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しおりを挟むあれから画家を探して、探したというより元恋人が直接頼んだというのですぐに見つかったのまでは良かったが兄様の手伝いが忙しくなり毎日書類と格闘していたら90日程経っていた
ちょうど社交シーズンだった事もあり兄様と姉様に家を任されてしまったのもある
まぁ、そんなに焦ってもいないし熱が冷める事もなかったので落ち着いた今日会いに行く事になった
そこは街外れの住宅街で所狭しと家が立ち並んでいる一軒が職場でもあり家でもあった
庭もないそこの家は周りと1つ背が低い2階建ての家だった
あの絵を描いた人にしては没個性のようなどこにでもある木造建ての外観
トントンと扉を叩くけれど人が出てくる気配がない
けれど、こういう事態も慣れている
職人気質な人達は大抵周りの音に気付きにくい
人間性にもよるけど、僕が集めた情報によると
籠りがち、人と目を合わせず最小限で会話を済ます、日に当たってない白い肌におどおどした態度
これが正しければ少し強引に行っても大丈夫だろうと考え扉を開ける
魔術仕掛けでもないただの鍵は簡単に開く
こういう街並みの場所で逆に警戒を強くすると強盗に合うらしく皆この様式にしているが、僕から言わせれば皆一斉に魔術仕掛けにしたらそちらの方が問題はないだろうと思った
鍵を開けて室内に入ると絵具の匂いとたくさんの絵画が床に乱雑に置かれている
全てを仕事部屋にしているのか
気配がなく2階に居るのかと階段に足をかけたところで反対側に下に通ずる階段があるのが見えた
なんとなく下だろうと思い、登るのはやめて下に降りる事にした
降りていくと魔力が濃くなっていき、普段下で行動しているのが分かるくらいの密度だった
ギィギィとなる階段の音にも気付かない程集中している家主を見つけた
白だったであろうキャンバスに色彩豊かな絵が塗られている
これはなにをモチーフにしているのだろう
この人が描く絵画は答え合わせも一緒にして初めて完成すると僕個人は思う
だから、これの答えが知りたくてたまらなくなった
「こんにちは」
ガタガタッッ
声をかけると流石に気付いたのかこちらを向く
ふむ、確かに色白だな、日に当たっていない者の特徴そのものだ
ヘーゼル色の髪とブルーに薄いグリーンが入ったガラス玉のような瞳を持つ彼は磨けば化けるだろうなと思った
「あ、あ、あ、あの!鍵はかけてあるはず・・・あるよね?え?え?あの、どちら様でしょうか」
「これは失礼した、私はワイアットと言いあなたの絵に惚れたので習いに来たのだ」
「なら・・・え?買いに来たのではなく?」
「もちろん、買いにも来たが雇っても欲しくあるのですよ」
「そ、え?えっと、描く事は出来ますが、その、雇うのは、そこまで余裕がないので」
「では、習うだけでも良いのです、師匠様になって頂けますか?」
「ええ!?い、いや、あの、僕はそんな教えるなんてたいそれたものでは」
「ふむ・・・今急ぎの依頼はあるのでしょうか」
「い、いえ、今依頼はなく・・・」
「でしたら、私を描いては頂けませんか?」
「へあ!?」
「もちろんお代はこちらに」
「あ、え、えと、はい、助かります・・・今からですか?」
「出来れば」
「あ、はい、えと、はい、分かりました、少し待ってて下さい」
「いくらでも待ちますよ」
「あ・・・えっと、その、ちなみに、どうやって入ってきたんです?」
僕はニッコリ笑って答える
「開いておりましたよ」
彼の描く作品に囲まれて描かれるというのは中々に心地の良い出来事だ
あれからすぐに真っ白なキャンバスに変えて僕を観察すると描き始めた彼の手元はやっぱり今までにない作風だ
筆をくるくると回すように描いたり、いくつもの絵具を筆に纏わせたりと面白い
面白いがその手法自体はすぐに真似が出来そうだ
だが、僕が学びたいのはそういう事ではなく彼の見る風景だ
元恋人だと分かる作品は確かに分かりやすいが、あれを僕が描けと言われたら無理だ
特徴は掴んでいるのに全貌までは分からない不思議な画力
僕はあれに惚れた
なんとしても雇って欲しいが・・・・・そうだな
堅く相手すると壁が出来てしまいそうな相手だ
軽くゆるやかに懐に入るような人間になればいけるだろう
彼は強引さが嫌いではないはずだから
「出来ました」
「ありがとう、見せてもらっても?」
「もちろん、あなたのですから」
「ワイアットと呼んで下さい」
白だったキャンバスには意外な事に僕の色である薄紫はあまりない
確かに目に入る程の色はあるけどそれより目立つのは黄金だ
黄金で縁取った絵具の中に入るようにパステルカラーが入り真ん中にむけてどんどんと薄紫になっていく作品は確かに僕だった
素晴らしい
こんなにも出会ったばかりの人を的確に色で魅せるなんて
彼の頭の中はどうなっているのだろうか
彼の目線で見る世界を見てみたいと思った
「本当に僕ですね・・・・・素晴らしい、このような世界があるとは・・・初めて見る僕であり今までの僕でもある」
「そう言って頂けると冥利につきます」
「本当に・・・・・これは・・・・・ああ、こちらがお代です受け取って下さい」
「ありがとうございます」
「・・・確認なさらないのですか?」
「え、あ、重さが一律ですから」
「ああ、そういう・・・」
確かに料金はキャンバスの大きさによって異なりはあれど僕が頼んだ金額は銀貨12枚
銀貨だけいれた重さは持ちなれたものだろうが、それにしても重さでか・・・・・
「お見送りしますので」
「ありがとう、それで明日から学ぶという事でいいですか?師匠様」
「う、嘘じゃなかったんだ・・・」
「師匠様?」
「い、いや、敬称をつけられるほど偉くはありませんし、それに教えるなんて僕にはとても」
「では師匠、もしや教えるのに金銭が必要ですか?」
「い、いえ、ですから教える事自体が」
「では、体で払うのはどう?」
「・・・は?か、体って・・・」
「男は嫌?口でも充分気持ちいいけど」
「なんっ!?な、な、な、そ、そういう支・払・い・もいりません!」
「でも、学びたいって言ってるのに何も返せないのは僕・が心苦しくなると思わない?」
「それは、そうかもしれないけど」
「だからさ」
「え・・・あ、で、でも・・・」
「なんで?気持ちいいよ?気持ちいい事が嫌いな人なんて居ないだろう?」
「そ、それは・・・で、でも」
「まぁ、何も払えない僕からのお代だとでも思ってよ」
「えあ!?い、いらないよ・・・ふわぁっ・・・あ」
「後悔させないから」
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