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最終章:勇者と魔王
第5.5話:名もなき男の戦い
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「はあ……」
町にある教会の上から町を見下ろす。
あちらこちらに国境警備隊やジャストールの騎士たちが見落とした、聖教会の信者たちが走り回っているのが見える。
あれだけ派手に動いていて、誰も警戒していない状況に溜息が出る。
本人たちは、上手い事逃げる群衆に交っているつもりなのだろうが。
一瞬で教会から怪しい動きをする一団の元に移動すると、ナイフを抜いて近づく。
「何者だ!」
私の登場に、目の前の男たちが警戒心を露わにしているが。
気にせず、スキルを発動させる。
「どうした?」
「いや、あれ?」
「なんだっけ?」
困惑した男たちを尻目にゆっくりと近づき、睡眠薬と痺れ薬を塗ったナイフで首筋を軽く斬り付けていく。
殺すほど深く傷つけるつもりはない。
下手に動かなければ、間違うこともない。
簡単な仕事だ。
「いたっ……」
「なっ……」
「うぅ……」
男たちがしばらく首を抑えて周囲を見渡していたが、徐々に動きが鈍くなっていく。
そして目を閉じて横たわったのを見て、裏路地に引きずり込み壁にもたれかからせる。
腕を後ろに回して、親指同士を細いワイヤーできつく縛る。
必要な情報は、特にはないか。
しかし、酷いやつらだな。
聖教会以外の教会や町に、火を放とうとする連中。
辺境伯邸に向かう一団。
さらには、武器等を調達する一団など。
それぞれが、役割をもって暗躍していた。
捕らえられた騎士たちを、逃がそうとする者たちもいたな。
白い鎧を身に纏い目立つ姿で派手に立ち回る聖騎士たちの陰に隠れて、色々と悪さをしようとしてたみたいだが。
私からすれば見ただけで一般人かどうかは、判断がつく。
それなりにこなれた、訓練された人間の動き。
それ以上に、こいつらの記憶が全て教えてくれる。
「しかし、聖教会の信徒の中に、これだけ闇の属性の適性があるものがいるとは……どうお考えで?」
何もない場所に向かって話しかけると、空間が歪み黒い髪と黒い瞳の美丈夫が現れる。
吸い込まれそうなほど、美しい黒だ。
「そのことについては、じき明らかになるだろう。それよりも、例の女は見つかったのか?」
「いえ……本当に、この町に現れるので?」
私が次の標的を探しに歩き始めると、男性も横に並んで歩き始める。
これが6大神の一人である、暗黒神とは。
邪なものは、一切感じない。
甥に心服しているのが、普段の行動からもはっきりと分かる。
信用はしてもいい相手だろう。
「彼女も大事な役者の一人だからな。きっと、やつの手が回っている」
「まあ、神様の言うことですから、信じますけどね」
自信満々に言い切ったが、相手も神様だからな。
光の女神。
私の甥を魔王に仕立て上げた、諸悪の根源。
この世界が滅ぶ原因になった、くそ女神だ。
「その光の女神の動向が、神をもってしても分からないというのが不思議なのですが」
「情けない話だが、私の眷属が力を貸していた……その神も、行方が掴めていない。もしかしたら、光の女神に手を貸しているのは一柱だけではないのかもしれん」
私の言葉に、フォルス様が苦々しい表情を浮かべている。
「どうも後手後手に回らされている。何かが漠然とおかしく、釈然としない」
頼りない神様だ。
「不敬な男だ……前回も今回も、ルーク様の味方でなければ、反省を促すところなのだがな。それにアリス様からも加護をもらっているのだろう? いずれにせよ、最高神の信徒に手は出せん。だからといって、あまり調子に乗るな」
怒られてしまった。
しかし、それは私も同じだ。
甥の味方だからこそ、信用している。
ルークの敵になったら、たとえ神であろうとも許すつもりはない。
それと私は別に、時空を司る神であるアリス様の信徒になったわけでもない。
お互いの利害が一致し、力を授けてくれただけだ。
感謝しているし、協力を惜しむつもりもないが。
前回は、守ることが出来なかった。
不憫で哀れな、可愛い甥の未来を。
今回こそは……
「記憶の変化……副産物として、表層にある記憶の読み取りか。役に立つ」
私の持つユニークスキルは、記憶改竄と現状思い浮かべている考えている記憶の読み取り。
記憶改竄は、そのものの記憶を消したり変化させることができるものだ。
使い道は色々とあるが、人生2週目にしてようやく極めたと言えるだろう。
私に関する記憶を連続的に消すことで、私の存在を認識できなくなる。
まさか、そんな使い方があったとは。
前の世界で知っていれば、志半ばで死ぬことは無かっただろう。
今世でこそオーウェンに思うところはないが、最初の世界の時は殺すつもりだった。
ルーク以外の兄一家を殺した、この愚王を。
しかし、失敗した。
リカルドと、光の女神の邪魔によって。
あの時のリカルドは、光の勇者に相応しい力を持っていた。
今回と違って。
それも、腑に落ちない。
英雄の卵も、行方が知れなかったが。
今回はそれがあるのだから、それをリカルドに使うのかと思っていた。
だが、違った。
ジェファード皇子を見て、すぐに分かった。
光と闇の気を纏っている、隣国の第二皇子。
この皇子に使われたのだろうことが。
しかし、英雄の卵では神の加護を持ち、神に至る才を持つルークには勝てないだろう。
であれば、今度こそ奴が出てくると思ったのだが。
「お前が、俺たちの邪魔をしてるやつか?」
記憶を消して、人目につかないところに運び込んでいたのだが。
やはり、バレるか。
面倒だ。
相手は、10人。
数を揃えてきたな。
しかし、急に現れたなこいつら。
「なぜ、私だと?」
「ん? 光の女神からの神託だよ」
「神託ねぇ……」
ただの、体のいい使いっぱしりにされてるだけじゃないか。
しかも、こいつらに言葉を伝えたのは光の女神じゃない。
やっぱり、ここに居たのか。
目的の相手とは違うが。
「消えた?」
消えてない。
目の前を歩いているのに、認識できないというのは……面白いが、虚しくもある。
それでも、やることは変わらない。
「フォルス様?」
気が付けば全員意識を失っていた。
横を見ると、フォルス様が隠すことのない怒気を放っている。
そして、その体から漏れ出た闇が、周囲の男たちを包んでいた。
そのフォルス様が、こちらを見てニヤリと笑う。
「ああ、ついに尻尾を出したな」
まあ、ここからは神同士の戦いになるのだろう。
影を司る神か……
地味な神だけあって、近くにいてなお存在感が薄い。
漠然といるということしか、分からない。
「では、お任せします」
「ああ、任されよう。お前の方こそ、貰った加護の分はしっかりと働くんだな」
「可愛い甥のためですから、何がなくとも働かせてもらいますよ」
優しかった兄を変えた要因は、この世界にはもうない。
私が好きだった家族が、変わらなかった場合の未来が見えたのだ。
そして、ルークには未来がある。
いや、アルト、ヘンリー、サリアにもだ。
兄上と、義姉上にも……
私に関する記憶は、全て消してある。
そのはずなのに、ルークだけは私のことを忘れない。
神に至る才かと思っていたが、そうではなかったらしい。
変化そのものを扱うルークに、私の能力は通用しない。
彼の肉体に対する変化の作用は、下位互換程度のスキルでは影響が出ないと聞かされた。
アマラ様に。
世界を滅ぼした神。
そして、私が知る神の中でもっとも感じやすく優しい神だ。
名前はもう捨てた。
叔父上と違い、ジャストールの家名に未練はない。
前回も今回も。
しかし、今となっては前回、ジャストールを捨てたのは間違いだったのではないかと思う。
あのまま領地に残って兄の補佐をしていれば……違った未来があったのかもしれない。
それだけが、前回の人生の心残りだな。
さてと、あれは本物だな。
本物の、加護持ち。
影か、光の眷属か……
記憶が読めないところを見るに、影の方だろうな。
まあ、どっちでも変わらない。
排除するだけだ。
町にある教会の上から町を見下ろす。
あちらこちらに国境警備隊やジャストールの騎士たちが見落とした、聖教会の信者たちが走り回っているのが見える。
あれだけ派手に動いていて、誰も警戒していない状況に溜息が出る。
本人たちは、上手い事逃げる群衆に交っているつもりなのだろうが。
一瞬で教会から怪しい動きをする一団の元に移動すると、ナイフを抜いて近づく。
「何者だ!」
私の登場に、目の前の男たちが警戒心を露わにしているが。
気にせず、スキルを発動させる。
「どうした?」
「いや、あれ?」
「なんだっけ?」
困惑した男たちを尻目にゆっくりと近づき、睡眠薬と痺れ薬を塗ったナイフで首筋を軽く斬り付けていく。
殺すほど深く傷つけるつもりはない。
下手に動かなければ、間違うこともない。
簡単な仕事だ。
「いたっ……」
「なっ……」
「うぅ……」
男たちがしばらく首を抑えて周囲を見渡していたが、徐々に動きが鈍くなっていく。
そして目を閉じて横たわったのを見て、裏路地に引きずり込み壁にもたれかからせる。
腕を後ろに回して、親指同士を細いワイヤーできつく縛る。
必要な情報は、特にはないか。
しかし、酷いやつらだな。
聖教会以外の教会や町に、火を放とうとする連中。
辺境伯邸に向かう一団。
さらには、武器等を調達する一団など。
それぞれが、役割をもって暗躍していた。
捕らえられた騎士たちを、逃がそうとする者たちもいたな。
白い鎧を身に纏い目立つ姿で派手に立ち回る聖騎士たちの陰に隠れて、色々と悪さをしようとしてたみたいだが。
私からすれば見ただけで一般人かどうかは、判断がつく。
それなりにこなれた、訓練された人間の動き。
それ以上に、こいつらの記憶が全て教えてくれる。
「しかし、聖教会の信徒の中に、これだけ闇の属性の適性があるものがいるとは……どうお考えで?」
何もない場所に向かって話しかけると、空間が歪み黒い髪と黒い瞳の美丈夫が現れる。
吸い込まれそうなほど、美しい黒だ。
「そのことについては、じき明らかになるだろう。それよりも、例の女は見つかったのか?」
「いえ……本当に、この町に現れるので?」
私が次の標的を探しに歩き始めると、男性も横に並んで歩き始める。
これが6大神の一人である、暗黒神とは。
邪なものは、一切感じない。
甥に心服しているのが、普段の行動からもはっきりと分かる。
信用はしてもいい相手だろう。
「彼女も大事な役者の一人だからな。きっと、やつの手が回っている」
「まあ、神様の言うことですから、信じますけどね」
自信満々に言い切ったが、相手も神様だからな。
光の女神。
私の甥を魔王に仕立て上げた、諸悪の根源。
この世界が滅ぶ原因になった、くそ女神だ。
「その光の女神の動向が、神をもってしても分からないというのが不思議なのですが」
「情けない話だが、私の眷属が力を貸していた……その神も、行方が掴めていない。もしかしたら、光の女神に手を貸しているのは一柱だけではないのかもしれん」
私の言葉に、フォルス様が苦々しい表情を浮かべている。
「どうも後手後手に回らされている。何かが漠然とおかしく、釈然としない」
頼りない神様だ。
「不敬な男だ……前回も今回も、ルーク様の味方でなければ、反省を促すところなのだがな。それにアリス様からも加護をもらっているのだろう? いずれにせよ、最高神の信徒に手は出せん。だからといって、あまり調子に乗るな」
怒られてしまった。
しかし、それは私も同じだ。
甥の味方だからこそ、信用している。
ルークの敵になったら、たとえ神であろうとも許すつもりはない。
それと私は別に、時空を司る神であるアリス様の信徒になったわけでもない。
お互いの利害が一致し、力を授けてくれただけだ。
感謝しているし、協力を惜しむつもりもないが。
前回は、守ることが出来なかった。
不憫で哀れな、可愛い甥の未来を。
今回こそは……
「記憶の変化……副産物として、表層にある記憶の読み取りか。役に立つ」
私の持つユニークスキルは、記憶改竄と現状思い浮かべている考えている記憶の読み取り。
記憶改竄は、そのものの記憶を消したり変化させることができるものだ。
使い道は色々とあるが、人生2週目にしてようやく極めたと言えるだろう。
私に関する記憶を連続的に消すことで、私の存在を認識できなくなる。
まさか、そんな使い方があったとは。
前の世界で知っていれば、志半ばで死ぬことは無かっただろう。
今世でこそオーウェンに思うところはないが、最初の世界の時は殺すつもりだった。
ルーク以外の兄一家を殺した、この愚王を。
しかし、失敗した。
リカルドと、光の女神の邪魔によって。
あの時のリカルドは、光の勇者に相応しい力を持っていた。
今回と違って。
それも、腑に落ちない。
英雄の卵も、行方が知れなかったが。
今回はそれがあるのだから、それをリカルドに使うのかと思っていた。
だが、違った。
ジェファード皇子を見て、すぐに分かった。
光と闇の気を纏っている、隣国の第二皇子。
この皇子に使われたのだろうことが。
しかし、英雄の卵では神の加護を持ち、神に至る才を持つルークには勝てないだろう。
であれば、今度こそ奴が出てくると思ったのだが。
「お前が、俺たちの邪魔をしてるやつか?」
記憶を消して、人目につかないところに運び込んでいたのだが。
やはり、バレるか。
面倒だ。
相手は、10人。
数を揃えてきたな。
しかし、急に現れたなこいつら。
「なぜ、私だと?」
「ん? 光の女神からの神託だよ」
「神託ねぇ……」
ただの、体のいい使いっぱしりにされてるだけじゃないか。
しかも、こいつらに言葉を伝えたのは光の女神じゃない。
やっぱり、ここに居たのか。
目的の相手とは違うが。
「消えた?」
消えてない。
目の前を歩いているのに、認識できないというのは……面白いが、虚しくもある。
それでも、やることは変わらない。
「フォルス様?」
気が付けば全員意識を失っていた。
横を見ると、フォルス様が隠すことのない怒気を放っている。
そして、その体から漏れ出た闇が、周囲の男たちを包んでいた。
そのフォルス様が、こちらを見てニヤリと笑う。
「ああ、ついに尻尾を出したな」
まあ、ここからは神同士の戦いになるのだろう。
影を司る神か……
地味な神だけあって、近くにいてなお存在感が薄い。
漠然といるということしか、分からない。
「では、お任せします」
「ああ、任されよう。お前の方こそ、貰った加護の分はしっかりと働くんだな」
「可愛い甥のためですから、何がなくとも働かせてもらいますよ」
優しかった兄を変えた要因は、この世界にはもうない。
私が好きだった家族が、変わらなかった場合の未来が見えたのだ。
そして、ルークには未来がある。
いや、アルト、ヘンリー、サリアにもだ。
兄上と、義姉上にも……
私に関する記憶は、全て消してある。
そのはずなのに、ルークだけは私のことを忘れない。
神に至る才かと思っていたが、そうではなかったらしい。
変化そのものを扱うルークに、私の能力は通用しない。
彼の肉体に対する変化の作用は、下位互換程度のスキルでは影響が出ないと聞かされた。
アマラ様に。
世界を滅ぼした神。
そして、私が知る神の中でもっとも感じやすく優しい神だ。
名前はもう捨てた。
叔父上と違い、ジャストールの家名に未練はない。
前回も今回も。
しかし、今となっては前回、ジャストールを捨てたのは間違いだったのではないかと思う。
あのまま領地に残って兄の補佐をしていれば……違った未来があったのかもしれない。
それだけが、前回の人生の心残りだな。
さてと、あれは本物だな。
本物の、加護持ち。
影か、光の眷属か……
記憶が読めないところを見るに、影の方だろうな。
まあ、どっちでも変わらない。
排除するだけだ。
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