魔王となった俺を殺した元親友の王子と初恋の相手と女神がクズすぎるので復讐しようと思ったけど人生やり直したら普通に楽しかった件

へたまろ

文字の大きさ
10 / 125
第1章:ジャストール編

第7話:ジャストール領領軍魔法部隊部隊長ベックの場合

しおりを挟む
「では、本日より僭越ながらルークおぼっちゃまの魔法の教師をさせていただきます、ベックと申します」
「よろしくお願いします。若輩の身でありながら、当家が誇る魔法部隊をまとめる、才ある方に教えてもらえるなんて幸せですね」

 思わず変な顔をしてしまったかもしれない。
 目の前のこの幼子は、私が仕えるゴート・フォン・ジャストール様の次男であらせられるルーク様。
 わずか7歳にして、奥様の出産時に起きたトラブルの際、治療術師に魔力譲渡を行った方。
 そして、その際に治癒魔法の技術を理解し、即座に発動させたお方。
 魔法の才などという言葉は、この方のためにあるだろう言葉だ。

 そして、7歳児らしからぬ言動。
 いえ、兄のアルト様もですが、この2人は早熟というか。
 おもにルーク様の方が先だった気がする。
 おかしな……大人顔負けの言動を始めたのは。
 それに対抗するようにアルト様が、家庭教師の授業を熱心に受けはじめ。
 お互いに競い合うように成長をした結果が、いまのこの子供かと思うような子供に育ったのだろう。
 そう思うことにしておこう。

「いえ、私の方が幸せだと思いますよ? 将来この国を……いや、世界を代表する大魔導士になれるかもしれないお方の師を務められるのですから」
「買いかぶりすぎですよ」

 まあ、私も奥様の治療に立ち会ったわけではないので真偽のほどは確かではないが、治療にあたった者の怯えよう、その後の畏敬の念を湛えた彼のルーク様に対する態度を見れば、真実だったのだろうと思える。

「お坊ちゃまは、魔力譲渡を使えるとのことですが」
「ええ、相手の魔力の質に同調させて、相手の魔術放出に合わせて送り込むことで、割り込む形で相手の魔力の消費を抑えることができるのはご存知ですよね? その際に、対象の魔力を押し込む勢いで魔力を送り込むというちょっと強引な方法を今回はとったのですが、魔穴や直接体内に送り込むよりも発動中の魔力に割り込む方が、こちらの魔力量が多い場合使用中の魔法に対して「申し訳ありません。まったくおっしゃってることが分からないというか、その知識はどこで?」

 正直言って、何を言ってるかさっぱりわからない。
 いや、いわんとしてることはわかるし、理解できる部分も多いが……
 それが幼子の口からスラスラと、それこそ呪文のように漏れ出るのを聞いていると何か別の言語のように思えてきて。
 半分も頭に入らなかった。
 いやいや、俺が教えてもらってどうする。

「えっと……普通に知ってる知識かなと」
「普通……普通ですか。私の知ってる普通とルーク様の普通は違うようですね」

 俺の言葉に、ルーク様がどこかをジッと睨んでいた。
 怖いから。
 見えちゃダメなものが見える系ですか?
 ルーク様の視線の先を見る。
 何もないけど、何かいる。
 感じちゃだめなやつだ。
 それにお坊ちゃまが気付いていることにも、触れちゃだめなやつだ。
 見なかったことにしよう。

「さ、授業を始めますよ」

 授業はとりあえず、最初の一か月は毎日3時間ほど指導。
 旦那様よりは早急にといわれたからだ。
 その後は、週に3日間1時間。

 とりあえず、魔法の成り立ちから……

***
「いいですよ、ルーク様! 素晴らしいですよ!」
「えっと、ありがとうございます」

 なぜ私は、ルーク様に外で魔法を見せているのだろうか。
 えーっと、魔法の危険性?
 暴発?
 事故?
 起こるはずがない。

 本当の天才とはこの子のことを……こういう方をいうのだろう。
 詠唱短縮?
 詠唱破棄?
 無詠唱?
 そういうのとはなんかちょっと違うというか。

「次はこの魔法をいってみましょうか?」
「あの、先生……本日は座学で魔法の基礎知識と父からお伺いしたのですが? というか、一か月みっちりと魔法の危険性を教われと「いいのです、いいのです。お坊ちゃまが事故を起こすことはまずありませんので! 覚えていただくのは、人に向けて使っていい、使ってはだめだけです。あっ、悪い人は人にカウントされないので、そこは重要ですよ」」

 私の言葉に、ルーク様が首をかしげている。

「いいからいいから、それと私のことはもうベックとでも呼び捨てにしてください。お父様の部下でもあるので」
「いや、それは……いまは私が教えてもらう身で、ベックさんは先生ですから」
「ええ、もうお坊ちゃまに教えることはありません。私が魔法を使うのでそれを見て使ってもらうだけでいいので。私じゃなくてもできる仕事なので」

 私の言葉に、ルーク様が変な顔をしている。
 たぶん、私が来たときにお坊ちゃまに見せた顔はこんな感じだったのかもしれない。

「じゃあ、いきますね? 私に魔力同調してくださいね? いきますよ! ファイアーストーム!」
「わかりました」

 ほら! 
 見ただけで、すぐに中級魔法を発動。
 しかも、私の放ったのとまったく一緒。
 強さも自由自在と。
 こうやって、真綿が水を吸うかのように魔法を覚えられるとついつい……

「ベック? 何をしておるのかな?」
「だ……旦那様!」

 急に後ろから声を掛けられたので振り向いたら、鬼の形相の領主様が立っていた。
 すごく怒っている。
 仕方ない。

「旦那様! お坊ちゃまは本当の天才です! いや、もう天才なんて生ぬるい。なんというか……形容しがたいナニかです!」
「お……おおう」

 全力でルーク様の現状を伝えたら、怒りが和らいでいってるのが分かる。 
 やはり、旦那様は私がルーク様を独占してたのが気に入らなかったのだろう。
 そんな小さな価値観で物事を図っては、領主として大事な時に見誤りますよ。

「おまえ、それは流石に主に対して失礼だろう」

 あっ、最後の一行は声に出てましたか。

「部下だとか、主だとか、領民だとか、領主様だとか、貴族様だとか関係ありません! ルーク様はそういった地位や名誉の垣根を越えてこの国の国民すべてで……いや違いますね、むしろそういった枠を超えた逸材なのです! まさに王国どころではありません。世界の至宝ですよ!」
「いや、主だとか領主だとか関係あるだろう。それ以前に私の息子だぞ? 勝手に世界のものというか、共有するみたいなこと言われてもな」
「ちっ、ちっさー」
「おまえ……もう無礼とか、減給とか解雇とかじゃなくて、反逆罪とかで実刑でもいいレベルの暴言だぞそれは」

 うちの領主様がこんなに小さい方だったとは。
 そうだな、解雇上等じゃないか。
 いっそのこと、クビにでもなってお坊ちゃまに仕えた方がいい気がしてきた。
 いや、いい。
 いいはずだ!

「はあ……無駄だな。なにがベックをおかしくしたのか知らな……あそこで炎の竜巻を小さくして困っている我が息子のせいか」

 領主様が深くため息をついた。
 私のせいで、お坊ちゃまが疑われている。
 これは、まずい。

「とりあえず、今日の授業は終了だ。1週間休みをやるから、落ち着いたら出てこい。再度弁明の機会を与えてやろう」

 そう言われて、旦那様に追い出されてしまった。
 とりあえず、退職願でも用意しておくか。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...