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淫魔編
5-54
しおりを挟む私の国には教会が存在する。
最初は私を崇めたいとかいう訳の分からない提案だったけど、どの世界にも宗教はあったし、必要な事だと思って許可した場所は今、神を崇める場所として名を変えるらしい。
許可を求められたからいいよとは言った。
だけどどうして崇められる本人が元崇める対象の私を連れて行くんだよ。
「何故崇める」
「必要だから」
「分からない」
教会の中、2人突っ立ってそんな事を聞かれた。
しかもいきなり転移させられたんだけどね!驚きびっくりですよ。
「支えが欲しい、道しるべが欲しい、寂しい、愛されたい愛したい…これだけではないけど、こういう心が存在する」
「…」
「父親の事は崇めてる?」
「そういえばそうだな…父様を崇めていない神など聞いた事も…いや、ヘラクレス様はそうでもなさそうだ」
「誰?」
「父様の伴侶だ」
「母親じゃなくて?」
「違う」
「誰かから産まれてくるの?」
「いや…いや…どうだろう、分からない」
「どうでもいいわね」
「そうだな」
分からないなら多分母体じゃない。
だって呑んでるって言ってた。
それなら会話もしてるし、楽しんでるのも聞いてるから。
「不思議だ」
私の心臓を見て言う。
「分かる?」
「分からない」
「私も」
不思議な魂は心臓にあるのだと気付いた。
それなら私は魂を取り込んだのかもしれないな。
獣人のおじいさんとデズモンド様の…
「んなあああああ!」
「煩い」
「ここは駄目!こんなところでボロンしないで!」
「何故だ?」
「誰かが来る可能性が…これじゃ駄目か…勉強は執務室だけにしましょう」
「分かった」
どうしてそんなに所構わずシコシコしたいんだよ。
「ヒナ!」
ああ、最悪だ。
「海の久しぶり、紹介するね?アンテロスだよ、アンテロス、海の精霊だよ」
「分かった」
海のと風のは跪いてるけど、上げた顔は2人とも真逆だ。
キラキラとした瞳で見つめる海のと、顔色の悪い風の。
「余は会ってみたかったのじゃ!」
「アンテロスに話しかけてるんだよ」
「何故だ?」
海のを見て話すアンテロスは心底不思議そうだ。
「神様にお会いしてみたいと1度は思っておったのじゃ!」
「性行為は出来るか?」
どうやら女でもいいらしい。
そして聞かれた海のは驚愕した後プルプルと震え出すからマズイなとは思った。
「海の落ち着いて」
「む、無理じゃ!」
「何故だ?」
「風のを愛しておる!」
おおー!って思った。
愛だねぇなんても思った、だけど多分これが駄目だったんだとも思うよ。
「なら消せばいいか?」
「駄目!」
「何故だ?」
「魂が増えては面倒でしょ?」
「精霊に魂はない」
最悪だ。
風のを消しちゃ駄目な理由が見当たらない。
アンテロスが納得する理由が思い当たら…
「消しても愛してるから性行為はしないよ」
「ふむ…なら逆はどうだ?」
「え?」
え?って思った。
ううん、多分どうだ?の辺りだったと思う。
分かんない、アンテロスに集中して海のを見てなかった。
「ウンディーネ!」
風のが海のの名前を呼んだ。
ああ、最悪。
「アンテロス」
「なんだ」
「神ってなに?」
「あああああああっっ!ヒナノ!ヒナノ!ウンディーネが!」
「なにとはなんだ、人間とはなにか答えられるのか」
「それなら神はいくついる?私は死ねない、神も死ねない?」
「ヒナノ!」
「数えた事などない、ヒナノが死なないなど有り得ない、私も死ぬ、好きな時にな」
「ヒナノ!ヒナノ!」
「寿命の延ばし方は知ってる?」
「ふむ…まぁ、いいか」
なんのまぁ、いいか。なのか知らないけど、多分私の事じゃない、もし寿命の延ばし方だとしても時間がない。
友人が泣いてる、そんな悲しい思いこれ以上させてたまるか。
アンテロスは消えて、海のは…
海のはドレスだけになってた、靴も装飾も。
海のだけが居ない。
消滅ってこういう事か。
「ヒナノぉっ!“お願い”死んで!」
「風の大丈夫、何度だって死ぬよ」
「ごめっ、あり、ありがっ、」
「んーん、この記憶はどうしたい?」
「絶対に忘れたくない!僕は絶対に会わせない!何があっても!っっ~、ヒナノは駄目って言ってた、のに!」
「悲しまないで、こんな未来なくしてやる」
「ヒナノ…ごめんね、ありがとうっ」
「ふふ、どういたしまして、それと海のの記憶は?」
「神様が来る前!」
「ふふ、風のは優しいね。私が海のへ記憶を渡す事を拒絶しないでくれてありがとう」
「僕はヒナノも大好きだ!」
「私も大好き!またね」
死ぬ時は決めてた。
心臓を氷で貫くんだ。
魔力を込めて最大限の力で。
ああ、ほんと…あのくそ野郎、どうしてやろうかなぁ。
*********************************
体が熱い…とか関係ねぇだろ!あの野郎!
馬鹿みたいに怠い体を魔力で無理矢理動かして枕を口に当てて叫ぶ。
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」
あの野郎あの野郎あの野郎!
海のを殺しやがって!私の言う事絶対聞かせてやる!
「せ、聖女様!落ち着いてくだ」
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」
「ビクッ!」
この世界の誰1人殺させねぇ!あいつほんと!
徹底的に教育して徹底的に調教してやる!
「んもおおおおおおおおおお!アンテロス!アンテロス!ここに来なさい!」
「せ、聖女様!」
今居る部屋の扉が開きそうだったから開かないように手をかざして閉める!
バタンッ!と音がしたけど、今は勘弁して欲しいね!丁寧にとか言ってられない!
「アンテロス!アンテロス!早くここに来なさい!お仕置きしますよ!」
「せ、聖女さ」
何故だか名前を呼べば必ず来ると確信してる私は叫ぶ。
「アンテロス!!!」
「不思議な魂だ」
んもおおおおおおおおお!こいつほんと殺したい!殺したい殺したい殺したい!
殺せねぇ!くそが!
「下位世界に行ってきなさい」
「何故だ?」
「いいから行く!後で話は聞くから行きなさい!」
「ふむ…まぁ、いいか」
消えたアンテロスに、跪いてるネイサン。
「もお!もお!もおおおおおおおお!なんで私じゃないんだよ!あのくそ野郎!!!」
「せ、せい」
「はぁっ!はぁっ!っ、ネイサン、しばらく留守にするわ」
「え?ど、どちらへ」
「大人しく待っておきなさい!」
「は、はい」
人でないならアンテロスはまだ動きやすい。
脆い人よりまだマシだと思うのは建前で、下位世界を調べたいのと、この世界を私の言う事をお行儀良く聞くまで歩かせねぇ!ぜってぇに!
ああ!くそ!くそ!くそ!
世界のくそったれが!
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