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第2章:風の調べとゴブリンとコボルトと
第1話:イベントは唐突に
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「ニコさん! 今日も薬草採取ですか?」
「ああ、えっとバンチョさんこんにちは。そうですね、ソロなんで」
ギルドの受付で依頼を物色していたニコに、背後から声を掛けたのはバンチョ。
今日は依頼に出かける気がないのか、普段着での姿。
こいつらも、毎日せっせと働きに出るタイプじゃないな。
バンチョは確か、風の調べとかってパーティのリーダーだったな。
メンバーはどいつもこいつも、大して差が無さそうだが。
「いやいや、ニコさんクラスなら討伐依頼も出来るでしょ」
さらにその後ろから顔をのぞかせたのは、テッドか。
ニコニコとよく笑みを浮かべている、気さくな少年。
割とガッチリとした体形だが、若いからかすこし柔らかい印象を受ける。
そしてニコに幻想を持った、駆け出し冒険者。
蟻の群れを威圧だけで撃退したニコに、並々ならぬ憧れを抱いている。
「あー、ニコさんだー!」
「こんにちわ」
さらに、リサとミーナも寄ってきた。
彼女たちを入れた4人が風の調べ。
リサがサブリーダー。
バンチョとリサが、剣を扱うアタッカー。
テッドがタンクで、ミーナがヒーラーだ。
一般的なパーティ。
いや、ヒーラーがいるのはかなり貴重らしい。
魔法職は才能が必要らしく、また冒険者以外の需要が高い。
だから、魔法系のスキルもちが冒険者になるのはレアケースなので、かなり重宝される。
2ランク上のパーティから勧誘されるのなんて、ざらにあることらしい。
こうして風の調べによる包囲網が完成したところで、あれ? と。
俺は思ったけど、ニコは何も思わずに世間話。
「で、だったら一緒に依頼を受けてもらえないかなと」
「うんうん、ニコさんと一緒なら色々と学べるかなと思って」
「はは、僕なんてまだまだだよ」
謙遜しつつもまんざらでもなさそう。
俺に肘があったら、確実に肘鉄を脇にぶちこんでいただろう。
それからあれよあれよという間に、カウンターから引き離される。
アリアがちょっと呆れた様子で眺めていいたけど。
「ふーん、討伐依頼かあ……正直、無理じゃないかな?」
「大丈夫ですよ、僕たちが受けるのはこっちの間引きの方ですから」
「はい、別に巣を見つけてどうこうって依頼じゃないので」
ああ、常時依頼の方か。
素材を確保するか、魔物が増えすぎないようにするための依頼。
まあ、初級冒険者の彼らが受けられる依頼といえばそんなもんか。
Eランク冒険者5人か。
なんの討伐依頼だろう?
「ゴブリン?」
風の調べの言葉に、あからさまに顔を顰めるニコ。
ゴブリンの討伐依頼とか。
現在進行形で、ゴブリンの王国の国王を兼任してるからなー。
俺が……
ニコの扱いは……まあ、代理人というか。
来賓?
「はは、ニコさんにはちょっと簡単すぎますかね?」
そんなニコの様子に、勘違いしたバンチョが頭をかいて誤魔化し笑いを浮かべているが。
「いや、そういう訳じゃ……」
「じゃあ、手伝ってもらってもいいですか?」
こうやって頼られると、なかなかノーと言えないんだよね。
ニコって。
人に嫌われるのを極端に恐れているというか。
せっかく良好な関係を築けたのを、壊したくないのだろう。
だからって、じゃあゴブリンはどうするんだろう?
まあ、テトの森のゴブリンとは関係ないのだろうけど。
「じゃあ、明日の朝に町の入り口に集合で」
「今回は、こちらで申請はしておきます。報酬はうちのパーティとニコさんで2等分で良いですね」
「えっ? いや、5等分でいいですよ」
「そんな悪いですよ、こっちの我がままに付き合ってもらうのに」
なんだかんだと譲り合ったが、結局5等分に。
まあ、ゴブリンの討伐依頼の報酬なんて大したものでも無いだろうし。
その選択に関しては、特に思うところはないけど。
そもそも、受けたこと自体が大丈夫かなと。
フィーナにはどう説明するのだろうか?
『で、鎧は買わないのか?』
「ええ、特にいらないかなって」
『はぁ……』
頑なだ。
どうしてこんなに頑固なんだろう。
別に俺が強化するし、いざとなれば剛毛や竜鱗といった防御力をあげるスキルもあるが。
それを使ったら、確実に風の調べには引かれるだろうなと思いつつ。
下手したら、騒動が起きるぞ?
『それにしても、ゴブリンってのはどこにでもいるんだな』
「まあ、繁殖力が凄いからね」
『人間がそれを言うか?』
ゴブリンやオークの繁殖力はすさまじく、巣を作ったの放置すれば爆発的に数が増えると言われているが。
もし本当にそうなら、人間じゃなくてゴブリンやオークがこの世界を支配しててもおかしくないのだが。
現状ではほぼ、人間が全ての土地にいる。
どう考えても人間の方が繁殖力が上だと思うんだけどな?
人口を比べてみても。
きっとゴブリンやオークも、どこ行っても人間がいるって思ってるだろうし。
あいつら、土地を破壊して巣を作ったら、あっという間に凄い増えるからな! なんて言ってそう。
そもそも彼らも、森の食料等々を加味したうえで人数調整をしているのだろう。
ある程度の飢餓に陥ると、途端に繁殖力が落ちるといわれているし。
彼らの間では。
残念ながら、そのことを人間は知らない。
あとゴブリンやオークが人間とも繁殖可能といったうわさ。
それも異種族間繁殖のスキル持ちしか、出来ないらしい。
しかも生まれてくる子供にどちらの特徴が現れるかは、五分五分。
ただしオークの場合、双子や三つ子、四つ子なんてのもざららしい。
だから、人と繁殖した場合は、オークの子供と人の子供両方生まれたり。
オークはどちらも差別せずに、愛情豊かに育てるらしい。
人間の場合も、実はそうなることもあるとか。
人よりの子豚の顔をした子供。
実に愛嬌があるとか。
そういった趣味嗜好の女性も……積極的にオークの巣に近づいて、その殆どが扱いに困ったオークに適当な食料とともに森の入り口に置き去りにされるらしい。
どう考えても、人間の方が……
言わないけどな。
俺も元人間だし。
「とりあえず、ポーションとか買っといた方がいいかな?」
『まあ、俺が回復してやるから気にするな』
ゴブリンプリーストからもらった、ヒール各種もあるし。
身体を守るための鎧をむしろ買えと。
けがをすることを、未然に防ぐ方が大事だと思うんだけどな。
家に戻る途中で、八百屋で果物を。
フィーナが好きなイチゴによくにた果物。
「はい、苺だよ」
イチゴだった。
なんだ、名前は一緒なのか。
それを手に持って、借りている部屋に。
「おかえりなさいませ」
「ただいま」
パタパタとエプロンで手を拭きながらフィーナが、玄関に駆け寄ってきた。
どうやら、まだ料理の途中だったよう。
奥から美味しそうな匂いが漂ってくる。
スキル超嗅覚を持ってるくらいだから、普通に匂いは分かる。
食べられないだけで。
ニコの意識がない時に食べたものは、俺が味を感じられるのでそのことを苦痛に思ったことはないけど。
「美味しそうな匂い」
「はい、今日はリバーボアのニンニクの芽炒めと、デーコンとニンジルの煮物ですよ。
ニンニクは普通にニンニク。
デーコンは大根。
ニンジルは人参。
うーん、この世界の固有名詞は、たまにこうやってひっかけのようにちょっともじった物もあったり。
試されてるのかな?
それとも嫌がらせかな?
「ニコ様からも良い香りが」
「分かる? お土産かってきたよ」
「苺ですね! 嬉しい! 食後に、一緒に頂きましょう」
「うん」
フィーナの満面の笑みを前に、少し歯切れの悪い返事を返すニコ。
フィーナがうん? といった表情で首を傾げているけど、
その場で正直に言うことができないのが、ニコのだめなところ。
問題を後回しにしたがるところがある。
ため息。
言いにくいことがあるから、土産を買って帰ったのだろうけど。
なんか普通に、気まぐれでお土産を買って帰っただけになってるぞ?
「どうぞ」
「いただきます」
妙に緊張した様子のニコに、フィーナの目に疑惑の色が。
そして何やら思案顔……
おっ! 何かに気付いた様子。
急にソワソワと。
あー、あの表情……
きっと、違ったことを考えていそう。
なんか良い感じに。
「あの、えっと食事のあとはお風呂にしますか?」
「えっ?」
「その……私も、心の準備が……」
おおう……
ピンク色の妄想、まったなしっぽいな。
机の下で小さくガッツポーズしてるのが、俺からは丸見えだ。
「あー……はは、いつから気付いてた?」
「ついさっきです……」
二人の間に気まずい沈黙。
ニコが不安げな表情でフィーナを見つめると、意を決したのか声をかける。
「やっぱり嫌だよね?」
へたれめ。
最初に、核心から話せ。
「いえ、その……ちょっと驚きました」
「驚いただけなの? 嫌じゃないの?」
「言わせないでください!」
「はは、確かにそれを言わせるのは、ちょっと意地悪だよね」
奇跡的に会話が成立しているけど。
お互いの考えてることは、全然違うけどな!
面白いから、何も言わないけど。
「その初めてだから」
「わ……私もですよ!」
ふふ……
これ、結論に辿り着いたときに、ニコが思いっきり殴られそうだな。
「明日、朝からだから」
「えっ? 明日なのですか? しかも朝っぱらから?」
ニコの言葉に、フィーナの顔がみるみる赤くなっていく。
「えっ? やっぱり嫌だよね? 怒った? 朝からは確かに……なんか、やる気ありますって言ってるみたいだしね」
「やる気そんなにあるんですか? なのに朝から……準備万端、体力全開……」
やばい、面白すぎる。
「うーん、でも基本的には朝からだと思うんだけど。遅くても昼からとか」
「人間ってそうなんですね……」
「そっか、ゴブリンは夜に活発なんだね」
「活発だなんて、いやですわ!」
結局ニコは核心にふれることができず、フィーナは一睡も眠れない夜を過ごしていた。
そして翌朝、街の入り口にはほっぺを真っ赤に腫らした状態でニコが。
お約束だな。
笑える。
「鈴木さん性格悪いですよ」
『なにを今更……俺は、なるべく普通の生活を邪魔しないようにしてるだけだ』
「そもそも、鈴木さんのせいで普通じゃない状況なのに」
『俺のお陰と言ってもらいたいな。俺がいなけりゃ、いまごろ熊の腹の中だ』
「うっ……」
それから少しして、バンチョたちがやってくる。
装備はばっちりだ。
テッドが大きなカバンを背負っている。
荷物持ちなのだろうが、本当に準備万端といった様子だな。
「どうしたんですか、そのほっぺ」
「ちょっと、フィーナに……」
「ああ……本当に仲が良いんですね」
「どうして、そうなるんだよ……」
ミーナにほっぺのことを聞かれたニコが少し誤魔化しをいれて答えたら、微笑ましい様子で頷かれていた。
言葉って大事だよな。
「お前ら、大丈夫か?」
「ええ、ニコさんがいるので」
「そ……そうか」
出たな暇人。
ゴートがニコ達に声を掛けているが、こいつは本当はボッチなんじゃないだろうか?
架空のパーティを作り上げて、その妄想の世界に生きてるとか。
「ほっ、本当にパーティを組んでるんだからな? ソロじゃないからな?」
「どうしたんですか、突然?」
じゃあ、そのパーティメンバーってのを連れてきやがれ!
「だって……妊娠して、休暇に入ったんだからしょうがないだろう! ばかやろー!」
ゴートが大声をあげて、走り去っていったが。
ニコ達はぽかんとした表情で、その背中を見送る。
「こわっ」
「あの人、怪しい薬とかやってないよね?」
「うん、行こうか」
次第にその目は、厳しいものになっていたが。
ゴートの後姿を振り払うように頭を振ると、バンチョが森に行くように促す。
幸い天気もよく、森に向かう道は見通しも良い。
半分ハイキング気分で、歩いていく。
森までは徒歩で30分ほど。
彼らにとっては近いのかもしれないが。
俺からすると、げんなりする距離だな。
車……最低でも自転車が欲しい距離だ。
この世界の人からすると、歩いて移動する範囲内では近い部類に入るらしいから驚きだ。
「ああ、えっとバンチョさんこんにちは。そうですね、ソロなんで」
ギルドの受付で依頼を物色していたニコに、背後から声を掛けたのはバンチョ。
今日は依頼に出かける気がないのか、普段着での姿。
こいつらも、毎日せっせと働きに出るタイプじゃないな。
バンチョは確か、風の調べとかってパーティのリーダーだったな。
メンバーはどいつもこいつも、大して差が無さそうだが。
「いやいや、ニコさんクラスなら討伐依頼も出来るでしょ」
さらにその後ろから顔をのぞかせたのは、テッドか。
ニコニコとよく笑みを浮かべている、気さくな少年。
割とガッチリとした体形だが、若いからかすこし柔らかい印象を受ける。
そしてニコに幻想を持った、駆け出し冒険者。
蟻の群れを威圧だけで撃退したニコに、並々ならぬ憧れを抱いている。
「あー、ニコさんだー!」
「こんにちわ」
さらに、リサとミーナも寄ってきた。
彼女たちを入れた4人が風の調べ。
リサがサブリーダー。
バンチョとリサが、剣を扱うアタッカー。
テッドがタンクで、ミーナがヒーラーだ。
一般的なパーティ。
いや、ヒーラーがいるのはかなり貴重らしい。
魔法職は才能が必要らしく、また冒険者以外の需要が高い。
だから、魔法系のスキルもちが冒険者になるのはレアケースなので、かなり重宝される。
2ランク上のパーティから勧誘されるのなんて、ざらにあることらしい。
こうして風の調べによる包囲網が完成したところで、あれ? と。
俺は思ったけど、ニコは何も思わずに世間話。
「で、だったら一緒に依頼を受けてもらえないかなと」
「うんうん、ニコさんと一緒なら色々と学べるかなと思って」
「はは、僕なんてまだまだだよ」
謙遜しつつもまんざらでもなさそう。
俺に肘があったら、確実に肘鉄を脇にぶちこんでいただろう。
それからあれよあれよという間に、カウンターから引き離される。
アリアがちょっと呆れた様子で眺めていいたけど。
「ふーん、討伐依頼かあ……正直、無理じゃないかな?」
「大丈夫ですよ、僕たちが受けるのはこっちの間引きの方ですから」
「はい、別に巣を見つけてどうこうって依頼じゃないので」
ああ、常時依頼の方か。
素材を確保するか、魔物が増えすぎないようにするための依頼。
まあ、初級冒険者の彼らが受けられる依頼といえばそんなもんか。
Eランク冒険者5人か。
なんの討伐依頼だろう?
「ゴブリン?」
風の調べの言葉に、あからさまに顔を顰めるニコ。
ゴブリンの討伐依頼とか。
現在進行形で、ゴブリンの王国の国王を兼任してるからなー。
俺が……
ニコの扱いは……まあ、代理人というか。
来賓?
「はは、ニコさんにはちょっと簡単すぎますかね?」
そんなニコの様子に、勘違いしたバンチョが頭をかいて誤魔化し笑いを浮かべているが。
「いや、そういう訳じゃ……」
「じゃあ、手伝ってもらってもいいですか?」
こうやって頼られると、なかなかノーと言えないんだよね。
ニコって。
人に嫌われるのを極端に恐れているというか。
せっかく良好な関係を築けたのを、壊したくないのだろう。
だからって、じゃあゴブリンはどうするんだろう?
まあ、テトの森のゴブリンとは関係ないのだろうけど。
「じゃあ、明日の朝に町の入り口に集合で」
「今回は、こちらで申請はしておきます。報酬はうちのパーティとニコさんで2等分で良いですね」
「えっ? いや、5等分でいいですよ」
「そんな悪いですよ、こっちの我がままに付き合ってもらうのに」
なんだかんだと譲り合ったが、結局5等分に。
まあ、ゴブリンの討伐依頼の報酬なんて大したものでも無いだろうし。
その選択に関しては、特に思うところはないけど。
そもそも、受けたこと自体が大丈夫かなと。
フィーナにはどう説明するのだろうか?
『で、鎧は買わないのか?』
「ええ、特にいらないかなって」
『はぁ……』
頑なだ。
どうしてこんなに頑固なんだろう。
別に俺が強化するし、いざとなれば剛毛や竜鱗といった防御力をあげるスキルもあるが。
それを使ったら、確実に風の調べには引かれるだろうなと思いつつ。
下手したら、騒動が起きるぞ?
『それにしても、ゴブリンってのはどこにでもいるんだな』
「まあ、繁殖力が凄いからね」
『人間がそれを言うか?』
ゴブリンやオークの繁殖力はすさまじく、巣を作ったの放置すれば爆発的に数が増えると言われているが。
もし本当にそうなら、人間じゃなくてゴブリンやオークがこの世界を支配しててもおかしくないのだが。
現状ではほぼ、人間が全ての土地にいる。
どう考えても人間の方が繁殖力が上だと思うんだけどな?
人口を比べてみても。
きっとゴブリンやオークも、どこ行っても人間がいるって思ってるだろうし。
あいつら、土地を破壊して巣を作ったら、あっという間に凄い増えるからな! なんて言ってそう。
そもそも彼らも、森の食料等々を加味したうえで人数調整をしているのだろう。
ある程度の飢餓に陥ると、途端に繁殖力が落ちるといわれているし。
彼らの間では。
残念ながら、そのことを人間は知らない。
あとゴブリンやオークが人間とも繁殖可能といったうわさ。
それも異種族間繁殖のスキル持ちしか、出来ないらしい。
しかも生まれてくる子供にどちらの特徴が現れるかは、五分五分。
ただしオークの場合、双子や三つ子、四つ子なんてのもざららしい。
だから、人と繁殖した場合は、オークの子供と人の子供両方生まれたり。
オークはどちらも差別せずに、愛情豊かに育てるらしい。
人間の場合も、実はそうなることもあるとか。
人よりの子豚の顔をした子供。
実に愛嬌があるとか。
そういった趣味嗜好の女性も……積極的にオークの巣に近づいて、その殆どが扱いに困ったオークに適当な食料とともに森の入り口に置き去りにされるらしい。
どう考えても、人間の方が……
言わないけどな。
俺も元人間だし。
「とりあえず、ポーションとか買っといた方がいいかな?」
『まあ、俺が回復してやるから気にするな』
ゴブリンプリーストからもらった、ヒール各種もあるし。
身体を守るための鎧をむしろ買えと。
けがをすることを、未然に防ぐ方が大事だと思うんだけどな。
家に戻る途中で、八百屋で果物を。
フィーナが好きなイチゴによくにた果物。
「はい、苺だよ」
イチゴだった。
なんだ、名前は一緒なのか。
それを手に持って、借りている部屋に。
「おかえりなさいませ」
「ただいま」
パタパタとエプロンで手を拭きながらフィーナが、玄関に駆け寄ってきた。
どうやら、まだ料理の途中だったよう。
奥から美味しそうな匂いが漂ってくる。
スキル超嗅覚を持ってるくらいだから、普通に匂いは分かる。
食べられないだけで。
ニコの意識がない時に食べたものは、俺が味を感じられるのでそのことを苦痛に思ったことはないけど。
「美味しそうな匂い」
「はい、今日はリバーボアのニンニクの芽炒めと、デーコンとニンジルの煮物ですよ。
ニンニクは普通にニンニク。
デーコンは大根。
ニンジルは人参。
うーん、この世界の固有名詞は、たまにこうやってひっかけのようにちょっともじった物もあったり。
試されてるのかな?
それとも嫌がらせかな?
「ニコ様からも良い香りが」
「分かる? お土産かってきたよ」
「苺ですね! 嬉しい! 食後に、一緒に頂きましょう」
「うん」
フィーナの満面の笑みを前に、少し歯切れの悪い返事を返すニコ。
フィーナがうん? といった表情で首を傾げているけど、
その場で正直に言うことができないのが、ニコのだめなところ。
問題を後回しにしたがるところがある。
ため息。
言いにくいことがあるから、土産を買って帰ったのだろうけど。
なんか普通に、気まぐれでお土産を買って帰っただけになってるぞ?
「どうぞ」
「いただきます」
妙に緊張した様子のニコに、フィーナの目に疑惑の色が。
そして何やら思案顔……
おっ! 何かに気付いた様子。
急にソワソワと。
あー、あの表情……
きっと、違ったことを考えていそう。
なんか良い感じに。
「あの、えっと食事のあとはお風呂にしますか?」
「えっ?」
「その……私も、心の準備が……」
おおう……
ピンク色の妄想、まったなしっぽいな。
机の下で小さくガッツポーズしてるのが、俺からは丸見えだ。
「あー……はは、いつから気付いてた?」
「ついさっきです……」
二人の間に気まずい沈黙。
ニコが不安げな表情でフィーナを見つめると、意を決したのか声をかける。
「やっぱり嫌だよね?」
へたれめ。
最初に、核心から話せ。
「いえ、その……ちょっと驚きました」
「驚いただけなの? 嫌じゃないの?」
「言わせないでください!」
「はは、確かにそれを言わせるのは、ちょっと意地悪だよね」
奇跡的に会話が成立しているけど。
お互いの考えてることは、全然違うけどな!
面白いから、何も言わないけど。
「その初めてだから」
「わ……私もですよ!」
ふふ……
これ、結論に辿り着いたときに、ニコが思いっきり殴られそうだな。
「明日、朝からだから」
「えっ? 明日なのですか? しかも朝っぱらから?」
ニコの言葉に、フィーナの顔がみるみる赤くなっていく。
「えっ? やっぱり嫌だよね? 怒った? 朝からは確かに……なんか、やる気ありますって言ってるみたいだしね」
「やる気そんなにあるんですか? なのに朝から……準備万端、体力全開……」
やばい、面白すぎる。
「うーん、でも基本的には朝からだと思うんだけど。遅くても昼からとか」
「人間ってそうなんですね……」
「そっか、ゴブリンは夜に活発なんだね」
「活発だなんて、いやですわ!」
結局ニコは核心にふれることができず、フィーナは一睡も眠れない夜を過ごしていた。
そして翌朝、街の入り口にはほっぺを真っ赤に腫らした状態でニコが。
お約束だな。
笑える。
「鈴木さん性格悪いですよ」
『なにを今更……俺は、なるべく普通の生活を邪魔しないようにしてるだけだ』
「そもそも、鈴木さんのせいで普通じゃない状況なのに」
『俺のお陰と言ってもらいたいな。俺がいなけりゃ、いまごろ熊の腹の中だ』
「うっ……」
それから少しして、バンチョたちがやってくる。
装備はばっちりだ。
テッドが大きなカバンを背負っている。
荷物持ちなのだろうが、本当に準備万端といった様子だな。
「どうしたんですか、そのほっぺ」
「ちょっと、フィーナに……」
「ああ……本当に仲が良いんですね」
「どうして、そうなるんだよ……」
ミーナにほっぺのことを聞かれたニコが少し誤魔化しをいれて答えたら、微笑ましい様子で頷かれていた。
言葉って大事だよな。
「お前ら、大丈夫か?」
「ええ、ニコさんがいるので」
「そ……そうか」
出たな暇人。
ゴートがニコ達に声を掛けているが、こいつは本当はボッチなんじゃないだろうか?
架空のパーティを作り上げて、その妄想の世界に生きてるとか。
「ほっ、本当にパーティを組んでるんだからな? ソロじゃないからな?」
「どうしたんですか、突然?」
じゃあ、そのパーティメンバーってのを連れてきやがれ!
「だって……妊娠して、休暇に入ったんだからしょうがないだろう! ばかやろー!」
ゴートが大声をあげて、走り去っていったが。
ニコ達はぽかんとした表情で、その背中を見送る。
「こわっ」
「あの人、怪しい薬とかやってないよね?」
「うん、行こうか」
次第にその目は、厳しいものになっていたが。
ゴートの後姿を振り払うように頭を振ると、バンチョが森に行くように促す。
幸い天気もよく、森に向かう道は見通しも良い。
半分ハイキング気分で、歩いていく。
森までは徒歩で30分ほど。
彼らにとっては近いのかもしれないが。
俺からすると、げんなりする距離だな。
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辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
《作者からのお知らせ!》
※2025/11月中旬、 辺境領主の3巻が刊行となります。
今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。
【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん!
※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。
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