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第1章:赴任

第29話:火竜襲来

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「我が可愛い子分を、殺してくれた奴はどいつだ?」

 村の外に大きな音とともに着地したのは、大きな翼の生えたトカゲ。
 この間来た奴らよりも、大きいな。
 とりあえず慌てて駆けつけてみたが、言葉をしゃべったことにびっくり。
 そして、質問に答えるために、アスマさんを指さす。
 アスマさんが、驚いた顔をしているが。
 驚くようなことだろうか?
 俺の記憶だと殺したのは、アスマさんで間違いなかったと思うが。

「ほう、貴様か?」
 
 トカゲが、アスマさんを睨みつけているが。
 アスマさんは俺を睨みつけている。
 いやいや、人に罪をなすりつけようとするんじゃない。
 こっちも、アスマさんを睨み返す。
 溜息を吐かれた。
 
***
「さてと、火竜殿? お主は何をしにきたんじゃったかのう?」

 どうやら、火竜という種族らしい。
 おお、ドラゴンだ! ドラゴン。
 すげーな。
 流石異世界。
 そんなのもいるのか。
 恐竜みたいだ。

「ぐぬぬ……きさま、ただのリッチではないのか?」
「ただの、エルダーリッチじゃが?」

 とはいえ、いまは腹を上に向けて情けない姿で寝そべっているが。
 その腹の上に立ったアスマさんが、杖を突き付けて質問している。
 アスマさんって、本当に優秀だよなー。
 竜より強いんだから。
 いや、竜が弱いのか?

「骨の分際で」
「ほう? まだ、立場が分かっておらぬようじゃな? そもそも、先に襲い掛かってきたのはお主の子分とやらじゃ」
「痛い痛い! 分かった! 分かったから、それをやめてくれ」

 態度がでかい竜に対して、アスマさんが先を丸めた氷の塊を足の裏のいたるところに突き刺していく。
 足つぼかな?
 どこ刺しても痛がるから、身体中悪いとこだらけなんだろうな。
 
「グハハハハ! やめろ! そこはだめじゃ! くすぐったい! グハハ」

 そうじゃないところも、あるみたいだ。
 少し安心だ。
 
 ちなみにいきなり炎のブレスを、吐きかけてきた時は焦った。
 慌ててウエイトモードを発動させて、ゴブリン達でポイントのあるものに炎熱耐性を付与して強化しまくった。
 進化した種類によっては覚えられないものもいたが、十分な数のゴブリンに付与できた。

「ゴブゾウ! ゴブオ! ゴブリナ! ゴブエ! ゴブスケ! エルスタッド! オーランド! パフマ! クリスティーナ! 後ろにいる皆を守れ!」

 そして一部の者たちには、炎熱耐性を得られなかった者たちの盾になってもらった。
 すぐに動こうとしなかったため、慌てて檄を飛ばす。

「お前たちは炎に耐性をつけた! 俺を信じろ! 急げ!」

 その結果、集落に人的被害は出なかった。

「あちちちちちちちち! あついっすー!」

 人的被害は出なかった……
 キノコマルの頭が燃えているが、お前髪の毛ないだろう?
 慌てて桶に頭を突っ込んでいたが。

「水が入ってないっすー!」

 今度は頭に桶を乗せたまま、どこかに走り去っていった。
 大丈夫……すぐに治るし、お前は死なないから。
 
 ただ、誰か一人くらいはかばってやってもよかったんじゃないのか?

 ゴブリン達に視線を送ると、目をそらされた。
 皆、誰かがキノコマルをかばうだろうと思っていたと、声を揃えて言われたら。
 誰も責めることはできない。

 ゴブリン達がすぐ動かなかった理由は、俺がみんなの名前を憶えていたことに感動していたらしい。
 すまん……ステータスボード一覧を炎熱耐性でフィルター掛けてソートして、上から読み上げていっただけなんだ……
 心が少し痛いが、皆の喜ぶ姿に水は差せない。
 だから、黙っておいた。

「お主のう……喧嘩を売るなら、相手を見て売ることじゃ」

 火竜の腹の上に胡坐をかいて座ったアスマさんが、呆れたように首を横に振っている。

「我も後悔しておる。まさか、火の効かぬゴブリンがこれほどまでにおるとは」

 そこか?
 その前に、アスマさんに杖でボコボコにされたことに対して、思うところはないのかな?

「ちなみに、そこな間抜け面の男はわしより強いぞ?」
「ふん、馬鹿な。竜より強いものが、そんなにたくさんおってたまるか」

 えっと……間抜け面の男って、俺のことじゃないよね?
 さっき指さしたこと、根に持ってるのかな?

「お主が火を吐いたあとで、そやつが少し腹を立てておったからわしが相手してやったんじゃ。あやつは自分の力を分かっておらぬから、手加減ができぬと思ったからのう」

 失礼な。
 手加減くらいできる。
 できるけど、竜と闘おうなんて気はさらさらないけどな。
 外壁から皆で一斉に石は投げようかなと思ったけど。
 石と言うか、岩。

「他にやり方はないのか、お主は」
「うーん……あとは、地面に先細りの穴でも作って埋めようかとか?」
「先細りの穴?」
 
 ああ、身体が挟まったら、あの巨体と翼じゃ脱出は無理かなって。
 
「はあ……」

 アスマさんに盛大を溜息を吐かれたけど。

 それはそうと……
 俺は火竜の側にいって、声を掛ける。

「火竜さんの火って、鉄とか溶かせたりする?」
「なんじゃ、藪から棒に」

 腹見せて寝転がってたら、威厳も何もあったもんじゃないと思うけど。
 とりあえず、アスマさん降りてあげて。

 俺の言葉に、アスマさんが素直に従う。

「馬鹿め! 油断しおったな」
「するか、大バカ者が」
「危ないなー」」

 アスマさんがどいた瞬間に、火竜が寝返りを打って尻尾を振るってくる。
 アスマさんが手を振って、即座に風の魔法で尻尾を斬り飛ばしていた。
 俺は轢かれそうになったので、両手でを腹を抑えて押し返した。
 いけるもんだな。

 凄い勢いで転がっていって、集落の外壁にぶつかってた。
 あっ……

「おいっ!」
「ひいっ!」
「壁が壊れたじゃないか! でかいんだから気を付けろ」
「貴様が力いっぱい押すからだ! 理不尽だ!」

 いやいや、先にこっちに転がってきた方が悪い。
 悪いよな?
 いや、つい本気で押し返してしまったけど。
 まさか、あの巨体があんなに転がってくとは。

「手加減ができるとな?」

 ……アスマさんの視線が痛い。
 つい、火竜を睨みつけてしまった。

「すまん」

 軽く睨んだだけなのに火竜はなぜか慌てて起き上がって、凄く怯えた表情でこっちに向き直って頭を下げていたが。
 その際に切れ残った尻尾の先が、また壁に当たってさらに被害が拡大。

「気を付けろって言っただろうが!」
「す……すまん」

 これは流石に火竜も悪いと思ったのか、素直に謝ってくれた。
 うん、謝ってくれたなら許すしかないか。
 あと、直してくれるなら。

「そ……その、我の尻尾でも鱗でも売れば、それなりの価値がある」
 
 いや、現物で賠償されてもなー。

「我は火竜だ……土属性魔法は苦手なのだよ」

 じゃあ、仕方ない。
 尻尾はアスマさんが切り取ったものだし、本人もちょっと喜んでいるから。

「じゃあ、鱗で」
「痛い!」

 適当に大きそうなのを選んで、引っぺがしたら痛がってた。
 いや、くれるっていったじゃん。

「もう少し優しくしてくれ。というか、鱗ならそこらへんに落ちてるだろう! お主に転がされた際にはがれたのが」

 ああ、俺が手で押した位置の鱗が、割れてはがれたのね。
 割れてたら、価値下がってそうだし。
 これでいいよ、これで。

「はあ……」

 それから、先の質問の答えを聞く。

「そうか、鉄も溶かせるのかー」
 
 これなら、鉄の加工が出来るかもしれない。
 あとは、鉄鉱石やらの鉱物資源をどうするか。

「知り合いのドワーフを連れてこよう。火竜の巣は、大体にしてドワーフも近くに住んで居ることが多い。奴らとは、酒と素材とを交換したりと交流もある」

 そうなんだ、意外だな。

「まあ、よき隣人だな」
「じゃあ、技術指導員として1年くらいの期間で、誰か雇ってくれないかな?」
「対価はどうするのだ?」

 うーん、今回の迷惑料ってことで、火竜側でなんとかしてもらおうかと思ったけど。
 まあ、それとは別にお礼を用意しておいた方がいいか。

「じゃあ、この鱗で」
「……」

 さっき引っぺがした鱗を手に持って振ったら、火竜が頬を引き攣らせていた。

「お主、それの価値が分かっておるのか?」
「わかんないけど、そこにいっぱいあるじゃん」

 火竜の身体を指さして笑いかけたら、泣きそうな表情をされた。

「サトウ、あまりいじめてやるな」

 いや、最初にいじめてたのアスマさんだと思うけど。

「はあ……本当に、愚かなことをした。ワイバーン共の泣き言など放っておけば良かった」

 心の底から溜息を吐きながら、火竜が帰っていったけど。

「あのまま、もう二度と戻ってこなかったりして」
「それはない。火竜はプライドが高いからのう。約束を違えたり、嘘は吐かぬ」

 アスマさんが、大きく頷いていたけど。
 信じていいものか。

 
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