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第3章:覚醒編(開き直り)

第20話:集団での食事会

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「はふ、ほふっ……熱いけどとっても美味しい!」
「本当に相変わらず、美味しいですわね」

 クリスタとエルザの方に視線を向ける。
 もう、慣れたものだね君たちも。
 つい先日までリック殿下やジェニファが手を付けるまで、食事に手を伸ばすことは無かったのに。
 いただきますの合図と同時に箸をつけて、真っ先に感想を述べるなんて。
 マリアとガーラントは微笑ましいものを見つめるような視線だけど。
 ジャスパーが少し驚いているのが、面白い。
 キーファは、あまり気にした様子がないな。
 傍に控えている女性は……良い笑顔だ。
 直前に少し驚いた様子から、この場にいる子たちの相関図というか実家等の背後関係は把握しているのだろう。
 流石と誉めたいけど、手前みそになるから控えておこう。

「二人とも結構焼けたね。この町を満喫してくれているようで何よりだよ」
「ああ、君の弟は本当に優秀だね。すぐにでもこの町の運営管理を任せられそうだと感じたよ」
「そうだろう? というかだ……実際問題、管理も運営もルークがやってるようなものだから当然だな」
「相変わらずの、兄馬鹿だな」

 リック殿下とビンセント、アルトの会話を盗み聞き。
 といったらあれだけど、厳密にいうと兄とリック殿下の声が大きくて丸聞こえなのだ。
 ちなみにリック殿下とビンセントの2人だが……全く空気を読まずに、昼食会場に先に来ていてしっかりと座って俺達を待っていた。

 遡ること20分程度前の出来事だったな。
 殿下達の到着を待つだけだと思っていたら、すぐに中に案内された時点で嫌な予感はしたんだよな。
 うきうきのリーナの前では、何も言えなかったけど。
 部屋に入った瞬間に、彼女の表情は真っ青になっていたな。
 そりゃそうだろう……いくらなんでも、王族の顔くらいは覚えていたことには感心したが。

 それに対してマリアとガーラントは少し呆れた様子だったが、ジャスパーは固まっていたな。
 ジャスパーがすぐに地面に頭をつけて恐縮しそうな空気を感じたので咄嗟にキーファに目配せして、ジャスパーをマリアとガーラントの後ろに隠した。
 そのうえでアルトに代表として挨拶をさせようとしたのだが……

「先に来て始めてるから、気にしないでくれ!」
「このビール、ラガーって言ったか? 美味しいぞ」

 うん……あぁ……まあ、良いか。
 少しだけ出来上がってた。
 お酒に関しては15から飲酒可なお国柄、問題はないけど。
 問題は昼間っから、王族が酒を飲んでることなのだが。
 お忍びだから、良いのかな?

 流石にマリア達は白い目を向けていたが。
 アルト曰く、俺達に気を遣わせないために敢えて先にお酒を飲んで、だらしない部分を見せてマイナスポイントをアピールしてくれてたんだろうとのこと。
 言外に気を遣うなというメッセージだってさ……笑わせる。
 表向きというか、裏向きはそうかもしれないけどね。
 本音はそう思われることを逆手に取って、昼間から堂々と飲んでみたかったように思える。
 というか、それが正解だろうな。
 俺の向けた白い目に対して、唇に人差し指を当ててウィンクするリック殿下を見たら正解だと確信を持てた。
 まあ、ここまで羽目を外すことなんて、普通の王族ならまず無理だしな。
 多少は大目に見てやることにして、楽しい食事会だ。
 
「相変わらず上手いものだね。見ていて楽しくなるよ」
「流石はルーク様ですわ」
「お見事ですわ」

 そして目の前の3人のために、俺も串を手に腕をふるう。
 アルトとジェニファ、そしてリーナの3人だ。
 俺の目の前にあるのは丸い窪みのある鉄板。
 そこに白い液体を流し込んで、蛸やら肉やらを入れて、みじん切りのキャベツやらも入れて丸くするあれ。
 たこ焼きを、彼らにふるまっているところだ。
 自分達でも調理ができる鉄板焼きのお店で、鉄板の両サイドにはタコ焼き機完備のお店を今日の昼食に選んだ。
 主にジャスパーが喜びそうだからという理由。
 リーナも目の前でクルクルと丸く形が整っていくたこ焼きに目を輝かせているが、アルトとジェニフアは串を操る俺に目が釘付けだな。
 あんまり見つめられると、照れちゃうぜ……なんてことは言うつもりはないが、やりにくいのは事実だったり。

 それはそうと、日本以外の初期文化だと蛸が忌避されると思うだろ? そんなのこの国だととっくの昔に克服してあるのだよ。
 食べるのを敬遠された食べられるものに関しては、概ね意識改革は終わってるからな。
 その最たるものであるジャガイモが問題なく食卓に並ぶようになった時点で、ジャストール発は食用可どころか美味しい食物としてのお墨付き状態だからね。
 蛸やトマトなんかも、ジャストール発の典型的な食べ物だ。
 トマト……瑞々しくて美味しそうなあれ。
 も、この世界では食用としては、そこまで普及していなかった。
 まあ色が毒々しいといえば、毒々しいからね。
 食べられそうな形はしているけど、似たような毒性を持つ実もあって積極的に食べるような植物ではなかった。
 まあ、調味料にしたりそのまま美味しそうに食べたりと、こっちの普及作業は比較的簡単だったといえる。
 いや、絶対に食べない人もいるし、食べたうえで苦手な人も少なからずいたけどね。
 うん、食べたくないなら無理に食べなくてもいいんだけどね。

 あとは蛸は食べないけど、イカは食べるっていうこのなんともいえない風習。
 こういった部分って、世界を跨いでも一緒というか、
 地球と似たような形跡を辿っているのは、本当に不思議だとしかいいようがない。
 まあ、俺が率先して食べられることを実践すると、すぐに広がるからそこまで固定概念が凝り固まってるわけでもないのかと安心していたけど。

 俺の能力のことを詳しく知ったら、なんとも言えない気分になった。
 同調してたら、そりゃ何の疑いもなく食べられるわな。
 当然食べられると知ってる俺の意識に引っ張られるわけだから。
 でもこの能力、この世界を現代地球内の文明度に引き上げるには、これ以上有用な能力はないだろう。

「熱いですけど美味しいですね」
「暑い日に、涼しい部屋で熱いものを頂く、これ以上の贅沢はないね」
「分かります! しかし使用人とかお店の人ではなく、貴族縁者の方が直々に振舞われるとは……」

 俺が皿に移したたこ焼きを、目の前の2人が頬張って顔を綻ばせている。
 リーナは、かなり面食らった様子だけど、たこ焼きを口に入れた途端に笑顔になってくれたから良かった。 
 本当はフォルスの焼いてくれているテーブルがよかったんだろうけど、あそこは殿下とビンセントがいるからね。
 あそこで会話に花を咲かせるのは、ハードルがかなり高いと思うよ?

 3人の声で我に返ったけど、一生懸命たこ焼きをひっくり返したりしていると、無心というかいろんな思考が頭の中を駆け巡るというか。
 思い出して反省することや、これからの予定など考え事にはいいかもしれないな。

 そういえばと、リック殿下とビンセントの方に目を向ける。
 言われるまで気にしてなかったが、確かに2人とも日に焼けている。
 欧米の白色人種のような容姿だから、日に焼けると真っ赤になるのかと思ったけど。
 特にそういった感じではなく、少しずつ黒くなっていってるのが分かる。
 厳密には薄い茶色だけど。
 この辺りは、皮膚の強度の違いとかもあるのかな?
 まあ、魔法やスキルがある世界だから、その辺は地球とは違うのかもしれない。

「私は肉よりも、蛸の方が好きかもしれませんわ」
「うん? 私はこの食べ物に関しては蛸を推すよ。普通の素材そのものを食べるならお肉の方が好きだけど」
「このような食べ物、初めてですからとにかく美味しいとしか……」

 ジェニファの言葉にアルトが笑顔で返しているが、リーナは困った様子。
 ご近所さんとはいえ、あまりここには来てないのかな?
 別荘があるはずだけど。

 そしてアルトの言う通り、確かにたこ焼きの具に関していえば、どうしようもなく蛸一択だな。
 これは、俺が日本人でたこ焼きの具が蛸というのがスタンダードな社会で育ったからなのか、このたこ焼き自体が蛸ありきのレシピだからなのかは分からない。
 けど魚介より肉派の俺も、たこ焼きに関しては蛸が一等美味いと思っている。
 これだけは譲れない。
 別に関西人でもなんでもないけど。

「はい、フーフーしたから、もう大丈夫よ。はい、あーん」
「ありがとうございます、お姉さま。でも冷ましてもらえたら、自分で食べられますので」
「最初の一つくらいいいでしょ? ほら、お口を開けて」
「はい、いただきます」

 そんな破壊力抜群のやり取りが聞こえて目をやれば、特に気にした様子もなくキーファが口を開けてマリアがたこ焼きを差し込んでいた。

「アフッ、美味しいですよお姉さま」
「まだ、少し熱かったかしら? フー、フー……はい、どうぞ」
「ありがとうございます」

 うーん……うーん、シスコン?
 いや、ブラコン?
 でもキーファは無表情というか、口に入れるまではなんというか笑ってはいるけど感情が死んでいるというか。
 マリアは……なんか、作業感があるというか。
 そうするのが当然といった感じでもあるし、彼女にとっての正しい姉の像がそうなのかもしれないが。
 もう少しこう、なんていうか感情の籠ったやり取りをしてもらいたいと思わなくはない。
 でも2人とも食べている時と、それを見ているときは幸せそうな表情を浮かべているし。
 一瞬だけど、それが本音で正直な姿なのだとは理解できた。

 難しい姉弟だな。
 侯爵家クラスともなると、それがデフォなのだろう。
 こうは、なりたくないものだ。

 そしてリック殿下やジェニファの方が、彼らより自由奔放というか。
 結論として俺が理解したのは、貴族に常識は通じないと思っておこう。
 違うな、世界が違えば常識は違うと。
 それは世界線であったり星であったり、立場や身分であったりと。
 違う世界だったり、また上位貴族になればなるほどマイルールがまかり通るというか、それがその地域での常識になるのだろう。
 そういうことにしておこう。

 ちなみにリック殿下のテーブルはフォルスが、マリア達のテーブルはジェノスがたこ焼きを作っている。
 もちろん希望があれば、当人に作らせているが。
 現状ではクリスタ達のところは自身でやってはいるが、手が回らないところは控えている女性が作ってくれている。
 ちなみにそのマリアと一緒のテーブルに座っているガーラントとジャスパーは、凄い勢いでたこ焼きを食べ続けている。
 そのせいか、マリア達のテーブルはすでに100個以上のたこ焼きが無くなっているらしい。
 凄いな。
 タコ焼き機の間にある鉄板のスペースで野菜や肉等を焼いたうえで、なおそのペース。
 騎士兄弟恐るべし。

 ちなみに、リック殿下とビンセント、クリスタとエルザはそれぞれ別の鉄板の前に座っていたのだけれどもリック殿下が華が無いと彼女たちを誘って、途中から一緒に食べていた。
 もしかしなくても、少しほろ酔い状態らしい。
 ほろ酔い程度と判断したのは、リック殿下が華が無いと思っているのは事実だけど、クリスタとエルザというお世辞抜きにも美少女に分類される彼女たちをエスコートする男性がいないことに気を遣ってのことだ。
 本来ならホストである俺がそういった気配りをしないといけないのだろうが、花より団子の2人だ。
 落ち着いて食べられる環境こそベストだと思ったのだが…… 
 結論としては、流石リック殿下と言わざるを得ない。

 彼女たちがリック殿下と一緒のテーブルになったことで、たこ焼き製造機が2人になったわけだ。
 この食事所の女性スタッフと、フォルスの、
 結果として、凄い勢いでたこ焼きが製造され始める。
 それに対して、リック殿下達は酒の肴をメインで注文しつつ、たこ焼きをたまにつまむ程度。
 色気より食い気が勝っているエルザ達が満足いく量のたこ焼きを提供できたようだ。
 その証拠として、さきほどまでと違って次から次へとたこ焼きを口に運びつつ、それでいて満足気な表情を浮かべている。
 うん、なんか思うところは色々とあるけれど、
 それでいいのか、異世界淑女レディよ……
 これは、心の中だけの疑問だけどね。
 それを言いだしたら、財閥クラス、もしくはそれ以上の貴人をたこ焼き兼鉄板焼きのお店に連れてくるのもどうかと思うが。
 この世界だと、最先端のファッショナブルなレストランだからな。
 とりあえず、満足してもらえるならそれでいいか。

 そしてリーナが、羨ましそうに彼女たちを見ているな。
 うん……このテーブルでも居心地悪そうだし、あっちの方が良いだろうな。 
 少しはホストらしい仕事もしないといけないだろうし……

 リーナを簡単にエルザとクリスタに紹介して、彼女たちがいるテーブルに。
 リック殿下達もいるけど、まあそれ以上にフォルスがいることの方が大きいだろうし。
 歳が一緒のエルザとクリスタが美味いこと、フォローしてくれるだろうと思って、
 3人とも、お家柄は伯爵家だし。
 ちなみにリーナの祖父であるエッグ・フォン・ブライトが当主の経験としては一番長いらしく、エルザとクリスタが少しだけ遠慮していた辺り同じ伯爵家でも微妙に格付けがあるのだろう。

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