一宮君と幽霊ちゃん

へたまろ

文字の大きさ
上 下
8 / 12

ダブルかまってちゃん

しおりを挟む
「どうぞ、上がってください」
「お邪魔しまーす」
「勝手に部屋、あさらないでくださいね」
「相変わらず、愛想無いなー」

 うるさい。
 先輩が無理矢理部屋に押し掛けてきた。
 
「たまたま近くで飲んでてさー、終電逃しちゃって……なに、今の音?」
「幽霊です、ラップ音です」
「ふーん、こわーいって抱きつくべき?」
「寄らないでください。あと、息臭いです」
「まあ、リノベーションしたばかりっぽいし、建材がまだ馴染んでないのかな?」

 かなり、マイペース。
 酔っぱらい面倒臭い。
 素面でも面倒臭い人だけど。

「おっ? ムスッとした顔男前だなー」
 
 うるさい。
 
「とっとと、彼氏さんに迎えに来てもらったらどうですか?」
「はは、いつの話してんの? とっくに別れたよ?」

 昔から、そっち方面は派手だったけど。
 今回は1ヶ月もたなかったか。

「だから、いまフリーなんだよね?」
「水どうぞ。風呂はあっちです」
「冷たっ、あと家鳴りうるさっ」

 ほっぺに、氷水の入ったコップを押し付ける。
 部屋の温度がどんどん下がっていってる。
 鏡に不機嫌な幽霊ちゃんが映ってるし。

「昔はあんなに可愛かったのに……みことねえ! みことねえ! っていっつも後ろついてきてさ」
「そうですね。佐藤さんも昔はもっと頼りがいがあったと記憶してます」
「他人行儀!」
 
 佐藤みこと25歳。
 年上の幼馴染み。
 というか、小学校卒業するまで住んでた団地のリーダー。
 今じゃ見る影もないけど、当時は純粋に憧れた人。
 あっ、ねえちゃんすげーって感じの。
 運動神経良かったから。
 よく、怪我もしてたけど。
 
「懐かしいねー。そういや、あんたについて回ってた子もいたっけ?」
「ああ」
「じろうちゃんのおよめさんになるー! って、いっつも言ってて可愛かったよねー」
「いつの話してんの?」
「結局、みんな引っ越しちゃったけどね」

 ちょっとしんみり。

「良いから風呂入って寝ろ! ベッド使って良いから」
「それは、一緒に使っていいってこと?」

 イライラ。

「昔は一緒に寝てくれたのになー」
「お昼寝な?」

 みこと姉が風呂に入ったかと思うと、勝手に冷蔵庫あさりだす。

「良いのあるじゃーん」
「まだ、飲むの?」

 さっきから、ラップ音がやばいんだけど?

「あははは、不良物件?」

 それから、3本くらい付き合わされたところで机につっぷして寝始めたから、ベッドに運ぶ。

 昔はおんぶしてくれたこともあったっけ?
 まあ、良いけどさ。

 シクシク……

 なぜ、こっち?
 いっつも、その儀式寝室でやってるよね?
 ソファで横になってると、すぐ側から嘘泣きの声が。

「寂しいよ」

 ずっと、部屋にいたくせに。
 てか、髪垂らして見下ろしてきてるけど、短くなって顔があまり隠れてない。

「私の知らない次郎君知ってるあの人が、妬ましいよ!」

 知らないよ。
 むしろ、知ってたら怖いし。

「てっきり、あっちに出るかと思った」
「だって、知らない人だし……歳上だし」

 いくつだよ!
 てか、人見知り?

「なんか、眩しいし。怖いし」

 あー、パワフル過ぎてってことかな?
 てか、幽霊にビビられるとか。

「次郎君、婚約者いたんだ」

 飛躍しすぎ。
 いるわけないし。
 なんか、こっちも今日は面倒臭そう。

「はあ、寝よ」
「怒った?」

 うーん、下から見上げられるとちょっと。
 いや、明日はみこと姉より先に起きないと。
 色々とやばそう。

「寂しいよー」

 側にいるのに?

「寂しいよー! 寂しい! 寂しい!」

 酔ってる?
 こっちの構ってちゃんも、一晩中うるさくてあまり寝られなかった。
しおりを挟む

処理中です...