おままごと

ユミグ

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起きるとまだ温かいベッドのぬくもりがあり、朝食のいい匂いもして食欲がそそられる

洗面所に向かってからキッチンに行くとちょうど朝ご飯が出来上がっていた

「セラおはよう」
「おはようルーカス、また寝坊したわ」
「無茶させたのは俺の方だから気にしないで」
「ん」

ちゅ、と挨拶をすれば席に着くようにと促されて朝ご飯を頂く

「やっぱり美味しいわ」
「ありがとう」

卵焼きに魚の開き、汁物にきんぴらとキャベツのサラダ
ルーカスが作るご飯は美味しくて真似しても違う味になる

「今日は少し森に入ってくる」
「そう、気を付けてね」
「大丈夫だ、セラフィーナ様も誰が来ても開けてはいけませんよ?」
「また敬語になってるわ」
「…」

そろそろ寒くなる時期だから燃えるものを探しに行くみたい
2年目ともなれば慣れてきたわ

洗い物は私がやるからと見送って食器を洗いせっかくだからと大掃除をする為に窓を開けて全ての埃を払っていく
物置き部屋もたまには掃除しないと駄目ね

壁も拭こうとしたけどそろそろお昼ご飯の時間だと思い急いで食事を作る
湯豆腐と一緒に温野菜にしようと切って置いておけば戻ってきたルーカスと食べてまた掃除に戻り、ルーカスは畑に向かった

壁も拭き終わりあとは床の掃除だけだわと少し休憩しようと紅茶を淹れていたらバタバタと足音を立ててルーカスが家の中へと入って来た

「セラ!」
「どうしたの?顔色が…」
「今すぐ出る!」
「え?きゃっ!」

私を抱えて外に出ようとしたけれど失敗したらしい
久しぶりに聞いた数十人の声と足音と怒号
家の中に泥も払わないで入ってくるから、まだ床の掃除はしなくて良かったと思った

私を肩に担いでるルーカスがどんな表情かは分からないけれど道が塞がれてどこにも行けない状況なのはなんとなく分かる

「まぁ、セラフィーナそんな風に担がれて可哀想だわ、早く離してあげなさい」
「お母様」
「「「はっ」」」

ルーカスは強いけど数十人にこの狭い部屋で取り囲まれたら身動きが出来ないのか私を降ろす

「会いたかったわセラフィーナ!」
「私もお会いしたかったですわお母様」
「嬉しい事を言ってくれるのね」

ルーカスが取り押さえられて床に拘束されてるけど一言も喋らない

「ルーカス生きている?」
「生きてっっ、ぐっ」
「良かった、喋らないと不安になるわ」
「そんな罪人の事など気にしないで早くここから出ましょう」
「まぁお母様、そんなに慌てては淑女として失格ですわ、紅茶でも飲んでからにしましょう」

ルーカスの椅子を私が座ってお母様は私の椅子を対面に置いて座らせる
なんだか嫌そうな顔をしていたけれど、紅茶を淹れ終わるまで静かだった 

「こんなところに居たくもないわ、早く戻りましょうセラフィーナ」
「まぁ、でしたらまた遊びに来て下さいな」
「なにを言っているの?」
「常套句ですわお母様」

紅茶を置いて座る
癖で私のカップを私が使ってしまったわ

「あなたが企んだの!?」
「王女様は関係ありません!」
「黙りなさい!」

ルーカスの声がお母様に遮られる

「なにを考えているか知りませんがこの男がお前に狂言を吐いてここまで誘拐したのですよ!」
「まぁ…ルーカス本当?」
「………事実です」
「あの時襲撃なんてなかったの?」
「見せかけです…あなたを私のモノにしたかったから……誘拐しました」

きっと婚約者の元へと向かわなくてはならなかったからあの時なのね

「私の事が好きなの?」
「…お慕いしております、ずっと、出会っ」
「分かったでしょう?早く帰るわよ!」

お母様はルーカスの言葉を遮ってばかりだわ
ルーカスも私の事が好きだと言ってくれたのに、いつからなのか聞きたかったのに

「私の家はここですわ」
「なにを言っているの?」
「そのままですわ」
「その男がお前をっ!」
「存じておりました」
「は?」

ルーカスが間抜けな声を出す
ふふ、そんな声も好きだわ

椅子の裏ならと思って隠しておいた書類を取り出してお母様に渡す

「なによこれ」
「読めば分かるかと」
「いいからっ」
「お母様の秘密について記載しておりますわ、今読む事をオススメしますけれど」 

秘密などありすぎてどれだか分かっていないのでしょう
内容は私の出生の秘密と国王暗殺未遂の書類

暗殺未遂の書類は私では知り得なかった物だけれど私の父が国王ではない事は知っていた
本当の父だと言う人が1度迎えに来たから
私を利用しようとして
だから私は王族でもないのよ、本当は

そんな事はどうでもいいのだけれど

「な、な、」
「私は死んだと報告して頂けますか?それとルーカスの罪状を取り消して下さいな」
「今お前たちを殺せば」
「まぁ、怖い」
「セラ!」

危ないと思ったのかルーカスが起き上がろうとする

「ルーカス駄目よ、もう少し我慢だわ」
「…」

言う事を聞いてくれたのか大人しくなった

「そうそう、お母様以外にも来客があったのですよ」
「誰よ」
「叔父様ですわ、ちなみに私たちが死ぬとその書類開示するように頼んでありますの」
「なんてことをっ!なんてことをしてくれたのお前はっ!」

叔父様が来たのは初めてルーカスが街へと降りた日だった

ルーカスの不在を狙ってやってきた叔父様は私の本心を聞きに来てくれた

“ここに居たいか”と

あいつが誘拐をしてお前を無理矢理拐った奴の側に居たいかと聞かれました

私が城でいい待遇を受けていないのを知って度々心配してくれた叔父様はここまで来ても変わらず私の心配と本心を聞きに来た

“側に居たいです、ルーカスと共に生きていきたいです”と答えました
 
見つかるのも時間の問題だからと私の前もってなにかあった時の切り札として渡しておいた書類に追加で入れてくれた物を置き土産に去っていった

「私は死にました、あなた様は今一体どなたに話しかけているんですの?」
「このっっ!」

手を振りかざしたまま動かない腕はゆっくりと降ろされ顔を真っ赤にして出て行った
書類は持っていかれたけれど予備はある

「はぁー…」
「セラ…」

床に這いつくばってたルーカスの顔色は悪い
それもそうでしょう
私を誘拐した事がバレたんですから

「言ってくだされば良かったのに」
「…」
「俺と共に生きてと伝えてくれたら喜んでと申し上げましたのに」
「え?」
「いつになったら告白してくれるのかとずっと待っていたんですよ」
「そ、んな…だって、俺は…」
「私はやっぱり告白されたいです」

手を握っておねだりする
いつものように

「いつから…」
「あら、こちらの気持ちを確かめてから告白するのですか?」
「そ、で、でも、俺は好かれてないと思っていたから」
「“永遠にお側に仕えたい”と言われた時からお慕いしておりましたわ」
「…っっ、セラ!」

抱きしめられた体はやっぱり逞しくてドキドキする

「初めて会った時から好きだった、子どもなのに全てを諦めたような目で佇むセラフィーナ様は可憐で美しくて俺のモノにしたいと思ったんだ」 
「まぁ、嬉しい」
「あなたが婚姻を望んでいない事は知っていたから拐ってしまえばと…」
「嬉しいですわ」
「俺は誘拐犯です」
「ええ、私をあそこから連れ出してくれました、ありがとう」
「っ、本当にいいんですか、こんな生活しかさせてあげられないのに」
「あら酷いわ、いつか帰そうと思っていたの?」
「嫌だ、でもあなたには…あなたにはこんな場所よりも似合うべきところが」

また敬語になってるわ
いつまで経っても直らないのね

「では似合う場所に行きましょう」
「…」
「私の騎士様と2人ならどこまででも」
「セラ!」

ここが駄目ならどこへだって行けばいい
叔父様だって協力して下さるわ

「セラ」

体を離して私を見つめる濃い緑の瞳

「出会った時から愛しているんだ、いつまででも縛り付けていようと思った」
「あら、もう終わりですの?」
「これからが始まりだ」
「嬉しいですわ」
「一生俺に縛り付けられていてくれ」
「喜んで」


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