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第1章 春
◆ある少女の献身
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天を覆い尽くす分厚い雲から落ちる大粒の雨がせっかく開花した花を散らしながら大地を叩く。
こんな日は余程急ぎの案件でもない限り冒険者も活動をしない。
つまり、うちの店は今、閑古鳥なのだ。
(道もすっかりぬかるんでるし、こんな状態では誰も来ないだろう)
そう思って店を閉めようとした時、
カランコロンカラーン
来店を告げるドアベルが鳴った。
そこにはびしょ濡れの小さな少女が一人ポツーンと立っており、周囲を見回すけれど保護者のような人物は見当たらない。
「あらあら、まぁまぁ」とイオナおばあちゃんが慌ててその少女に駆け寄り、びしょ濡れの髪や体を拭き始めた。
ケイトさんはバックヤードへ走って行ったので、おそらくタオルを取りに行ったのだろう。
(うちは備品だけは潤沢に揃ってるからね!)
「これでお母さんを治す薬を売って下さい!」
必死な顔で小さな手から差し出されたのはおよそ730ルーブ。
10歳にも満たない様子のこの子がおそらく一生懸命搔き集めて来たであろうお金。
(でも何でうち?薬なら専門店があるはずなのに…)
どうやら王都の店はどこもこの子に取り合ってくれず、薬を買えないまま途方に暮れていたところに、たまたま道端で若い冒険者グループがうちの店の話をしているところに出会い、居ても立ってもいられなくてこの雨の中、小銭を握り締めてひたすら走って来たのだそうだ。
(その若い冒険者グループって…)
おばあちゃんはもう目の端に涙を溜めている。
こんな小さな子が王都郊外、それも脅威度は低いながらも小さなモンスターも徘徊するような場所まで雨の中を走り続けたのは余程のことだと察する。
ケイトさんもなんだか縋るような目で私を見ているし、もちろんそんな話聞いちゃったら私だって頑張っちゃうよ!
「この雨で今日はもうお客さん来ないだろうからお店閉めちゃいましょう」
ということで、たまには二人きりになりたいであろう若夫婦に留守番は任せて、私はおばあちゃんとその女の子、お名前はミーナちゃんと一緒に王都に行くことにした。
おばあちゃんなのに王都まで出向かせて大丈夫かって?
それがね、うちに来てからおばあちゃん、すっごく元気がいいんだよね。
本人も以前は痛かった足腰がすっかり痛まなくなったってピンシャンしてて活気があるのよ。
おそらくだけど、精霊水を常飲しているのと、足しげくタリサのところに通ってタリサを崇めて、焼き芋やら蒸かし芋やらを奉納しているからツンデレのタリサがなんかしたんじゃないかと私は睨んでいる。
ま、おばあちゃんが元気ならタリサが何をしようと構わないんだけどね。
とは言え、おばあちゃんと少女をこの雨に濡らすわけにもいかないので、しーちゃんにまた荷馬車(幌付き)を牽いてもらうことにした。
私はレインコートを着て御者台だ。
一応、馬車の護衛にガチャ丸。姫ちゃまは私の肩の定位置に留まっている。
ウィプス三姉弟は雨なので今日は自宅警備。あの子たちの場合、本当は雨とか全く関係ないんだけどね。
そう言えば、リアムさんから「王都に行く時は必ず従魔を従えるように」って言われて、従魔札をもらっちゃったのよね。例の大金持ちさんが私の身を案じて冒険者ギルドに掛け合ってくれたんだとか。だからこうしてしーちゃんに助けてもらえて有難い限りなのだけれど、一体どんだけ凄いバックがリアムさんについてるんだか…。
興味はあるけど怖いからあまり深く聞かないようにしてる。
王都に着いてミーナちゃんに案内されたのは大通りの突き当りに近い場所。
元はパン屋さんだったのではないかと思われる建物で、店の一階を通り抜けて階段を上がった先がミーナちゃんとお母さんの居住スペース。
通された寝室では20代後半くらいの女性が額に汗をびっしょりとかいて苦悶の表情でベッドに臥せっていた。
「お母さん!お薬出してくれる人連れて来たよ!これできっともう大丈夫!」
お母さんに駆け寄るミーナちゃん。
おばあちゃんはそんな健気なミーナちゃんに心打たれて胸のペンダントを握り締めながら一生懸命祈りを捧げていた。
(ん?おばあちゃんそんなペンダントつけてたっけ?まぁ今はいっか)
そしてお母さんを鑑定で視てみると―
(あ~これは病気じゃないねぇ…)
ミーナちゃんのお母さんは誰かに呪われていたのだった。
こんな日は余程急ぎの案件でもない限り冒険者も活動をしない。
つまり、うちの店は今、閑古鳥なのだ。
(道もすっかりぬかるんでるし、こんな状態では誰も来ないだろう)
そう思って店を閉めようとした時、
カランコロンカラーン
来店を告げるドアベルが鳴った。
そこにはびしょ濡れの小さな少女が一人ポツーンと立っており、周囲を見回すけれど保護者のような人物は見当たらない。
「あらあら、まぁまぁ」とイオナおばあちゃんが慌ててその少女に駆け寄り、びしょ濡れの髪や体を拭き始めた。
ケイトさんはバックヤードへ走って行ったので、おそらくタオルを取りに行ったのだろう。
(うちは備品だけは潤沢に揃ってるからね!)
「これでお母さんを治す薬を売って下さい!」
必死な顔で小さな手から差し出されたのはおよそ730ルーブ。
10歳にも満たない様子のこの子がおそらく一生懸命搔き集めて来たであろうお金。
(でも何でうち?薬なら専門店があるはずなのに…)
どうやら王都の店はどこもこの子に取り合ってくれず、薬を買えないまま途方に暮れていたところに、たまたま道端で若い冒険者グループがうちの店の話をしているところに出会い、居ても立ってもいられなくてこの雨の中、小銭を握り締めてひたすら走って来たのだそうだ。
(その若い冒険者グループって…)
おばあちゃんはもう目の端に涙を溜めている。
こんな小さな子が王都郊外、それも脅威度は低いながらも小さなモンスターも徘徊するような場所まで雨の中を走り続けたのは余程のことだと察する。
ケイトさんもなんだか縋るような目で私を見ているし、もちろんそんな話聞いちゃったら私だって頑張っちゃうよ!
「この雨で今日はもうお客さん来ないだろうからお店閉めちゃいましょう」
ということで、たまには二人きりになりたいであろう若夫婦に留守番は任せて、私はおばあちゃんとその女の子、お名前はミーナちゃんと一緒に王都に行くことにした。
おばあちゃんなのに王都まで出向かせて大丈夫かって?
それがね、うちに来てからおばあちゃん、すっごく元気がいいんだよね。
本人も以前は痛かった足腰がすっかり痛まなくなったってピンシャンしてて活気があるのよ。
おそらくだけど、精霊水を常飲しているのと、足しげくタリサのところに通ってタリサを崇めて、焼き芋やら蒸かし芋やらを奉納しているからツンデレのタリサがなんかしたんじゃないかと私は睨んでいる。
ま、おばあちゃんが元気ならタリサが何をしようと構わないんだけどね。
とは言え、おばあちゃんと少女をこの雨に濡らすわけにもいかないので、しーちゃんにまた荷馬車(幌付き)を牽いてもらうことにした。
私はレインコートを着て御者台だ。
一応、馬車の護衛にガチャ丸。姫ちゃまは私の肩の定位置に留まっている。
ウィプス三姉弟は雨なので今日は自宅警備。あの子たちの場合、本当は雨とか全く関係ないんだけどね。
そう言えば、リアムさんから「王都に行く時は必ず従魔を従えるように」って言われて、従魔札をもらっちゃったのよね。例の大金持ちさんが私の身を案じて冒険者ギルドに掛け合ってくれたんだとか。だからこうしてしーちゃんに助けてもらえて有難い限りなのだけれど、一体どんだけ凄いバックがリアムさんについてるんだか…。
興味はあるけど怖いからあまり深く聞かないようにしてる。
王都に着いてミーナちゃんに案内されたのは大通りの突き当りに近い場所。
元はパン屋さんだったのではないかと思われる建物で、店の一階を通り抜けて階段を上がった先がミーナちゃんとお母さんの居住スペース。
通された寝室では20代後半くらいの女性が額に汗をびっしょりとかいて苦悶の表情でベッドに臥せっていた。
「お母さん!お薬出してくれる人連れて来たよ!これできっともう大丈夫!」
お母さんに駆け寄るミーナちゃん。
おばあちゃんはそんな健気なミーナちゃんに心打たれて胸のペンダントを握り締めながら一生懸命祈りを捧げていた。
(ん?おばあちゃんそんなペンダントつけてたっけ?まぁ今はいっか)
そしてお母さんを鑑定で視てみると―
(あ~これは病気じゃないねぇ…)
ミーナちゃんのお母さんは誰かに呪われていたのだった。
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