転勤は突然に~ゴブリンの管理をやらされることになりました~

へたまろ

文字の大きさ
77 / 77
第1章:赴任

第66話:冬のイベント

しおりを挟む
「メリークリスマス!」

 ジャッキーさんが、またまたファンキーな格好で突如現れた。
 白い髭をつけて、ボンボンのついた赤い帽子をかぶった黒い狼。
 色々と目が痛い色調だが、意図は分かる。 
 分かるけど、いきなりその恰好で来るのはどうかと思う。

「えっと……」
「ああ、何度かお会いしてると思いますが、私の上司のジャッキーさんです」
「はあ……」

 俺の前に座るランスロットさんが、困った顔で笑っている。
 どういう心境か測りかねる部分はある。
 この村の管理者である俺と、真面目な会議の真っ最中。
 そこに突如現れた、ご機嫌な狼。
 それがまさかの、俺の上司。
 現在、ランスロットさんは一応自称俺の部下になっているから。
 俺より上の立場のジャッキーさんに対して、自分の立ち位置で困ってしまったのだろう。

 あまり助け舟になりそうもないが、お互いに紹介する。

「ゴブリンを排除しない人間なら、歓迎ですよ」
「ありがとうございます」

 馴れ馴れしいジャッキーさんに対して、たどたどしくランスロットさんが返している。

「いま、割と込み入ったな話の最中なんですけど」
「そうなんですか? そんなことより、クリスマスくらいは休んでパーッと盛り上がりましょう!」

 ……伝わらないのかな?

「いま、仕事中なのですが」
「では、今から休暇にします! 上司命令です!」

 もしかして、酔ってるのかな?
 いや、アルコールの匂いはしないけど。

「では、続きはまた改めて」

 ランスロットさんが話を切り上げて、席を立とうとする。
 そのランスロットさんの肩に、ジャッキーさんが前足を乗せる。

「これから、パーティをするので是非参加してください」

 いや、何を勝手に。
 というか、クリスマスになんでわざわざ。
 しかも、こっちの世界はすでに冬も終わりに近づいているというのに。

 そう、じき春が来る兆しが見えてきたらしい。
 それで、ランスロットさんが俺のところに来た。
 ミレーネが戻ってくるという報告と、彼女の今後の立場に関する相談の為。

 この世界は新年は夏の始まりに来るらしいので、今は年末でもないので王城内の人事も動くことが無い。
 だから、ミレーネの後任となる騎士団の隊長の選出に、手間取っているらしい。
 大隊長の役職をもっていたらしいので、そこそこの家柄と実力が問われているらしいが。
 後任となりそうな人材は……窓から村を見る。
 薪割をしている人間の騎士たちが数人。
 彼らの中にいるらしい。
 だから、ミレーネが来たら、それと引き換えに誰か戻さないといけないらしい。
 その人材の選出の相談がメイン。
 全員、それなりにこの村に馴染んできている。
 
 そう、元々帰還する人選を、押し付け合うくらいにはこの村を気に入っている人たち。
 残念姫様の身代わりに、人身御供として誰かを選ぶのが忍びないらしい。
 返さないとだめなのかな?
 だめらしい。
 
「せっかくのクリスマスに、こっちに来てて良いんですか? 一緒に過ごす女性とか、いないんですか?」
「グハッ!」

 俺の言葉に、ジャッキーさんが胸を押さえてヨロヨロと後ずさりを始める。
 いやいや、狼の心臓ってそこ?
 脇腹あたりだと思ってたけど。

「な……なかなか、言いますね」

 しかし、彼が持ってきたクリスマスグッズの数々を見ると、結局受け入れてしまうことになると諦める。
 どうせ受け入れるなら、快く受けた方がお互いのためだろう。

「まあ、良いですよ。で今日があっちだと、クリスマスなんですか?」
「いえ、今日はイブですよ」

 そうなんだ。
 日にちの感覚が完全にくるっているけど、まあそれは置いておこう。
 将来的には、ある程度過去に遡って返してくれるみたいだし。

「部長、はりきりすぎですよ! 置いてかないでくださいよ」
 
 と思ったら、一人の女性が。
 スーツ姿の、メガネの別嬪さん。
 なんだ、一緒にいてくれる女性いるじゃないか。

「パルメ君が、遅いから」
「いや、待ち合わせまで、まだ1時間以上ありますよ?」

 とりあえず、そちらの女性は?

「えっと、曾祖父の義兄の曾孫の娘さんですよ」

 なんだ、親戚だったのか。
 納得。
 いや、曾祖父の義兄?
 曾祖父の義兄って、血がつながってない方のかな?
 じゃあ、他人かな?

「冬といえば、おでんですよね?」
「正解!」

 やっぱり、そっちのお兄さんの方か。
 色々と複雑な人間関係だから、敢えて触れないでおこう。
 当人たちは、からっとしてるのかもしれないけど。

「ところで、北欧神話の人達が、クリスマスとか祝っていいんですか?」
「楽しかったら、なんでもいいんですよ。それに、私たちにはそんな古い事は、関係ないことですし」

 そういうものらしい。
 
「神無月には、たまに出雲さんに曾祖父に連れられてお邪魔させてもらってましたよ!」

 意外と、神様同士の交流もあるのかもしれない。
 
 しかし、ジャッキーさんが少し不満そう。
 
「せっかく、パルメが来る前にクリスマスの飾りつけをしようと思っていたのに」

 いや、ここ俺の家だけど。
 勝手に、人の家をデコレーションする気だったのか。

「勝手にではないですよ? 一緒にですよ?」
 
 いや、そういうのって事前にアポとかとってくれないんですか?
 くれないんですね。
 というか、なんでこっちが仕事してるのに、そういう悪い誘惑ばかりしてくるんでしょうか?
 
「福利厚生です」

 ちょっと、違うというか。
 それはホワイトじゃなくて、緩い会社ってだけで。
 色々と、不安ではあるけど。

「究極の隙間産業をついた会社なので、経営がザルでも成り立ちますよ」

 でしょうね。
 神が主導して、世界のバランス調整する会社ですからね。
 なんか、お布施とかも利益に計上したら、凄いことになってそうですしね。

「まあ、それよりも早速、飾りつけを」
「お邪魔のようですので、私はこれで」

 怒涛の展開にフリーズ状態だったランスロットさんが、ようやく発した言葉がこれ。
 逃げる気満々。
 というか、まずクリスマスという概念も無いだろうし。
 
 やっぱり、黒い狼に捕まっていた。
 肩に手を置かれただけで、動けなくなるくらいの圧を感じるらしい。
 知ってる?
 それって、パワハラっていうんですよ?
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい

夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。 彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。 そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。 しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...