巡る旅の行き着く先は終焉と呼べるのか

ユミグ

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召喚されたけど引きこもっててもいいですか?

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「失礼する!聖女様のお考えについて伺いたい!」

いきなり知らない人の声が背後からした驚きと、エルといちゃいちゃしていたのを見られて恥ずかしいのと、部屋から出て行った3人の大きな声があとから聞こえてきて思わずエルの胸元に顔を隠す。

「今すぐここを出ろ」
「何をしているのか分かっておられるのですか?」
「聖女様はお疲れだって聞かなかったの?」
「何故浄化をしない場所があるのか聞くだけだ」
「それは神殿の総意であり聖女様の意見を取り入れてはおりません」
「出て行け」
「ならば問おう!その意見に聖女様はどう思っている!?」
「無礼が過ぎると思うんですけど………」

びくっと体を揺らす私にエルが背中をぽんぽんと叩いてくれる。
いや、怖かったのはフィフィのあまりにも低い声を聞いたからであってあの人にではないんだよ…
ていうか、私膝から降りたい………

「エ、エル降ろして欲しい」
「どうして?」
「だ、だって知らない人の前でこれは恥ずかしすぎるからっ!」
「ふはっ、相変わらずユイは可愛いね」
「そっ!お、降ろして!」

頬にちゅっとされて………やめて欲しかったけど…されてからソファに降ろされる。
私に話しかけてるだろう人を無視する訳にもいかず、でもどうしたらいいかも分からないからエルに膝をぴったしつけて前を向く………のは難易度が高いから少しだけ目を伏せる。

「私はヘイウッド・ミラ・ブルームフィールド、ブルームフィールド国で大公の座を頂いている者だ、聖女様に問いたい!何故浄化をするのは神殿がある範囲のみなのだ!聖女として出来損ないだから限りがあるのか!?」
「「「「あ?」」」」

出来損ない………え?私って出来損ないなの?………知らなかった。
確かに他の聖女がどれだけ浄化出来たのか知らないからそうなのかもしれないなぁ。

「あまりにも無礼が過ぎる!聖女様が出来損ないなどと誰が言った!」
「見学に行った貴族から流れて来ているぞ、黒目黒髪でなかったと!」

ネイサンが眉間に青筋を立たせながらその人と口論を始めた。
黒目黒髪?え?黒じゃないと駄目なの?アッシュグレーに染めたばっかりの髪色だと浄化の力が弱まるとか?

「だから出来損ないなどと戯言を抜かすか!姿形よりも聖女様が行った偉業を知らぬとは言わせないぞ!それを知って尚そんな事を聖女様の前で吐き捨てるなどお前の目はそこまで腐りきったか!」

ネイサンが怒ってる…私の事でそこまで声を荒げなくてもいいのに…疲れちゃうよ?

「ならば表に出せば良いだろう!そんな噂を払拭する為にも大々的に飾り上げろ!」
「聖女様をなんだと思っている!お前のように飾りでその名を頂いている訳ではない!」
「んなっ!?飾りなどとよく言えたな!」
「お前が聖女様に言った言葉だ!もう忘れたか!」

………多分親族だよねぇ、この2人…
姓は忘れてたけどさっき神官にブルームフィールドってネイサンが呼ばれてたし、この人もその名前だし、なんとなく顔も似てるし、なんなら国名もそうだし…………わあ、すごい!てんこ盛りだぁ。

これっていつか止まるのかなぁって思ってみんなの顔を見まわすけど、エルもフィフィも怒ってるしダグラスに至っては今にもこの人投げ飛ばしちゃいそうな雰囲気だし………
話しかけるしかないかなぁ、でも威厳とか私にはないしなぁ……みんなが舐められたりしないかな?大丈夫かな?でもここで止められるのってきっと私が答えれば終わる話だよねぇ……

「は、んん、はじめまして聖女です。大公様?が私に質問したくてここに居るんですよね?」

どもっちゃったよ!きっと目もキョロキョロしちゃってるよ!

「あ、ああ」
「浄化する場所としない場所について、ですか?」
「え、かわ…黒目…………?あ……そ、そうだ!何故しない!?」

が、頑張れ私!みんなの為にも!威厳とやらを身体から出す時!

「何故する必要が?」
「んなっ!?何を言っている!?今も苦しんでいる民が居るのだぞ!それを平気で無視し好きな場所だけ選んで浄化するなど聖女のする事か!」

本当にネイサンと似てる。
遊び人になったネイサンみたい。

「民が苦しんでる………大公様にとっては1人1人が大切な民たちなのですね」
「当たり前だ!1人だって見捨てはしない!」
「では、1人の民が浄化しない私に非難すると言い出したら大公様も私を非難なさいますか?」
「当然だ!今だってみなの為に私がこうやって神殿まで来てやっているのだぞ!」

やっぱりお国の為に働く人は色々考えてるんだよねぇ…それなのに私って…なにか考えてるのかな?い、いやいや!み、みんなが楽しく笑顔になれるようにとは思ってるよ!?

「では、もしもその民が私のせいで死んでしまったとしたら私を憎み許さないですか?」
「何が言いたい!」
「聞いているだけです」
「ああ!お前を許さない!今後支援が必要になったとて力は貸さん!」

言質取ったりー!ってこういう事かな?

「そうですか、では私も大公様に倣って今後も浄化は私がしたい場所にのみする事にします」
「は?はぁ!?お前は何を言っているのだ!何故そうなる!こいつは頭がおかしいのか!」

「それ以上侮辱するなら出て行ってもらう!」

ネイサンが怒鳴ってる事よりフィフィの怒ってる顔とダグラスが今にも殴り出しそうな事の方が怖いです…


「私は、この世界の人間ではなく他の世界で生まれ生きていた事を知っていますか?」
「なにを……そんな当たり前の事を」
「私には母と父と妹が居ます、仕事もしていました。そこで生きて死ぬはずだったのにどうして私はここに居るのでしょう」
「な、にを……」
「私も1つの国の民の1人だったのだと伝えたかったのです。大公様が大切にしている民と変わりありません」
「っだからどうした!?お前の境遇など私の民ではないのだから知るはずないだろう!?」
「ですから、先程大公様がおっしゃっていた“許さない”を私も倣い許す事はしません。私があちらの世界ではどうなっているか知りませんがきっと行方不明になって必死に探してくれているであろう両親と妹に変わって私は“許さない”」
「そ………!」
「“許さない”私はあなたに力を貸す事はしません」
「………戯言だ!」
「お話は以上です」
「なにを勝手に………!」
「連れ出せ」

ダグラスが大公様の首根っこを掴んで連れて行く、扉越しになっても喚いている声が聞こえるけどそれもやがて聞こえなくなった。

「ふわああぁぁぁぁ………」

ずるずると体をソファにつけて脱力する。

「ユイ」
「ぅ”………あの、ごめんなさい、ネイサンの親族の人だったんだよね?もしも、今の対応が間違ってたら今すぐ謝りに行くよ!?」

全力で土下座するよ!?今の対応が間違いなら直ちに!速やかに!迅速に!

「そんな事はしなくていいのですよ」
「ほ、本当?」
「本当です」
「あ、後からやっぱりって言われたらその時謝りに行くからね?」
「そんな事はあり得ないので大丈夫です」
「そ、そっか……はぁ、疲れたぁ」

良かったぁ…これでみんなが楽になれればいいんだけど…私なんかの言葉で楽になったりはしないよねぇ…

「ユイ、……………私の事は恨んで切り捨てて下さっていいのですよ、私はあなたから大切な物や人達を奪ってしまった………それをきちんと分かってあげられていませんでした」

んな!?ネイサンが!ネイサンが落ち込んでる!それは駄目だよ!

「あ、そ、それは、いいの!あれはそういう言い方で撃退しただけだから!許す許さないとか本当に何も思ってないんだよ!」
「ですが………」
「本当なんだよ!確かにもう会えなくなって寂しくなる時だってあるかもしれないけど、でもね?うーんちょっとだけ夢見てたから」
「「「夢?」」」

行ってみたいな異世界へ。

なんて、夢みたいな事を思っちゃうのは私だけじゃないはず。
きっと日本人がここに居たら分かってくれる気もする!

「うん、実はこうやって異世界転移するおとぎ話?になるのかな、そういうのが流行っててね?私も異世界に行きたいなぁって思ってたの」
「そのような本があるのですか」
「うん、その本の中で帰れる人はほとんど居ないけど、でもその世界で幸せを掴んで愛する人が出来て一緒に生きていくっていう結末が大体なの。だからね?私って実は奪われた事実も確かにあるけどたくさんもらってる事もいっぱいあるんだよ。みんなによくしてもらって傍に居てくれてたくさん嬉しい言葉を言われたりもらったりして得た物がたくさんあるの………たったこれだけの期間でこんなにたくさん嬉しい事が起こってたらきっとこれから先も、もっとずっと嬉しくて幸せな事ばっかりだと思うの。だから気にしないで欲しいな………私は今こうやって4人と居れて幸せだから」
「………はい、分かりました。」
「これから僕もっともーっとユイを幸せにするよ!」
「俺も、幸せにする」
「私も!みんなの事幸せに出来るように頑張るね!」

良かった!ネイサンに笑顔が戻ったよ!

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