魔王となった俺を殺した元親友の王子と初恋の相手と女神がクズすぎるので復讐しようと思ったけど人生やり直したら普通に楽しかった件

へたまろ

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最終章:勇者と魔王

第16話:反撃の時

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「ルーク!」

 兄の声を聞いて、顔を向ける。
 苦しそうな表情だ。
 すでに闇の炎による火傷は綺麗に消えている。
 だが、そうじゃない。
 心が痛みを感じているのだろう。

「私は……お前の、本当にあんなことをしたのか?」

 ああ、最初の世界でのことか。
 だが、あの兄と今の兄は違うだろう。
 そもそもが、最初の世界の人達はおかしかったのだ。

 憎しみや、恨みもあるが。
 それでも、それを抑え込めるだけの自制心もある。
 ここで最初の世界のことを持ち出して詰ったところで、ただの八つ当たりだ。

「ああいう世界もあっただけということですよ。今のこの世界、目の前にいる兄上とは違う兄上のことです」
「そうか……だが、私はそれでも自分が許せない。いまだに、元に戻らないお前を見ていると……恨まれている自覚もある」

 そうか……兄には、通じないか。
 完全に、元もルークに戻っていないことは。
 この世界で過ごした濃密な時間だけが、淡白で希薄なものになっている。
 そうだな……魔王ルークの言葉を借りると、記憶ではなく知識といった感覚。
 ゲームで見知っていた最初の世界のような感じだろう。

「それはおいおい……取り戻していくつもりです。まずは、フォルスを手伝わないと」
「今のお前は、どのルークなのだい?」
「この世界のルーク以外の全てですよ……だから、私は私を取り戻すために、あの女神を倒すのです」

 俺はそれだけ言うと、地面を蹴って空に飛びあがる。
 上空で激しい戦いを繰り広げている、フォルスと光の女神に向かって。

「フォルス!」
「ルーク様?」
「そうだが、今は違うと答えておこう」

 光の女神の攻撃を必死に防ぎつつ、フォルスが俺に声を掛けてくる。
 アマラの力を借りて、なお分が悪いか。
 本当に、規格外の存在になったのだな。
 この駄女神は。

「恰好が付かないな。颯爽と登場した割には、まだ手間取っていたのか」
「いえ、殺したり消滅させるのは簡単なのですが、それをした後のこの世界のことを考えると」

 なるほど、アマラの特性は破壊と終焉か。
 確かに、極端すぎて持て余してしまうのは頷ける。
 
「構わんだろう! この世界の光の女神は、あいつがどこかに閉じ込めているはずだ」

 俺の言葉に、フォルスがはっとした表情になる。
 神のくせに、抜けているというか。
 別にこいつを殺したところで、この世界の光の女神を救い出して……それはそれで面白くない気がする。
 だが、仕方ない。
 光の無い世界は、色々と不便だろうし。
 いや……

「最悪、火の神もいるわけだ。明るさ程度はどうにでもなるだろう」
「なるほど……」

 フォルスの表情が悪い物に変わる。
 俺とフォルスのやり取りを黙って見ていた駄女神が、手に持った扇子で口元を隠して笑いかけてくる。

「ふむ、妾をどうこうできること前提で話を進めるのは、実に面白くない。この程度で、妾の力を推し量れたと思われては詰まらんな」

 そう言って女神が扇子を思いっ切る振ると、光の筋がいくつもこちらに向かってくる。
 なるほど……それなりに威力のありそうな攻撃だな。
 即座に闇の魔力を最大限放出して、光を飲み込む。
 それだけで、彼女の放った魔法が消え去る。

「知らなかったのか? 本当の闇は、全ての光すら飲み込むってことを」

 光は闇を照らす?
 その光すら、飲み込む闇というのは存在する。
 そもそもが身近なところに、光を吸収しているものがある。
 それが黒色だ。
 黒は光を吸収することで、色を発していない。

「何? 光は闇を照らすものだ! そんなはずがあるわけがない!」

 現在進行形で闇に飲まれている存在が、何を言っているんだか。
 光と闇の女神と言っているが、とどのつまり闇に光の部分が染まっているだけだろう。
 本当に光が闇を照らすなら、お前はいまも光の女神だよ。
 混ざりものの分際で。
 
「はぁ……闇は光を吸収するから闇なんだよ」
「詭弁だな! 闇にあっても光とは輝くものだ! 夜空の星のようにな!」

 話にならない。
 確かに発光している場所だけは、明るいかもしれない。
 だが床も壁も天井も、全ての光を吸収する黒ならば……
 その部屋の中は暗闇といっても過言ではないだろう。
 というか、夜空の星って。
 星だけ光ってて、周りは真っ暗じゃないか。
 唯一、地上を照らしているのは太陽だ。
 うん、火の神の管轄だな。

 やっぱり、こいつも光の女神もいらない気がしてきた。

「もういいよ、お前はここで退場だ!」

 随分と粘ったが、流石にもううんざりだ。
 人々を救うはずの女神が、これほどまでに人に迷惑を掛けるのもどうかと思うが。
 神にあまり、幻想を抱くべきではないな。
 神だって、欲がある神もいる。
 無私無欲で人を救う存在なんてのは、やっぱりまやかしだな。

「ぐぅ、たかが人間の分際で……」

 闇の魔法を連発すると、徐々に女神の身体から光の部分だけが消えていくのが見てわかる。
 闇の槍。
 闇の波動。
 闇の球体。
 闇のオーラ。
 思いつく限りの、闇属性の攻撃魔法を放ち続ける。

 それにしても、たかが人間ねぇ。

「いや、お前のお陰で魔王になれたんだけどな」

 フォルスですら手が出せないほどに、そこからさらに回転数を上げて魔法を放ち続けていたら徐々に女神の身体に異変が起こる。
 だめ押しとばかりに、闇の竜を象った魔法を放つ。
 竜が口を開いて、彼女を飲み込む。
 流石に、もう終わっただろうと思ったんだけどな。
 普通に浮いてら。
 凄いわ。
 そして全身から光が消えたと思ったら、闇をまき散らすかのようにどす黒いものが溢れ出始める。
 
 フォルスが俺の横に並んで、彼女をジッと見つめている。

「あれが、魔王の核が彼女に与えたものですか」

 うーん……フォルスが感心したように漏らしているが。
 完全にキャラ被り。
 流れるようなブロンドの髪も、青い瞳も真っ黒に染まっていってる。

「お前に似てないか?」
「いえ、似ても似つかないかと」

 俺の言葉に、フォルスが少しムッとした様子で答えているが。
 まあ、髪の色と瞳の色以外は似ていないか。

「ふ……ふははは! どうやら、ここまでのようだな! 完全に闇に染まってしまったことは不本意であるが、もはやその攻撃は効かなっ!」

 闇は意味が無くなってしまったので、今度は光の魔法を放つ。
 太く長い光の槍。
 光の光線。
 数十本の光の剣。
 光輪の乱打。
 巨大な光の剣。
 光の奔流。
 これも、思いつく限りの魔法を放ち続ける。

「ふぅ、痛痒程度のダメージは受けるけど、傷を負うほどでもないですわね。貴方が言ったように、光じゃ闇を照らせないのですね」

 そして一周回って、最初の世界のような女神の話し方に戻っていた。
 キャラもブレブレだな。
 完全に、魔王の核の力が彼女にも馴染んでしまったのかな?
 自我を取り戻したというか、我に返ったというか。

「さてと……ここまで妾をこけにしてくれた報い、受けてもらおうか」
 
 どうした、本当に?
 あれか?
 こいつも、人格が複数生まれているのか?
 言葉遣いがまた戻ってるし。
 いや、もしかして光と闇の部分が完全に混ざったというのか?

 そんなとこまで、核の持ち主に似なくても。

「しかし、本当に光とは無力なものだな」

 いや、お前が司る力だったんじゃないのか?
 自虐か?
 急に語りだされても……

「なら、光など必要ない! 闇さえあれば、それでいい!」
「ちょっと待て、人の仕事を取るんじゃない!」

 なんか、変なことを言い出した。
 フォルスの目の前で、何を言い出してるんだこの馬鹿は。

 次の瞬間、目の前の女神が両手を広げると世界を闇が覆いつくしていく。
 ジェファードやリカルド、周囲の兵士たちも慌てた様子で逃げ出そうとしているが。
 無駄だな。
 そんなレベルじゃなく、星をまるごと覆うレベルで闇のヴェールを広げていっていた。
 何もみえず、混乱した様子だけが分かる。
 喧噪が広がり、剣戟の音が響き始める。
 同士打ちか?

「人の心の闇の部分を、増幅してやっただけだ。少しでも憎しみや、嫌悪がある方向に攻撃が向くようにね」

 この何も見えない状態で、自分の心に素直に攻撃を放っているわけか。
 対象の方向だけは、よく分かるみたいだ。
 現に俺もリカルドと女神の場所だけはよく分かる。
 両方とも殺したくなってくるが、こいつは自分が恨まれてないとでも思ってるのかな?
 あちらこちらから、闇属性の魔法やらが飛んできているぞ?

 俺の方にも、いくつか攻撃が飛んできているが。
 リカルドが、喜々として攻撃してきているな。
 改心したんじゃなかったのか?
 心の根底で、色々と根に持ってたんだろうな。

 うるさいから、闇の魔法の重ね掛けで黙らせておく。

「ふむ、妾に攻撃を向ける愚か者もおるようだな」
「自分の放った魔法の結果で、自分にも攻撃が向くとかお粗末にもほどがあるだろう」
「なーに、それもまた一興よ」

 急に強キャラ感出して来てるけど、実質には俺にはあまり影響が無いな。
 女神に対する攻撃に容赦が一切なくなるくらいだから、ある意味ではバフだな。

「これは!」

 試しに全力で魔法を放とうかと思ったら、巨大な炎の拳が女神に向かって放たれていた。
 この闇の空間で全力で存在を主張し、周囲を眩く照らす一撃。

「流石に、それは洒落にならんな」
「あなただけは、謝っても許しませんよ」

 勿論、放ったのは兄のアルトだ。
 リミッターの外れた兄の攻撃の出鱈目さに何度目かの驚きを隠せずにいると、巨大な炎の腕が増える。
 そして、連続で突きを放ち始めている。
 女神が焦った様子で距離を取っているが、余波でこっちも身が焦げるような思いだ。
 凄い熱量だな。

「あっ」

 間抜けな声を出した、女神の腹に剣が生えていた。
 気付かない間に叔父がゆっくりと近づいて行って、普通に正面から刺していた。
 急展開過ぎて、こっちも何が起こったのか分からない。
 女神も、まるで叔父が見えていないかのような動きだったし。
 俺も、いつの間に叔父がここに来たのか、まったく分かってなかった。
 気が付いた時には、刺されていたといった感じか。

「き……貴様は、誰だ」

 女神が後退っている。
 その腹に刺された剣は、眩い光を放ちながら魔力の渦を作っている。
 見たことがあるな。
 ジェファードが持っていた剣。
 最初の世界でリカルドが持っていた剣。
 魔王ルークを取り込んで思い出した。
 うん、正真正銘、光の女神が勇者に下賜する光の剣だ。
 勇者じゃなくても、使えるのか。

 叔父は剣を抜くと、今度は袈裟懸けに女神を斬り付けた。
 傷跡から、魔力がさらに漏れ出るのが分かる。
 ただ、普通の人がその剣を使う反動は、やはり大きいようだ。
 叔父の両手は焼けただれて、体液のようなものが柄を伝って地面に落ちている。
 いや、すでに肘の部分までただれている。

 しかし、表情からは一切何も読み取れない。
 まるで、自分のすべき仕事だといわんばかりに、無表情で淡々と流れるように斬撃を放ったのだ。
 分からない。
 なぜ、彼がそこまでして俺を手助けするのかが。
 最初の人生から、唯一ルークを安じ守ってきた彼だが。
 その切欠が、分からないのだ。
 父や兄ですら、疎んじてきたルークを。
 なぜ、そこまで愛せるのかが。
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