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淫魔編
5-42
しおりを挟む懐中時計も見るようにした。
デズモンド様の花を咲かせられないかなとも思ってやってみたけど無理だった、私はどこまでも劣化品だ、海のに会いに行こうかなとも思ったけどやめた、そのうち起こしちゃうだろうけど、今の私は海のと風のを攻撃しちゃうだろうから。
うっかりで魔力暴走なんて起こすもんじゃない。
家に…リクとの家に帰らずに洗浄も出来ない私はきっと臭くて汚い。
15日は泣いてた、ずっとずっと泣いてた。
それでもまだ悲しくて泣いていた、呪いを放ってはなくしてを繰り返しながら泣いていた私はとても迷惑だったらしい。
「………やめて」
「ひっく!ぐすっ、え?」
「………やめて、いたいよ」
「ぐすっ、んえ?」
「………」
「ひっく!んっ、誰?」
「………ずっと痛い…攻撃?」
「んえ?」
まだ涙が止まらなくてボヤける視界の中で聞こえる声を探した、キョロキョロキョロキョロ探したけど見当たらなかった。
目を凝らしてみたら…
地面から瞳までしか出てない子に驚いた。
「んえ?ご、ごめんね?痛かった?ぐすっ」
「………ずっと痛い、僕を殺したいの?」
「ううん!そんな事ないよ、何が痛かったのか分からなくて…迷惑かけてたらごめんね?何を止めたらいいかな?」
「………攻撃じゃないの?」
「うん」
「………」
「ふあ…」
私の目の前にちょこんと座る男の子?は茶色の髪に茶色の瞳、私より少し背が低い子はどうやら土から出てきたらしい、体中が土まみれだ。
「ふふ、土がたくさん、ぐすっ」
「………」
手で髪と頬にかかってる土を払うと私の膝に乗る子はくりくりとした瞳で私を見上げて小さな口で喋り出す。
「あれなあに?土痛い」
「土?…呪いかな?ご、ごめんね!?まさか痛くなる人が居るなんて思わなく…ご、ごめんね!?言い訳だった!ごめんなさい!怪我した?ずっと痛かった?」
「人じゃない、土の精霊」
「そうなんだ、ごめんね?」
「名前教えてくれたら許してあげる」
「ヒナノだよ」
「ヒナノ、僕の名前」
「わっ!わっ!駄目だよ!名を縛る陣があるから名前を教えちゃ駄目!」
「………」
「痛みは?」
「へーき」
「そっか、本当にごめんなさい…」
「いーよ、もうしない?」
「うん!…ご、ごめん、まだ制御出来なくて約束は出来ないけどなるべく抑えるから!」
「いーよ」
「ありがとう土の!」
「ヒナノ臭い」
「う、うん、そうだよね!洗ってく…あ、ありがと」
「うん」
洗浄をしてくれたらしい土の精霊は可愛らしい、それでもまだ悲しい私はぐずぐず泣き始めた。
力を抑えて、ぎゅぅぎゅぅ抑えてる間、土のもぎゅぅぎゅぅしてたみたい。
「ひっく!ぐすっ、うええええんっ!っ、うああああああっ!」
「ヒナノいたい?」
「いたい、よっ!いたい、こころ、が、いたいよっ!しんじゃっっ、しんじゃったあああああっ!」
「いいこいいこ」
「うああああああん!」
私の方を向いて頭に手を伸ばして、いいこいいこと言いながら撫でられた手は熱くて、デズモンド様を思い出してまたびえびえと泣いた。
いつまでも泣き続ける私の傍に居てくれる土のはずっとずっと頭を撫でてくれた。
「ぐすっ、おなか、すいちゃっ、ひっく!たべなきゃ、んっ、そこまで美味しくな、いけど、んっ、食べる?」
「うん」
土のともぐもぐしてお水を飲んでまた泣き続けたけど。
「ぅぅ…」
「ひっく!ど、した、の?」
「まぶしい…」
「光が苦手?」
「うん」
「じゃぁもうお帰り、また遊んでね?」
「………うん」
なんでか私の瞼にちゅっとキスをして居なくなった土のが消えた時は朝だった。
そして私はその場で眠ったけど、久しぶりに夢を見ない日で、起きたら魔力があまりなかったから1度家に帰ってお風呂に入って寝た私はまだ涙まで制御出来ないけど、リクの思い出がたくさんあるこの家は暖かくてまたゆっくり眠れた日だった。
「よし!」
土のが居た場所は帰る時に覚えてたから転移して詠唱する。
「世界の根源世界の理高く高く広く広く私の元へ大地に潤いを満たせ」
どこまでか分からないけど魔力がなくなるまで満たそうと思った。
痛みを与えた事実はなくならないけどせめてもの罪滅ぼしに。
「うあっ…もうだめ…」
バタンと草の上に寝転がる私の上に一緒になって寝転がる土の、相変わらず精霊は突然だ。
「ぅぅ…」
「か、帰った方がいいよ?」
「うん、ありがと」
「んーん、ごめんなさいしただけ」
「うん」
土のが私の上から消えた。
心を整えよう、アディティの所に居た私はマナーを教わった。
とても大切な事だから、完璧だと言われても唯一無二だと思われたいと言ってマナーを学ぶ期間を延ばしてもらったのは心の鍛え方があったから。
いつだって前を向いて毅然にと、言われた言葉はバーズリー国で、そうだ、私はデズモンド様だけでなくフィフィの妃となった時に誰かが教えてくれた事。
息を整えて、体の力を抜いて。
ゆっくりゆっくり整えよう。
指先まで意識して相手から見られている事を常に意識する、相手とは目の前に居る人の事を言っていたけどそうじゃない。
全ての目から意識するんだ。
私の行動、吐く息、目線を落とした先。
全てを意識されていると思え。
どんな人物がどのタイミングでは相応しいか。
アディティがお茶会を何度も開くから人間についても観察出来た。
1つ1つ私の中の人物を創り上げる。
どんな人間で、なにに感動するか、こういう人間ならどう動くか。
取り込んだ全てで様々な人物を創り上げていく、それはこれから先に必要な事。
「ん」
「………」
土のが戻ってきたらしい、どうやら夜みたいだ。
私は召喚されるかもしれない。
だから必要な人物像を創り騙し、そしてリクが言ってくれたようにいつか愛する人にだけ曝け出す私を持とう。
強くなろう、デズモンド様のように。
求め続けようアディティみたいに。
罪悪感と人に寄り添える心を持とうネイサンみたいに。
守り、人の側に居る事が大切だと思おうダグラスみたいに。
頼られる事を嬉しく思えエルみたいに。
幸福を与える事で笑顔になる私で居ようフィフィみたいに。
リクみたいになるのはやめておこう。
私はリクのような人間に近い。
それを出すと心がきっと弱くなるから。
愛する人の前でだけ私を見せよう。
「土の」
「うん」
「友達になりたいな」
「いーよ」
「ふふ、ピアス着ける?」
「知らないなに?」
たくさんピアスを作った、いつか誰かと連絡を取りたいと思った時用に。
海のと風のは対になるデザインを作ったけど、気に入ってくれるかな?
「居場所も分かるけど人間の側に居る時は来ちゃ駄目だよ、危ない」
「うん」
土のが着けてくれたピアスはシルバー。
シルバーなら誰でも変じゃないかなと思ったから。
「ヒナノ痛い?」
「とっても、でも私の為に痛みを心に仕舞うの」
「どーして?」
「私は1人じゃ生きていけないから」
「…寂しいの?」
「とっても」
「僕は幸せ」
「ふふ、幸せな私も見せられるように頑張るね」
「いいこ」
「土のもいいこ」
頑張ろう。
まだツライけど。
全然ツライけど、とっても痛いけど。
私は生きて強くなる。
私の体について分かる事はないと思うけど、それでも強くなろう。
死ねないならリクが永遠に生きられるような魔法陣だって生み出してやる。
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