病的に見える彼と病的に見えない僕の絵具

ユミグ

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「え・・・あ、で、でも・・・」

「なんで?気持ちいいよ?気持ちいい事が嫌いな人なんて居ないだろう?」

「そ、それは・・・で、でも」

「まぁ、何も払えない僕からのお代だとでも思ってよ」

「えあ!?い、いらないよ・・・ふわぁっ・・・あ」

「後悔させないから」



僕のほんの少しの興味に付き合ってくれたらいいからさ

新しい職場にすでに慣れ始めた僕はこれからの雇い主の前にしゃがみ込む









僕の家は子爵位を遠い昔に頂いてから細々と継いでいる家系で、王家への覚えがめでたい訳でも権力を使って何かをする事も出来ない、それはそれは中途半端な家系

我がギャグノン家はそういう立ち位置の家柄だ



細々と継いでいるという事は次男の僕は家にとっていらない存在だ



そういう言い方をしてみたけれど、別に蔑ろにされている訳ではない

家族仲は至って良好だ



“貴族”としていらないのだ



だから僕は将来の為に仕事を探して家を出て行かなければならない

そう出て行ったら戻っては来ないのが常だ



だが、僕はそれに関してだけは普通ではなかった



色々な物事に興味を持つ僕は、向いた先から職についていった

一応貴族でもあり庶民との関りを昔から持つ僕は社交性に優れている

だからどこでも割とすんなり入る事が出来た



けど、興味を持ちすぎる僕は働いて少し経つと他の仕事をしてみたくなる

興味を持ったモノ=仕事に出来るという方程式が頭の中で出来上がっている僕は初めて働いた場所をすぐに辞め次に興味を向いた先に働きに出る

そしてまた・・・・・という循環を繰り返して4回ほど職が変わったところで流石に悩んだ



悩んだ時は兄に頼る

僕で答えが出ないなら兄の答えに沿えばいい



昔からそういうやり方で進む道を決めてきた



「兄様あにさま、僕のこれは病気でしょうか」

「・・・そう何度も帰ってくる家を出た次男というのがまず珍しい気がするのだが」

「居心地の良い場所に居着くのは不思議な事ではないでしょう」

「・・・病気ではない、ワイアットは昔からそうだっただろう、あちらこちらに手を出して次に楽しい事があればそちらに意識が向く、病気ではなくそういう性格だ」

「なるほど、さすが兄様、物事を冷静に判断出来る目をお持ちで」

「そういう事ではないのだがな」



という訳で僕は病気ではなくただそういう性格だったのだ

そう分かれば何も心配する事はない

今まで通りこうやって生きて行けばいい



なんたって僕は次男で貴族籍から外れているしがらみも責もない男なのだから











「ワイアット、君から愛情を感じないんだ、すまない」



何十回目かの恋人との別れにいよいよ僕に問題があると気付いた



「仕方のない事さ、君の時間を奪ってしまって申し訳ないね、最後に聞いてみたいんだが僕の何がいけないのか赤裸々に教えてはくれないかい?」



「ワイアットに悪いところなんてないさ、君のその手入れの行き届いた薄紫の髪はいつまでも触っていたくなる心地だし、同じ色の瞳だって見つめられると夢を見ているような気さえしてくる・・・ただ求められる事がなく与え続けるというのは存外つらいものだった」

「僕は贈り物などはしていたが、足りなかっただろうか」

「いや、充分すぎる程だったよ、そうではなくて、愛情だ」

「愛情・・・君を寂しくさせてしまっていたのか、それは気付かなかったな」

「いいんだ、だから君に悪いところなんてないのさ、強いて言うなれば求めた僕が愚かだったのだ」





愚か・・・・・

そういうものだろうか

兄様は姉様と3人の子供に与えて与えられてとてもいい家族仲だと思うんだけど、僕にはそれが足らないのか・・・



僕は女も男も受け手も攻め手も出来るとても器用な男だと思っている

だから柔軟に対応出来る僕は中々にいい相手だとは思っていたんだが、そうか・・・・・

僕には愛情が足らないのか



ふむ、まぁ別れの理由を知れて良かったとしよう

そんな元恋人の部屋を出て行こうとしたそんな時に目に入ったのは、元恋人だとなぜか思える色彩豊かな絵画だった



「・・・・・これは、君かい?」

「ああ、やっぱり他人が見ても分かるものなのか」

「そう感じた」

「7年前にこの街に居着いた画家だよ、イメージや人物を色で伝えるものばかり描いているみたい」

「・・・単体で見てもあまり感動はないがこの絵が君だと気付くと素晴らしい物に変わるな」

「そうなんだよ、だからあまり人気がなくて細々とやっているみたいだ」

「なるほど」



絵画を見る機会は少なくない

仮にも貴族だったし、それくらいの教養はある

ただ綺麗に色を合わせて美しく見せているように感じてしまうその作品はなんだかもったいなく感じてしまった



あれから数日経ってもあの絵画が忘れられず何をしていても脳裏に焼き付いて離れない

人はこういう現象を運命だとか人生の転機だと思う者も多いが僕の場合は“また”だ



今働いているところは板材の染め上げを専門としている店で修行をしている最中だ



「今日限りで辞めさせて頂きます」



師匠にそう言えば眉をへの字に曲げて言われる



「君が職を変えるのはある事だと聞いていたし、知ってもいたけど・・・本当に辞めてしまうのかい?ここまでの作品を作り上げられる者は極わずかだ」

「お世話になりましたが、そうですね、僕は気になる事柄が出来てしまったみたいです」

「そうか・・・君が居て華やかになったし客も増えたのに・・・」

「師匠様の作品がいいから増えただけの事です、僕は少し宣伝しただけですよ」



そう僕は社交性に優れている

だから口利きや僕が一瞬でも惚れ込んだものは多少人の目を引いてくれる

まぁ、庶民の店に元貴族という人が入ればそれだけでいいモノだと勘違いしてくれる人達も少なくない



こうして僕は無職になる



無職になれば身入りがあるまで節制しなければならない





「ただいま戻りました」



「叔父様ー!」

「きゃー!叔父様また家に居て下さるの!?」



「ふふ、少し厄介になるよ」

「ずっとでもいいのよ?」

「姉様あねさまの邪魔になってしまうからね」



「あら、私は別に構わなくてよ」

「姉様、しばらくお世話になります」

「旦那様は執務室に居るから挨拶してらっしゃい」

「はい」



足に巻きつく姪と甥を姉様が引きはがしてくれたので、すんなり兄様にお会いする事が叶う



「兄様、ただいま帰りました」

「・・・帰って来いとは言っていないがな」

「言われる前に行動せよと兄様の教えです」

「・・・・・バドル休憩だ」

「かしこまりました、ワイアット様お戻り嬉しゅうございます」

「ありがとう、バドルは相変わらずだね」



小さい頃から僕と兄様の教育係でもあったバドルは老いを知らないんじゃないかというくらいピンピンしてる

僕たち魔人は300年は生きるといわれているが、バドルはそれ以上生き続けているように感じてならない



「ワイアット・・・次はなんだ」

「絵画です」

「絵画?2回目の時も絵画だったではないか」

「今回の画家は見た事もない作風でしたので」

「紹介状を書けば良いのか?」

「いえ、まだです、1度見たきりなのでまだどなたか把握しておりません」

「・・・・・お前が家を出て60年経つが、変わらないな」

「人はそう変われないと兄様がおっしゃっていたではありませんか」

「・・・・・そうだったな」

「探すまでの時間手伝いますよ、何かありますか?」

「ああ、助かる、溜まってきてしまった書類があってな」

「お任せ下さい兄様」

「・・・・・優秀ではあるんだがな・・・・・」
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