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しおりを挟む人間には、ごく稀に「器」として存在する者がいる。私の器ではない。世界に必要な器たちだ。
新しい世界になっても、器の在るべき姿は変わらない。
そこには召喚、収納、理、時が存在している。
初めに天界が創造され、続いて下位世界が、「淫魔世界」と名を変え、創造された。その次に、悪魔様と呼ばれるあの子が君臨する悪魔世界が創造される。
そして、人間が住まう世界が創られる際に、神々が生まれ出る。彼らは「箱庭」と呼ばれる空間で数千年の時を過ごし、眠りながら神の力を理解する。そして、その世界で初めて人間が死を迎える時、目覚めて魂を磨くのだ。神の役割は人間の魂を磨く事。
神々は力と使命だけを把握しており、天界が存在するという事実も、磨いている魂がどのようなものなのかも理解していない。
では、どうすれば天界に辿り着けるのか。
それは至極簡単だ。
神々は力を使って、全ての神と会話できる。脳内に直接響く声は様々だ。「宴会がある」「呪いを放たれて死にそうだ。誰でもいいから助けてくれ」「追いかけっこするぞ!」など、誰かがみんなに伝えたいことが、全ての神々に声として届く。
そして、その声を、初めて聞く音を頼りに声をかけ、誰がどこにいるのかを尋ねる。
そうして初めて、天界に足を踏み入れるのだ。
淫魔や悪魔、人間のように必要な欲や、衝動を持つこともないため、自分たちが「生きて人生を歩んでいる」ということすら理解せず、共に生まれた世界が消滅する時に死を迎える者もいる。
だが、声が直接届くのは神々だけではない。
「神がいる」という“空想”を人間が信じ、祈りを捧げ、願いを伝える声もまた、神々には聞こえるのだ。
その声が届き、不思議そうに箱庭から世界を覗き見、今磨いているのがこの生物たちの魂だと理解し、興味を持ち、関わりを持とうとする神も存在する。
神という存在は「無」の状態から、誰かと関わることで、初めて心動かされる衝動に出会うのだ。
そして「器」。
召喚、収納、理、時の空間が創造された時、その席は空白だ。
では、その位置には誰が就くのか。
人間だ。
世界を創造する力、すなわち「望まなくても生きているだけで勝手に世界を生み出す」私は、器として存在する稀有な人間を探し、願い、納得してくれた場合のみ、その席に就けるよう管理者の力を渡す。そして、神々の箱庭に似た空間で操り方を説明し、そこに閉じ込める。
だが、必ずしも外に出られないわけではない。
時々世界に降りる機会が訪れると遊びに行き、また空間で眠るように過ごすのだ。
器となり得る存在は稀有である。
だからこそ、それぞれの器になれる存在が現れた時、世界が強制的に空間へと連れて行き、職務を全うさせる……まるで永遠の地獄のような罰を受ける「器」として存在させてしまうのだ。
アダムは時の管理者以外を知らなかった。認識もしていなかった。
「勝手に生まれ出る」というのはその通りで、彼の預かり知らぬ何かが生まれてしまう。
けれど、世界を調べようと思えば簡単に答えへと辿り着くはずだった。
だがアダムは動くことを止めたのだろう。きっと私を探し続け、楽園にいたみんなを探し続けたアダムは……疲れてしまったんだ。
そして、永遠の命がある自分に嫌気が差し、心を閉ざしてしまったのだろうと、私はそう思う。
私はアダムと違い、器を知っていた。
世界に何が存在しているのかを知っていた。だから、器になってもいいと思ってくれる人間が現れるまで、全ての管理を担っていた私は、悪魔に協力を願い、器に相応しい人間を探してもらいながら、器ごとに、どう管理し、どこまでなら操れるか試していた。
私や神々とは違い、悪魔や他の種族は魂が見えない。
そして、器となれる魂の形が分かるのは私だけ。
けれど悪魔は、人の本質を見抜くことに長けている。
人間をいたぶり、蹂躙したいという欲を持って生まれてくる悪魔は、人間を惑わすことが自然と得意になる。
だから願った。
人物像を伝え、「そんな人間に出会ったら教えて欲しい」と。
そうして出会った器たちに全ての管理を任せ、彼らが人生に満足したら殺し、また次の器となり得る者が現れるまでは私が引き継ぐ。
今の私は何の管理者でもない。
空席はなく、全て埋まっている。
私は未だに化け物だ。
取り込まなくてもいいはずのアダムとリクとケルベロス……楽園の者たちを食べ、本来取り込むはずだった私の散った魂の最後の1つ、悪魔の魂は放置している。私の魂はぐちゃぐちゃで、魂といえるかどうかも定かではない形をしている。
過去に「悪魔を取り込まない」と強い意志を持っていた私も、もう存在しない。
悪魔様であるあの子が「死にたい」と願ったら、取り込もうと思っている。
もうどうでもいいんだ。
私が何になろうと、これからどの道を選択するのかさえ、どうでもいい。
死にたい。
私は死にたいんだ。
愛する者を全て失った私は、死にたくてたまらない。
だからこうして、死ねる方法を研究している。
新しい世界になって100万年経った今も、諦めずに私の死を探し続けて、失ってしまった愛を追いかけている……こんなこと無駄だって分かってる。
分かってるよ。
だけど「今」を見てしまったら、絶望に心が苛まれ、全ての世界をきっと呪ってしまうだろう。
そんな私は今、天界にいない。
あそこにいたら、嫌でも現実を突き付けられるからだ。
私の魔力で埋まり、いつまでも清らかな世界であり続ける天界は「私の物」だと、私が創り上げた世界だと痛感する。
どこを見ても、何を感じても……アダムの存在がない。
楽園も、
リクも、
ケルベロスも、
アダムと寝転がって空を眺めていたあの場所も、
ないんだよ。
どこにも………
ない。
だから私はほとんど、どこかの世界にいる。
淫魔世界が創造されてすぐ神々に伝え、「なってもいい」と思える者が統率し、その者が死ぬことになったら次代を探せと命令した。私の魔力で敷き詰めてある淫魔世界を上書きするように魔力を満たせとも命令したが、これに意味なんてない。
淫魔世界も悪魔世界も天界も、何をしようと私が消滅させない限り消えない場所だ。そして魔力を上塗りしたところで、私の魔力が消えるわけでもない。
だけどアンテロスが……私の友人でもあり、子どもでもあったアンテロスが、淫魔世界を愛していたアンテロスがそうしていたから……
意思を継いでいるわけじゃない。
ただ……そう……ただの独り善がりだ。
今の私はどこかの人間世界にいて、人気のない森の中で研究している。
そこは私の魔力で世界が成り立っているけれど、それは昔、愛する世界と呼んでいた世界を私の魔力で上塗りしたように、ここも意図的に上塗りしたからだと……だからここはこんなにも私の魔力で溢れているんだと………勘違いできるから。
こうやって現実逃避するから、天界にはほとんど帰らず、どこかの世界に滞在している。
そんな私は化け物だ。
そしてその認識は、私の中で根強くこびりついている。
それは今の世界を騙すことにも繋がるのだと体感する出来事が起きた。
私が召喚されたのだ。
私は召喚の管理者でもあった。理解しているからこそ拒絶はできるけれど、なぜ召喚されたのか気になって抗わず召喚されたことがある。
神は、たとえ召喚した相手が神であっても召喚できない。
必ず失敗する。
だけど、私は召喚された。
疑問を、好奇心を満たそうと……久しぶりに「死を願う心」を忘れ、召喚された先で請われた内容は「世界を壊し回る悪鬼竜を倒してほしい」という話だった。
その言葉を聞き、召喚の基本を理解し、世界を生み出すこの私がなぜ召喚されたのかという事実も理解した。
まず、私は神ではない。
ラムウ様に創られた楽園の者たちは、人でもなく、神でもないのは知っていた。
だが、人でもない私を召喚できたのはなぜか。
これもまた至極単純だ。
私は楽園の者であり、人であり、獣人であり、魔人であり、淫魔であり、竜人であり、鬼人でもあり、リヴァイアサンでもある魂を取り込んでいる。
人として生きた人生も本物であり、男として姿を変えることもできるという「私の中の真実」が、召喚を成功させた。
召喚は、願いを乗せた想いで、必ずその者たちが望む相手が他世界からやって来る。
「運命を」、と思えば運命の相手が。戦争の道具ならば、その世界の道具となる者が召喚される。たとえそれが、己らが望んだ形でなくとも。
私は私を様々な形で認識している。
そして今回召喚された悪鬼竜という存在を倒すことが容易いのが、この私なのだ。
今回の召喚がたとえ淫魔だとしても、運命の相手を望まれていても成功していただろう。
だって私は、全てを兼ね備えている中途半端な化け物だから。
だが私は強い。
だから強い想いと莫大な魔力が必要となる。そしてそれらが満たされたのだと理解するまでに……一体、何分かかったのだろうか。
その間だけは死を願うことを忘れられたが……理解してしまえば、用のない場所にいる必要もないと、
また研究を始めた。
そして今。
なぜそんな昔のことを思い出したのかというと。
バチバチバチバチバチバチッッッッ!!!
召喚されそうだからだ。
私の足元には召喚陣があり、どこかへと運ばれるのだろう。
今までもあった。
その度に召喚の間で目を覚まし、元いた場所に帰っていた。
今回もそのつもりだった。
だけど………
寂しかった。
いつまで経っても死ねない自分に嫌気が差し、どうしようもない悲しみばかりが私を覆う。
愛を………
愛が欲しいと、そう思ってしまった。
伴侶のような愛じゃない。
ただ私を愛して欲しかった。逃げ場のない私を癒し、あたためて欲しかったんだ。
だからね?
バチバチバチバチバチバチッッッッ!!!
抗わず召喚された。
100万年の悲しみを癒したくて、そして私を「私」と認識せず、人間として接して欲しくて。
か弱くて馬鹿な私を演じる私を愛して欲しかった。
私自身を愛して欲しいわけじゃない。
騙していても、騙しているからこそ降りかかるような愛が欲しいと、
そんなことを思いながら横になり、目を瞑った。
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