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EX章:後日談閑話おまけ

レモンの冒険(第1章9話~10・5話登場孤児上がり冒険者)前編

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 なぜ、こんなことになったのだろうか……

 分からない。
 いや、分かる……ルーク様絡みだということは。
 とてもよく。

「いやあ、弟が色々とお世話になったみたいだね」

 目の前の男性は、それはそれは爽やかな笑みを浮かべて優し気な声で語り掛けてくれてるけど。

「いえ、私がお世話になってる立場ですから」

 こっちは冷や汗を胡麻化しながら、精一杯の付け合わせの礼儀で応えるしか方法が無い。
 なんせ、目の前の男性は色々な意味で雲上人だから。

 本当になんで、こんなことに……

 何故かジャストールの冒険者ギルドに来たら、値打物の装備に身を包んだアルト様に捕まった。
 ルーク様の兄でもあり、ジャストール領の次期領主様。
 ルーク様とは付き合いが長いけど、ほとんど会話をしたこともない相手。
 その上、貴族の中の貴族。
 下手な対応をしたら、国家反逆罪で無礼打ちにされるかも。

 ルーク様?
 あれは、いいの。
 色々と私に対して、やってくれたから。
 良い意味でも、悪い意味でも。
 それに友人だし。
 無礼御免状とかっていう、わけの分からない書状ももらってるし。
 
 ただ、アルト様相手となると話が変わってくる。
 
 いや、普通に雑用系の依頼を探しに来たはずなのに。
 
「ルークより5歳上ってことは、私より一つお姉さんだね。よろしく頼むよ、先輩」

 年齢的にはそうかもしれないが……違う。
 色々と違う。
 冒険者歴でいえば、確かに私の方が先輩ではある。
 人生の経験も。
 ただ、人生の厚みが違う。
 こと、冒険者人生の。

 私はE級冒険者。
 アルト様は、S級に限りなく近いA級冒険者。
 しかも王都のギルド所属の。
 冒険者ギルドは貴族に遠慮はしても、忖度も贔屓もしない。
 だから、これは正式な彼の実力。

 ふふ……年下の上司やら、後輩上司が扱いにくいというギルド職員の愚痴がよく理解できる状況。
 しかも、私は地方所属。
 アルト様は王都所属。
 
 地方のギルドからすれば、王都のA級冒険者なんてのはVIP中のVIPだ。
 ギルマスが気を遣うレベルの。

 ……いや、領主様のご子息で次期跡取りなのだから、VIPに間違いはないのだけれども。

「あの……どうして、私なんかに」
「うーん、弟が掛けた迷惑の謝罪も兼ねて、ランクアップのお手伝いをさせてもらおうかと思いまして」
「敬語辞めてください……地位的な立場も、冒険者としての立場も遥かに上位の方にへりくだられると胃が痛いです」
「でも、年齢的にも経歴的にも先輩ですしね。先達には敬意を払うべきだと思っておりますので」
「その顔……ルーク様が私をからかう時の表情と、一緒ですよ」

 意地が悪い顔ではない。
 ただ、こちらの反応を伺って、楽しんでいるというか。
 困った様子を、微笑ましく見ているというか。
 年上にしか思えない表情でアルト様が私を見ているのが、なんともルーク様みたいで少しだけ憎たらしい。

「おや? 弟に似ているのは当然ですが、こうやって弟と親しい人に言われると存外嬉しいものですね」
「いや、喜んでないで、普通にしてください。そもそも、お貴族様ですし」
「まあ、レモンさんがそれで良いと言うなら仕方ないね。私としては、別に気にならないんだけどね」

 私と周囲が気にするから、やめろください。
 いや、マジで。

 あれよあれよという間にパーティ登録をされてしまい、一枚の依頼書を受け取ってこっちに向かってくるアルト様。
 ギルド職員も、どうしようもないよね。
 地位も立場も、実績も、全てにおいて地方のギルドの職員がどうこうできる相手じゃないもんね。
 
 でも、少しは私を守るそぶりを見せてくれても、いいと思いますよ?

 そして、アルト様に連れられてジャストール領の端にある森へと行くことに。
 どうもはぐれレッサードレイクが住み着いたらしく、それを狩るらしい。
 誰が?

「ははは、私とレモンさんの2人に決まってるよ」
「いや、私はそんな戦闘は本当にからっきしですよ。あと呼び捨ててください。さんは不要です」
「レモンさんは貴族相手にでも、堂々と色々と要求してくるんだね」
「いや、言い方! 洒落にならないですから! 要求じゃなくて、歎願や懇願と思ってください。マジで!」

 胃が痛くなるから、やめて欲しい。
 本当に。
 何がおかしいのか、ケラケラと笑っているけど。
 笑い事じゃない。
 貴族のそれは、洒落じゃすまないから。
 私の切実なお願いをそんな捉え方されたら、今この場で斬り捨てられても仕方なくなるから

 あとレッサードレイクを倒すって……それなら、ここまで乗ってきた地竜に頼めばすぐに済むのではと思ってしまった。

 ドレイクは基本的に赤い竜のことを指すらしい。
 でもレッサードレイクというのは、ただただ赤い大きなトカゲだ。
 レッドドラゴンのように空を飛ぶことも無く、ファイアードラゴンやフレイムドラゴンのように火に特化したわけでもない。
 そもそも、ブレスも吐かない。
 レッサードレイクと呼ばれながらも竜種としてすら、見られていないんだけど。
 
 それでも、かなり上位に位置する魔物であることは、間違いない。
 E級冒険者が挑むとなると、20人はいるんじゃないかな?
 それでも犠牲は出ると思う。
 100人なら楽勝だけど、犠牲が出ると思う。
 そういうレベルの相手。

 普通なら、挑もうと思う相手じゃない。
 うん、普通ならね。

 私とアルト様を運んでくれている動物を見る。
 ゴツゴツとした鱗。
 申し訳程度の翼はあるけれども、地面を歩くことに特化した四肢。
 さらに言えば、穴掘りも得意そうだなと。

 鱗がひんやりとして、気持ちいい。
 森の中は木漏れ日が入り込んでるけども、日影が多くて風も強くなく弱くなく快適。
 絶好のハイキング日和というか。

 馬に乗っての遠出とは違うけど、馬よりも突き上げが小さいし。
 取っ掛かりも多くて、座りやすいし安定感もある。
 さらには鱗自体は堅いけれども、肉は弾力があるのかそこまで気にならない。

 ふふふ……馬より快適だけど、見せてもらった時は着替えないといけないかと思った。
 よく、踏みとどまったと自分を褒めたい。

 そう……私とアルト様を運んでいる動物。
 堅い茶色の鱗を持つ、蜥蜴のような形状をした魔物。
 立派な角も生えてる。

 爪も尻尾も凶悪な形をしている魔物……
 正真正銘のドラゴン種。
 地竜……

 これから狩る相手はレッサードラゴンともいえる、ドレイク……の劣化版のレッサードレイク。
 をアルト様と狩りに行くと。
 正真正銘のドラゴンに乗って。

 うん……ちゃんとした竜種のこの地竜なら、そんなの瞬殺できると思う。
 私もアルト様もいらないと思うんだけど?

 ちなみに、この立派な地竜。
 ルーク様のペットらしい。
 ははは……はははは……

 やっぱり、ルークはおかしい奴だった。

「本当に、私とアルト様で倒すのですか?」
「うーん……」

 とりあえず気分を胡麻化すために、アルト様に声を掛ける。
 私の言葉にアルト様が少し悩むようなそぶりをみせる。
 
 まあ、アルト様一人でも狩れるだろう。
 この地竜でも。

 私は完全にお荷物だから、どう運用しようか考えてるのかな?
 私も孤児たちを連れてお手伝いに行くときは、それぞれの得意分野に仕事を割り振るのに悩んだりするし。

「どうやったら、もっと気安い感じになるのかな……弟と共通の貴族じゃない友達第一号になってもらいたいのに」

 全然どうでも良い事で悩んでた。
 さ……流石、王都のA級冒険者。

 
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