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第二章 月人《つきびと》

かぐや姫の予言

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 月にいる予定も少なくなってきた。
 正直言って地球に帰りたくなくなっている。  
 そんな時、ジーヤンが見せたい物があると言うので、月の中心と呼ばれる場所まで行くことになった。
 ジーヤンも私もかぐや一族が開発した靴を履いてるから、そうだな時速50Kmくらいで月の湯旅館から1時間もかからなかった。
 月は車なんて一台も走っていない。
 途中、時速100Kmくらいでスニーカーを扱う若い月人とすれ違ったけど、かぐやが完ぺきにサポートしているから、ぶつかる危険もないし、化石燃料という概念すら無いから空気が全く汚れていないんだ。

 確かに密閉された世界で生活しているのだから空気の汚れや細菌の繁殖は死活問題だと思う。

 青い空、その中心には太陽光を取り込んだ太陽球が丸く光って浮いている。
 そして水が澄んだ池や湖、山からはこんこんと川になって流れ出し、キラキラ煌めき、やはりとても澄んでいる。
 青々とした草原に活き活きとした木々。

 川の側には、畑や果樹園、牧場、御伽おとぎの国から飛び出したような可愛らしい家がポツポツと並んでいる。

 月人の家は全て木でできている。
 自然から材料を借りて、再び自然にかえし、それが腐って土の養分となる。
 ごく自然な流れでそうなっているらしい。

 地球から見ている月とは大違いだ。

 そして、着いたのは大きな草原のど真ん中だった。

 そこにはかぐや姫の功績を称えたモニュメントがあった。
 草原の真ん中に、白い球が浮かんでいた。

 白い球は天の羽衣のような布に包まれている。反重力装置で常に浮かぶように作ってあるとジーヤンが言った。

 正面に立ち止まってモニュメントを見ていた時、知識の奥の奥、かなり年代物の知識が突然表層に現れた。

 これは誰の記憶かしらママじゃない、もっともっとずっと古い記憶だ。
 誰? 一体誰の記憶なの?
 ん、えーっ、え、まさかかぐや姫?
 何か今の私と関連あるに違いない、じゃないとこうして思い出さないもの。
 これは詩? 唄? 私は思い出したその文章を声に出してみた。

「地球に月のが舞い降り
 全てが解き放たれる時
 金剛石男は現れ、
 月光を遮るあらゆる物から、
 月夜の平安を守ることでしょう」

「思い出しましたか? 」

「ジーヤンこれは何? 」

「かぐや姫研究家には有名な一節です。かぐや姫が後世の者に伝えた予言とされています。そして女王様のお名前は月夜、不思議な一致です。ですがそれが何を意味しているのかまでは分かりません。ただ」

「ただ? 」

「地球が今、岐路に立っているのは確かでしょう」

「………」

 月夜姫、あなたの時代です。私は遠くで見守っています——どこからか、かぐや姫の声が聞こえた気がした。

「金剛石ってダイヤモンドのことですね」



「はい。金剛石男

 ——The Diamond Man.」



「ダイヤモンドマン! 」

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