女神のつくった世界の片隅で従魔とゆるゆる生きていきます

みやも

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第2章 夏

◆大乱闘・スマッシュンババーズ

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視界が開けた先、 夏藍葉カランヨウの群生地。そこにはいつもとは違う妙な“静けさ”があった。

(何かがいつもと違う)

私たちよりも鋭い本能を持つンババたちも、異変を察知したのか、ぴたりと動きを止めて耳を澄まし、あたりをじっと見回していた。
自然とガチャ丸達が私の周りに集まる。

アンジーさんも辺りを警戒し、いつでも剣を抜ける態勢で鋭く周囲を観察している。
その横にいるクィールも上半身を低く保ち、いつでも飛び出せる体勢だ。

密林特有のじっとりと熱を孕んだような風が緩く頬を撫でた。

その時だった。

ゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワゾワ……

一斉に葉っぱたちが揺れた。いや、えっ?……立ち上がった!?!?

「な、なにそれ……っ!?」

夏藍葉カランヨウが、人の形を模したように束ねられ、まるで兵隊のように次々と整列する。

ツルリとした濃緑色の葉の一枚一枚が、緑から青へ、青からターコイズブルーへとグラデーションに発光し、薄暗い密林の中であるにも関わらず、まるで真冬の街角のイルミネーションのように、キラキラと鮮やかに輝いていた。
けれどその光はどこか不穏で――

淡く脈打つ葉脈は生気を宿し、まるで意志を持っているかのように、一体、また一体と姿を成していく。
全身に小さな葉の光をまとった彼らは、まるでLEDライトを全身に巻きつけた人型の何か。その異様な姿のまま、不気味なまでにぴたりと整列していた。

密林の風も止まり、湿った空気の中で光だけがただ揺れている。
それは、自然が創り出したとは到底思えない、奇妙でシュールな光景だった。

「ん?……あれ動いてない?」

目を凝らすと、光るカランヨウ兵の一体が、ぶるりと身震いをし、ゆっくりと葉っぱでできた手らしき部分を変形させた。
そして、口のように見える部分へとそれをそっと沿え…

「ピュアァァーーーーー!」

森の奥深くまで、草笛のような音が響き渡った。
それを合図に、夏藍葉カランヨウ兵が隊列を組んで一斉に動き出す。

「来るッ!」

アンジーの声に先人切って飛び出して行ったのはボスンババ率いるンババ巨兵隊。

ボスンババは、ドゴォォン!ドゴドゴドゴォッ!と地の底から響くような重低音の大迫力ドラミングで配下たちを鼓舞し、自身もその巨体を活かして、夏藍葉カランヨウ兵を千切っては投げ、土槍アースニードルで串刺しにしてはまた投げ飛ばす。
森が揺れ、空気が震える――まるで怪獣大決戦の主役のような猛りっぷりだ。

……だが、その肩の上。

ゴツゴツした筋肉の丘の上にちょこんと乗っているのは、子ンババ。
ぱたぱたと小さな手で、ポコポコと拙いドラミングをしている。
まるで「パパ、すごいね!ボクもやる!」とでも言いたげに、一生懸命に叩き続けている。
が、バランスを崩してぐらっとよろけた。

「きゃっ」
私は思わず短い悲鳴を上げた。

でも、その瞬間、ふわりとボスンババの巨大な左手がそっと伸びる。
嵐のような戦場の中、まるで壊れものを扱うようにやさしく子ンババを支えた。

(やさしい世界…)

戦場の真っただ中で、そこだけがスポットライトを浴びたかのようにあたたかかった。

しかし、次の瞬間―

「ドゴオオオッ!!!」

ボスンババは子ンババを支えたまま、右手で再び大地を揺るがす。
肩の上では、体勢を立て直した子ンババが、またポコポコと小さな音を刻む。

怒涛の戦場の中で生まれる親子のほのぼのリズムに、呆気に取られながらも思わず、ふっと笑ってしまった。

その頃、うちの子達はというと―
戦場を縦横無尽に走り回りながらトンファーで次々と夏藍葉カランヨウ兵を沈めていくガチャ丸。
しーちゃんは唸り声を上げ、空気を切り裂くように猪突猛進。辺り一面を曳き潰している。
姫ちゃまはまさかの戦場ど真ん中、飛んでくるリーフカッターを六角盾ハニカムシールドで見事に防ぎながら四方八方にトリガーハッピー中。

(うーん。より好戦的になってしまったねぇ…。防御スキルを解放して良かったんだか悪かったんだか…)

そして、問題児がもう一人。いや、もう一匹?
ドスが嬉々として爆弾をばら撒いて、敵味方関係なく騒ぎを拡大している…。

すると、爆煙の向こうから巨大な“葉っぱのチャリオット”がゴトゴトと転がってきた。中に夏藍葉カランヨウ兵をぎっしりと詰めて。

これには、一緒に戦場へ突撃していったアンジーさんとクィールも、一瞬きょとんとした顔を見せた。
けれど、ドスと何か通じ合うものでもあったのか、すぐにニヤリと笑って―
風を操り、ドスの爆弾に強烈な追い風を送った。

その結果、巨大な爆炎の竜巻が発生し、チャリオットごとあっという間に敵を吹き飛ばしてしまった。

私は、そっと目を逸らして、彼らの大乱闘をただただ見守ることにした。

ちなみに、ウノとトレスはどうしていたかというと…。
ちゃんとお利口さんに、私の護衛任務を果たしてくれていた。
次男(ドス)が暴れていたから、きっと彼らなりに空気を読んだのだと思う。

視界の端では、獣毛の一部がちょっぴり焦げてしまったしーちゃんが、「はぁ~」とため息をついている。
どうやら彼は、討伐よりも火消しのほうにシフトしたようだ。冷気でせっせと燃え残りを消している。

そんなこんなで――
なぜかモンスターと化していた夏藍葉カランヨウも、どうにか鎮圧には成功した。

「……なんだったの、ほんとに……」

私は、はるか彼方まで積みあがった夏藍葉カランヨウの残骸を、ぼんやりと遠い目で見つめる。
その時、森の奥で“何か”がふわりと揺れた気がした。
それは背を向けて、逃げていくような気配…。

「あっ……」

思わず声が漏れたけれど、ほんの瞬きほどの間でそれは消えてしまった。
見間違いだったのかもしれない。
現に、誰も気づいていないようだった。

ガチャ丸は得意げに葉っぱを掲げて、その上に姫ちゃまが涼しい顔でちょこんと乗っている。
しーちゃんは、ドスを鼻先でコロコロ転がして遊んでるし、クィールにまたがったアンジーさんも、その様子を見てにっこり笑ってる。

……きっと気のせいね。そう思うことにした。

「よし!今年の夏藍葉カランヨウ、採り放題だね!」

なんだかんだで、今年の夏藍葉カランヨウは過去最高の収穫高。
いや、正確には“夏藍葉カランヨウ兵の残骸”だけど…。
その葉っぱがね、いつもよりちょっと特別で、なんと!先っちょが蛍のお尻みたいに青く光ってて、すっごく綺麗なの!

あまりにもたくさんあるから、ボスンババにも教えてあげたよ。
「寝床に敷くと涼しくなるよ」って。

そしたらもう、両手に抱えきれないほどの葉っぱを集めて、「ホワホワ」言いながらご機嫌で収穫してて―
その姿があまりに可愛くて、思わず笑っちゃった。

……それにしても、いったい何だったんだろうね。
不思議なこともあるもんだ。

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