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淫魔編
5-43
しおりを挟む21日経った。
リクが死んで。
そして抱かれてから29日が経った。
お風呂にゆっくり浸かってワンピースを取り出す。
黒のワンピース。
久しぶりに着る黒に懐かしさよりもしっくりくる、私にとっては黒の方が違和感のない色。
もちろん緑もある、そのうち着るだろう緑の服も楽しみだ。
女は希少だ。
それはどこの世界でも。
だからといって女が表に出れない訳じゃない。
少ないけど、この世界にも女が普通に出歩ける国だってある。
誰かが見てたらツライ事だと言うかもしれない、でも私にはこの体が当たり前だ。
慣れすぎた私に私は違和感を抱かなくなってる。
そんな心に有り難いと思う。
淀みがある田舎町に着いた。
出来れば浄化もしたい。
愛する世界だから。
数十年前に目星をつけた町はいくつかある。
とりあえずは巡ろう。
町を歩けば女だと珍しい視線が送られるけど、それだけ。
珍しくはあるけど、おかしな事ではないこの町は夜になろうとしてる。
町を歩いてみるけど話しかける人は居ない。
一応ヒールは高くしてあるけど子どもに見えるんだろうな。
くっ!小さくないのにぃっ…!
あ、あそこが飲み屋かな?
人間が入って行くから後を追うように店へと入る。
ふむ…分からん。
私は城だの神殿だの、魔王様の傍に居続けたお陰で平民と呼ばれる人達の暮らしが全く分からなくなってた。
チキュウで生きた記憶は、理久との大切な思い出はあるけど、こういう店に入った事はないからよく分からない。
1度目のチキュウでの暮らしはほとんど記憶にない、精々使ってた単語くらいだ。
「誰か探してます?」
「店員?」
「そうですよー」
「1人で、オススメの酒とつまみを」
「はぁ…どうぞ!」
女1人で飲みに来る事はないのかな。
それともこういう賑やかな場所ではないのかも。
座ったイスは硬くて座り心地が悪い。
そういうものか。
しばらく席に座ってると酒とつまみが届く。
この国の金は他の街で換金してきたから問題ない。
不味い酒とつまみを我慢して食べてるとチラチラと視線が向いている。
そして話しかけてみろと仲間内で茶化してる人間も居るから大丈夫だろう。
私から声をかけても間違いじゃないか分からないから待っておこう。
酒をお代わりして呑んでいると声をかけられた。
遅いんだよ!とっても不味いよ!
「な、なぁ、一緒に呑まねぇ?」
「どこの席?」
「あそこだ、どうだ?」
押し付けられたらしい男の指す席には3人。
あれがいいかな?
見つめてると冷やかされながらも声音が悪いとは言っていない。
「店員」
「はいー!」
「会計はどこでするの?」
「お席ですよー」
「ご…ありがとう」
「あ…ちょうどですねー!」
席を立って見つめてた男に声をかける。
「ね、どこか2人きりになれる場所知ってる?」
「「「ひゅぅぅぅ!」」」
こういう感じなのかナンパって。
「知ってる!けど…」
「うん?」
「な、と、どんな所?」
「うん?」
「その、や、宿?」
「うん、あなたと一晩過ごしたいんだけど、駄目?」
冷やかしの声がより一層店内に響く。
酒も入ってるのか耳障りだ。
「お、俺?」
「うん」
「い、行く?」
「うん」
「じゃぁ、俺先に帰る!」
なんだよとか色んな声が聞こえて久しぶりに大人数の声を聞いて頭がくらくらする。
「楽しみ」
「お、俺も」
魔力量が増えるのは仕方ない。
だから町を転々としよう。
「なんで俺?」
「好み」
「俺も、き、綺麗だ」
「ありがと」
朝まで付き合ってもらった。
浄化が確実な物となる為に。
そして帰って本格的に魔法の勉強だ。
マナーも欠かさず毎日練習してる。
身につくまで、自然な動作になるまで。
25日を過ぎたら町に出る。
そして帰って魔法の勉強。
これの繰り返し。
何度も何度も繰り返した。
なんでかお昼に来る事が多い土のはほとんどを眠りに費やしているらしい。
だからベッドに2人で眠る。
土のの為に部屋を暗くして。
あまり喋らない土のに私は居心地の良さを感じてた。
ご褒美と思ってる。
頑張る私へのご褒美だ。
*********************************
召喚されて80年が経った今日も土のと寝てた。
眠ったり話したりするのは楽しい。
長生きな友達が増えて嬉しいのだ。
「………風の」
「うん?風のがどうしたの?」
「!?知ってるの!?」
こんなに元気な土のを見たのは初めてだ。
「知ってるよ」
「どこに居るか知ってる?」
「うん」
「会いたい!僕、ずっと会えてなくて…どこに居るかも分かんなくて…会いたいの」
「そっか、寂しかったね」
「うん」
「今眠ってるんだ、起こしてくるから待っててくれる?」
「僕も行く!」
「海の中だけど水中呼吸出来る?」
「…それって海のも一緒?」
「?うん」
「いってきて…僕、海の苦手なの」
「どうして?」
「こわいもん」
相性なのかな?
確かにツンデレだと思えないと分からないのかも。
「いってくるね」
「うん」
2人の居場所は分かるから陣と魔石を使って転移…する前に水中呼吸つけておかなきゃ。
転移した場所には2人すやすや眠ってる。
水色の髪がそよそよして、風のの緑の髪と交わってるような綺麗な光景だ。
瞳も水色な海のが早く見たくなってきた、風のは緑の瞳で海のが大好きって伝えてる目線も見たくなってきたな!
ふふ、かあわいい!
『海のー風のー起きてー!私は海のとお茶がしたいし、土のが風のに会えなくて寂しいってー!』
やっぱりもぞっと動くのは海の。
風のは分かってるだろうけど、きっとわざと動かないんだなってなんとなく友人の考えが読めた。
『海のに似合う下着あるよー!』
風のがパチリと目を開けて簡単に絡まってる陣を解いていく。
『どれ~?』
『先に土のに会いに行ってあげて?』
『分かった~海の~』
『煩い阿呆!ったく、なんでこんなに眠らなきゃならぬのじゃ!』
『うわああっ!』
多分そのまま土のに会いに行っただろう。
海の中で海のに話しかける。
『私ね?海のに記憶を覗いてもらいたいの』
『なぜ余がそんな事を…』
『緑の箱の正体を人間に語り…うああああっっ!』
『なっ!なっ!なっ!』
『気持ち悪いよー!海のー!』
ぐるぐるぐるぐる海の中で渦に入れられた。
『ええい!貸せ!』
私を引っ張るからウェイヤグルン国で起きた全てを閉じて海のの記憶だけに集中した。
「おおっ?もう部屋に」
バチンッと音がした。
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「阿呆が…」
わーわー泣き叫びながら海のの気持ちに嬉しくなったり悲しくなったりあの時の事を思い出して、風のが戻って来ても泣いてた。
海のが珍しく私を抱きしめてくれてるぬくもりにやっぱり友人を持てて良かったって、大好きって思いながらぎゅぅぎゅぅ抱きついてた。
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