200 / 247
淫魔編
5-46
しおりを挟むヴァージルだっけ?ヴァージルの言う父親は凄い人じゃない、いやもちろん立派な王だよ。
そういう意味じゃなくて、父親の偉業が凄いと称えるヴァージルもちゃんと凄い。
父親はいくつもの腐敗や新しい国政を生み出した、それは凄い事だと知っている。
だからその凄さに圧倒されて身動き出来なくなってるヴァージルは勿体ないと思う。
手を握って…え?物凄い速度で逃げられたんだけど…
「も、申し訳ございません!獣王様といえどツガイ以外の女性に触れるなど…お、お許しを……」
常識が違うらしい。
まぁ、それは追々聞いてみよう。
「ごめんなさい、配慮が足りてなかったわ」
「い、いえ!その、頭を撫でて下さったのは嬉しかったですので」
撫でたんじゃねぇよ殴ったんだよ。
解せぬ。
「ヴァージルの主観だけでは何も言えないけど、父親を思い返してみて」
「分かった」
目を瞑るヴァージルにちょっと心配になる。
そんなに従順だと心配になるよ!
「父親が数々の偉業を成し得た後、纏める事が出来ると思う?」
「…」
「成し得た後、また新しい事を生み出すんじゃないの?」
「…」
「あまりにも新しくすると混乱する、そしてヴァージルが父親を見ていたように父親もヴァージルを見ていた」
「っ…」
「お前なら纏められると」
「っっ~」
「やりたい事はやった、だからお前には纏めて欲しい。新しく創り上げた事柄を確たる物にして欲しいと願い、玉座を簡単そうに渡したんじゃない?」
「み、見ておられ」
「ある訳ないでしょ、私はこの世界を知らない」
「っっ、そ、そうだったのか…そう、そうだ!父ならそう思うはずだ!」
「ちなみに父親のようにしてみなさいよ、お前まで新しい事してたら内乱が起こるわよ」
「ははっ、そう、そうだな」
なるほど従順じゃなくて切り替えが早いのか。
この人凄いな、私もこんな人になりたい。
だってもう清々しい顔してるもん。
「聞きます」
なんだか敬語が混じり合ってるけど。
「まず私はお前たちを知らない」
「はい」
「世界を知らないという意味じゃない、私はお前たちの種族を知らない」
「それはどういう…?」
隠しても仕方ないから話した。
私が召喚され続ける中で獣耳を持った人を取り込んだと。
何故か待たれてたと、ようやくだと言い私の腕を掴み私に食べさせたと話した。
「だから私はなにも知らないの、確かに長生きではあるけど大層な者じゃない」
「聞いた事はないが…なら一から説明しよう」
「有り難いわ、それと本を読みたいの」
「すぐに」
「あと淀みって知ってる?」
「ええ、2つ先の国が淀んでると聞きました」
「分かった、続けて」
コーヒーが美味しかった。
それならここには淀みがない。
「まず私達は獣人と呼ばれる種族です、この世界には獣人、人間、魔人が」
「え!?どこに魔人が居る?魔王は居る?」
「獣王様のような魔人という意味ではおりませんよ」
「そっか」
でも探してみよう。
1人1人見てみよう、居るかもしれない。
デズモンド様が居るかも。
「3つの種族が居てこの国では獣人が多いですが、もちろん他種族もおります。そして獣人の特徴として身体能力が優れていて肉体もだが、耳と鼻と目が特にいい」
「私も気付いたんだけど、多分劣化品だと思うの。私には他の人の心音が聞こえないけど、ヴァージルには聞こえてる?」
「ええ、離れたのでそこまでは聞こえませんが意識すれば微かには」
「私は獣人より劣ってるのかな?」
「試してみましょう」
「ありがとう」
「いいえ、そしてツガイという存在がおります。ツガイは…そうですね、分かるのです。この人が伴侶だと理解するのです、大体は匂いで…あとは話してて気付く者や声でも気付きます。焦がれるような熱さに抗えない程の匂い…出会った瞬間からその者以外へ気持ちを向ける事は決してありません」
「後で詳しく見てみるけど、相手が嫌がったら?」
「そうですね、獣人同士ならツガイだと分かるのですが」
「ツガイは相手もツガイなの?」
「必ず、相手が獣人ではない場合…そうですね。悲しいですが…無理矢理手に入れようとする者も少なくないのです…申し訳ございません」
別に私に謝らなくてもいいんだけど。
「見届ける者もおります、相手の生涯を影で支え、どちらかが死ぬまで変わらずに」
それは素敵だなって思った。
そんな風に一途に愛されるのはいいなって。
それにツガイなら、ヴァージルの話し方から分かる、絶対に自分以外を見ない。
有り得ないという口調だ。
「性行為はするでしょ?他の者と」
「ツガイに出会ってなければ」
「出会ってからでも欲はあるでしょ?」
「その…」
「言いにくい?」
「女性相手に言うのもあれですが…勃たないのです」
「媚薬は?」
「び、無理矢理は可能ですが、心が引き裂かれる気持ちになります」
「ツガイが見つからなければ?」
「ツガイが見つからない者もまた多い、その為、恋愛をして噛む事でツガイが分からなくなります」
「意味が分からないわ」
「このように…」
「ふあ…」
ヴァージルが見せてくれたのは牙だ。
とっても長くて尖ってる牙が上の歯に2つ。
普通に話しててもそんな大きな牙はなかったから自由自在なんだ。
私にも出来るかな?………ううん、無理みたい!
歯を触って確認するけど、そんな牙が出て来なかった、練習してみよう。
「くすっ、可愛い」
「は?」
「い、いえ!申し訳ございません!子どももそのように牙を出す練習をするもので、その」
「…ちなみに私って子どもに見える?」
「み、みえ、ます」
「いくつ?」
「ご……7歳でしょうか」
解せぬ!
みんなの身長を見て分かってはいたけど、5歳って言おうとした!5歳!なんでよ!
いや、そうだよね!みんな大きいもんね!
「ごほんっ、牙には毒があります。毒を相手の体内に入れる事で生涯のツガイとなりますので、ツガイでなくとも噛めば本当のツガイがどこに居るか分からなくなる」
「とりあえずは分かった。そうだ、心音で相手の感情って分かる?」
「訓練してる者にはすぐ」
「とりあえず仕事を見せて、私の使い方を考えるわ」
「は……はい!」
「敬語」
「分かった」
「いい子」
「っ」
とりあえずヴァージルの仕事を全て見た、軽くだけどね。
分からなくてもいいからとりあえず全部入れた、速読って便利だ。
どうやらここは国同士の繋がりが多いらしく、あっちこっちに書類がバラバラとあり、ややこしかったから30日はかけて読み終えた。
その間に遠くの地に行き居場所も確保した、どうやら女は特別扱いされないらしくて楽でいい、一晩の相手も慣れてるような者ばかりで気楽でいい。
30日が経つ間、私はヴァージルの執務室に籠もった。
最初に出かける時は氷で浮いたけど、後は転移で外に出た。
情勢が分からないから執務室に籠もって客人だと気付かれないようにしたんだけど、ヴァージルのツガイには誤解されて大変だったらしい。
その後、お茶をして真実を話したらホロホロと泣きながらありがとうと伝えられたけど、どうやら三歩でも五歩でも下がるような女性だったから見守り続けてたんだろう。
「ヴァージル」
「はい…どうした」
「決めた」
「はい」
2つ先の国には淀みがあり、そして1つ先の国を奪おうと戦を仕掛けようとしている。
それを避けてはいるけど時間の問題だ。
だから、私が今度こそ架け橋になる。
ヴァージルが1つ横の国に私を贈り物とし恩を売り、その国が横の国に恩を売る、簡単だ。
本当はこの国に滞在してみたかったけど…後でいい。
もしかしたら来れなくなるかもしれないけど、とりあえず今見れる全ての書物を見よう。
「浄化…」
「どう?」
「恩どころではございません」
「敬語」
「…どうしてです?」
敬語は外せないらしい。
「なにが?」
「ヒナノを召喚したのは私だが、どうしてそこまでする?」
「いい人に見えた?」
「とても」
「それならいいわ」
「っ」
ニヤッと笑う私が怖いのか後退るような姿勢にこれはいいと思った。
「私には私の事情があるの、それをいい人だなんて思う世界は…ふふ、生きやすい」
「…お願い致します」
「任せて」
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
【本編大改稿中】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!
七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。
この作品は、小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる