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第1章:ジャストール編

第3話:邪神とルーク

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 結局のところ、やはりわしはルークであった。
 何を言ってるか分からぬじゃろうが、在りし日にやったあのゲームの魔王はわしじゃったのだ。
 そして、わしの聞いた幻聴は邪神の声じゃった。
 半信半疑のまま赤子に戻されたが、もはや疑う余地もあるまい。
 日本で過ごした日々は、仮初の幻想か……

『あれだけの大往生、しっかりと生き抜いておいて何を今更』

 邪神の呆れたような声が聞こえてくる。
 神というのに、なかなかに気安い方じゃ。
 まあ、80年も一緒におればのう……
 本人曰く、マーケストで死に、日本で産まれた時から常に傍にあったとのことじゃが。
 守護霊ならぬ、守護神が邪神とは……
 いや、氏神……ではないか、わし個人についとるわけじゃし。

 そういえば我が伊勢家の氏神と、なんらかのやりとりは交わしたのかのう?
 日本の神事情も気になるのじゃが。

『そりゃ、手土産くらいもって挨拶にはいったぞ? うちの世界のもんが世話になるのじゃから、関係各所には回ったが……あそこまで、神が細分化された世界というのもやりにくそうじゃと思ったわい』
「なんじゃ、案外俗っぽいのじゃな神も」
『まあ、各主神が歓迎会も行ってくれて、楽しくもあった。お主の家の守り神には、特に便宜を図ってもらえた故、頭が下がる思いしかない』
「邪神といえども、話だけ聞くと常識人……いや常識神すぎてのう……お主が手土産を持って、頭を下げる姿なぞ想像もできぬな」 
『結局邪神で納得されたのか……』
「自分で言っておったではないか」
『……それにしても、赤子が流ちょうな言葉をしゃべるというのは、なんとも奇怪なものだな……しかも、じじ臭いしゃべり方をしおって』

 それは、関係ないじゃろう。
 中身は爺なのじゃから、仕方あるまいて。
 それから目の前に、例の青年が現れる
 ゲームを売ってくれた、あの青年じゃ。
 やはり、彼は邪神じゃったようだ。
 
 いろいろと、詳しい話もしてくれた。
 ふむ、じじ臭いか……
 少しは気を付けんと、周りも不自然に思うかもしれぬのう。
 慣れぬが、言葉には気を付けよう。

 邪神の話を鵜呑みにするのなら、あの王子も王も本質はあれらしい。
 もともとはそんなことは無かったらしいが、途中から徐々に性格が歪み始めたと。
 最終的にはゲームの中にあったような、黒幕的存在になったらしい。
 確かに王と王子はあまり良い性格ではないというか……むしろ悪かったな。
 
 ゆえに別に光の巫女の力で、正気に戻ったわけじゃないと。
 半ば洗脳に近い力で、善なるものに書き換えられたと。
 そういう説明を受けた。

「あのくそ女神が。まあ、誕生の際にあやつに干渉させることは防げたが」

 そしていま目の前で、青年がこめかみに青筋を立てて怒っている。
 話していて、だんだん腹が立ってきたのだろう。
 奇遇だな、わしも流石にその光の女神というやつには、怒りを感じるな。
 説教してやらねば。
 
「仕方ない、あいつはああいうやつ。それと、ルークを守れたことは私にもっと感謝したらいいよ」

 わしの眠っているベビーベッドに、可愛らしい少女が腰掛けて足をプラプラとさせていた。
 彼女は時空を司る神らしい。
 アリスと名乗っていたが。
 邪神をいろいろと手伝っていたらしい。
 ただし、立場は邪神よりも上とのこと。
 ちなみに邪神の名前はアマラというらしい。

「ただ、癇癪を起して世界を滅ぼしたあなたも、大概だけど」
「うっ、それはすまんかったと謝っただろう」
「それだけ?」
「あと、すごく感謝はしておる」

 世界を滅ぼしたあとで冷静になったこの邪神は、自分のしでかしたことの大きさに真っ青になった。
 それで、時空を操る神である彼女に泣きついて、時間を戻してもらったらしい。

「まあ、弟が久しぶりに頼ってくれたのはうれしいけど……神を巻き込んだ時間逆行は神の世界でも禁忌……きっと、パパにすごく怒られる」
「いや、まあ父上は姉上にすごく甘いから、わしよりは大丈夫じゃないかな?」

 この2人は姉弟とのこと。
 見た目はどう見ても親子だけど。
 どっちが親かはいうまでもない。
 うむ。

「状況が半分くらいしかわからないのだが?」
「流石は世界を滅ぼすポテンシャルの子。理解が早くて助かる」
「あー、お前がやったゲームはお前の半生と、その時の話をまとめたものだ」

 まあ、その辺りは邪神に聞いていたが。
 そのゲームの内容と、乖離した事実がいろいろと彼らの口から語られているのでな。
 その魔王の人生のすべて入っていたゲームだったと思うが、あれが半生なのか。

「細かいことをいうな。我らからすれば生まれてから死ぬまでは半生みたいなもんだ」
「いや、死後の世界を別の半生とは言わなかろう? 生きてないのに半生て」
「くっ、まあいい。早い話がお前は規格外の能力に振り回されて、世界を憎しみ魔王へと至ったわけだが……あまりに不憫でな、光の女神の仕打ちに腹が立ちすぎてお前の身体を借りてその……」
「世界を滅ぼした」

 ……
 どういうことじゃ?
 光の女神の仕打ち?

「もともとお主は、光の勇者となる予定だったのだ。そして光の巫女と結ばれて、新たな国を興し光の女神を信仰する一大宗教国家の礎と……」
「あのバカがしようと目論んだけど、のっけから躓いて陰険で根暗に育ったあなたに光の女神は愛想をつかした」

 なんだそれ?
 光の女神が聞いて呆れるわ。
 そもそも、わしはゲームに出てきたあの巫女もあまり好きじゃない。

 わしの言葉に、邪神が頭を抱えている。

「ほら、回りくどいことをするから」
「そんなことを言っても、戻し過ぎたのは姉上では「ん?」
「なんでもありません」

 どういうことだ?
 戻し過ぎて時間に余裕があったから、わしに……

「まあ、その……他の世界の空っぽの器に魂を突っ込んで、保管していたわけだが」
「大丈夫、もともと死産の予定で、その器には何も入ってなかった」

 なるほど、その世界の生まれない予定の赤子の中に、とりあえず魂を突っ込んだと。
 よくわからない話だが、あまり関係ないか。

「でもって、これ幸いにといろいろと勉強してもらって、仕上げにこの世界のことを知ってもらうために」
「あんな、ゲームを用意したと」
「ええ、苦労したわ、現地の人たちを雇うの」
「簡単に信者どもは集まったではないか。コミケとかいったか? よくわからんが集団でおこなうミサみたいなものだろう? あの場で姉上が、変な恰好したら嬉々としてみな……「ん?」
「まあ、それはいいとしてゲームの内容はその光の馬鹿女神が他の神に吹聴して回ってる内容だ」
「いい迷惑よね。私の弟を悪人に仕立てて」
「なんだかんだで、姉上はわしに優しいのだ」

 どうでもいい情報をありがとう。
 でだ、なんで神様……と思われる人がたかが人間のわしにここまで、肩入れしてくれるのか。

「それはあれだ、カイ……今はルークか。お主がわしらの弟になりえる未来があったからな」
「私たちも、もともとは地上でくらしていたのよ? 私も元はただの人間だから」
「はっはっは、姉上はただのではないし、わしは人間ですらなかったが」

 死んでから神になるタイプの世界か。
 こんなことを考えるあたり、転生前の人生経験がかなりあれな方向に作用してる気がするけど。

「姉上はこんな見た目だが、希少な時空魔法の使い手でな。幼いころに自身に停止の魔法をかけて、そのまま時を止めておるのだ」
「最初はみんなちやほやしてくれたけど、最後は魔女として殺されたけどね」

 あっけらかんと重たい話をしないでほしい。
 
「わしは、巨大な竜でな。まあ長いこと生きた後で、眠ったまま……」

 老衰か……前世というか寄り道では老衰で逝けたが、今生はどうであろう。

「老衰? 微妙に違うわよ。食べることなく3万年も寝たら、さすがに世界を滅ぼすレベルの竜でも……」

 餓死じゃろうか?

「姉上が竜が欲しいと画策して、わしを目覚めないようにしたのではないか」
「死んだわけじゃないからいいでしょ?」
「いや、わし一度死んだことになるのだが?」
「いま、生きてるからいいでしょ?」
「えっと「ね?」」
「あー「ね?」」
「はい」

 サイコパスじゃな。
 この2人、合わせて邪神じゃなかろうか?
 というか邪神と呼ばれている青年より、この可愛らしい少女の方がよっぽど邪神じゃな。

「むう、弟候補が無礼ね」
「ルークよ、古今東西に姉にかなう弟はおらぬのだ」

 なんか、決まった話のようにしておるが。
 そもそも、まだ弟じゃないのう。

 話をまとめると、光の女神とやらを信仰する神輿にかつぎあげられそうになったけど、魔力を封じられたことで役立たずになったと。
 加えて、そのことで卑屈に育ったわしに興味を失い、逆にその力を悪のものとして討伐した勇者と巫女を代わりの神輿として世界に光の女神信仰を広げようとした。
 結果、邪神があまりなやりようにぶちぎれて、うっかり世界を滅ぼした。
 これでいいかのう?

「概ね、あってお……その、わしを派遣したのは姉であるが」
「あそこまでやるとは思ってなかったわよ」
「ふーむ、姉上……もともとわしは星を喰うレベルの竜であるぞ? いまさら、人の命だの星の命だの気にするわけあるまい」
「まあ、大口開けて星を丸呑みするあなたも可愛かったけど」

 うん、決定じゃな。
 この姉が一番おかしい。
 次が、光の女神。
 邪神が一番まとも……というか、苦労人のような気がしてきた。

「で、わしは?」
「とりあえず、普通に人生を楽しんで? あなたクラスの魔力でも、頑張れば私たちの弟になれるわ」
「謹んでお断りします」
「まあ、奥ゆかしい」

 話がまともに通じる気がしない。

「少女と赤子が流ちょうな言葉遣いで、小難しい話をしてる絵面ってかなり気持ち悪いと思うのじゃが」

 邪神が何かのたまっていたので、にらみつける。
 見ると、横で時の女神もにらみつけていた。
 一瞬、シュンとなって尻尾を又に挟む竜の幻視が見えた気がする。
 ふむ、可愛いものじゃな。 
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