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召喚されたけど引きこもっててもいいですか?
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しおりを挟む「はああぁぁぁぁぁ…………」
「お疲れさまでした」
「とっても神々しかったよ!」
「さすがユイ、とても堂々としていたよ」
「休むといい」
カーテンが閉められてやっと一息ついた。
みんなが労ってくれるけど心の消耗が激しくて、ぐたぁっ…ってなる。
「聖女って怖い」
「可愛いの間違いでしょ」
「「そうだな」」
可愛いじゃないよ、怖いよ。
なんであんなに大勢から感謝されるのか分からない。
だって私的になにもしてないもん!
「ここからは長旅ですから、どうぞゆっくりなさって下さい」
ネイサンの言葉にそうだ、とクレームの行方が気になった。
「あの、この馬車の大きさって普通?迷惑にならない?聖女ご一行の馬車が邪魔で通れなかったんだけどー、とかならない?」
「問題ありませんよ、道は広く作られていますから」
「ほ、本当?」
「ええ、本当です」
道が広いなら大丈夫かな?
それにしても…それにしても…
「…………聖女って恐ろしいね」
「「「「恐ろしい?」」」」
「はぁ………怖かった」
みんな不思議な顔してたけど、あんな風に崇められると聖女の存在の恐ろしさを感じる。
あんな1つに対してみんなが同じ方向を向いているのって正直怖い。
待ち望んでたって言ってたけど、本当なんだと分かるけど…改めて聖女を、ううん。初めて聖女を体感した。
「はふ………」
横に座ってるエルに体を預けて目を瞑る、眠さなんてどっかいっちゃったけど無理矢理眠る、そうやって心を落ち着かせてる私を心配そうに見つめる4人の視線には気付けなかった。
「ん………」
「起きた?」
「エル?」
馬車の中には簡易的なベッドもあってそこでエルと横になってたみたい。
さすがに2人がぎりぎりだけどね。
「ん、寝ちゃった」
「ちょうど夕食の時間だからいい時に起きたね」
「ごはん…………っ!野宿!?」
野宿!楽しみ!
今までももちろんたくさんの異世界を感じてたけど、野宿なんて定番中の定番だし!森の中っていうのも初めてで楽しみ!
「くすくす…そうだよ、今日は野宿」
「ふわ……外出ていいの?」
「もちろん、その前に身だしなみ整えよう」
「うん、あ!エルのもやりた…………完璧だね」
いつ見てもみんなちゃんとしてる気がする…
「くすくす……今度してもらおうかな?」
「うん」
結い上げた髪をきっと眠っている間に解いてくれていたのかストレートになってる。
「あのね?」
「ん?」
「エルがもしね?もしで考えてね!」
「ふふ、うん」
「もし夫の座が嫌になったらちゃんと言ってね?」
「…………え?」
「あの時私はきっとみんなみたいに真剣に考えて言った訳じゃないの……だからって私に不満はないよ!?でも…これから先、嫌になるかもしれないから…その時はちゃんと言って欲しいな」
「…………」
「私はこの世界の夫婦事情をまだよく分かってないから……粗相したり気に障る事があったら言ってね?指摘されたからって聖女をやめたりしないから」
髪を梳いていた手が止まって後ろからぎゅっと抱きしめられる。
「わ」
私はまだまだ知らない事だらけ。
そんな私に4人が夫になって色々としてくれる。
だけど私はまだなにもしてあげられてないんだ。
「俺は離れないよ、これから先ユイの夫が増えたとしても絶対に離れない。離さないよ」
「う、うん………そっかぁ」
「分かってないね?」
「わ、分かってる」
「分かってない」
「うひゃっ!?」
くるっと体が回転してエルと向かい合わせになる。
「ユイの事はもちろん聖女として見てるよ、俺たちの世界を文句1つ言わず受け入れてくれて、聖女を全うしようとしているユイの事を聖女として尊敬してる。けどね?こうやって夫として居る時はユイを1人の人間として、女性として見てるとね?こんなに可愛くて心優しい妻が俺のだって事凄く誇らしいし嬉しいんだ、だからユイもちゃんと自覚して?」
「…………何を?」
「凄く魅力的な女性だって事」
魅力的…
現実味のない言葉だ…
神官はモテないとは聞いたけど、それでもみんな格好良くて優しい素敵な人達なのに、どうして今まで妻が居なかったのか不思議。
「…………そっかぁ」
「分かってないね?」
セクシーな目元が鋭くなって紫の瞳が光る。
「わ、分かってるから!分かってます!」
「…………少しずつでいいから俺の気持ち正しく受け取ってね」
頬を持ち上げられてゆっくりと顔が近付いて…………
「聖女様は起きられたか?」
「「ビクッ!」」
「お、起きました!」
「食事の用意が出来た、ました」
「はい」
ダグラスの慣れない敬語を聞きながら2人で顔を合わせてくすくすと笑い合う。
「準備しよっか」
「ん」
エルに髪の毛と服を整えてもらい外に出ると見た事もない景色が広がっていて、これから先の人生はこの景色が当たり前になるんだなと、この世界で暮らす実感を抱いた。
夜の森に開けた場所があり魔法で出来ているであろう人工の光と森の匂いと美味しそうな料理の匂い。
…けどそれだけだった、野宿を感じる景色は………………
部屋にあった高そうで重そうな机と椅子が用意されていて、その周りには守護神官達が守りを固めていてまるでどこかお偉いさんの食卓みたいになっている…
野宿ってなんだろう…………
「聖女様、大丈夫ですか?」
「エ、エマニュエル大丈夫ありがとう、ちょっと異世界感じてただけだから」
「そうですか、それと私の事はエルと呼んで頂いて構いませんよ」
「う、うん」
人が居るところではみんな恭しくなる、ちょっと違和感があるけどそういうものなんだって。
「聖女様眠たくはありませんか?」
「うん」
「お腹が減ったでしょう」
「うん」
「今日は出来ませんが、聖女様のおっしゃっていた散歩、必ずしましょうね」
「うん」
エルが和ませてくれるんだけど、やっぱり大勢居る場所は苦手。
それを分かってくれてるのかすぐに席に着いて食事を始める、4人と食べられるからまだ食べやすい。
これが1人でとかだったら食べたくなくなってたかも…………
「聖女様」
「ん?」
「お口を開けて下さい」
「…………は?」
「どうしました?」
私の横に座ってるネイサンが当然のように私に給餌してくる…………これって外でもやるの!?
「ネイサン」
「はい?」
コソコソ喋る私に合わせてネイサンも小声になるのがなんか可愛い。
「外でもこうなの?これって普通?」
「何が………ああ、そうですよ、妻の世話は夫の役目ですから」
「…………うん」
「さ、お口を開けて下さい」
「あ、あーん」
これが普通……………………異世界恐るべし…
人が見てると思うと凄く食べずらかったけど、これからもそうなんだからと自分に言い聞かせて無心で食べ続けた。
ていうか食べさせてもらうのってイメージだけだと食べずらそうなのに、こんなに違和感なく口に運ぶ能力を持ってるみんなも凄いな。
「はふ………ごちそうさまでした」
「もうよろしいのですか?」
「うん」
私が食べ終わるとみんなが動き出しテーブルを片づけたりと動くから私も手伝おうとお皿を持ち上げたらダグラスが私の持ってるお皿を掻っ攫っていった。
「…………」
「…………」
ダグラスと睨めっこしてたらネイサンから声がかかる。
「こちらに」
「…………はぁい」
ふてくされながら連れて行かれたのは丸太椅子が作られた場所だった。
「お座りください」
「…………」
座ると紅茶と1口サイズのお菓子が出される。
「ネイサン………」
「いいではないですか、何度もお伝えしていますがあなた様はどんな事でも命令してよいお立場なんですよ」
「…………」
旅をするって聞いてから私は色々と質問した。
野宿はするのか?焚火を囲んでお酒を飲むのか?やっぱり丸太椅子は必須だよね!?
なんて野宿というよりキャンプを思い浮かんでいた私は色々聞いた、それをうんうんと聞いていたみんなは例え私の妄想が違っていても口に出さずただ“願い”だと思って聞いていたんだろうな。
こんな立派に整えてある場所で丸太に座るなんて事はしないだろう…………それでも私が口に出した無責任な言葉を叶えてくれた事は嬉しく思うけど…………言葉には気を付けようと改めて思う。うん。
「今日はみんなの気持ちが嬉しいから思いっきり楽しむ!けど、これからは大丈夫だから」
「分かりました、では今日だけは楽しみましょうね」
「うん!」
本当に気を付けよう!
権力って怖い!
10
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