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第二章 月人《つきびと》

地球へ1

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 それから数日して私たちは帰路についた。
 多くの月人が見送ってくれる中、空には飛ばず、今度は湖に落ちて行って月の外に出た。

「また来てくださいね、みんなで待っています。では、ここからはルナにバトンタッチです」
 かぐやの最後の通信があって、ルナが反応した。
「かぐや、了解しました」

 ——そうして地球が見えてきた。

 車のなかで、私はジーヤンの言った事を思い出していた。

「月夜女王様、私の寿命はあと23時間30分です。人生の最後に月夜女王様にお会いできて大変光栄でした。地球で言えばいい冥土の土産ですな、ふぁっふぁっふぁっ」

「えええええ、明日死ぬんですか? 」

「はい、かぐやが計算を間違ったことなど一度もありません。サプリメントの効果で10年前より1年と10日ほど伸びましたので、21年と10日が私の生きられる年月です」
「死ぬのは怖くないですか? 」
「怖い? なぜでしょう」

 なぜって………

「確かになぜ怖いのでしょう、自分が無くなるからかな………」

「いいえ魂はなくならないんですぞ、この世での仕事を終えて地球でいうそれこそ冥土に行くだけです。何も怖くはありません。周りも喜んで送り出してくれるでしょう」

 私は混乱した。

「じゃあなぜ、寿命を伸ばしたいの? 」

「一言で言うと責任感です」
 ジーヤンはきっぱり答えた。

「責任感って、私にはよくわかりません」

「正直でよろしい。一つの争いを無くす為には、多くの時間が必要です。  
 それを終わらせないであの世に行く事は、次の世代の負担になります。
 ですからもう少し長生きして、先人としての責任を果たしたい、それが月人全員の願望です」

「というと、自分がもっと楽しみたいとか、ゆっくりしたいとか、いろいろ遊びたいとかそういう願望は全くないのですか? 」

「そんな願望は月人にはかけらもありません。あくまでも自分以外の月人、そしてこれから産まれてくる新しい命に対する責任を果たす為に長生きしたいのです。それと………」

 ジーヤンは優しい顔で私を見た。

 そこで、私は気がついた。

「それと——争いから抜け出せなくて、それどころか争いを増やし、自分達の利益を最優先する身勝手な、とても身勝手な、


 ………地球人の為」



「その通りです。それが一番大切かもしれません。地球から争いを無くす事が私たちの仕事ですから………」

 私は恥ずかしくなった。今まで地球人として生活してきたから——


 ——。


 だ・か・ら——
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