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第1章:赴任

第15話:ホラーほらー

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「ファイア~ボ~ル」

 魔法の言葉を口にすると、俺の手からヘロヘロと火の玉が放たれる。
 ユラユラノロノロと不安定な動きをするそれは、目標に着弾すると同時に大きな音を立てて爆発した。
 ふふ……楽しい。
 
 ちなみに魔法名を言っているのは、気分の問題。
 無詠唱でも使える。
 ボーナスポイントで無詠唱のスキル獲ったから。
 だからこんなこともできる。

「ファイア~ボ~ル」

 魔法名はファイアーボールだが、手から出てきたのは水の玉。
 そして、着弾すると水の竜巻を巻き起こす。
 その様子を横目で見ていたゴブリンが、ビクッとしてたのが笑えた。
 魔力は多めに伸ばしているから、いくらでも使える感じ。
 だと思う。
 
 威力も出鱈目。
 もちろん込める魔力量で、調整は出来るけど。
 その辺りのスキルもぬかりなくとってる。
 
 だからこんなことも!
 無詠唱で、超巨大な火球を放つ。
 轟音と地響きがして、巨大な爆発が起こる。
 ちょっとやりすぎた。
 ゴブリン達が、少し迷惑そうだ。
 だが、これは言っておきたい。

「今のは、戦術級爆炎魔法ではない。余の初級火魔法だ」

 ……まあ、莫大な魔力を消費してるから、あれだけど。
 嘘はついてない。
 
 なんでこんなことをしてるかって?

 いや、レベル上げに魔物を狩りに行ってみようかなと思ったり。
 思っただけで、具体的な予定は立てていない。
 いくら目的があるとはいえ、どうも生き物を殺すことには抵抗がある。
 虫とかならともかく、動物ともなると。
 虫も蚊とかゴキブリならって感じだ。
 蛾や蜘蛛とかは、あっちでも捕まえて逃がすか放置していた。
 蜂やカメムシなんかも、極力逃がす方向。

 だからか、なかなか覚悟がつかない。
 蚊やゴキブリを殺してレベルが上がれば良いけど。

 ゴブリンが動物を殺したりしても、特に気にはしないけど。
 別に農家が肉を売るために、屠殺することに関して悪感情は抱かない。
 自らの手を汚さなければそれでいい……

 次は剣の練習。
 といっても、木の棒を削って作った木剣だけど。
 いや鉄の剣とかは、あるにはあるけど。
 怪我とか怖いし。

 ダンジョンから持ち帰った武具が少々。
 一応これは、集落内の共有財産とした。
 といっても。所有権は俺にあるが。
 外に出るゴブリン達に、持たせるよう。

 結構な数のゴブリンが、ダンジョンと集落を行き来している。
 レベル上げもあるが、ここには鍛冶師もいなければ鍛冶場もないので作れないのだ。
 たたら場もなければ、溶鉱炉なんてのもない。
 ダンジョンなら、定期的にそういったものが宝箱に入っていたり。
 あとはダンジョン半ばで力尽きた冒険者の遺品だったり。
 流石に遺品の所有権は、俺にしてほしくないなー。
 死体漁りがどうとかじゃなくて、死んだ人が持ってたものを渡されても。
 ダンジョンの宝箱の中身も、実はそうなのかもしれないけど。

「それではロード、よろしくお願いいたします」

 ちなみに付き合ってくれるのは、ゴブエモン。
 ゴブリン侍だから、剣の使い方は上手だ。
 素手が主体だったのに、なんで侍に進化したのかはいまだに謎だ。
 そもそもが武器を持たせるという発想が無かったというか。
 うーん……自分がねっからの日本人だなと、改めて実感。
 いやいや、危険な場所に行くときは、多少の武装はするだろうけど。
 
「くっ!」
「やっぱり、だめかー」

 とはいえ、ゴブエモンでは相手にならない。
 技術や経験をもってしても埋められない、ステータスの差のせいで。
 俺にはゴブエモンの動きがはっきりと見える。
 考えて対処しても間に合うくらいの動きに。
 ところがゴブエモンは、俺の動きを目で追うのが厳しいレベルらしい。
 ステータス、残酷だな。

 筋トレとかでもステータスは伸びるし、そうやって伸ばしてからレベルを上げた方がいいことを知った。
 基礎ステータスが高い方が、レベルアップ時の恩恵が大きいらしい。

「もういいぞー!」

 とりあえず、いい汗を掻いたのでゴブエモンに礼を言って別れる。
 それから身体を拭いてお風呂に。
 お風呂も、ちょっとずつよくなっている。
 最初は土魔法のみで作った、無機質な浴室だったけど。
 色々と建材を買って、コーキングもしてそれなりの内装に。
 灯りは電池式のLED電球。
 いつかレクセルやホウモツスタンダードの内装を仕入れてもらいたい。
 値段が……

 しかし、ここはどういう世界なんだろうな。
 日中はまあまあ暑い日もあるけど、夜は結構冷える。
 嬉しいけど。
 寒いのは布団でどうにかできる。
 暑いのは、エアコンが無いと流石に厳しい。

 と思ってた時期がありました。
 氷凄い。
 バケツいっぱいの氷を部屋のあちこちに置いてたら、日中の特に暑い日でも室内は快適だった。
 季節があるかどうかは分からないけど、夏があるならでかい円形の部屋を作ろうと思う。
 魔法で巨大な氷柱を真ん中に作れば、室内が涼しく保てる気がする。
 ついでに、風魔法とかも駆使すれば万全だろう。

 魔法って凄いなー。

 ちなみに風呂に入るために家に帰った時のことだけど、チラリとリビングを見たらエルダーリッチのアスマが一生懸命映画を見ていた。
 このおっさん、普通にうちに上がり込んで来やがった。
 俺以外、誰もいなくなったのをいいことに。

 風呂からあがったら、まだ見てたので声を掛ける。

「面白いか?」
「ふむ、確かにこれは怖いな……わしが生きてた頃に、こんなのに襲われたらと思うゾッとするな」

 何が彼の琴線に触れたのかは分からないけど、邦画から洋画までジャンル問わず見ている。
 いま彼が見ているのはビオハザードという、薬や遺伝子組み換えに寄らない自然のゾンビと戦う映画だ。
 
「特にこの女が使う、筒状の武器……音が鳴ったと思ったら着弾しておる。どういう原理かは分からぬが、こんなものがある世界など、人の戦いの規模が変わるだろうな。魔法なんぞ、なんの役にも立たぬな」

 そっちか。
 まさかのゾンビ目線で見ていたとは。
 最初の頃は、和製ホラーでややビビッてたくせに。
 作り物を冷静な視点で見るのは、面白くないと思うぞ?
 それこそ、ゾッとしない話になるだろう。

 ちなみにエルダーリッチとかいう大仰な名前の骸骨お化けのくせして、驚かす系のシーンでは必ずビクッとしてた。
 しかもお約束の定番系の構成で。

 例えば、静かで暗い不気味な音楽に合わせて、恐る恐る部屋を空けたけど何もおらず。
 ホッとした状態からの、部屋から出るために振り返った瞬間に大きな音とともに上からドーンとか。
 かなりビクッとしてたな、アスマさん。

 他には普通にそれまで何もなくただの病院のシーンだったのに、人が歩いて横切った直後に大きな音が鳴って後ろを鎌を持ったローブの幽霊が追いかけるように横切るシーンとか。
 あとは男性がコーヒーを飲んるシーン、女性が話してるシーン、男性の最初の構図に戻った時に大きな音が鳴って背後に幽霊のシーンとか。
 
 そう、骸骨お化けの癖に大きな音プラス不意打ち登場のお約束に、毎回ビクッとなるのはどうかと思うぞ?
 凶悪な面の骸骨男がビクッとなると、こっちまでビクッとなるのだが?
 それで、持ってた飲み物をぶちまけて、床を拭いてるのはどうなんだ?
 エルダーリッチを知ってる人が見たら、泣くんじゃないのか?
 いや、だからと言って拭かなくていいとは言わない。
 
 ただ、油断しちゃうような日常シーンこそ、飲み物を置け。
 今が飲むチャンスじゃないぞ?
 おかしいと思わないか?
 骸骨のくせに、飲んでも肋骨の隙間からこぼれたりしないくせに、びっくりして毎回こぼすのは……流石に学習しよう。
 
 全然関係ない話だがアスマさんも、日本語の習得は早かった。
 現在、英語にも挑戦中。
 洋画を吹き替えじゃなくて、字幕で見たいらしいけど。
 ちなみにそれ、ドイツ語の映画だけどな。
 最終的には字幕も無くしたいらしい。

 そんなことよりも、研究はいいのかな?
 最後に見掛けた研究は、カーペットにこぼしたコーヒーの染みを抜く魔法の研究だったけど。
 いや、凄い有意義な研究だと思うぞ?
 思うけど、もっと他にもあるだろう。
 いや、良い研究なんだけど。
 なんか、違うというかイメージと違ったというか。
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