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第2章:風の調べとゴブリンとコボルトと
第9話:ゴブリンロード
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しっかし、流石にそれは過剰戦力だろう。
俯瞰の視点から、こっちに近づいてくる集団に注意する。
コボルト自体は30匹程度か?
加えてゴブリンが200匹は居るだろう。
コボルトの巣の周囲から集められた働き盛りのゴブリンの雄たち。
対するこちらの戦力は50匹弱の老人と女子供ばかり。
あとは、捕虜というか……
グルグルに縛られたゴブータという若いの一匹。
この集落のために戦うなら開放してやっても良いが。
お腹がいっぱいなのか、この状況でもイビキをかいて寝ている。
図太いというか、頭が緩いというか。
下手したら目が覚めることなく、殺されるかもしれない。
……
ちょっとだけ、可哀そう。
いや、幸せかもな。
「どうされますか?」
「どうしよう……」
何故か蔦を襷掛けにして長い棒を持っているメルダが、ニコに指示を仰いでいる。
ニコは、困った様子だが。
「どうするも何も……俺、ここで死ぬのかな?」
ゴートから後ろ向きな発言が。
コボルトやゴブリンが少々束になったところで、なんとか出来る自信はあるらしいが。
怪しいが……
いや、かなり怪しいが。
流石にあの数は無理だと。
そもそもコボルトキングは手に負えないらしい。
「私達でなんとかするので、子供たちを守ってください」
フィーナがゴートにお願いする。
言葉は丁寧だが、視線に侮りが見えるのは気のせいじゃないだろうな。
フィーナからしても、ゴートはそこまで強いと思えないらしいし。
その感覚は合ってるだろうし。
後ろには木の帽子をかぶって、木の枝を持った小さなゴブリンが10匹。
あと5匹ほど生まれたばかりか、幼児くらいのゴブリンが。
幼くてもあまり可愛いとは言えないが。
「私達も戦いますよ!」
雌ゴブリン達が、それぞれ手に木の棒を持って士気高めに目をギラつかせている。
「お嬢さん方を前に出すようなことはしませんよ」
老人たちがその前に出て、杖や武器を構える。
そこそこ良さげな杖を持つゴブリンも。
うーん……
好戦的というか。
戦う気満々。
できればここは俺達に任せて……とは思わない。
そもそも普通のゴブリンだし。
会話が出来てるから、ちょっと手助けしても良いかなと思わなくもないが。
正直、個人的にはどうでも良いと思えることが。
たまに薄情な気持ちが出てくるのは、俺が無機質な金属だからかな?
ほらっ、夜になると刀身も冷えるからさ。
心も冷たくなるとか。
「鈴木さんどうしよう……」
そこで俺に聞くのか。
剣に頼りすぎなのも、どうかと思う。
うん、そう言うとちょっと違う気がするな。
良い武器を持った人に言うべきセリフだ。
あれ?
そういう意味では合ってる気がする。
いやそうじゃなくて。
武器としてじゃなくて、人として頼るのはどうよ?
……まあ、良いけどさ。
頼られて、悪い気がするわけでもないし。
あの進軍速度だと、到着まであと20分くらいは掛かるかな?
鬱蒼と木が生い茂る森を行軍するには、集団の規模が大きいからか。
思ったほどの速度ではない。
20分で出来ることをしよう。
集落の入り口から少し離れたところに生えている草を、束ねて結んだり。
「どうして?」
足を引っかけて転ぶからだよ。
足首ひねったりしたら、それだけでも実力を削ぐことができるだろ?
「あー……」
あとは落とし穴を掘って、そこに枯れ草を。
「なんで?」
流石に穴の底に突起物を用意する時間は無いから、燃えやすいものを入れておいて火を放ったり。
「うわぁ……」
何故かニコがひいているが。
いやいや、数の不利を覆すのに罠なんて当然必要だろう。
それに、個の戦力でも……
「私と主がいれば、問題ないかと」
そのコボルトキングとやらが、どれほどの強さか分からんからな。
警戒しておいたほうが。
「ランドール様なら、その場から動くことなく殺せる程度です」
そっか……
じゃあ、それなりに戦いを繰り広げることになったあの時のゴブリン達って……
まだ血を貰うまえだから、ホブゴブリンの集団だったんだけど?
だとしたら、ホブゴブリンより弱いってことに。
「コボルトキング2匹で、あの時の私達を亡ぼせるくらいには」
連携が優れてたってことかな?
「ランドール様が、手加減してくれてたことが大きいかと」
「なあ……なんで独り言喋ってるの? というか、なんでこんなときにニコと彼女は仲良く手を繋いでるの?」
ニコとフィーナと話をしていたら、ゴートがニヤニヤとした笑みで揶揄ってきたので威圧を飛ばしておく。
すぐに目をそらしたのをみて、ため息を吐く。
まあ、出来るだけの準備をして迎え撃とう。
「はい」
「大丈夫かな?」
フィーナは元気よく返事をしてくれたが、ニコは心配そう。
奇遇だな、俺も少し心配だ。
若くて逞しいゴブリンたちに、後ろにはその上のコボルト。
さらには、コボルトキングまでいる。
老人たちや女どもを前に出すなんて、ましてや被害を出すなんてあったらだめだ。
フィーナも女だしな。
なんとかして、ニコとゴートに頑張らせないと。
そう思っていた時期もありました。
「ばあちゃん! 堪忍!」
「お前はこの馬鹿! お年寄りはいたわるもんだよ!」
「すまん母ちゃん! やめてくれよ!」
「あんた、自分の女房や子供のいる集落に武器もってくるなんて、恥じもプライドも無いのかい!」
「なんだよこの集落の女ども! 怖すぎるだろ!」
「ちょっと、あのじじい! 火魔法が半端ない! じじい半端ないって!」
目の前で繰り広げられる光景に、ニコと一緒に唖然としてしまった。
フィーナは満足そうに頷いているが。
というのも襲い掛かってきたゴブリンたちを、殆ど老ゴブリンと雌ゴブリン達が一方的にボコボコにしているからだ。
そもそも、ここに来るまで結構な戦力が怪我を負っていた。
草を編んだ罠に足を突っ込んで転倒したゴブリン……に躓いて二次災害からの三次災害が発生してたり。
落とし穴に落ちたゴブリンもいた。
その後ろのゴブリンも落ちたから、下から蛙が潰されたような声が聞こえてきた。
下のゴブリンは……結構な重傷だろう。
どうにかこうにか集落に近づいたものは、老ゴブリン達の魔法が襲い掛かる。
それをかいくぐったところで、雌ゴブリンや老ゴブリンに木の棒や木の枝でしこたま叩かれている。
それも棒や枝が砕ける威力で。
うーん……
想定外。
老人たちがパワフルすぎる。
はたから見ても、プルプルと震えているし。
入れ歯なんてものも無いから、歯がなくて間抜け面してたりするのに。
いや、やっぱりゴブリンって大したことない。
「おっしゃ、どんどん来いや! 子供達には指一本……うーん、なんかやる気が出ない」
優勢を悟ったゴートが子供達を守ると言いながら、どんどん前に出てってたが。
流石C級冒険者。
ゴブリンなんか歯牙にもかけない強さがある。
強さがあるけど……なんだかなーと思わなくもない。
調子がいい。
あと、やっぱりゴブリンが大したことないのかも。
「くそ、役に立たん小鬼どもが!」
少し離れたところから、犬の鳴き声も聞こえてくる。
一際大きなコボルトが、苛立っているのがわかる。
というか、あれコボルトか?
ワーウルフと言われても、納得できそうなくらいに凛々しい。
それに筋骨隆々で逞しい感じもある。
「くそどもが! お前らいけ!」
「はっ!」
その大きなコボルトが、またも遠吠えのような声をあげる。
刻々と変わりゆく戦況のなか、コボルトだけで集まっていた集団に視線を向ける。
その声を合図にコボルト達が、一気にこっちに駆け出してくるのが見えた。
流石ゴブリンとは違う。
草を編んだ罠を、勢いを落とすことなく蹴り破り、落とし穴を飛び越えて迫ってくる。
「迎え撃ってやる!」
「犬コロどもが、目に物を見せてやる」
「いや、流石に無理じゃないかな?」
「僕もそう思う」
それを意気揚々と迎え撃とうとした老人たちに、フィーナとニコが首を傾げる。
いくら1段階強化されているとはいえ、流石にコボルト相手だとそこまでの優位性はないか。
膂力も敏捷も爪や牙も相手の方が上だしな。
仮にフィーナの加護で、そこそこの能力が同等だとしてもリーチの差や敏捷ではおいつけない。
「キャン!」
「グルル!」
先頭の一匹が、メルダの放った火級で顔を焼かれて吹き飛んだが、その間にも距離を詰められる。
「くっ!」
「思ったよりも早い!」
こちらのゴブリンの表情に焦りが見える。
「貴方達は下がって、子供を守りなさい! ニコ様、そこの冒険者行くわよ!」
「う……うん」
「えぇ……」
フィーナが素早く指示を飛ばし老人や女を下げて、ゴートを呼ぶ。
呼ばれた本人はちょっと嫌そうだが。
流石人の身体を持った犬。
色々な身体能力が、人のそれより上だというのが分かる。
加えて、知性も上がっている。
人としてのアドバンテージはあまりなさそうだが。
「っと、うわぁ怖い!」
情けない声を出すな!
「だって、怖いもんは怖いんだもん!」
ニコは難なくコボルトの攻撃を俺でいなしているが。
現状バフを掛けたニコの方が、全ての能力に置いてコボルトよりは上だからな。
しかも、剣の技術でもだ。
だから、焦る必要はないのだが。
どうもその獰猛な顔や、牙、爪にビビっているようだ。
「昔、森で野犬に追われたことが……」
前に森で犬に襲われたらしい。
それがトラウマとか。
というか、しかも野犬も魔物じゃなくて普通の犬。
……
うーん、本当に拾ってもらってあれだけど。
もう少しましなのに拾われたかった。
「酷いこと思ってない?」
気にするな。
フィーナの方は……
問題ない。
危なげなくコボルトを。
寄せ付けてすらいない。
何故かフィーナを避けるようにニコやゴートに襲い掛かっている。
「無理! あの女はヤバイ!」
「てか、目を合わせたら死ぬる」
なんか情けない鳴き声が聞こえているが。
気のせいかな?
じれたフィーナが突っ込んだら、進路上のコボルトがありえない動きでその横を通り過ぎてゴートに向かっていた。
そのゴートだが、なんだかんだでまだまだ余裕のようだ。
こいつは本当に。
少しは真面目にやったら……
「いや、コボルトだって全然問題ない……ただ、あれは駄目だ! 手に負えん」
ゴートがこっちを見て、それから集団の後ろで仁王立ちしている狼のコボルトに視線を送って首を横に振る。
やっぱり、キング種っては別格か。
じゃあ、俺が行くしかないか?
「誰か、相手しなさいよっ!」
あっ、フィーナがそのまま突っ込んでいった。
コボルトキングだろう狼っぽいのに向かって。
急に加速したことで、対象のコボルトが焦っているのがわかる。
「くっ!」
「ちいっ! 意外と力あるわね」
フィーナが杖を作り出して殴りかかるが、狼の持つ長い得物で弾き飛ばされる。
空中で2回ほど回転し、綺麗に着地したフィーナが少し嫌そうな顔をしている。
まあ、フィーナは飛んだ状態だったからな。
体重差的にもはじき返されて仕方ないか。
「貴様が、ロードか……まさか、こんな人間くさいやつだったとは」
「あら光栄ね。そんな嬉しいこと言ってくれるなら、ペットとして飼ってあげても良いけど?」
「驕るな、たかがゴブリンの分際で」
「あらそう? だったら、害獣として狩ってあげるね」
簡単に口撃でやり取りをしたあとで、2人が打ち合っている。
さっきのコボルトとの戦闘でニコが何匹か斬ってくれたお陰で、コボルト言語を習得して何を言ってるか分かったが。
魔物言語とかってないのかな?
フィーナと狼の間で会話が成立してるっぽいし。
「お前の彼女は化け物か!」
「いやぁ……」
ゴートの言葉に、ニコは否定できない。
ゴブリンロード……十分に化け物という認識があるのだろう。
そうだよな。
そういう認識なんだよな。
可愛らしい容姿から、そうは見えないけど。
「まあ、俺は普通のキングより3段階は上だからな!」
「その武器と鎧のお陰?」
「他にも色々とあるがな」
なんと……普通のコボルトキングよりも3段階も上の存在?
それってロードじゃないのか?
そんなことを思ったが、どうやら装備品で底上げしているようだ。
他にも?
鑑定をかけてみると、睨まれた。
「よそ見なんて、余裕ね!」
「おまっ、ずるいぞ!」
その隙を見逃すフィーナではない。
すぐに持っていた杖で殴りかかる。
気付けばフィーナの杖は長く伸びていて、相手のハルバートと同じくらいになっている。
ロード種って、身に着ける物を魔力と魔素で作り出せるらしいから。
まあ武器も変幻自在なんだろう。
ある意味ずるい。
いや羨ましい。
その能力は奪えなかったんだよな。
スキルじゃなくて、進化ボーナスによる加護のようなものらしいが。
鑑定のスキルをかけたことで、こちらに注意をひいてしまったが。
何をされたかまでは、分かったわけじゃなさそうだ。
そして、ちょっとことな鑑定結果が。
コボルトメイジや、コボルトシャーマンなるものが。
そいつらにバフを掛けてもらってた。
こっちは、本当の意味でずるい。
ただそれよりも見逃せない結果。
コボルトロードの加護……
コボルトロードいるじゃん!
やばい……
戦いたい……
ニコ、気絶しないかな?
俯瞰の視点から、こっちに近づいてくる集団に注意する。
コボルト自体は30匹程度か?
加えてゴブリンが200匹は居るだろう。
コボルトの巣の周囲から集められた働き盛りのゴブリンの雄たち。
対するこちらの戦力は50匹弱の老人と女子供ばかり。
あとは、捕虜というか……
グルグルに縛られたゴブータという若いの一匹。
この集落のために戦うなら開放してやっても良いが。
お腹がいっぱいなのか、この状況でもイビキをかいて寝ている。
図太いというか、頭が緩いというか。
下手したら目が覚めることなく、殺されるかもしれない。
……
ちょっとだけ、可哀そう。
いや、幸せかもな。
「どうされますか?」
「どうしよう……」
何故か蔦を襷掛けにして長い棒を持っているメルダが、ニコに指示を仰いでいる。
ニコは、困った様子だが。
「どうするも何も……俺、ここで死ぬのかな?」
ゴートから後ろ向きな発言が。
コボルトやゴブリンが少々束になったところで、なんとか出来る自信はあるらしいが。
怪しいが……
いや、かなり怪しいが。
流石にあの数は無理だと。
そもそもコボルトキングは手に負えないらしい。
「私達でなんとかするので、子供たちを守ってください」
フィーナがゴートにお願いする。
言葉は丁寧だが、視線に侮りが見えるのは気のせいじゃないだろうな。
フィーナからしても、ゴートはそこまで強いと思えないらしいし。
その感覚は合ってるだろうし。
後ろには木の帽子をかぶって、木の枝を持った小さなゴブリンが10匹。
あと5匹ほど生まれたばかりか、幼児くらいのゴブリンが。
幼くてもあまり可愛いとは言えないが。
「私達も戦いますよ!」
雌ゴブリン達が、それぞれ手に木の棒を持って士気高めに目をギラつかせている。
「お嬢さん方を前に出すようなことはしませんよ」
老人たちがその前に出て、杖や武器を構える。
そこそこ良さげな杖を持つゴブリンも。
うーん……
好戦的というか。
戦う気満々。
できればここは俺達に任せて……とは思わない。
そもそも普通のゴブリンだし。
会話が出来てるから、ちょっと手助けしても良いかなと思わなくもないが。
正直、個人的にはどうでも良いと思えることが。
たまに薄情な気持ちが出てくるのは、俺が無機質な金属だからかな?
ほらっ、夜になると刀身も冷えるからさ。
心も冷たくなるとか。
「鈴木さんどうしよう……」
そこで俺に聞くのか。
剣に頼りすぎなのも、どうかと思う。
うん、そう言うとちょっと違う気がするな。
良い武器を持った人に言うべきセリフだ。
あれ?
そういう意味では合ってる気がする。
いやそうじゃなくて。
武器としてじゃなくて、人として頼るのはどうよ?
……まあ、良いけどさ。
頼られて、悪い気がするわけでもないし。
あの進軍速度だと、到着まであと20分くらいは掛かるかな?
鬱蒼と木が生い茂る森を行軍するには、集団の規模が大きいからか。
思ったほどの速度ではない。
20分で出来ることをしよう。
集落の入り口から少し離れたところに生えている草を、束ねて結んだり。
「どうして?」
足を引っかけて転ぶからだよ。
足首ひねったりしたら、それだけでも実力を削ぐことができるだろ?
「あー……」
あとは落とし穴を掘って、そこに枯れ草を。
「なんで?」
流石に穴の底に突起物を用意する時間は無いから、燃えやすいものを入れておいて火を放ったり。
「うわぁ……」
何故かニコがひいているが。
いやいや、数の不利を覆すのに罠なんて当然必要だろう。
それに、個の戦力でも……
「私と主がいれば、問題ないかと」
そのコボルトキングとやらが、どれほどの強さか分からんからな。
警戒しておいたほうが。
「ランドール様なら、その場から動くことなく殺せる程度です」
そっか……
じゃあ、それなりに戦いを繰り広げることになったあの時のゴブリン達って……
まだ血を貰うまえだから、ホブゴブリンの集団だったんだけど?
だとしたら、ホブゴブリンより弱いってことに。
「コボルトキング2匹で、あの時の私達を亡ぼせるくらいには」
連携が優れてたってことかな?
「ランドール様が、手加減してくれてたことが大きいかと」
「なあ……なんで独り言喋ってるの? というか、なんでこんなときにニコと彼女は仲良く手を繋いでるの?」
ニコとフィーナと話をしていたら、ゴートがニヤニヤとした笑みで揶揄ってきたので威圧を飛ばしておく。
すぐに目をそらしたのをみて、ため息を吐く。
まあ、出来るだけの準備をして迎え撃とう。
「はい」
「大丈夫かな?」
フィーナは元気よく返事をしてくれたが、ニコは心配そう。
奇遇だな、俺も少し心配だ。
若くて逞しいゴブリンたちに、後ろにはその上のコボルト。
さらには、コボルトキングまでいる。
老人たちや女どもを前に出すなんて、ましてや被害を出すなんてあったらだめだ。
フィーナも女だしな。
なんとかして、ニコとゴートに頑張らせないと。
そう思っていた時期もありました。
「ばあちゃん! 堪忍!」
「お前はこの馬鹿! お年寄りはいたわるもんだよ!」
「すまん母ちゃん! やめてくれよ!」
「あんた、自分の女房や子供のいる集落に武器もってくるなんて、恥じもプライドも無いのかい!」
「なんだよこの集落の女ども! 怖すぎるだろ!」
「ちょっと、あのじじい! 火魔法が半端ない! じじい半端ないって!」
目の前で繰り広げられる光景に、ニコと一緒に唖然としてしまった。
フィーナは満足そうに頷いているが。
というのも襲い掛かってきたゴブリンたちを、殆ど老ゴブリンと雌ゴブリン達が一方的にボコボコにしているからだ。
そもそも、ここに来るまで結構な戦力が怪我を負っていた。
草を編んだ罠に足を突っ込んで転倒したゴブリン……に躓いて二次災害からの三次災害が発生してたり。
落とし穴に落ちたゴブリンもいた。
その後ろのゴブリンも落ちたから、下から蛙が潰されたような声が聞こえてきた。
下のゴブリンは……結構な重傷だろう。
どうにかこうにか集落に近づいたものは、老ゴブリン達の魔法が襲い掛かる。
それをかいくぐったところで、雌ゴブリンや老ゴブリンに木の棒や木の枝でしこたま叩かれている。
それも棒や枝が砕ける威力で。
うーん……
想定外。
老人たちがパワフルすぎる。
はたから見ても、プルプルと震えているし。
入れ歯なんてものも無いから、歯がなくて間抜け面してたりするのに。
いや、やっぱりゴブリンって大したことない。
「おっしゃ、どんどん来いや! 子供達には指一本……うーん、なんかやる気が出ない」
優勢を悟ったゴートが子供達を守ると言いながら、どんどん前に出てってたが。
流石C級冒険者。
ゴブリンなんか歯牙にもかけない強さがある。
強さがあるけど……なんだかなーと思わなくもない。
調子がいい。
あと、やっぱりゴブリンが大したことないのかも。
「くそ、役に立たん小鬼どもが!」
少し離れたところから、犬の鳴き声も聞こえてくる。
一際大きなコボルトが、苛立っているのがわかる。
というか、あれコボルトか?
ワーウルフと言われても、納得できそうなくらいに凛々しい。
それに筋骨隆々で逞しい感じもある。
「くそどもが! お前らいけ!」
「はっ!」
その大きなコボルトが、またも遠吠えのような声をあげる。
刻々と変わりゆく戦況のなか、コボルトだけで集まっていた集団に視線を向ける。
その声を合図にコボルト達が、一気にこっちに駆け出してくるのが見えた。
流石ゴブリンとは違う。
草を編んだ罠を、勢いを落とすことなく蹴り破り、落とし穴を飛び越えて迫ってくる。
「迎え撃ってやる!」
「犬コロどもが、目に物を見せてやる」
「いや、流石に無理じゃないかな?」
「僕もそう思う」
それを意気揚々と迎え撃とうとした老人たちに、フィーナとニコが首を傾げる。
いくら1段階強化されているとはいえ、流石にコボルト相手だとそこまでの優位性はないか。
膂力も敏捷も爪や牙も相手の方が上だしな。
仮にフィーナの加護で、そこそこの能力が同等だとしてもリーチの差や敏捷ではおいつけない。
「キャン!」
「グルル!」
先頭の一匹が、メルダの放った火級で顔を焼かれて吹き飛んだが、その間にも距離を詰められる。
「くっ!」
「思ったよりも早い!」
こちらのゴブリンの表情に焦りが見える。
「貴方達は下がって、子供を守りなさい! ニコ様、そこの冒険者行くわよ!」
「う……うん」
「えぇ……」
フィーナが素早く指示を飛ばし老人や女を下げて、ゴートを呼ぶ。
呼ばれた本人はちょっと嫌そうだが。
流石人の身体を持った犬。
色々な身体能力が、人のそれより上だというのが分かる。
加えて、知性も上がっている。
人としてのアドバンテージはあまりなさそうだが。
「っと、うわぁ怖い!」
情けない声を出すな!
「だって、怖いもんは怖いんだもん!」
ニコは難なくコボルトの攻撃を俺でいなしているが。
現状バフを掛けたニコの方が、全ての能力に置いてコボルトよりは上だからな。
しかも、剣の技術でもだ。
だから、焦る必要はないのだが。
どうもその獰猛な顔や、牙、爪にビビっているようだ。
「昔、森で野犬に追われたことが……」
前に森で犬に襲われたらしい。
それがトラウマとか。
というか、しかも野犬も魔物じゃなくて普通の犬。
……
うーん、本当に拾ってもらってあれだけど。
もう少しましなのに拾われたかった。
「酷いこと思ってない?」
気にするな。
フィーナの方は……
問題ない。
危なげなくコボルトを。
寄せ付けてすらいない。
何故かフィーナを避けるようにニコやゴートに襲い掛かっている。
「無理! あの女はヤバイ!」
「てか、目を合わせたら死ぬる」
なんか情けない鳴き声が聞こえているが。
気のせいかな?
じれたフィーナが突っ込んだら、進路上のコボルトがありえない動きでその横を通り過ぎてゴートに向かっていた。
そのゴートだが、なんだかんだでまだまだ余裕のようだ。
こいつは本当に。
少しは真面目にやったら……
「いや、コボルトだって全然問題ない……ただ、あれは駄目だ! 手に負えん」
ゴートがこっちを見て、それから集団の後ろで仁王立ちしている狼のコボルトに視線を送って首を横に振る。
やっぱり、キング種っては別格か。
じゃあ、俺が行くしかないか?
「誰か、相手しなさいよっ!」
あっ、フィーナがそのまま突っ込んでいった。
コボルトキングだろう狼っぽいのに向かって。
急に加速したことで、対象のコボルトが焦っているのがわかる。
「くっ!」
「ちいっ! 意外と力あるわね」
フィーナが杖を作り出して殴りかかるが、狼の持つ長い得物で弾き飛ばされる。
空中で2回ほど回転し、綺麗に着地したフィーナが少し嫌そうな顔をしている。
まあ、フィーナは飛んだ状態だったからな。
体重差的にもはじき返されて仕方ないか。
「貴様が、ロードか……まさか、こんな人間くさいやつだったとは」
「あら光栄ね。そんな嬉しいこと言ってくれるなら、ペットとして飼ってあげても良いけど?」
「驕るな、たかがゴブリンの分際で」
「あらそう? だったら、害獣として狩ってあげるね」
簡単に口撃でやり取りをしたあとで、2人が打ち合っている。
さっきのコボルトとの戦闘でニコが何匹か斬ってくれたお陰で、コボルト言語を習得して何を言ってるか分かったが。
魔物言語とかってないのかな?
フィーナと狼の間で会話が成立してるっぽいし。
「お前の彼女は化け物か!」
「いやぁ……」
ゴートの言葉に、ニコは否定できない。
ゴブリンロード……十分に化け物という認識があるのだろう。
そうだよな。
そういう認識なんだよな。
可愛らしい容姿から、そうは見えないけど。
「まあ、俺は普通のキングより3段階は上だからな!」
「その武器と鎧のお陰?」
「他にも色々とあるがな」
なんと……普通のコボルトキングよりも3段階も上の存在?
それってロードじゃないのか?
そんなことを思ったが、どうやら装備品で底上げしているようだ。
他にも?
鑑定をかけてみると、睨まれた。
「よそ見なんて、余裕ね!」
「おまっ、ずるいぞ!」
その隙を見逃すフィーナではない。
すぐに持っていた杖で殴りかかる。
気付けばフィーナの杖は長く伸びていて、相手のハルバートと同じくらいになっている。
ロード種って、身に着ける物を魔力と魔素で作り出せるらしいから。
まあ武器も変幻自在なんだろう。
ある意味ずるい。
いや羨ましい。
その能力は奪えなかったんだよな。
スキルじゃなくて、進化ボーナスによる加護のようなものらしいが。
鑑定のスキルをかけたことで、こちらに注意をひいてしまったが。
何をされたかまでは、分かったわけじゃなさそうだ。
そして、ちょっとことな鑑定結果が。
コボルトメイジや、コボルトシャーマンなるものが。
そいつらにバフを掛けてもらってた。
こっちは、本当の意味でずるい。
ただそれよりも見逃せない結果。
コボルトロードの加護……
コボルトロードいるじゃん!
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戦いたい……
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この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
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追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
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