女神のつくった世界の片隅で従魔とゆるゆる生きていきます

みやも

文字の大きさ
96 / 159
第2章 夏

◆静かな恋の進展と騎士とパン屋

しおりを挟む
夜もとっぷりと更け、通りを行き交う人々もまばらになってきた頃。
ようやく客足が落ち着き、私はにっこりと笑って――

「じゃ、ロニーさん、ケイトさん、楽しんできてくださいね!」

二人を夜市デートに送り出すことができた。

見上げれば、濃藍の夜空に宝石をばら撒いたような星々が瞬き、ぷかりと浮かんだ三日月が、流れる雲の影にかくれんぼをしている。

「ん~っ」と通りに出て背伸びをしていたら――

「やっぱり大盛況だったようだね」

片手を上げながら現れたのは、ロイヤルブルーの髪を風に揺らすイケメン、リアムさん。
首には、なんと!うちのバンダナが巻かれている。

(あれ?うちのお店にはしばらく顔を出してなかったはずだけど……)

「少し休憩させてもらうよ」と、焼きユニ・コーンのバタートッピングと黄金芋のバター蜂蜜を一つずつ注文して、近くの木箱に腰を下ろした。

私とおばあちゃんが手際よく準備をしていると――

「「「ノエルちゃ~ん!!サボりに来たよ~!」」」

おなじみの騎士様方が私服でワチャワチャ登場!

「ギャッ」「ホゲッ」「いやぁー!」

案の定、レオンさんから一人ずつ丁寧にゲンコツが振るわれる。

「うるさくてすまない。今、交代で休憩中なんだ」
ラフな半袖シャツからのぞく丸太のような逞しい腕にはうちのバンダナが巻かれている。

(みんな巻いてる…でもギャング感すごい…)

「俺、一番おいしいやつ!」
「オレも~!」

「ユニ・コーンと黄金芋、どっちがいいですか?」

「えぇー?ユニ・コーン?珍しいけど、正直そこまで美味しい記憶が…」

その時、別の騎士様がぽつりと漏らす。

「でもさ……今日のすごくなかったか?」
「うん、あの騒ぎ――長年警邏やってきたけど、あんな大混乱、初めてだった」
「列が通りを塞いで、別の騎士団から増援が来る騒ぎになるなんてな。しかも、原因はノエルちゃんの屋台って…」
「南に人が集中しすぎたせいで、こっちが落ち着くまで西も東もガラガラだったらしいぜ?」
「うっわ、マジかぁ…。東の暴力沙汰専門の冒険者が緊急で駆り出されたってのは聞いてたけど…」
「あー…南の入り口、人が入りきれずに暴徒化しかけてたもんな」

どこか呆れ顔で笑い合う騎士様たち。

(あの戦場のような時間に騎士様達はそんなことになっていたのか…)

申し訳なく思いつつ「すみません。お世話になりました」とお礼を言って、ちょうどこんがりと焼き上がった一本をリアムさんへ手渡す。

「はい、お待たせしました」

「アッツアッツ」と言いながらバターがトロリと溶けた焼きユニ・コーンにリアムさんがかぶりつくと――

「んんん~~!!!!」

バターと香ばしいタレが匂い立ち、充満して、その唸り声に、騎士様方の喉が一斉にゴクリと鳴った。

「こ、これがあの人だかりの原因か……。お、俺、焼きユニ・コーン、バター付きで!」
「同じく!」
「オレは黄金芋も追加で!」

わぁぁ!注文殺到! 嬉しいけど忙しい!

すると、今度は――

「遅くなってすまない。やぁノエル、とても繁盛しているようだね」

クィールと共に現れたのは爽やか笑顔のアンジーさん。
リアムさんの隣りに腰掛けようとして、クィールが間に挟まるように阻止。

(…もしかして、やきもち?)

どうやら、うちの店の前で二人は待ち合わせをしていたみたい。
そんなアンジーさんの首元にはうちのバンダナが巻かれ、もちろんクィールのふわふわの尻尾にもバンダナが巻かれていた。

ここまでくれば鈍い私だってもうわかる!あの時のバンダナ…リアムさんのだ!!!

アンジーさんはリアムさんから「黄金芋のバター蜂蜜」を受け取り、とろ~りと蜂蜜をまとった一欠けらをパクリ。

(さすがリアムさん。アンジーさんの甘い物好きを見抜いてる!)

「ハフッハフッ…アッツ」
口をハフハフさせながら、次第に紅潮するアンジーさんの頬。それがやけに艶めかしくて…。
その顔のまま黙って私に向かって親指を立てた。

(………ズッキューーーン!!!)

アンジーさん、それ反則です。好きになりかけました。
でも、クィールの図体に阻まれてリアムさんはその顔を見逃してて…嗚呼、気の毒……。

「ノエルちゃん、芋のバター蜂蜜追加で!」
「オレも!オレもー!」

焼いて揚げて声張って、またも大忙し!

「…ユニ・コーン…なのか…?」「おいおい、もうこれ芋じゃねぇーだろ」「答え合わせできたな」「死人が出なかっただけマシだったってことか…」「んんん~~~好きッッ!!!」「全俺が泣いた」「あっ……あ……あ~……(咀嚼しながら崩れ落ちる)」「ありがとう……ありがとう世界…」

……騎士様方、情緒崩壊。
そしてレオンさんまでも「熱々のままマルセリーナに食べさせてやれたら…」と遠い目をしていた――

その時だった。

「キャァー!!!店長!!!!」

突如響く悲鳴。私たちは一斉に顔を上げる。

視線の先、道に散らばったコッペパン。
そして胸を押さえ、倒れ伏すマーヤさんの姿。

私は瞬時に駆け寄った。

足元には、あの時私が作った魔除けのミサンガが黒ずんで切れている。

(……呪いだ)

レオンさんは即座に部下へ「救護班を」と指示。

私は多めに作っておいたタリサブリリアントシルク製の巻きバラのコサージュ(※第141話)をマーヤさんの白いコックコートに取り付ける。

「…う…んん…」

次第に目を開き、呼吸を整えて、マーヤさんは何事もなかったように起き上がった

「……っ!?どういう…!?」

レオンさんが目を見開いて驚く。
私はしっかりとレオンさんの目を見て言った。

「マーヤさんを“呪おう”とした人がいます」

レオンさんの表情が険しくなる。
私は拳をギュッと握った。
マーヤさんが、どれだけの思いでパンを焼いてきたと思ってるの……!

私の肩に、ぽんっと温かな手が乗る。

「こういう時の俺達だろ?」
さっきまでユニ・コーンと芋で情緒崩壊してた騎士様方が、今は静かに頼もしく微笑んでいた。

「そうだな」とレオンさんがウィンクして――

魔象班ましょうはんを呼んでこい」

部下がすぐさま走り去っていく。

(……魔象班?)

不思議そうな私の顔に気づいたのか、レオンさんが説明してくれた。

――“特異魔象研究班”。
王都騎士団直属の魔法犯罪調査機関。
魔力の痕跡、呪印、禁術の残滓などを分析し、真相を解き明かす者たち。

(……なにそれ、かっこよすぎない!?)

マーヤさんは騎士様たちに保護され、詰め所へ。
屋台は残ったスタッフが守ってくれるそうだ。

そして――

リアムさんは静かに、マーヤさんのスポンサーである「お金持ちさん」への報告のため、夜の帳へと消えていった。


-------------

いつもありがとうございます。
少しゆとりができたので明日も投稿します♪
「◆蜂蜜の女神と毒の涙、まさかの大口客」
ではでは、また明日。
猛暑が続きますので、皆様ご自愛くださいませ。
しおりを挟む
感想 151

あなたにおすすめの小説

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

前世のノリで全力面接対策したらスパイを疑われた

碧井 汐桜香
ファンタジー
前世の記憶のあるジョセフィーヌ・アイジャルは、ついに学園を卒業する。 王宮に士官するために、筆記試験は無事に好成績で突破し、最後の面接試験だ。 前世の通りにガクチカ、自己PRと企業分析。完璧に済ませて臨んだ面接は、何かおかしな様子で……?

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

さようなら、たったふたつの

あんど もあ
ファンタジー
王子に愛されてる伯爵令嬢のアリアと、その姉のミレイユ。姉妹には秘密があった……。

王子様への置き手紙

あおた卵
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯

ありふれた聖女のざまぁ

雨野千潤
ファンタジー
突然勇者パーティを追い出された聖女アイリス。 異世界から送られた特別な愛し子聖女の方がふさわしいとのことですが… 「…あの、もう魔王は討伐し終わったんですが」 「何を言う。王都に帰還して陛下に報告するまでが魔王討伐だ」 ※設定はゆるめです。細かいことは気にしないでください。

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。