愛に飢えてる化け物は運命を拒絶する

ユミグ

文字の大きさ
38 / 46

37【???】

しおりを挟む

夢見る誰かは笑顔だと信じている。

『      』






私は気味が悪い。
そう、幼少の頃から言われ続けている。
泣かず、笑わず、喋らない。
だが、どうしたら笑える。

『      』

「   」が傍にいないのに。

どうしたら泣けるんだ。

『       』

笑顔を見れないんだ、心揺さぶる感情が湧き出てこないのに。

笑う事などできない。
隣にいないのに。

生まれた頃から夢に侵食されている人生だと自認している。

眠るのが好きだ。
そうすれば笑顔を見れる。
だが、その笑顔は目を開けると消えている。

だから眠る。

そこにしか私の居場所がないからだ。


天使がやってきた。
それは私の運命だった。

『    り    …!』

初めて夢の中の声を聞けたのは、運命を見た時だった。

運命に支配される私でいたくない。
いつだって支配されるのは夢の中でありたいからだ。

渇望し、絶望し、枯渇し、潤してくれるのは夢の中だけだと信じている。

「リンジー!おいしいね?」
「くすくす、美味しいね」

『     です………チー      』

天使を見ると夢の声が鮮明に聞こえてくる。
だが、まだ顔は見れない。

『    です!チョキチョ!』

夢が近付いてくる。

それ以上に、

「チョキチョだ」

天使も近付いてくる。

なぜ私の夢の中に出てくるあれの声と同じ単語を発するのか気になった。
天使が教えてくれるのかと期待したが、すぐにやめた。
私は誰にも教わりたくない。「   」の事を。
あれは私だけのモノだ。
知られてたまるか。

『   ああああ!!!デズモンド様!!』

なにを叫んでいる。
私はここにいるというのに。
離さず、傍にいるだろう。

「デズモンド、さまっ!や、やだっ、や、おねがっ、いかな、いでっ!」
「…」

置いていく訳がない。

そう、こころの中で答えた。

初めて「   」にではなく、誰かに答えた。

心からの声を。

『大丈夫です、怖くない、ですよー』

日に日に声が近付いてくる。
天使を見ていれば見ているほど。
だがそれ以上に天使の声が耳に入ってくる。
夢の中の顔が見たいのに、天使の顔ばかりが気になり、動向が気になってくる。
運命だからではない。
天使だからこそだと思ってしまう心を隠すことができない。

「ディアブロ?」
「…」

違う。

そんな声音ではないだろう。

「デズ、モンド…さ、ま…」

そんな声音でもない。

『デズモンド様!見てください!』

この声音こそが彼女の音だ。

彼女とは誰のことか。
夢の中の彼女か、天使か。

パリンッ!

怪我をした。

彼女が。

いや、彼女は怪我をしない。
守りは完璧なはずだ。
いつだって私が守っている。

『デズモンド様ああああああああ!!!』

失敗した。
彼女を守れなかった。

彼女とは誰のことか。

天使か、「   」か。

彼女は無垢な女だった。
私が放つ威圧や畏怖が分からない女。
無防備に私の前ですやすやと眠り、むき出しのままで居続けてくれる大切な妃。

私とは誰のことだろう。
私か、それともデズモンドか。

『特別な日にしましょう!いいですか?』
『いい、なにをする』
『美味しい緑茶!』
『変わらない』
『美味しいケーキ!』
『変わらない』
『デズモンド様といっしょ!』
『変わらない』

天使の寝顔を見ていると濁流のように夢の内容が頭に入ってくる。
彼女の顔など分からなかったというのに、最近はボヤけた彼女の表情が見えてくる。
いつだって幸せそうな顔をしている私だけのモノ。

天使が来てからあまり眠れていない。
眠る必要がないからだ。
眠らずとも夢を見れる。
目を開けて、天使を見ていれば夢を見れる。

「ディアブロ!ゲームをしましょう!」

ああ、これだ。
この顔………いや、天使ではない。
私は「   」しか求めていない。

なのになぜだ。

「ディアブロ、今日はフロランタンですよ」

時々、夢が邪魔になる。
天使の顔を見ていたいと。
天使の声だけ聞いていたいと。

これは私のモノだと。

「……寝てないんですか?」

どうしてだろう。

夢を見ていたいのではなく、天使を見ていたい。

だから眠らない。

それはいつからなのか。

「デズ、モンド……さ、ま……」
「ここにいる」
「………すー…すー…」

デズモンドが誰なのか分からない。
だがそれは夢の中の彼女も、天使も求めている男だ。

早く思い出さなければ。

いつまで悲しませているつもりだと、どうしてか心の中で悪態をつく私がいる。

『デズモンド様!今日も花畑が綺麗です!』
『お前の方が美しい』 
『あう……』

美しさなど感じたことはなかった。

ああ、天使を初めて見た時に思ったのは、

美しさ。

目を開けている。

最近は目を開けて、目の前の出来事ばかりを見ている。

触れていなければ駄目だ。

いつでも傍にいるのだと決めたはずだ。

それは誰の感情だ。

私か、デズモンドか。

「い、や……」
「………」

天使の拒絶は聞き入れがたい内容だった。

「次は命がないと伝えたはずだが?」

天使から離れ、言い放たれた言葉に駄目だと感じた。心から。

「死」など、私たちには必要ない。

『デズモンド様、一生一緒です』
『一生一緒だ』

永遠を生きる唯一無二。
私だけのモノ。
私の存在理由。

「謹慎で許すのは、そうでなければヒナノが気に病むからだ」

気に病むことなどない。
私が傍にいるのだから。

傍にいない。

傍にいると伝えたはずなのに。
どうしてか傍にいない。

「はっ!謹慎?お前はやはり出来こそないの化け物だからな」

家に戻った私の耳に入ってくるのは弟と呼ばれている生物の声。

そんな声は必要ない。

「筆頭護衛として俺が向かう事になった」

ドンッッッッ!!!

「げほっ!げほっ!なに、すんっ、だっ!はな、せ!はなせよ!!」

彼女の傍にいる者として相応しくない。
無遠慮に彼女を見る奴など。

「はな、せ!!!」

欲深い目で見るなど、私は許していない。

「ひっ!?なに、なに、を、ころ、殺さないでくれ!!」

殺された。

「げほっ!あ、頭が狂ってんだよ!!」

パタパタと走り去る足音と共に、夢の中の音も聞こえてきた。

無数の悪魔が出現し、彼女の背後を取った。

『いやああああああああ!!!』
『ヒナノ!ヒナノ!』

ああ、やはり守れなかった。

「ヒナ………ノ………」

夢の中の彼女は私の…わた、しの………

ガタガタッッッ!!!バタンッッ!!!

倒れゆく視界の中、

やっと彼女の、

ヒナノの笑顔が見れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

【完結】二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。 優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。 優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。 そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。 絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。 そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

処理中です...