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第3章 秋
◆異世界モーニング:オーク肉のベーコンエッグと突然のベヒモス肉
朝露が葉の先に宿り、風がそっとそれを払いながら秋の匂いを運んでくる。
まだ緑色を残す葉の縁が、朝日を受けてほのかに金に染まる。
ネイブルナルの朝――静かな空気の中で、秋の扉がゆっくりと開いて行く…。
「ふぅ~、さすがに朝は冷えるわね」
私は背を丸めながら両手を擦り合わせ、支度にとりかかる。
「ウノちゃ~ん、竈に火を入れてちょうだ~い」
ふわりと光が漂い、ウノが小さな体で私のまわりを一回転。
瞬間、キラキラと光の粒子が舞い、ボッと音を立てて竈に火が熾る。
「ありがとう、ウノ」
インベントリからミルナールの実を一粒取り出して手のひらに乗せると、ウノは嬉しそうにその果実を頬張り、ランプの中へと入って行った。
ランプの中はウノのお気に入りの“くつろぎスポット”。きっとその中でゆっくりと果実を味わうつもりだろう。
私は火が熾った竈の上にフライパンを置き、よく熱する。
そこへ、厚切りにしたベーコンを静かに寝かせる。
ジュワワワワァ
心地よい音が響く。
立ち上る湯気はしょっぱく、香ばしく燻された匂いが広がった。
これは以前、大量に手に入れたオーク肉(※1)。
今では地下倉庫でしっかりと熟成され、ベーコンやソーセージとしてうちの朝を支える大切な常備食になっている。
(それにしてもつくづくアストレイリアの食材のポテンシャルは凄いわ。普通のオーク肉でこれだもん。ジェネラルは焼き豚?トンカツ?煮豚?どれにするのがいいかしらね?)
ジュワジュワとベーコンから溢れる脂の海に、卵を二つ落す。
オレンジ色の黄身とぷっくりと盛り上がってコシのある白身がぷるりと揺れた。
今日のモーニングは、デカ盛りベーコンエッグ!
私は、うちの食いしん坊コンビ――ガチャ丸としーちゃんのためにせっせとフライパンを振る。
結局、ベーコンの塊は全て彼等の胃袋に収まり、皿は綺麗に空っぽ。
朝から食欲旺盛なのはいいことだ。
(まぁ、まだ地下にはいっぱいオーク肉ベーコンあるしね)
そうこうしているうちに、もう開店の時間。
外ではケイトさんが、箒を手にお店の前を掃いていた。
グミ各種、虫除け軟膏、ハンドクリーム、軽食用のお野菜スコーン…
私は並べた品々をひとつずつ確認していく。
(そろそろ虫除けから保湿系に切り替えた方がいいかもね)
そんなことを考えていた矢先。
「ただいまー」「……」
元気な声がお店に響く。顔を上げるとシヴァさんとジェイさんが立っていた。
「おかえりなさい。あれ?バッカスさんは?」
「んあ?バッカスは宰相に頼まれ事してからこっち来るってさ」
「ええ!?バッカスさんってそんなに宰相様と仲良くなったの!?」
「そうみたいだな。あ、そうそう、バッカスから伝言」
シヴァさんが笑いながらポンと差し出してきた麻袋。
開けてみると、手のひらほどの鉱石がぎっしり――ミスリルに、小粒ながらアダマンタイトまで混じっている。
「それで、温泉のチェストに酒をたんまり入れといてくれ、だってさ」
「…なるほど、時々温泉に入りに来るのね」
私は苦笑しながら袋を受け取る。
「あ、そうだ。頼まれていたもの、できてますよ?」
「サンキュ、サンキュ!でもさ、ちょっと追加で頼みがあんだけど…」
少し歯切れの悪いシヴァさん。
「追加?」
「この肉やるから俺達と一緒に来てくんねぇか?」
ドン、と目の前に落ちた影。
……いや、影じゃない。これお肉だ。
キラキラと水面のように光る霜降り。見事なサシが入ったそれは、私の視界を丸ごと埋め尽くす肉の丘。
「な、な、な、なんですかー!?このお肉!?」
「ベヒモス」
「べひ…もす…?」
思考が一瞬真っ白になる。
けれど、すぐに思い直す――この人達、レベルキャップ解放済みの人外だった、と。
再起動して、ひとまずお肉をインベントリに仕舞ってから、話を聞くことにした。
「いろいろ作ってもらったけどさ、結局ノエルを連れて行くのが一番だろって思ったんだよ」「(コクコク)」
「小国山嶺地帯に?私でお役に立つんですか?というか…私は何係なんでしょう?」
「うーん…こればっかりは言葉で説明するより、現地で見てもらった方が早ぇんだよな。絶対ノエルがいた方がスムーズだと思う」
私はしばし考えた。
(今回、私を助けに駆けつけてもらったし、役には立ちたいんだけど…お店も畑もあるし、あんまり長くは留守もできない…どうしよう…)
俯きそうになった時、入り口から声がした。
「ノエルさん、畑のこともお店のことも心配しないで行ってきて下さい。店番や畑の管理は私達にだってできます。でも、シヴァさん達のお役に立てるのはノエルさんしかいません」
箒を手にしたケイトさんが、穏やかな笑顔で私の背を押してくれる。
ケイトさんはいつだって私が欲しい言葉をくれる。
(ありがとう…)
胸の中に小さな火が灯った。
私はケイトさんに笑顔で頷き、シヴァさん達に向き直った。
「私、行きます」
「よっしゃ!そうと決まれば早速出発だな!」「(コクコク)」
勢いよく立ち上がる二人を、私は慌てて止める。
「ちょ、ちょっと待って!まずは当面のご飯ストック、作らせてください!!」
こうして私は――何をするのかわからないまま、けど、必要と言われたからにはシヴァさん達の役に立とうと思うのだった。
(※1)第二章夏◆うちの子、大ハッスル
——————————————————
いつもありがとうございます。
皆さまの♡や応援・感想が、物語を紡ぐ大きな支えになっています。
『面白い!』『続きが気になる!』と思っていただけたら、
まだの方はフォローもお願いいたします。
まだ緑色を残す葉の縁が、朝日を受けてほのかに金に染まる。
ネイブルナルの朝――静かな空気の中で、秋の扉がゆっくりと開いて行く…。
「ふぅ~、さすがに朝は冷えるわね」
私は背を丸めながら両手を擦り合わせ、支度にとりかかる。
「ウノちゃ~ん、竈に火を入れてちょうだ~い」
ふわりと光が漂い、ウノが小さな体で私のまわりを一回転。
瞬間、キラキラと光の粒子が舞い、ボッと音を立てて竈に火が熾る。
「ありがとう、ウノ」
インベントリからミルナールの実を一粒取り出して手のひらに乗せると、ウノは嬉しそうにその果実を頬張り、ランプの中へと入って行った。
ランプの中はウノのお気に入りの“くつろぎスポット”。きっとその中でゆっくりと果実を味わうつもりだろう。
私は火が熾った竈の上にフライパンを置き、よく熱する。
そこへ、厚切りにしたベーコンを静かに寝かせる。
ジュワワワワァ
心地よい音が響く。
立ち上る湯気はしょっぱく、香ばしく燻された匂いが広がった。
これは以前、大量に手に入れたオーク肉(※1)。
今では地下倉庫でしっかりと熟成され、ベーコンやソーセージとしてうちの朝を支える大切な常備食になっている。
(それにしてもつくづくアストレイリアの食材のポテンシャルは凄いわ。普通のオーク肉でこれだもん。ジェネラルは焼き豚?トンカツ?煮豚?どれにするのがいいかしらね?)
ジュワジュワとベーコンから溢れる脂の海に、卵を二つ落す。
オレンジ色の黄身とぷっくりと盛り上がってコシのある白身がぷるりと揺れた。
今日のモーニングは、デカ盛りベーコンエッグ!
私は、うちの食いしん坊コンビ――ガチャ丸としーちゃんのためにせっせとフライパンを振る。
結局、ベーコンの塊は全て彼等の胃袋に収まり、皿は綺麗に空っぽ。
朝から食欲旺盛なのはいいことだ。
(まぁ、まだ地下にはいっぱいオーク肉ベーコンあるしね)
そうこうしているうちに、もう開店の時間。
外ではケイトさんが、箒を手にお店の前を掃いていた。
グミ各種、虫除け軟膏、ハンドクリーム、軽食用のお野菜スコーン…
私は並べた品々をひとつずつ確認していく。
(そろそろ虫除けから保湿系に切り替えた方がいいかもね)
そんなことを考えていた矢先。
「ただいまー」「……」
元気な声がお店に響く。顔を上げるとシヴァさんとジェイさんが立っていた。
「おかえりなさい。あれ?バッカスさんは?」
「んあ?バッカスは宰相に頼まれ事してからこっち来るってさ」
「ええ!?バッカスさんってそんなに宰相様と仲良くなったの!?」
「そうみたいだな。あ、そうそう、バッカスから伝言」
シヴァさんが笑いながらポンと差し出してきた麻袋。
開けてみると、手のひらほどの鉱石がぎっしり――ミスリルに、小粒ながらアダマンタイトまで混じっている。
「それで、温泉のチェストに酒をたんまり入れといてくれ、だってさ」
「…なるほど、時々温泉に入りに来るのね」
私は苦笑しながら袋を受け取る。
「あ、そうだ。頼まれていたもの、できてますよ?」
「サンキュ、サンキュ!でもさ、ちょっと追加で頼みがあんだけど…」
少し歯切れの悪いシヴァさん。
「追加?」
「この肉やるから俺達と一緒に来てくんねぇか?」
ドン、と目の前に落ちた影。
……いや、影じゃない。これお肉だ。
キラキラと水面のように光る霜降り。見事なサシが入ったそれは、私の視界を丸ごと埋め尽くす肉の丘。
「な、な、な、なんですかー!?このお肉!?」
「ベヒモス」
「べひ…もす…?」
思考が一瞬真っ白になる。
けれど、すぐに思い直す――この人達、レベルキャップ解放済みの人外だった、と。
再起動して、ひとまずお肉をインベントリに仕舞ってから、話を聞くことにした。
「いろいろ作ってもらったけどさ、結局ノエルを連れて行くのが一番だろって思ったんだよ」「(コクコク)」
「小国山嶺地帯に?私でお役に立つんですか?というか…私は何係なんでしょう?」
「うーん…こればっかりは言葉で説明するより、現地で見てもらった方が早ぇんだよな。絶対ノエルがいた方がスムーズだと思う」
私はしばし考えた。
(今回、私を助けに駆けつけてもらったし、役には立ちたいんだけど…お店も畑もあるし、あんまり長くは留守もできない…どうしよう…)
俯きそうになった時、入り口から声がした。
「ノエルさん、畑のこともお店のことも心配しないで行ってきて下さい。店番や畑の管理は私達にだってできます。でも、シヴァさん達のお役に立てるのはノエルさんしかいません」
箒を手にしたケイトさんが、穏やかな笑顔で私の背を押してくれる。
ケイトさんはいつだって私が欲しい言葉をくれる。
(ありがとう…)
胸の中に小さな火が灯った。
私はケイトさんに笑顔で頷き、シヴァさん達に向き直った。
「私、行きます」
「よっしゃ!そうと決まれば早速出発だな!」「(コクコク)」
勢いよく立ち上がる二人を、私は慌てて止める。
「ちょ、ちょっと待って!まずは当面のご飯ストック、作らせてください!!」
こうして私は――何をするのかわからないまま、けど、必要と言われたからにはシヴァさん達の役に立とうと思うのだった。
(※1)第二章夏◆うちの子、大ハッスル
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