巡る旅の行き着く先は終焉と呼べるのか

ユミグ

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獣王編

番外編【ネイサン・ミラ・ブルームフィールド】

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“ネイサン”

ああ、夢だ

“ネイサン”

目覚めたくはない、このまま眠ったままでいたいと妻だった彼女の姿を見つめている

“ネイサン”

愛してる

私は私でなくなりたい、そうすれば彼女の傍に居続けられたのかもしれないな





目が覚めて1番に手を取る物は本、甥に玉座を渡した後はシャフツベリー辺境伯の先代方が集めている蔵の書物を好きに読めと声をかけてくれたお陰で王城では見た事もない無数の本を読めている、蔵の近くに小さな家を借り本を読みまた何も得られなかったと蔵へ行き数冊取り出して家に戻る日々

「先王はまたここですか」

シャフツベリー辺境伯は亡くなる直前まで領主として立ちもう悔いはないなと声高らかに宣言し孫である現シャフツベリー辺境伯へと爵位を渡しすぐに天へと旅立った

「久しぶりですね」
「お茶でも如何ですか?」
「やる事が終わればこの老いぼれに付き合って下さい」
「…お祖父様にもそう仰っておいででしたよ」

そうだっただろうか

それ以上の言葉は投げかけられないと分かると本を読みながら蔵から離れる

どこにもないのだ、彼女の巡りを止められる方法が…それならばとせめて元居た世界に帰してあげたいと探っている

だが、なにもない

けれどこの本の中にはあるかもしれない、なんとしてでも彼女を…愛しい妻に死ねる幸福を与えたい。それが私に出来る唯一の償いだ

「なにか…」
「先王!」

目眩がして体が倒れ意識が落ちる瞬間目の前に彼女が、妻の姿が見えた気がした

ああ、私の決断は正しかったのだろうか



*********************************



ユイが寝込んでしまった、無理もない
憔悴しきった体で海に飛び込めば熱も出てしまう、海は冷たい風呂に入っているようだと聞いて知ってはいた

寝室に入るとリックウェルと共に眠っている姿が目に入る、私も傍にいき暖めてあげたいと体がふらふらと近付こうとするがきびしを返し寝室の扉を出るとズルズルとしゃがみ込んでしまう

ユイは言っていた

これから先ブルームフィールド国は今まで以上の国政に民は苦しめられ悪化の一途を辿ると、浄化を終え土地が潤うと父である国王が女に貢ぎ贅の限りを尽くすと馬鹿げた行動は容易く考えうる事だ、貴族として果敢に立ち上がった者達は敗れ兄でもある奴が無理矢理国王となり国として機能しなくなる、あれに国政は無理だ。知識も威厳もない
そんな彼らに嫌気が差して神殿へと逃げた私は聖女召喚さえすれば全て収まるとこれからの暮らしも豊かになると信じていた心は今思えば愚か

ユイを巡りという途方もない苦悩を背負わせ私だけが国を離れ愛する妻の傍に居る幸福を甘受するなどあまりにも罪深い

私と出会えて幸せだと、もう1度私と共に生きたいと望んでくれたユイは思い込まないで欲しいと、誰のせいでもないと言ってくれた言葉さえ酷く心にのしかかる

これから先の旅路を考えると私が居なくともユイは生きていける、皆が居れば安心だ

それなら私はブルームフィールド国でユイの旅を終わらせる書物を探し魔力を溜めよう

私は仕出かした罪に耐えられない、それ以上に笑顔でいて欲しい

国を思う心もあれど恋し愛した妻を本当の幸福に導く為に

もう1度寝室を覗こうかとしばらく思案していたが…

遅い

私は全てに遅れを取っている

扉から目を背けフィフィアンの元へと歩く



私の思いと考えをフィフィアンに話した賛成だと言った表情は暗い

「僕も魔力を集めてみる、それと他の国にも協力を願って…」
「フィフィアンまで離れてしまえばユイを守れませんよ」
「それならネイサンだってそうだよ、だけど…僕はユイにこんな事はもう…」

そう、そうですね
また巡らせてはならない

フィフィアンも国に留まり様々な方面で動くと答えを出した、私達は国の頂点に君臨する事が出来る

それは妻を守る為に必要な立場だ



“ネイサン”

ああ、また夢を見ていたようだ

目を開けると懐かしい思い出に心温かになったと思うのと同時にどのような記憶だったか思い返してみても霧がかかるようだが…愛しい妻の事は今でも、目を瞑れば見えるのに

「目を覚まされましたか?」
「……あ」

喉が渇いて体も上手く動かせない

「こちらを」

吸い口を当てられて水を飲むが上手く入っていかない

「領主様に伝えてきます」

そう言った男の背をぼんやりと眺めてまた眠りについた

もう妻を見られる場所は夢の中だけ

ああ、もう私の時間がない

なにも、なにも、見つけられなかった

離れた意味があったのだろうか

最期まで愛おしい妻を見届けたかったとワガママな心で思う

“ネイサン”

「ユ…イ…」

呼んでいる

私の罪でもある可愛らしくも強い妻が



*********************************



未だ王位継承権を持ち得ている私が城に戻れば直ぐに父は動き私を暗殺しようとするのは分かりきっていた、そんな中でもまともな貴族らに声を掛けこれから先を案じまともな国政をいくつか提案した

ここでの私は部外者だ、子供の癇癪で国を放り投げたと言われると昔はそれが正しい事だと言い放っていたがあの父が王なのだ、今では酷く悔やむ行動を正すようにがむしゃらに働き玉座を我が物になるよう奮闘していく中シャフツベリー辺境伯と話す機会があり心情を伺えた事は私とって大きな一歩でもあった

「んで?王子様はなにしに戻って来た」
「ですからこのままでは国として機能しなくなると」
「そりゃ建前だな、何を企んでやがる小僧」

シャフツベリー辺境伯は苦手だった、荒事を生業とするような所作と口調は貴族らしくなく私に良くしてくれた貴族の不正を暴いた裏に辺境伯がいた事もありいい印象はなかったが今の私で相対していると鋭さを持ち国を思う心と豪胆な政策があると分かる

私は未熟者だ、1人でやっていくなど到底出来ないのは分かっていたからこそ正直に打ち明け力を貸して欲しいと願った私にニッと笑いながら気に入ったと言い放った

「いいじゃねぇか、愛は成長もすんだぞ」
「はい…痛感しております」
「国王は放っておけ、あんなもん周りに言われて動いてるからくり人形だ」
「はい」
「今不正を暴いても人数が減るだけだ、今以上の旨みを出せば簡単に寝返るような奴らばかりだからな」

それから動きを変えた私はまず領主達へ個々に提案をした
ある者には税率を上げさえ、ある者には豊作となった食材をバーズリー国へと流せるように斡旋し、ある者には女を数人紹介するだけで上手く事が運んだ、国王は気に入った女を囲い手放さなかった為檻のような鳥籠を壊せば自然と欲しがっていた女を手にする者達も多く感謝される事も増え、国王の居場所はゆっくりと私に侵食されていった

けれどもそれだけだ、国を良くしなければならない今何故貴族共に媚びへつっているのかと苛立ちが募る

分かってはいる、物事は全て急速に変わらないのだと

理解はしているが、ユイを助ける為の時間がなくなればなくなるほどに焦りが募るが

『ネイサンは無理してない?嫌な事ない?聖女が怒るぞーってちゃんとしてる?』

ユイから何度も届く手紙に心を整え仕事に戻る

『愛してるよ…ネイサンに早く会いたいな』

「私も会いたいっ……ユイっ!」

疲れ切った体はいつもベッドへと潜るとすぐに眠りへと落ちるがたまにユイへ会いに行ってしまいたいという感情が爆発し、そして同時に罪を思い出し身動きが取れなくなる




「……う、先王」
「………だれ、だ」
「魘されておりましたよ」

私は何処に居たのだろうか、執務室な気もするが何処か隠居した気もする

昔を強く思い出せるのに今何処に居るのかが分からなくなっていく

「しばらく眠っておりましたから食事をなさって下さい」
「……空いて、いない」
「………少しだけでも」

ユイの食事は済ませただろうか、私が食べていないならユイが心配しているかも

「ユイは、食べました、か?」
「…っ、はい、召し上がりましたよ」
「そう、ですか…」

それは良かった

「先王?先王!」

“ネイサン”

ああ、失礼しました

どうしました?

“ネイサン”

私も愛してる

“ネイサン”

こんなに可愛い妻を愛せて

「先王!しっかりして下さい!」

私はなんて幸せ者なんでしょう



*********************************



父と兄を牢へと送りたかったが上手くいかなかった、その代わり幽閉という形を取らせてもらった

兄は多額の税を長年盗み民を何度も暴行しては不問にされていた事を理由に

父に関してはシャフツベリー辺境伯とエマニュエルの父であるキャッスルダイン侯爵に手伝って貰い長年微量の毒を混入させた食事を取らせ弱らせたお陰で玉座を退ける事が出来た、あれでも一国の王だ
裁く事は難しく弱らせるだけで手一杯だったがなんとか成功し玉座に着いた時にはユイは遠い国に行くと文が来た最後だった。私は一国の王になってしまった、故に平民からの手紙が届かない
ユイから来た手紙は私の元へと伝えてはいるが国王への手紙がならず者から手渡される事も難しいのだろうと、そう納得させた

捨てられた訳ではない、ユイは私を待っていてくれていると

期待のような希望のような心でなんとか立っていた、国王になり政策を繰り出し民らの生活が長く良きモノとなればユイの耳に届くと信じて…それだけを軸に立ち暇があれば書物を読み漁った

それは果たして意味があったのだろうか

許して…

どうか許して欲しい

不甲斐ない私が稚拙で愚かな考えで召喚してしまった事をどうか…

どうか

「ユイの、全てを、狂わせて、げほっげほっ、ユイの全てを、と、取り戻したく、召喚なんて、なかった、事に、失敗した…なにも、成果など…無駄、だった、のだ。せめてユイが望む、愛…を、持ったまま、死んで、ほし…失敗した…愛してる…愛、して、一緒に、死んで欲しかった、傍に…傍に…愛してる、なんて罪深い愛、な…ん…だ…ユイ…」

なにも出来なかった、ユイと離れただけ

離れたくない

もう1度やり直したならばどうか私を引き止めて

ユイのワガママに聞こえるように私を説得してくれ

頼む

こんな、こんな終わりを望んでいないんだ

ユイの笑顔が

ユイと傍に居られればそれだけで良かった

“ネイサン愛してる!”

わたし、も、あい……………
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