作った部屋で寝るのね。
 本当に、怖くないのかな?

「この巣の中でならここが一番安全ですよ、扉にわけわかんない鍵までついてますし」
 
 まあ、一応マスターキーは俺が持ってるけど。
 サーシャはあか抜けない感じの16歳の純朴そうな少女。
 ジニーはボーイッシュな感じの、20歳の明るい女性だ。
 まあ冒険者だからか分からないけど、2人ともすっぴんでうん……
 眉毛の手入れとかもしてなければ、産毛やムダ毛の手入れも……この世界だと普通なのかな?
 それは嫌だな。
 絶対腋毛とかすね毛とか生えてるだろうし。
 ゴブリンはツルツル過ぎるけど。
 うーん、ゴブリンのルールってことにして、ムダ毛の処理だけはやらせようか?
 でも間違いが起こって眉毛や髪の毛まで剃ったりしたら、嫌だし。
 とりあえず女性陣の身だしなみについてはデリケートな問題なので、毎日のように解決策の出ないこの一人問答を繰り返している。

***
「険しい道のりになるかもしれないが、お前たちならこの試練をきっと乗り越えてくれると信じている」

 次の日の早朝、俺は集落の外壁の門で3組のゴブリン達を見送る。
 興味があったのかゲイルとグレンとガードも横にいる。

「ロードのご期待に、必ず応えられるよう死力を尽くします」
「死ぬことだけは許さんからな。成長した姿を見せてくれるのを、待っているぞ」
「勿体ないお言葉、心より感謝いたします」

 団体を代表して、ゴブマルと最後の挨拶を交わす。
 この3組のうち、2組が向かうのはダンジョンだ。
 一組5名からなるこのチームだが、全員がゴブリンⅧまで進化した個体だ。
 そして、それ以降の成長が全く見られないことから、より強敵を求めて旅に出すことにした。
 聞けばこの森にダンジョンがあるらしく、2組にはゴブリンⅩとなって次の進化を遂げるまで戻ってこないように言っている。
 ダンジョン攻略組のリーダーはゴブマルと、ゴブエモン。
 振り分け的にはアタッカー2、タンク1、バッファー1、ヒーラー1だ。
 残る一組を率いるのはゴブゾウ。
 こっちは余りものでの編成だから、アタッカー1、ヒーラー4だ。
 なんでこんなにヒーラーが多いのかというと、まあ何かあった時のためと優先的に回復役よりのステータス配分のゴブリンを作ったからだ。
 一応、攻撃魔法やある程度は戦える力も与えている。
 大丈夫だと思いたい。
 ゴブゾウチームが向かうのは、森の外の世界。
 よりよい狩場を探しつつ、野生の強敵探し。
 頑張ってもらいたい。

 ちなみに進化したら、何があっても途中で切り上げて帰って来いとは伝えてある。
 それに、俺の権限でいつでもこいつらの様子は確認できる。
 さらにいえば、都度都度ステータス強化も。
 それでもちょっと心配する程度には情は湧いている。
 ただ、びっくりしたのは、こいつらが外に出るというのに寂しくなるという感情は全く湧かなかった。
 まだ壁があるのか、俺が薄情なのか。

 横を見たら、ゲイル達の頬がひくついている。
 こいつらの方が、寂しさを感じたりしてるのかな?
 一緒に訓練した仲だったりするし。

「ゴブリンが修行の旅とか……」
「ここ、やっぱり普通じゃない」
「ロードがいるだけで、こんなにも規律が生まれるのか」

 ああ、顔が引き攣っていたのか。
 この表情は……ドン引きの表情だな。
 てか、なんでこいつら仲間面して見送りに来たんだ?
 そろそろ、帰りたいとか思わないのかな?

「いや、サトウさんの料理が美味しすぎて、逆に嫁をこっちに呼びたいくらいです」
「激しく分かる」

 グレンとゲイルがそんな会話を、小声でしていたが丸聞こえだ。
 お前らはゴブリンの心配じゃなくて、自分と嫁の心配をしろ。
 浮気されてないといいな!

「なんですか?」
「えっと、何かありましたか?」

 浮気されてないといいな!

 考えてることはちっちゃいけど、知ってるか?
 俺って、ゴブリンロードなんだぜ?

「ゴブリン達が心配なんですね」
「大丈夫ですよ! きっと立派に進化して戻ってきますよ」

 くそ! 余裕があっていいな、既婚者共め。
 その余裕は、まだ結婚してそんなに経ってないんだろうってことにして、自分を慰める。
 今は羨ましいけど……きっと、将来は……

 あとな、ゴブリンが進化して帰ってくるってのは、余計に人にとって脅威になるってことだぞ?
 分かってる?

「楽しみですね」
「ええ、彼らの成長が」
 
 絶対に分かってないよね?
 こいつらが特別お人好しでいろいろなネジが緩んだ連中なのか、この世界の人間のデフォなのかは分からない。
 でもこんな緩いネジの人間性のやつばかりなら、確かに安易な考えで魔物を絶滅させたり終わりの無い環境破壊したりするってのも納得できるかも。
 
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい

夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。 彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。 そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。 しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...