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大精霊様はツンデレでした
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しおりを挟む私は日本で産まれて異世界で死んだ。
淀みが溢れると必ず現れるという聖女がいつまでも顕現せず、焦れていた神官は仲間と共に聖女召喚を行った。
なんの特技も技能もない私が召喚されたのは何かの間違いだと思ったけど、私が召喚され世界が浄化されている事に感謝されれば否定のしようもない。
確かに戻れない私の世界に恋しくなる事もあるけど、私の旦那様になってくれた人達が常に傍に居てくれたお陰でそこまで寂しさも感じなかった。
私が留まる場所から決まった範囲だけ浄化されるので淀みがある3国を巡って旅をした。
もちろん旦那様達も一緒に。
とても快適な旅路だったし、毎日飽きないよう旦那様達が構ってくれたから、つまらないなんて思った事もない。
浄化の旅は長かったけど、結末だけ見ればみんなが考えてくれた家に住んでいた方がずっと長い。
国王や貴族、神殿の介入があったりと穏やかなだけの異世界ではなかったけど、とても幸せだった。
子供は出来なかった。
私はどうしても子供が欲しかった訳じゃないからそこまで気にしてはいなかった。
だけど、子供が出来ない事に疑問はあった。
出生率が低いこの世界で子供が産まれにくいのは聞いていたので知っている。
けれど私の体はこの世界の体じゃない。
5人も旦那様が居て妊娠しないなど、果たして有り得る事なのだろうか。
不妊治療や不妊かどうか調べる技術はなかった為、調べる事も出来ない。
そしてもう1つ。
私は老けなかった。
国を巡っていた頃は気にならなかった。
だってみんなが手入れをしてくれていたから、そういう事なのかと納得したんだ。
だけど、いつまで経っても歳を取らない私に疑問を覚えた。
私だけじゃない、旦那様達も。
老けないという事は寿命で死ぬ可能性が低い。
不老なんて言葉だけ聞いたらとても便利だけど、私に限ってはそうでもない。
私の体は召喚された時に変わった事がある。
“抱かれなければ死ぬ”
しかも抱かれればいいって訳じゃない。
この世界には魔法があり、人それぞれ保有する属性がある。
6つの属性全ての魔力、そして体液を体に注がなくてはならない。
精液に魔力が含まれているのは当然の認識としてある。
外から魔力を受け取る事は出来ない。
元々魔力がない私は留めておく事が出来ない、だから抱かれなくてはいけないのだ。
そんな言い方をしているけどなにも問題はなかった。
だって愛する旦那様達と愛し合う行為をすればいいんだから。
じゃぁ、誰か1人でも死んだらどうするの?
みんな死んでしまったら私はどうなるの?
聖女として召喚された私は有名だ。
黒目黒髪。
この世界にはない色を持ち合わせている私はとても目立つ。
ただ平民に混じって生きるなんて事も出来ない。
それに何より旦那様以外に抱かれるなんて嫌だった。
旦那様達は召喚をした際の陣を研究した。
余生を全て魔法に注ぎ込んだと言ってもいい。
でも何も見つからなかった。
私は確かに6つの属性が揃って初めて体の調子が良くなる。
だけど、それだって憶測や過去の事例を含んだ話
だから調べ直した。
私も魔法について1から学んだ、いつかみんなに追いついて一緒に研究するんだと。
私を召喚すると決定を下した旦那様は罪の意識で押し潰されそうだった。
大丈夫だと声をかけても、気に病まないでと声をかけても強がるだけで…日に日に病んでいった。
昔のような笑顔を最後に見たのはいつだっただろう。
心を病んだら体も病むのは当然の事だと思う。
そして体を病んだ旦那様は辛うじて意識があるけどもう時間がないのは誰の目で見ても明らかだった。
70歳を過ぎた旦那様は私から見たら充分生きたと思う。
そう思ってあげないと、私達は崩れてしまいそうだった。
「私、死のうと思うんだ」
「「「「ユイ(様)!」」」」
皺も老いも愛おしい旦那様達が私を止めようと一生懸命に説得しようとする。
「聞いて……私はこれから先…生きても別の人に抱かれたくない、私の最後はみんながいい…お願い」
長い演説もお説教もいらない。
だってもう長い時間闘ってきたんだ。
私だけ歳を取らない人生で、みんなが一丸となって私に人生を捧げてくれた。
もう充分。
だからここでおしまい。
でも悲しくなんてないよ、だって私は今までも今だって幸せなんだから。
「俺が」
「ありがとう」
一番力のある旦那様が私の死を手伝ってくれる。
「一瞬だ」
「うん」
「すぐに逝く」
「ふふ、ゆっくりでもいいよ、私はもうゆっくり待てるから」
「………っっ、ああ」
もう愛の言葉はたくさん吐いた。
懺悔も聞いた。
幸せだと笑い続けてくれた。
だから充分。
「愛してるよ」
みんなに向けて最後の愛を伝える。
そうして私は死んだ。
異世界のみんなが愛してくれたこの世界で。
**********
熱い……………
体が焼けるように熱い。
どうして?
まだ死ねていないの?
はぁはぁとうるさい私の息遣いが聞こえる。
どうして…
この体の感じは覚えがある。
でも、分からない。
どうして。
なにが。
「起きられましたか!?」
ネイサンの若々しい声が聞こえる。
ああ、もしかしてあの世は存在するのかも…
「やはり召喚に使う魔力が足らなかったか、聖女様のお体に支障が出ている」
「失礼いたします聖女様、お体を起こしますね」
出会った頃に聞いたような言葉を口にするネイサンはキスをしてくれる訳でも手を繋いでくれる訳でもなく、困惑とそして。
「え?」
「良かった……………魔力が効くならしばらくはこうして交代に魔力を分け与えましょう」
私の体は熱が下がり自由も効く。
でも、魔力は効かないはずなのに…
待って。
「ネイサン?」
「どうして私の名を…?」
私の背を支えてくれているネイサンは出会った頃の見た目で目尻の皺も老けも見当たらない。
それどころか私を“聖女”と呼ぶ。
何もかも分からない。
それでも。
「うあああああっ!」
「聖女様!?」
「ネイサンネイサンネイサン!生きてっ!生きてる!ネイサン!うわああああああん!」
最後に見たネイサンは息をするのでさえ精一杯なほど弱弱しく枯れ葉のような体だったのに、抱き着いた体は逞しく髪にも艶がある。
死んで欲しかった訳じゃない。
でも、苦悩に満ちたまま生き続けるのは見ていてとても辛かった。
私はネイサンが笑顔になってくれればそれだけで幸せになれるのに…
「うああああああっ!ネイサ、ネイサンっ、愛してるっ、愛してる、から、笑って………っっ」
愛してるの。
愛してる。
かけがえのない私の大切な旦那様なの。
お願い笑って?
名前を呼んで?
ユイって。
愛に満ちた声で呼んで。
それだけで私は幸せなんだよ。
「ネイサンっ、わたし、わたし、ネイサンが笑ってくれないと幸せになれないよ!!!」
抱き着いていた体を離して顔を見て言えなかった言葉を吐き出す。
何も悪くないよって、私は幸せだったんだって
、愛しい愛しい旦那様に願う。
だけど、私を見るネイサンの目は困惑してた。
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