ふと気がついたら芋虫でした~人智之蟲は人間の夢を見るか~

かわくや

文字の大きさ
3 / 15

毒ネズミ

しおりを挟む
 さーて、こっからどーすっか。

 プラプラと風に揺られる俺は独りそう考えた。

 MPも切れた今、ここから抜け出す事しか出来ることが無い訳だが……如何せんその抜け出し方が分からない。

 さっきから顎を左右に開け閉めしてみてはいるのだが、多少隙間が広がった程度で、抜け出す程の隙間は広げられないのだ。

 うーん、まじでどーすっか。

 俺が本格的に頭を抱え始めたその時だった。

 カリカリカリカリ

 不意に俺の耳(……耳?)がそんな音を拾った。

 …………なんだこの音。
 まるで何かが木を引っ掻く様な……あ、そうだ。

 ふと唐突に思い立った俺はおもむろに【賢者の手記】のページを捲った。

―――――――――――――――――――――
MP1/35
―――――――――――――――――――――

 お、回復してる。
 結構速いんだな。
 3分に1程度の回復量だろうか。
 丁度良い。
 MP1でどれだけ書けるか~とか、賢者の手記はどんな聞き方でも教えてくれるのか~とか、色々検証してみるとしよう。

 よし、じゃあ頼んだ手記さん。
 この音を出してるヤツを教えてくれ。

 パラリ

―――――――――――――――――――――
種族:ポイズンラット
ランク:E

Lv6/10

HP:32/32
MP:21/2
―――――――――――――――――――――

 おぉー、結構ダメ元だったんだがこんな指示でも存外行けるし、かなり書けるんだな。
 えーなになに?
 ポイズンラット……まぁ、名前通りなら毒を持ったネズミだろうか。
 名前が面白くねぇが……まぁ、それを言うなら俺も大概か。
 それにしてもこのMP……分母の方が小さいなんて事はあり得ないよな。
 つまりはここでインク切れか。
 となると文字数は……いや、やっぱ止めた。
 今思えば俺の性格上そこまで緻密にMP管理をする事なんて無いだろうからな……正直めんどくさい。

 ってな訳で再びMP使い切っちまった訳だけど……収穫としては賢者の手記が予想以上に便利だった事ぐらいか。
 確かに有意義な時間ではあったとは思うが……

 結局こっちは変わってねぇんだよなぁ

 辺りを見回そうとするも、相変わらず刺さった顎が邪魔でそれすら出来ない。

 いい加減にこれ……なんとかしねぇとヤベェかもなぁ。

 そう考えた直後の事だった。

 ミシッ

 そう音を立てて俺の刺さっている木が僅かに軋んだのを感じたのだ。

 ……ん?なんだ今の……
 明らかに風で揺れたって感じじゃ無いんだが。

 そう考えていると、またミシミシと音を立てて木は傾いて行く。

 こ、これ、偶然とかじゃねぇよな……
 まさかこれ……切り倒されてる!?

 ミシッ

 こ、こうしちゃいられねぇ、さっさと逃げねば!
 ふーぬぬぬぬぬぬぬぬ……お?

 バキャ

 全力で力を入れて顎を左右に動かしていると、顎が挟んでいた木の一部が音を立てて砕けた。


 か、噛み砕けたのか!
 我ながらなんつー……ヤベッ!
 取り敢えず離れよう。
 ロケット!!


 先程の二の舞にならぬよう今度は飛ぶ方角を明確に定め、倒れ行く木を足場にロケットを使った。
 そこまで高い訳じゃないが、飛び込んだ勢いも有るので一応丸くなっておく。
 これで多少は着地の衝撃も殺せる筈だ。

 その甲斐あってか、着地した俺は多少転がったものの大した痛みすら感じる事はなかった。


 あっぶねー……てか、なんなんだったんだよ、今の。
 ポイズンラットが音を立ててるって話だったが……


 そんなことを思いつつ、確認しようと後ろを振り向くと……


 ガリガリガリガリ


 そんな凄まじい音を立てて大量のネズミが俺の居た木を齧っている所だった。


 な……なんだこの光景。
 あれが全部ポイズンラットとやらだってのかよ。


 そうして見ているうちにも、ラット達は凄まじい勢いで木を削り、ついに自重に耐えきれなくなった木は周囲の枝をバキバキとへし折りつつ倒れていった。
 その際倒れる方向に居たラットは潰れた様なのだが、それすらもお構い無しにラット達はその木の断面へ群がって行く。

 な、なにしてんだアイツら。
 木を食ってんのか?
 ……まぁ、良いや。
 どちらにせよこっちには気付いてないんだ。
 あの勢いの矛先がこっちに向く前にさっさと離れちまおう。

 そう考えた時だった。
 俺は一匹のラットと目が合った。
 ソイツは木の伐採に加わる事もなく辺りを見回していたのだが、俺と目が合うなりじっと俺の方を見つめて来たのだ。

 な、なんだコイツ……ハッ!
 もしや、「仲間になりたそうにこちらを見ている」ってヤツなのか!?
 ……起き上がっちゃねぇけど。
 まぁ、それはそれとして良いんじゃ無いか?
 付いて来たいのなら付いて来…………


 「ヂュイ」


 ソイツが高く短く鳴くと、ネズミ団子の最後尾の奴らが一斉にこちらを振り返いた。

 あー…………なるほど……ね。
 要するに……

 テメェ見張りかよロケットォ!!

 そう叫んで飛び出した瞬間、幾重もの甲高い鳴き声が俺の後ろを付いてきた。

 クッソ多すぎだろテメェら!!
 付いてこいとは言ったが、ちったぁ自重しやがれ!!

 着地の後隙を無くすため身体を丸めて転がりつつ、勢いを殺さないようタイミングを見計らって再びロケットで吹き飛ぶ。
 一跳び1m位だろうか。
 多少は俺の方が速いらしく、だんだんと後続との距離は離れていった。


 ただ一匹のラットを除いて。


 ソイツだけは他の奴よりは速く、その他大勢との距離を広げ、俺との間をだんだんと狭めて来ていたのだ。

 マ、マズイ。
 こんままじゃジリ貧だ。
 うーん、ただどうしたものか。
 小細工仕掛けるにしても後列の奴らが怖くて足は止めたく無いのだが……


 そう考えていたときの事だった。


【恒常スキル:大顎Lv1を入手しました】
【恒常スキル:虫食いLv1を入手しました】

【恒常スキル:ロケットはLv1~Lv3へ変化しました】


 おわっ!いきなり来んな!タイミングずれる!

 ……と思ったがなんだって?
 ロケットのLv上昇?
 MPを使ってなくてもスキルレベルは上がるのか。


 少し速度は落ちるが、転がりを挟むのを止め、連続でロケットを使うことで思考へ意識を割く。


 これは……逃げ切れるんじゃ無いか?
 今のMPは……4か。
 MPロケットによる威力増加の倍率が分からないのは少し怖いが攻撃の瞬間に急加速すれば空振った隙くらい生まれる筈だ。
 そこで糸を吐くなりなんなりで姿を眩ませられれば逃げ切れられる……と思う。
 と言うか、ここで仕留められるんじゃ無いか?

 俺は一旦転がって後ろを確認しつつそう思い直した。

 後続のラット共とは既に20秒程の差が開いていたのだ。
 ……となるとどうするか。
 確実にロケットを当てる為、一度MPロケットで攻撃を空振らせ、そこに本命のロケットをを仕掛け、一瞬で片を付けたら通常ロケットで即座に離脱?

 ……うん、これなら後続に追い付かれる事もなく安全に狩れる筈だが……なんだこのバカの一つ覚え。
 実際使えそうな物がそんくらいしか無いってのも有る訳だが……まぁ、一応今の俺が打てる最善手だと思う。
 唯一の不安点としてHPを確認出来ないのが怖いが、もし仕留め切れなくても手傷さえ負わせれば多少は速度に支障は出るだろう。
 そうなれば俺も悠々と逃げられるし、俺が死にさえしなければ、もしくは外しさえしなければ、どう転んでも俺に得しか無い完璧な策だ。
 後は…………

 俺が恐怖心に勝てるかどうかってとこなんだよな。

 そう自嘲的に嗤いつつ、俺は再びロケットと転がりを繰り返し足早ネズミの攻撃を良く耳を澄まして待つ。

 まだだ……


 まだだ………


 まだ…………

 今ァ!!!

 内心そう叫びつつ、MPを1使って急加速。
 背後で鳴ったカチンと言う音に肝を冷やしつつ、全力で振り返った。

 そこには噛み付く為に完全に足を止めた、無防備なラットの姿。

 それなら……避けれやしねぇだろ!!

 そうして俺はMPを2使って本命の突撃を仕掛けた。

 「ギュウゥ!!」

 それを顔に喰らって大きく仰け反るラットだったがまだ死んでは無い。

 クッソ!ダメか……直撃した際、顎で目が潰れたらしいが、所詮はそれだけだ。
 足の一本位潰しておきたかったが……いや、まだ出来るんじゃ無いか?

 俺が思い起こすのは先程入手した一つのスキル【恒常スキル:大顎】。
 恒常スキルという点から考えるに、おそらく効果はMPを消費した際の大顎攻撃にボーナスが入ると言う物ではないだろうか。
 もし違ったら死にに行く様なものなのだが、正直な所、俺はこの効果で間違いないと確信している。
 実の所、攻撃力が足りないんじゃないかと言う心配の方が強いのだが、かもしれないで逃げ続けて殺されるよりマシだ。
 時間も無いし……さっさと飛び出そう。

 俺は内心の怖気を押し殺しつつ、俺は再び身体を縮めた。


 例の足早ラットは潰れた視界に慣れようとしているのか、しきりに辺りを見回していた。
 今なら避けられる事も無いだろう。
 ……行こう。

 ロケット

 瞬間、凄まじい勢いで自分の身体が宙を進んでいくのを感じる。
 俺は姿勢を崩さないように身体を固めつつ、大顎をあらんかぎりに開いて、なけなしのMPを込める。

 そうして………


グチュ

 噛み付くと同時に捻切るようにして身体を回すと、そう短く音を立ててヤツの右前足は引き裂かれた。

 後は離脱するだけだ。

 ロケット。
 そう短く唱えて俺は元居た場所へと跳び帰る。
 先程とは打って変わって俺は落ち着いていた。
 あらゆる事が些事に思えるような……何故だろう。
 ただそれでも後ろから迫り来る大群からは逃げざるを得ないので、俺は例のロケット走法で取り敢えず距離を取ったのだが、ある一点で奴らの声は止まり一向に俺の方に来る様子は無かった。

 それを不審に思い、一度足を止めて後ろを見ると理由は直ぐに分かった。

 奴らは足を引き摺る足早ネズミに襲いかかっていたのだ。

 足早も抵抗しているようだが、自慢の足を引きちぎられたせいで思うように動けない様子だ。
 そのまま有象無象の一匹に姿勢を崩されてからは、速かった。
 周囲にネズミの団子が形成され、先程の木と同じ末路を辿ったのだ。

 俺はそれをなんとなく眺めた後、再びロケット走法でその場を後にした。

 昨日の仲間も今日は餌……か。
 お互い世知辛いな、人間も、鼠も。

【54の経験値を得ました】
【インテリジェンスキャタピラーのレベルが1~5へ上昇しました】
【それに伴い進化が可能になります】
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

悪役令嬢と入れ替えられた村娘の崖っぷち領地再生記

逢神天景
ファンタジー
とある村の平凡な娘に転生した主人公。 「あれ、これって『ダンシング・プリンス』の世界じゃない」 ある意味好きだった乙女ゲームの世界に転生していたと悟るが、特に重要人物でも無かったため平凡にのんびりと過ごしていた。 しかしそんなある日、とある小娘チート魔法使いのせいで日常が一変する。なんと全てのルートで破滅し、死亡する運命にある中ボス悪役令嬢と魂を入れ替えられてしまった! そして小娘チート魔法使いから手渡されたのはでかでかと真っ赤な字で、八桁の数字が並んでいるこの領地収支報告書……! 「さあ、一緒にこの崖っぷちの領地をどうにかしましょう!」 「ふざっけんなぁあああああああ!!!!」 これは豊富とはいえない金融知識と、とんでもチートな能力を活かし、ゲーム本編を成立させれる程度には領地を再生させる、ドSで百合な少女の物語である!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...