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しおりを挟む【傍観者として認められた者の独白】
王命は絶対。
それは代々言われ続けている決定事項だ。
だが、本当にそうだったのだろうかと、私は疑問に思う。歴代の王たちの歴史には、時に反乱が起き、時には嘲笑うような内容の本まで記載されている。
そして私は思う。
バーナビー・エインズワース王の時世に生まれて良かった、と。
王命は絶対。
その文言に不満を漏らす者はごく僅か。なぜなら、王様の命が間違った道に行くことなどないからだ。王様は神様を敬愛し、この国だけでも憂いがないようにと行動しているにもかかわらず、私たちスイレナディ国に住まう者たちにも憂いなく過ごせるようにと考えてくださる。そんなお方から命を頂く幸福はあれど、不満などない。
だが、不満は存在する。
誰であるか、どの派閥であるかは口を閉ざしておこう。
私は傍観者としての責務を全うしようではないか。
絶対君主は神様である。
それは国が違えど同じ認識をしているはずだ。"している"と明言できないのは、私が全ての国に訪れたことがないから。世界は広く、まだ見ぬ地も、知らぬ美味しさも、愛でる形が異なる国もあることだろう。ああ、旅をしてみたい…。
話が逸れてしまったな。
絶対君主たる神様の次に頭を下げるべきお方は国王ではない。
天使様だ。
神様が幸福をと考えた者の元へと運んでくださる天使様。
私はまだお会いしたことはないのだが、天使様に会えると信じている。バーナビー・エインズワース王は神様に愛されていると疑っていないからだ。
天使様は国に幸福を運んでくださる。
だがしかし、それは事実なのだろうか?
天使様が訪れた国の歴史を読んだことがある、そしてその中の一つに疑問を感じる内容がそこにはあった。
当時の王は破滅へと導かれたのだ、天使様によって。
内乱があったその国は、突如として現れた、幸福を運んでくださる天使様の存在によって、内乱は収まりつつあった。天使様が、神様がお認めになった王を非難するなど、出来ないのだろう。
だが崩壊した。
天使様が崩壊させたとは記していない。
けれど、途中から現れた女性の傍に、男の天使様はいつだって居た、と。そう、不自然に記載されている。
これを見て私は、天使様が降臨されるのは王の元だけではないと憶測を立てた。
この憶測を読者はどう思うのだろうか。
そして疑問を心に落としたならば、是非あの本を手に取って欲しい。
言語が異なり、現代では誰も使用していないのだが…読んでみて欲しいのだ。
そしてもし、まだ私が生きていたら感想を聞かせて欲しい。
『神の怒り・誘われる深淵』というタイトルだ。
「ヒナノ」
「うん?」
「ふふっ、やっと気づいた」
どうやらまた夢中になっていたようだ。
「ごめんね?できれば体揺らしてくれると助かるな?」
「うん?」
「私、集中しちゃう癖があるから……そうしてもらえるとすぐに気付けるの」
「分かった、お昼はいらない?」
「食べようかな?」
朝ご飯の時は本の続きが気になって必要ないと伝えたけど、今はひと段落したから美味しいご飯でも口にしよう。
「伝えてくる」
「ありがとう、いってらっしゃい」
そういえば一日経ったみたいだけれど、夜中と呼ばれる時間は誰が側にいたんだろう?
さすがに交代制だと思うんだよね?周りを気にしてなかったから分からないけど、ずっと飲み物は新しかったから………まさかリンジーがずっといたなんてことないよね?
そうだとしたら可哀想だ。
私に合わせていたら死んでしまうだろうから、この国のルール通りに仕事してもらうように頼んでおこう。
ディアブロが夜出て行ったのには気づいてた。
どうやら私はディアブロの存在を"危険"だと思っているらしい。
彼の行動に神経を尖らせている。
心変わりというのは誰にでもある。もちろん私も。
今は拒絶をしてくれているけど、いつか何かのタイミングで"心変わり"をしてしまったら困る。
彼の地位がどれほどかは分からないが、地位が揺らがないように護衛の任を解くにはどうしたらいいだろうかという悩みは、この国のことを知ってから答えを出そう。
あ、図書館行くの忘れてた。
昨日伝えた量の食事を持ってきてくれた。今日も一人でご飯を食べたけど、やっぱり美味しい料理に楽しめたお昼ご飯だったよ。
「この後、図書館に行こうと思ってるんだけど、どうしたい?」
「ほんと!?ありがとう!」
「ふふ、お礼はいいよ」
「じゃあ言いたくなった時に言うね?」
「うん」
「お世話してくれてありがとう!」
「くすくす、探索も兼ねてるから」
「わああぁぁぁ……!!!ありがとありがとありがと!」
「ふふっ、もう」
「そうだ!この国の常識が分からないから気付けなかったけど、ちゃんと休めてる?夜中も私のお世話してくれてたの?」
「大丈夫、ちゃんと交代で仕事してるよ」
「疲れてない?ちゃんと眠れてる?ご飯も食べた?」
「ふはっ!大丈夫だよ。ちゃんと眠れたし、ご飯も食べた。疲れたら報告するね?」
「絶対?」
「絶対」
「んふふー、約束だ!」
「ふふ、約束。準備が出来たら声かけるから」
「はあい!」
私は愛されたくてここにきた。
友情の愛が欲しくてリンジーにニコニコする。
父親の愛が欲しくてバーナビーを目に見える形で“私が”守り、幸福を与えようとしている。
けれど伴侶の愛はいらない、望んでいない。
私はデズモンド様以外を愛したくない、そういう愛も与えられたくない。
ソファに座り本を開く私は読むことをせず、ディアブロの視線について考えることにした。
彼が運命に出会った最初の感情は憎悪に近い嫌悪だった。
そして次は軽蔑。
運命嫌いというのも珍しくない。運命を嫌う"何か"があったんだろう。
ただその後の行動……というよりは、感情が分からない。
分からないというよりは"ない"と感じる。交代の時に話しかける護衛らも、リンジーも、彼の態度に疑問を覚えていなかった。
ということは、"無"のように見える表情はディアブロの"普通"なんだろう。
彼は天使の筆頭護衛に選ばれるほどの実力があるからこそ選ばれた。
そして今、運命である、私を守るために護衛をしている。
私の行動に注視し、観察し、"守るべき対象"を、職務を全うしている彼は正直不思議でならない。
運命を拒絶する者を見たこともあれば、話に聞いたこともある。
その者たちは必ず葛藤する。運命の側にいてもいなくとも葛藤し、心が乱れる。
抗えないほどの愛情がポタポタと心を濡らす感情を止めることなどできないのは、アダムと再会して、嫌というほど知っている、体感しているんだ。
だからこそ"無"に見える彼を知りたいと思った。
運命だからじゃない。
彼は……
彼のような人間には出会ったことがない。
それはとても……
研究のしがいがある。
私の好奇心を満たすためだけに彼を観察し続けよう。
そして糧にしたい。
動揺もしていない、何も感じてそうにない彼のような強さを、
我が物とする為に。
そして、その運命のお陰で、私は私を思い出した。
なにに対しても、徹底的に調べ、時に研究し、時に体験しようと考え行動するのをやめられない私を思い出した。
彼を知りたい。
こういう人間がどんな時にどんな行動に移すのか。
心乱れる瞬間はいつなのか。
家族関係は良好か、どのような人生を送ってきたのか。
それはまるで、魔法陣の研究をしていた頃のような感覚が私の胸を叩いている。
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