女神のつくった世界の片隅で従魔とゆるゆる生きていきます

みやも

文字の大きさ
95 / 159
第2章 夏

◆焼けユニ・コーン、唸れ黄金芋!~屋台戦線、香り炸裂~

しおりを挟む
ヒュー……ドロロォーン。ドンッ、パンッ。パチパチパチパチ……。

七色の魔法が夜空に咲き、まるで花火のように宵を彩る。

照陽祭ナイツフェリア、開幕。

その瞬間、夜市に人の波がどっと押し寄せた。
中でも、すでに名の知れたマーヤさんの屋台には瞬く間に大行列ができる。
けれど、さすがは常連スタッフたち。慌てる様子もなく、てきぱきと客をさばき、華麗に会計をこなしていく。

(す、すごい……)

ハッ!?見惚れてる場合じゃなかった!私もユニ・コーン焼かなきゃ!
つやつやの剥きたてユニ・コーンに、タレを刷毛で丁寧に塗り、炭火の網へと並べる。

ジュッ!

赤く熾った炭にタレが落ちた瞬間、香ばしい煙がふわりと立ち上る。
その香りは爆弾のように辺り一面に弾け、香りの衝撃波が周囲の空気を支配していく。
甘くてスモーキーな香りが、広がっていくのが肌で分かった。

人々の視線が、ジリジリとこちらに集まり始める。

(ふふっ。この香りに、抗えるかしら?)

「美味しいユニ・コーンですよ~!誰も食べたことのない、甘くてジューシーな焼きユニ・コーンで~す!」

と、ケイトさんが張りのある声で客引き。
すると、人混みから意地の悪そうな中年男性がひとり、ふんっと鼻で笑いながら近づいてきた。

「所詮は水っぽいばかりで大して美味しくもないユニ・コーンだろ?」

そんな嫌味に、ケイトさんはさらりと返した。

「でしたら、一度召し上がってみてください。それで“所詮”だったら、お代はお返しします」

焼きたての一本を手渡すと、男は渋い顔でかぶりつき――
次の瞬間、目を見開いて無言のまま完食。

そして、ぐっと眉を寄せてから、深々と頭を下げた。

「……すまん、俺が間違っていた。こんな美味いユニ・コーン、食べたことがない」

「いえ、一言謝ってくださっただけで、十分です」

ケイトさんの微笑みに、その場の空気がビリッと震えた。

そこからだった。
まるで合図を受けたように――屋台前に人が殺到した。

「今の見た!?」「え、何あの匂い!?」「あのユニ・コーン、ヤバいって!!」

うわあっと波のように人が押し寄せ、一瞬で長蛇の列。それどころか通りを横断するほどの人だかりに。
瞬く間に、屋台前は騒然。
次々と人が詰めかけ、列が膨れ上がり、子どもたちがしーちゃんを撫で回し、大人たちが身を乗り出し、列の中では「割り込みだ!」「押すな!」と小競り合いすら起き始める始末。

「うま……うんま……う゛ま……」「これほんとにユニ・コーン!?」「うそでしょ……」

信じられないものを見るような目で、焼きユニ・コーンをかじり、呆然とする人々。
一方では「押した」「押さない」で喧嘩が始まりそうになり、鎧の音を鳴らしながら、騎士様方が笛をピーピー吹いて駆けつける事態に発展。次々と拘束、連行されていく。

けれど、人は止まらなかった。
それどころか、その熱気に当てられた周囲の屋台が次々と便乗し始める。

「焼きユニ・コーンに合うエールだよーっ!」
「芋にはラッシー!芋にはラッシー!」
各屋台から派遣された臨時の売り子たちがバスケット片手に列へと突撃。
果実水売りの少女たちは花冠をかぶって「喉が乾いたらこっちもどうぞ~♪」と、お祭りモード全開。

屋台に並ぶ列がいつの間にか“商売の通り道”になってしまい、列に並んでいた人が思わず飲み物を買い、次の客がそれを見て真似し、あれよあれよと列そのものがちょっとした即席フードコートの様相を呈しはじめていた頃――

「はい、バタートッピングお待ち~」

ケイトさんが軽やかに焼きユニ・コーンのバタートッピングを渡した瞬間――

「……っっっ、ん゛ん゛ん゛ん゛っっ!?」

まるで魂を焼かれたような恍惚の声があがり、その反応に、並んでいた列の人たちがザワリとさざめく。
「おいおい、まだ上があるってのか…?」

「黄金芋のバター蜂蜜トッピング、揚げたてで~す♪」

更に、ロニーさんが差し出した、湯気の立つバター蜂蜜の香りがトドメだった。
とろけるバター、甘い蜂蜜、黄金色の芋が立ち上る湯気の向こうに姿を見せた瞬間――

ゴクリ、と誰かの喉が鳴る。

「んまぁぁあああああああああああああい!!!!!」

まるで咆哮のような叫び。
それに続いて、あちこちから次々と声が上がった。

「焼きユニ・コーン、バターで二本!!」
「俺、焼きユニ・コーンと芋のバター蜂蜜」
「どっちも一番うまいやつ、頼む!!」

行列は一気に“トッピング戦争”へと突入した。
ケイトさんが声を張り、ロニーさんが黄金芋を揚げ、私がユニ・コーンを焼き、おばあちゃんが会計をし、ガチャ丸が不届き者をシバキ回る。

「ユニ・コーン、追加で十本!?!?」
「芋が間に合わない!!」
「おやまぁ、泣くほどおいしかったかい?はい、これお釣りね」

「俺が先だっただろバカ!!」「どこに目ぇついてんだ!俺だよ!!クズが!!!」
「ギャギャー!!!」「ホゲッ」「アギャッ」

目が回る忙しさ。でも、それが、たまらなく楽しくて。
泣いたり笑ったり叫んだりしながら夢中で食べる人たちを見て、ただただ、私はひたすらユニ・コーンを焼き続けた。

遠くで汗水垂らしながら群衆管理をする騎士様方の怒声を聞きながら……。
なんかゴメン。こんな騒ぎになるとは思わなかったんだ……。
しおりを挟む
感想 151

あなたにおすすめの小説

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

前世のノリで全力面接対策したらスパイを疑われた

碧井 汐桜香
ファンタジー
前世の記憶のあるジョセフィーヌ・アイジャルは、ついに学園を卒業する。 王宮に士官するために、筆記試験は無事に好成績で突破し、最後の面接試験だ。 前世の通りにガクチカ、自己PRと企業分析。完璧に済ませて臨んだ面接は、何かおかしな様子で……?

さようなら、たったふたつの

あんど もあ
ファンタジー
王子に愛されてる伯爵令嬢のアリアと、その姉のミレイユ。姉妹には秘密があった……。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

ありふれた聖女のざまぁ

雨野千潤
ファンタジー
突然勇者パーティを追い出された聖女アイリス。 異世界から送られた特別な愛し子聖女の方がふさわしいとのことですが… 「…あの、もう魔王は討伐し終わったんですが」 「何を言う。王都に帰還して陛下に報告するまでが魔王討伐だ」 ※設定はゆるめです。細かいことは気にしないでください。

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

【完結】出来の悪い王太子殿下の婚約者ですって? 私達は承諾しておりません!

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
真実の愛は策略で生まれる ~王太子殿下の婚約者なんて絶対に嫌ですわ~  勉強は出来ず、実技も酷い。顔だけしか取り柄のない一番最初に生まれた王子というだけで、王太子の地位に就いた方。王国を支える3つの公爵家の令嬢達は、他国にも名の知れた淑女であり、王太子レオポルドの婚約者候補に名を連ねた。 「絶対にお断りだわ」 「全員一緒に断りましょうよ」  ちょうど流行している物語の主人公のように演出し、道化を演じて退場していただきましょう。王家も貴族のひとつ、慣習や礼儀作法は守っていただかないと困ります。公爵令嬢3人の策略が花開く!   ハッピーエンド確定、6話完結 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、ノベルアップ+ ※2022/05/25、小説家になろう 恋愛日間20位 ※2022/05/25、カクヨム 恋愛週間27位 ※2022/05/24、小説家になろう 恋愛日間19位 ※2022/05/24、カクヨム 恋愛週間29位 ※2022/05/23、小説家になろう 恋愛日間27位  ※2022/05/21、完結(全6話) ※2022/05/21、カクヨム 恋愛週間41位 ※2022/05/20、アルファポリス HOT21位 ※2022/05/19、エブリスタ 恋愛トレンド28位

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。