巡る旅の行き着く先は終焉と呼べるのか

ユミグ

文字の大きさ
95 / 247
魔王編

4-1

しおりを挟む

ネイサンが何か言ってる。

そう“ネイサン”だ。

また戻って来てる。

この世界に。

私にとって始まりの世界に。

てっきり理久が死んで私が死んでまた召喚される人生を送るのだと思ってた。
だけど、違う。

違った。

戻って来てしまった。

黒目黒髪が好まれる私の愛すべき世界。




いつからか起こされて座っている私の胸元までの髪は黒…
私の外見はどうやら初めて召喚したではなく(ひなの)になっている。
と言っても変わったのは召喚された時の髪色くらい…ああ、肉体年齢もか。

思う事がある、というか考えさせられた事がある。

私の外見は変わらない。

産まれ直しても変わらぬ顔付きに20歳を過ぎた頃から見慣れた顔と背格好。

私は果たして召喚されてから不老になったのだろうか…

それとも…

「お身体に問題がございますか?」

せっかく日本に産まれたんだから好きに髪を染めたかったのに理久が絶望のような顔で見てくるんだもん。
口では止めないけど顔では止めてくる。
理久に反対された事なんてなかったから泣く泣くではあったけどやめた。
そんな事があった陽菜乃の体である私は、いや私自身が陽菜乃なんだけど…
まぁとにかく私はアッシュグレーの髪色で召喚された私ではなく黒髪で召喚された私なのだ。

“リク”はリックウェル・イロスは居るのだろうか。

覚えているのかな…

理久を…ユイを…

違う。

絶対ではないけど多分違う。

私は召喚され続けているけど、“戻った”のだ
そう、最初から。

リクはなにも覚えていない。

リクはなにも体験していない。

リクはなにも記憶していない。

今居る世界のリックウェル・イロスは私を知らない。

今回の召喚は“5回目”だ。

リクを選んだ人生は終わったんだ。

召喚され続ける時全てが“4回目”だったんだと思う。

ずっと傍に…

きっと今回も言ってくれる。

リクならそう言ってくれるんだ。

手を伸ばしたら掴んでくれる。

それなら…それなら…



でも、駄目だよ。



リクだけを選んでしまった罪が召喚され続ける事になるのなら…



それでもいいと思った、だって1人じゃない。

でも…

でも…

リクなら…

ううん、今回は巻き込んでは駄目。

もう駄目だよ。

解放してあげなくちゃ。

私は、私はリクを何度死なせてしまったんだろう。

何度私の為に戦ったんだろう。

私がきっと選んだから。

リクだけを選んだからだ。

そんな事しちゃ駄目なんだ、きっと。

私は、もうリクと関わらない。

もう誰も巻き込まない。

私と関わったって苦しむだけだ。


「聖女様!?」

そしてまた始まる。

だけど少しだけ。

「疲れちゃったな…ぁ…」



**********



目が覚めた時側に居たのはネイサンだった。
何か説明してる、多分浄化のお願いと体についてだろうな。
疲れたのか、私の体は話を聞く事を拒絶したらしい、面倒だなぁって。

愛する人が傍に居るのに。

確かにネイサンを今でも愛しているのに。

“面倒”だと思ってしまった。

これから起こる全ての事に。

私の人生そのものに。

「召喚し浄化を願うだけではなくお身体の為に夫選定をして頂きたいなど」
「ネイサン」
「っ、…はい聖女様」
「1度しか言わないからよく聞いて」

1神殿に滞在はするが、それ以外の場所での浄化はなしとする。
2夫達の権利は聖女と同等のモノとする。
3貴族、王族までも近付く事なかれ。
4なにもいらぬ、なにもするな。
5神殿につき1度だけ披露目は行う、その際私は何も喋らず立っているだけ。
6夫についてはネイサンのみが決定権を持つ事。

「信頼する者で集めてくれて構わないわ、行為をする時は目隠しと手の拘束を私に」
「え…?」
「それとネイサン」
「は、はい…」
「死んでは駄目、生きなさい」
「っ……かしこまりました」

ネイサンは私の夫に選ばれない時は責任を感じて死のうとする。
それは4回目の時に知った。



今回の夫に選ばれたのは7人。
その中にダグラスとフィフィが居た。

エルとネイサンが居ないのはブルームフィールド国から離れられないんだろう。



どうでもいいけど。



私は喋る事をやめた。
それと涙を流してしばらくは悲劇のヒロインごっこをしていたと思う。
ほとんどを眠り、起きてる間は泣いていた。
なんで泣いてるかなんて分からない。
こんな女の相手など嫌だろうな、例え黒目黒髪だとしても。

夫が変わる事もあった。

そしてネイサンとエルは守護神官となっていた。

責任か、枷か。

そういう事を考えるのも面倒。
だから追及も詮索もしなかった。

リクには会えた。
披露目をしているからね。

少しだけ、ううん、嘘。

本当はたくさんの期待を込めた再会だった。

初めて会えた時と同じような言葉を吐いてくれたリクに抱き着いて縋って愛を囁きたくなった。

愛してるから愛してって。

傍に居て欲しい、また召喚され続ける人生でもリクならいい…そう…言ってくれる…

だけどやめた。
だって悲劇のヒロインを演じてるならとことん不幸だと思う方向に行かなきゃね。

なんて理由付けをしてみるけど、本当は嘘だよ。

“迎えに行くのが遅くなり申し訳ございません”

そんな事を言ってくれるかなって期待しちゃった。
なにも覚えていないリクに、なにも知らないリクに期待する。

愛して欲しい。

また愛して欲しい。

ごめんなさい、ごめんなさい。

もう縛られるのは嫌だよね。


最初にネイサンと話した以外会話はしていない。
次にダグラスと喋るまでは…



ダグラスの動揺が一番伝わってきた。

抱かれる時は必ず目隠しと手枷をしてくれる
だけど抱いている方は壊れるらしく、ブルームフィールド国に居る間だけでも夫が変わる事があった。

力になれないと嘆いて。

ダグラスが抱く回数は少ない。
そして抱く時は必ず動揺しているのが肌を通して伝えられる。

ダグラスを切り捨てればいいんだろうけど、私の行動で未来が変わって誰かが死ぬのも嫌だった。
だから披露目もするし貴族には会わない。
ブルームフィールド国での2年はそうやって過ごした。

「ツライか」

ダグラスが私を抱きながら聞いてくる。

「俺が逃がす…だからもうこんな事は」
「ふふっ、ははっ!」
「聖女…さま」
「逃げても抱かれる、ここに居ても抱かれる」
「っ」
「一体何が変わるの?ふふっ、ははっ!あははははっ!」
「失礼…した」

ごめんなさい。

笑うつもりじゃなかったの。
だけど今居る環境が私にとって一番穏やかな時間だと分かってる。
だから逃げたくなんかないよって言いたかったのに…

傷ついてるからって人を傷つけていい理由になんかならない。
愛している人なら尚更…
ううん、愛しているから甘えて傷つけた。

本当に酷い人間だ。

余計な事を言わないようにやっぱり黙っていた方がいい。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

【本編大改稿中】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!

七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

処理中です...