転勤は突然に~ゴブリンの管理をやらされることになりました~

へたまろ

文字の大きさ
36 / 77
第1章:赴任

第30話:千客万来

しおりを挟む
 集落のゴブリン達は本当に進化したと思う。
 毛の生えた者も、ようやくチラホラと。
 そうなってくると、見られる者も多くなってきた。

「本当に、矜持を傷つけれる」
 
 ミレーネがなりきリメイクのゴブリンビューティ達を見て、苦笑いをしている。
 ジニーは、そのゴブリンビューティに化粧を施してもらって、おおはしゃぎしているが。

「これが、私?」

 うんうん、可愛い可愛い。

 ゴブリン達と、集落内であれこれと作業をする。
 俺の屋敷がいよいよ完成間近となり、部屋に置く家具とかを作ることに。
 大事なものはジャッキーさんに買ってきてもらうけど。

 といっても、俺の作業はあれこれ注文するだけ。
 実際の作業はゴブサクや、ゴブオ達がやってくれる。
 雑誌や本であれこれと勉強しているからか、それなりにクオリティは高い。
 ステータスの器用を伸ばしたことも、大きく影響しているかもしれない。

 そんな風に、充実していた日々を送っていたら、ついに火竜がやってきた。
 背中に小さなおっさんを2人乗せて。

「ふむ、こやつらがお主らにあれこれ教えてくれる者たちだ」

 火竜が紹介してくれたのは、ドワーフのエドとシド。
 エドは主に採掘と、鉱物の見分け方を。
 シドは金属加工を教えてくれるらしい。

 2人ともなぜか不機嫌。

「なぜ、ゴブリンがわしらより背が高いのじゃ!」
「そもそも、金属に触ったことない奴らがスミスを名乗るなど!」

 いろいろな言い分はあるだろうが、少し落ち着いてほしい。
 まだ、初対面だから。
 まあ、職人気質っぽい印象を受けたので、頭を下げてお願いする。

 俺に習って、ゴブリンスミス達も頭を下げている。
 対価は竜の鱗1枚で十分らしい。

「これはお近づきのしるしに」

 それとは別に、お酒を。
 ジャッキーさんに買ってきてもらった泡盛と、ウォッカ。

「これは素晴らしい!」
「このようなものが頂けるなら、早く言ってくれ」

 鱗よりも喜ばれた。
 見るからに、機嫌が良くなってる。
 火竜が情けない顔をしているが、ドワーフはやっぱり酒が一番らしい。

 もしかして、ジャッキーさんにお願いしたらバッカスの酒とかもらえないかな?
 でもバッカスってワイン専門だったっけ?
 なら、やっぱり日本酒とかの方が喜ばれそうだ。
 俺が個人的に飲みたいけど。

「ロード、何ら外に怪しい集団が」

 とりあえず自己紹介を済ませて、雑談をしていたらゲソチが報告に来た。
 来客だろうか?
 特に慌てた様子もないところから、敵襲ではないようだ。
 いまは、ジソチが相手をしているらしい。

「なんか、困り事みたいだから、ちょっと行ってくる」

 この場をゴブオとゴブサクに任せて、外の客の方に。
 
 門を出ると、角の生えた初老のイケオジが立ってた。
 山羊の骸骨っぽい顔した、人型の生き物と。
 それから、タキシードのイケオジと一緒に。
 一瞬コスプレかと思ったが、自前のようにも見える。
 とりあえず、ただ者ではなさそうだ。
 
「余は第92代魔王、グランハザードだ!」
「はあ」

 なんか、いきなり魔王とかって名乗ってるけど。
 そういえば、アスマさんが魔王のことを、少し口にしてた気がする。
 その魔王……なのかな?

「貴様、気の抜けた返事をするな! 無礼であろう!」

 山羊の骸骨が何か言ってるけど。
 ちょっと、状況がよく分からない。
 ジソチに説明を求めたけど、困った顔で首を横に振られた。

「その魔王様が、こんなところに何用で?」
「頭が高い!」

 いや、頭が高いとか言われても。
 なんだろう?
 平伏とかした方がいいのかな?

「よせ、バフォン! いきなり押しかけて済まぬな。ここに、何やら異様な魔力を感じてな。確認に来たわけだが……」

 魔王が俺をじっくりと観察している。
 不躾な視線に、少し困惑。
 あまり、良い気もしないし。

 どうしよう……魔王が、どんな存在かも分からないし。

「どうした、サトウ! 困り事か?」

 そうこうしていたら、火竜が顔を出してきた。

「ぬっ? イグニか?」

 そして魔王が火竜を見て、少し驚いた表情。
 知り合いなのかな?

「えっ? 魔王さん?」

 魔王さんて……
 顔見知りというか、ちょっと親しそうな感じだけど。

「あー……父の知り合いで」
「アグニ殿は元気かな?」

 火竜が俺に説明をしようとしたら、被せ気味に魔王が火竜に話しかけていた。
 魔王もあっと思ったようだ。
 少し、面目なさげ。
 ちょっと、気まずい沈黙が。

「その方の父とは、久しく会ってないが息災かな?」

 何事もなかったかのように、やり直している。
 流石魔王だ。

「ええ、元気すぎて困ってます」

 火竜が苦笑いしながら、答えている。
 火竜の言葉遣いからして、この魔王は火竜よりも強いのかな?

「祖父と、ガチで殴り合って引き分けてます」

 お前の祖父が、いかほどの者か分からないんだけど?

「火竜の長で、火竜の中でも最強です」

 へえ……意外と、由緒正しいドラゴンだったんだな。
 てことは、竜の中でもトップクラスか?

「あー……古竜を除けば最強の一角です。古竜は別名神龍と呼ばれる種族でして……」

 なんだか強いんだか弱いんだか、ハッキリしないなー。
 俺の視線に、火竜が困ったように笑ってるけど。

「して、イグニはこの御仁とどういう知り合いなのだ?」

 魔王がズケズケと踏み込んでくるが、この火竜……イグニか、イグニと俺はなんて言ったらいいんだ?
 顔見知り以上、知人未満か?
 なんとも、説明に困る。

「あー、色々とあって、今は私が(ドワーフの)世話をしてます」

 物は言いようだな。
 無難な答えだと思うけど。

「おい、サトウ。誰が来たんじゃ?」

 そんなことを考えていたら、アスマさんがこっちに来て話しかけてきた。

「こ……国滅のアスマ……」

 今度は魔王さんが、何やら緊張した様子。
 あっ、バフォンと呼ばれた山羊の骸骨と、タキシードの紳士が後ろに下がった。
 
「なんじゃ、グランハザードか」
「ア……アスマ殿がなぜここに?」
「いや、それはわしのセリフじゃが」

 本当にこの骸骨って有名人なんだな。
 というか、この2人も顔見知りとか。 
 この世界って狭いのかな?

「なんと、お主が魔王じゃと? わしが、ダンジョンに籠っておる間に代替わりがあったのか」
「え、ええ……30年ほど前に」

 どうやら、アスマさんは魔王が交代したことを知らなかったらしい。
 ちなみに、この魔王。
 以前、アスマさんを部下にしようとして、返り討ちにあったことがあるとか。
 どんだけ強いんだ、この骸骨。

 そんなことを思っていたら、急に空から威風堂々が流れ始める。

「なんだ、この音は!」
「なんとも、風格のある力強い音楽」
「一体、どこから」

 魔王とイグニとアスマさんがキョロキョロと周囲を見回しているが。
 俺は嫌な予感しかしない。
 思わず、頭を押さえる。

 そんな俺の心情などお構いなしに、荘厳な音楽に合わせて辺りに光が降り注ぐ。
 そして、地面から黒い2筋の炎が絡まり合って、中から大きな黒い狼が。
 
 またややこしいのが、面倒なタイミングで。
 
「どうですか佐藤さん! この間の佐藤さんの言葉を受けて、先にBGMでお知らせしてみようかと! アナウンスよりは、良いと思いませんか?」

 プロレスの入場の音楽じゃないんだから。

「ア……アスマ殿?」

 魔王の横で、アスマさんが平伏してる。
 まだ、慣れないのか。
 それを見てイグニも、慌てて、頭を下げている。

 取り残された魔王が周りをキョロキョロして、困っている。

「魔王様、威厳を保ちください」

 バフォンが、魔王に注意している。
 注意しているけど、その本人が五体投地をしているのはどういうことなのだろうか?
 タキシードの紳士も、片膝を付いてこうべを垂れているけど。

「あー、えっと……」

 魔王が、どうするべきか焦っているのがちょっと面白い。

「給与明細、お届けにあがりましたよ!」

 そんな魔王を無視して、ジャッキーさんが俺に封筒を手渡してきた。
 敢えてこのタイミングで来たのかと思ったけど、手元の時計のカレンダーを見て納得。
 いっつも、給与明細を届けてくれる日だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい

夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。 彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。 そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。 しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...