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第1章:赴任

第14話:別れの時

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「お主……」

 ジャッキーさんが帰った後、アスマさんがこっちを睨みながら恨めしそうに声を掛けてきた。
 すごいなー……眼窩が動くわけでもないのに睨まれてるのが分かる。
 つくづくここが異世界なんだなと、実感。
 だって、昼間なのにこんなに堂々と幽霊がいるんだから。

「あれが、何か分かっておるのか?」
「取引先の取引先のお得意様の会社の上の方の人だよ」
「そうか……わしにはお主が何を言っておるのか、さっぱりわからん。魔人……いや、魔神か……。魔神様に相談してみると言っておったが。少し考えさせてくれぬか?」
「ははは、考えるも何も俺はお前を部下にすると、まだ決めたわけじゃないぞ?」

 骸骨が何か言ってるが、こいつはもうお客様じゃないからな。
 さんざん迷惑を掛けられた相手だ。
 取り繕った態度を取る必要もない。

 具体的には俺がこいつに勝てるステータス配分をジャッキーさんに聞いて、ボーナスポイントを割り振ってからの強気な態度なんだけどね。
 
***
遡る事20分前。
そして、残念なことに17時5分の出来事。

「普通にこの人、サトウさんより強いですよ?」
「やっぱり?」
「ちょっとウエイトモードにして、ステータス開いてもらっていいですか?」

 ジャッキーさんに言われるがままに、行動。
 ウエイトモードにすると周りの時が止まるんだけど、ジャッキーさんは普通に動いてた。

「で、ここをこうして」
「えー、結構ポイント使うんですね」
「むしろ、サトウさんが使わなさすぎなんですよ」

 ふん、小心者と笑うがいい。
 臆病なんじゃなくて、慎重なんだよ。

「勿体なくないですか?」
「無駄に自分にまで器量を振ってるくせに、何をいまさら。そもそも、サトウさん全然レベル上げしてないじゃないですか? レベル1のままですし。レベルが上がればまたポイント増えますよ? 権限も色々と増えてくると思います」
「そうなの?」

 じゃあ、別にいっか。
 というわけで、大奮発。
***
 そして、今の俺がいるわけだ。
 具体的には、かすり傷や打撲程度の怪我はするかもだけど、10回やったら10回勝てるステータス配分とスキル構成らしい。
 万が一があるから、100回やったら2~3回は負けるかも程度。
 これ以上は、俺が嫌がったからね。

 そして17時を過ぎたことで、若干不機嫌になったジャッキーさんが縮こまって土下座みたいに平伏してるアスマさんに舌打ちして帰っていった。
 さっきまで偉そうだった骸骨が、ビクッて怯えてるのが笑えた。
 
「考えるって、そもそもどこで?」
「しばらく、ここに滞在させてもらうぞ」
「ええ? ダンジョンに帰れよー……てか、ボス不在とか」
「いや、わしはあそこに間借りしていただけじゃぞ?」

 それは初耳だ。
 聞いてないぞ?
 ゴブエモンを軽く睨むと、申し訳なさそうに謝っていた。
 チッ! ちょっと見た目が良くなってるから、なんか反省してる雰囲気が伝わってこないぞ?
 さわやかな謝罪だなー。
 誠意を見せろ! 誠意を!

「どこで寝泊まりするんだよ! 俺んちはやだぞ? 夜中にアスマさんの顔見たら、悲鳴あげる自身があるわ」
「わしは高位存在ではあるが、そこまで酷い部類の見た目ではないと思うのじゃが」
「どっからどう見ても、幽霊だよ!」
「カッカッカ! あんなものと一緒にするな! レイスなんぞ、わしからすればゴブリンみたいなものじゃ」

 違う! 
 なんでもかんでも、魔物と結び付けるな!
 ジャパニーズホラーなめんな!
 リンゴに出てきた、鞭を持った女王スタイルの幽霊のサド子とか、マジやばいからな?
 呪いのダウンロードコンテンツを見たら、1週間後にPCの画面から出てきて鞭をガンガン振るってくるとか怖すぎるわ。
 メール添付して2人に送ったら、呪い回避できるらしいけど。

 今度、ジャッキーさんにポータブルBDプレイヤーと、ディスクを買ってきてもらおう。

 とりあえず、アスマには何か集落の役に立つことをするなら、突貫で家を用意すると伝えておいた。
 二つ返事でお願いすると言っていたが。
 お願いする側の態度じゃねーな。
 
***
 ゴブマル達が戻ってから、1週間が過ぎた。
 悔しいが、アスマさんは優秀だった。
 呼び捨てから、またさん付けに戻る程度には。
 
 最高に優秀だったのは、記憶操作。
 精神系の魔法が特に得意らしい。
 ゴブマルが連れてきた冒険者達を、怪我を治したあとで人の町の近くまで送った時のことだが。
 その時にアスマさんが一緒に同行して、この場所の記憶を消してもらった。
 エルとエミルがなんか残念そうにしつつ、名残惜しそうに出て行ったのが印象的だったけど。

「寂しくなったんじゃないか?」
「うーん、ちょっとわね。でも、ここでの生活を手放すのもちょっと……せっかく建てた家も勿体ないし」

 ギイ達も帰っていった。
 こっちは、記憶はそのまま。
 ジニーが残ったから。

 結構長いこと居たな、お前ら。
 どっちにしろ、ゴブマル達が戻ってくるまでは集落を離れる気にはならなかったと。
 その気持ちは嬉しいが、お前たちがゴブマル達が戻ってくるのを心配して待っているように、お前たちのことを心配して待ってくれている人もいるんじゃないのか?
 まあ、俺が言っていいことかどうかは、分からないけど。

 流石にそろそろグレンとゲイルが、嫁のことが心配になったとのこと。
 遅くないか?
 普通は2~3日でも、もっと焦ると思うけど。
 まあ、冒険者稼業やってると、そんなのザラか。
 死んだと思われる前には、戻っときたいとのことだった。

 ギイも町に彼女がいるらしく、こっちは結婚してないからガチで心配してた。
 まあ浮気されてたら、もう未練もないので戻ってきますとのこと。
 いや、戻ってこなくていいんだけど?

 ガードとサーシャの2人は家に荷物を取りに帰ると。
 ん? 
 言ってる意味が分からないんだけど。
 ついでに、ジニーの荷物も?
 うーん……

 まあ、良いんだけど。
 現在もっとも帰ってもらいたいアスマさんも、なんだかんだで馴染み始めてるし。
 最近では、魔法講座まで開いてるらしい。
 そこまで、がっつり集落のために働けとも言ってないんだけど?
 あんまりゴブリンと仲良くなったら、俺が追い出しづらくなるし。

 で、ジニーはお留守番。
 いや、一人で残るの不安じゃないのかな?

「料理が……もう、あっちの味に戻れる自信が」
「いや、調味料なら分けてあげるよ? あとレシピも教えたよね?」
「……サトウさんの味が、忘れられなくて」
「毎日食べに来てたから、忘れる暇ないよね? 忘れられるわけないよね?」
「よろしくお願いします。本当に美味しいんです」

 そっか……そんなにかー……
 そんなに、俺の味が気に入ったのか。
 野郎の適当料理だけど、素直に嬉しい。
 うん、ゆっくり過ごすといい。
 
 甘いと、笑うがいい。
 こんなド直球で、褒められることなんてないから。
 おだてられてるのは分かるけど、若い子にここまで言われたら嬉しくないわけがない。

「ロードが、なんかご機嫌な様子だ」
「今日は、サトウ様が皆に料理を振舞ってくれるらしい」
「ロードが手ずから作った料理だと?」
「いや、さようなことさせるわけには……ロードの沽券にかかわる」
「俺たちに見栄をはるために料理をするのに、外の体面なんか気にするなと笑っておられた」

 今日は俺主催のバーベキューパーティだ!
 ちょろいと分かっているが、皆の反応を見たくなってしまったんだ。
 仕方ないだろう。
 

 
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