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第1章 竜の加護
戴冠式
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ランサスとルートが謁見の間に入った時、戴冠式の準備は着々と進められていた。
本来であれば、国の内外に触れを出し、文武百官を揃え、他国の賓客を迎えて盛大に行なわれるものである。
だが、隣国の侵攻が間近に迫るこの状況では、晴れやかな舞台など整えようもない。装飾など一切なく、質実剛健な戴冠式が準備されていた。
平時の戴冠式であれば、式次第の合間に国内外の有力者の式辞があったり、騎兵団による剣舞や貴族子女による舞があったりする。
しかし、今はそのような浮ついた雰囲気は欠片もなく、淡々と式が始められる準備が進められていた。
竜の加護を得る為の契約魔術は、戴冠式の式次第に編み込まれている。玉座へ至る為の絨毯には地水火風の四大精霊から祝福を得る為の魔法陣が、式を進める神殿長の言葉には竜と創世神を寿ぐ祝詞が、そして王の頭上に戴く冠には契約の為の魔法陣がそれぞれ仕込まれている。実際にはさらに細かい術式が随所に編まれているし、国王が健在であれば、王位と共に竜の加護の譲位を行なう為の魔術的な仕組みもある。しかし今回、国王は既に死亡していると思われるので、譲位の部分は省略される。
ランサスにはその詳細は分からないが、典礼書の通りに式次第を進めれば、竜の加護が得られるようである。
今は、それで十分である。
「物見の塔からは、まだ何も言ってこないか?」
「はい」
「そうか……。侵入はされたが、連中も土地に明るいわけではない。夜も明けないこんな時間だ。月も今夜は二つとも出ていないし、本格的な侵攻は夜が明けてからの事かな」
「恐らくは、その通りかと。私が敵の司令官でも、夜間に不慣れな土地で無謀な事は致しません」
そこへ、神殿長の使いがやってきた。どうやら準備が整ったらしい。
念の為なのか、ルートは王女に問いかけた。
「手順は大丈夫ですかな?」
「絨毯をまっすぐ歩いて、神殿長の祝詞を聞いて、王冠を被る。簡単な仕事だ」
「戴冠を簡単な仕事と言い切る姫様は、この事態においては頼もしゅうございますな」
「では、行ってくる」
ルートには軽口を叩いたが、ランサスの心臓は激しく鼓動を打っている。ランサスは誰にも気付かれないように、小さく深呼吸した。
本当にこれで良いのだろうか。父上と母上は本当に死んでしまったのだろうか。エイフィッド王国は本当に侵攻してきているのだろうか。
疑問はいくらも浮かび上がる。だが、いずれもその答えは得られない。
ただ一つ、確実な事に気が付いた。
譲位の術式は省略しているのだから、この戴冠式が失敗すれば、それはそのまま王と王妃が存命である証となる。そうなれば、守りを固めて父と母が帰還するのを待てばいい。
竜の加護など、得られなければいい。
そんな後ろ向きの決意を秘めて、ランサスは玉座へ至る絨毯をまっすぐに歩き始めた。
文武百官とはいかないが、絨毯の両脇には籠城戦を控えてなお、手の空いている者たちが並んでいる。神殿長の話では、彼らも儀式に必要な者たちらしい。四大精霊の祝福を受けるには、王の戴冠が祝福されているという雰囲気も大事との事だ。誰からも望まれない王など存在してはならないのだから、納得の出来る話である。
やがて、ランサスは玉座の前まで来た。複雑な装飾の施された椅子には、天鵞絨の敷物の上に王冠が載せられている。
玉座の右手で待つ神殿長と相対するように、ランサスは玉座の左手に立った。正面に、ランサスが生まれた時から外見の変わらない神殿長が佇んでいる。
神の代行者としての神殿長に対し、ランサスは頭を垂れて跪く。
ランサスの姿を見て一つ頷くと、神殿長は厳かに祝詞を唱え始めた。謁見の間の広い空間に、老齢ながら驚くほどしっかりとした神殿長の声が朗々と響き渡る。
「……この者に、王位を授けん」
ランサスは目を閉じた。
――これで、私がこの国の女王に……。そして、すぐに戦場へ……。
万感の思いなどあるはずもなく、淡々とした作業のように王位がランサスのものとなる。
王位に対する思い入れも、忌避感も、義務感も覚えることなく、女王となる。
その事実を飲み込む為に、いまランサスの心にあるのは虚無であった。
だが、これはやらなければならない事だ。
再び目を開いたとき、祝詞を唱え終わった神殿長が玉座の王冠を手にしようとしていた。
その瞬間、激しい轟音と共に城が揺れた。
「な、なんだ?!」
反射的に立ち上がったランサスは、腰の細剣に手をかける。
謁見の間にいる誰もがうろたえていて、状況は何も分からない。
その中でいち早く正気に返ったルートが、入り口付近の兵士に指示を出す。
「様子を見て来るんだ! 伝令が来たなら誰何は要らぬ! すぐに通せ!」
「はっ!」
「副団長! お前はこの謁見の間と姫様を守れ! 詳細は任せる!」
「御意!」
「姫様! 些事は我らにお任せを! 早く戴冠の儀を!」
「わ、分かった!」
だが、王冠がランサスの頭上に載せられる事は無かった。
再び轟音が聞こえた次の瞬間、謁見の間の扉が燃え上がる炎と共に吹き飛んだ。扉付近にいた騎兵団士や兵士が、一緒にまとめて弾き飛ばされる。
「何が起こった?!」
炎と煙、そして木材が燃え爆ぜる音。略式とはいえ、曲がりなりにも厳粛な雰囲気で戴冠式が進んでいた謁見の間が、混乱の坩堝と化した。
そして、煙の中から赤銅色の外套を身に纏った男が、幽鬼のような動きで現れる。
魔道士だ。
外套と一体化している頭巾を目深く被っており、その顔は窺い知れない。
「ごきげんよう、姫様。……女王陛下ではなく、まだ姫様のようですね。間に合って良かった。間に合わなかったら、我が主に叱られてしまうところでしたよ」
「何者か?!」
呼ばれたランサスは、思わず誰何の問いを投げかけてしまった。
正面の神殿長は、王冠を手にしたまま動かない。
「姫様! 早く戴冠を!」
「おっと、そうはいかない」
赤銅色の魔道士は外套の内側から手を出し、人差し指を王冠に向けた。その指先に一瞬だけ炎が灯り、次の瞬間、炎は細い白光と化して王冠に突き当たった。鐘を打ち鳴らしたような澄んだ音を響かせて、王冠が弾け飛ぶ。
宙を飛ぶ王冠に、謁見の間の全員の視線が釘付けになった。
ランサスも、手を伸ばして王冠を受け止めようとする。
「あっ」
だが、空中の王冠は視界の外から現れた黒い塊にさらわれてしまう。
その黒い塊を目で追うと、先程の魔道士が王冠を片手に足元の猿のような小動物らしきものを撫でていた。小さいが、魔獣のようだ。
「よくやった。ご苦労」
小さな魔獣はぎいいっと鳴くと、魔道士の外套の内側へ潜り込んだ。だが、外套の厚みは変わらず、そのままどこかへ手品のように消えてしまったように見える。
「か……返せっ!」
王冠を玩具のように片手で弄ぶ魔道士に向かって、ランサスは凄まじい勢いで抜剣しながら走り寄った。そして抜身の速さのまま、横薙ぎに斬りかかる。
「うおっとぉ!」
だが、細剣の切っ先が外套の端を切り裂いたのみで、魔道士を斬り伏せるまでにはいかなかった。
「噂通り、言葉より先に剣が飛んでくるお姫様だ。名乗りもさせてもらえない」
「貴様は盗人だ! それで十分!」
「では勝手に名乗らせていただきます。我はエイフィッド王国筆頭宮廷魔道士サリース・サイの配下、リーフと申します。以後お見知りおきを」
「この場で斬り捨てるのだから、名乗りなど意味が無いぞ」
「待て、貴様。サリースと言ったか?」
ランサスは男の名乗りなど覚えるつもりもなかったが、いつの間にかランサスを守るように大剣を抜き放ちながら隣に来ていたルートが、動揺を隠せない声音で問い返した。
「知っているのか、ルート?」
「裏切者です。先代国王の代に魔法師団に属しておりましたが、禁書庫への無断侵入の咎で処刑されるはずでした」
「はずだった……? つまり、逃げおおせたという事か」
「はい。追っ手も差し向けましたが、完全に逃げ切られました。痛恨の出来事です」
ルートは積年の恨みをぶつける相手を見つけたかのような目で、赤銅色の外套を着た魔道士を睨みつけた。裏切者当人ではないが、その配下と名乗った男だ。無関係とは言えない。
だが、睨まれた方は魔道士らしからぬ飄々とした物言いと態度で、ルートの視線を受け止めた。その仕草は、魔道士というより道化のようである。
「我が主は、この国へ帰ってくる事を心待ちにしております。そして、ランサス姫、貴方様を花嫁に迎えたいとの仰せ。ぜひ、我が主の求婚をお受け下さいませ」
「ふ……ふざけるな! お前たちは父上と母上の仇だ! そして何より王国の敵だ!」
「はてさて、王と王妃が死んだ今、竜の加護を得る者は誰もいない。姫様の戴冠式もお済みでない。つまり、この国は事実上、滅んでおりますな。滅んだ国の敵と言われても、何の痛痒も感じませぬ」
魔道士は人差し指を立て、その上で王冠を器用にくるくると回す。
両親が死んだ事を確定事項として告げられたのだが、ランサスの心は悲しみよりも怒りが勝った。
「貴様あああっ!」
細剣を構え、再び魔道士に斬りかかる。
だが、ランサスの剣は、またしても魔道士に届く事は無かった。
「姫様、御免!」
「が……」
ルートの謝罪の声と共に、ランサスの視界が暗転した。力が抜け、身体が崩れ落ちる。
本来であれば、国の内外に触れを出し、文武百官を揃え、他国の賓客を迎えて盛大に行なわれるものである。
だが、隣国の侵攻が間近に迫るこの状況では、晴れやかな舞台など整えようもない。装飾など一切なく、質実剛健な戴冠式が準備されていた。
平時の戴冠式であれば、式次第の合間に国内外の有力者の式辞があったり、騎兵団による剣舞や貴族子女による舞があったりする。
しかし、今はそのような浮ついた雰囲気は欠片もなく、淡々と式が始められる準備が進められていた。
竜の加護を得る為の契約魔術は、戴冠式の式次第に編み込まれている。玉座へ至る為の絨毯には地水火風の四大精霊から祝福を得る為の魔法陣が、式を進める神殿長の言葉には竜と創世神を寿ぐ祝詞が、そして王の頭上に戴く冠には契約の為の魔法陣がそれぞれ仕込まれている。実際にはさらに細かい術式が随所に編まれているし、国王が健在であれば、王位と共に竜の加護の譲位を行なう為の魔術的な仕組みもある。しかし今回、国王は既に死亡していると思われるので、譲位の部分は省略される。
ランサスにはその詳細は分からないが、典礼書の通りに式次第を進めれば、竜の加護が得られるようである。
今は、それで十分である。
「物見の塔からは、まだ何も言ってこないか?」
「はい」
「そうか……。侵入はされたが、連中も土地に明るいわけではない。夜も明けないこんな時間だ。月も今夜は二つとも出ていないし、本格的な侵攻は夜が明けてからの事かな」
「恐らくは、その通りかと。私が敵の司令官でも、夜間に不慣れな土地で無謀な事は致しません」
そこへ、神殿長の使いがやってきた。どうやら準備が整ったらしい。
念の為なのか、ルートは王女に問いかけた。
「手順は大丈夫ですかな?」
「絨毯をまっすぐ歩いて、神殿長の祝詞を聞いて、王冠を被る。簡単な仕事だ」
「戴冠を簡単な仕事と言い切る姫様は、この事態においては頼もしゅうございますな」
「では、行ってくる」
ルートには軽口を叩いたが、ランサスの心臓は激しく鼓動を打っている。ランサスは誰にも気付かれないように、小さく深呼吸した。
本当にこれで良いのだろうか。父上と母上は本当に死んでしまったのだろうか。エイフィッド王国は本当に侵攻してきているのだろうか。
疑問はいくらも浮かび上がる。だが、いずれもその答えは得られない。
ただ一つ、確実な事に気が付いた。
譲位の術式は省略しているのだから、この戴冠式が失敗すれば、それはそのまま王と王妃が存命である証となる。そうなれば、守りを固めて父と母が帰還するのを待てばいい。
竜の加護など、得られなければいい。
そんな後ろ向きの決意を秘めて、ランサスは玉座へ至る絨毯をまっすぐに歩き始めた。
文武百官とはいかないが、絨毯の両脇には籠城戦を控えてなお、手の空いている者たちが並んでいる。神殿長の話では、彼らも儀式に必要な者たちらしい。四大精霊の祝福を受けるには、王の戴冠が祝福されているという雰囲気も大事との事だ。誰からも望まれない王など存在してはならないのだから、納得の出来る話である。
やがて、ランサスは玉座の前まで来た。複雑な装飾の施された椅子には、天鵞絨の敷物の上に王冠が載せられている。
玉座の右手で待つ神殿長と相対するように、ランサスは玉座の左手に立った。正面に、ランサスが生まれた時から外見の変わらない神殿長が佇んでいる。
神の代行者としての神殿長に対し、ランサスは頭を垂れて跪く。
ランサスの姿を見て一つ頷くと、神殿長は厳かに祝詞を唱え始めた。謁見の間の広い空間に、老齢ながら驚くほどしっかりとした神殿長の声が朗々と響き渡る。
「……この者に、王位を授けん」
ランサスは目を閉じた。
――これで、私がこの国の女王に……。そして、すぐに戦場へ……。
万感の思いなどあるはずもなく、淡々とした作業のように王位がランサスのものとなる。
王位に対する思い入れも、忌避感も、義務感も覚えることなく、女王となる。
その事実を飲み込む為に、いまランサスの心にあるのは虚無であった。
だが、これはやらなければならない事だ。
再び目を開いたとき、祝詞を唱え終わった神殿長が玉座の王冠を手にしようとしていた。
その瞬間、激しい轟音と共に城が揺れた。
「な、なんだ?!」
反射的に立ち上がったランサスは、腰の細剣に手をかける。
謁見の間にいる誰もがうろたえていて、状況は何も分からない。
その中でいち早く正気に返ったルートが、入り口付近の兵士に指示を出す。
「様子を見て来るんだ! 伝令が来たなら誰何は要らぬ! すぐに通せ!」
「はっ!」
「副団長! お前はこの謁見の間と姫様を守れ! 詳細は任せる!」
「御意!」
「姫様! 些事は我らにお任せを! 早く戴冠の儀を!」
「わ、分かった!」
だが、王冠がランサスの頭上に載せられる事は無かった。
再び轟音が聞こえた次の瞬間、謁見の間の扉が燃え上がる炎と共に吹き飛んだ。扉付近にいた騎兵団士や兵士が、一緒にまとめて弾き飛ばされる。
「何が起こった?!」
炎と煙、そして木材が燃え爆ぜる音。略式とはいえ、曲がりなりにも厳粛な雰囲気で戴冠式が進んでいた謁見の間が、混乱の坩堝と化した。
そして、煙の中から赤銅色の外套を身に纏った男が、幽鬼のような動きで現れる。
魔道士だ。
外套と一体化している頭巾を目深く被っており、その顔は窺い知れない。
「ごきげんよう、姫様。……女王陛下ではなく、まだ姫様のようですね。間に合って良かった。間に合わなかったら、我が主に叱られてしまうところでしたよ」
「何者か?!」
呼ばれたランサスは、思わず誰何の問いを投げかけてしまった。
正面の神殿長は、王冠を手にしたまま動かない。
「姫様! 早く戴冠を!」
「おっと、そうはいかない」
赤銅色の魔道士は外套の内側から手を出し、人差し指を王冠に向けた。その指先に一瞬だけ炎が灯り、次の瞬間、炎は細い白光と化して王冠に突き当たった。鐘を打ち鳴らしたような澄んだ音を響かせて、王冠が弾け飛ぶ。
宙を飛ぶ王冠に、謁見の間の全員の視線が釘付けになった。
ランサスも、手を伸ばして王冠を受け止めようとする。
「あっ」
だが、空中の王冠は視界の外から現れた黒い塊にさらわれてしまう。
その黒い塊を目で追うと、先程の魔道士が王冠を片手に足元の猿のような小動物らしきものを撫でていた。小さいが、魔獣のようだ。
「よくやった。ご苦労」
小さな魔獣はぎいいっと鳴くと、魔道士の外套の内側へ潜り込んだ。だが、外套の厚みは変わらず、そのままどこかへ手品のように消えてしまったように見える。
「か……返せっ!」
王冠を玩具のように片手で弄ぶ魔道士に向かって、ランサスは凄まじい勢いで抜剣しながら走り寄った。そして抜身の速さのまま、横薙ぎに斬りかかる。
「うおっとぉ!」
だが、細剣の切っ先が外套の端を切り裂いたのみで、魔道士を斬り伏せるまでにはいかなかった。
「噂通り、言葉より先に剣が飛んでくるお姫様だ。名乗りもさせてもらえない」
「貴様は盗人だ! それで十分!」
「では勝手に名乗らせていただきます。我はエイフィッド王国筆頭宮廷魔道士サリース・サイの配下、リーフと申します。以後お見知りおきを」
「この場で斬り捨てるのだから、名乗りなど意味が無いぞ」
「待て、貴様。サリースと言ったか?」
ランサスは男の名乗りなど覚えるつもりもなかったが、いつの間にかランサスを守るように大剣を抜き放ちながら隣に来ていたルートが、動揺を隠せない声音で問い返した。
「知っているのか、ルート?」
「裏切者です。先代国王の代に魔法師団に属しておりましたが、禁書庫への無断侵入の咎で処刑されるはずでした」
「はずだった……? つまり、逃げおおせたという事か」
「はい。追っ手も差し向けましたが、完全に逃げ切られました。痛恨の出来事です」
ルートは積年の恨みをぶつける相手を見つけたかのような目で、赤銅色の外套を着た魔道士を睨みつけた。裏切者当人ではないが、その配下と名乗った男だ。無関係とは言えない。
だが、睨まれた方は魔道士らしからぬ飄々とした物言いと態度で、ルートの視線を受け止めた。その仕草は、魔道士というより道化のようである。
「我が主は、この国へ帰ってくる事を心待ちにしております。そして、ランサス姫、貴方様を花嫁に迎えたいとの仰せ。ぜひ、我が主の求婚をお受け下さいませ」
「ふ……ふざけるな! お前たちは父上と母上の仇だ! そして何より王国の敵だ!」
「はてさて、王と王妃が死んだ今、竜の加護を得る者は誰もいない。姫様の戴冠式もお済みでない。つまり、この国は事実上、滅んでおりますな。滅んだ国の敵と言われても、何の痛痒も感じませぬ」
魔道士は人差し指を立て、その上で王冠を器用にくるくると回す。
両親が死んだ事を確定事項として告げられたのだが、ランサスの心は悲しみよりも怒りが勝った。
「貴様あああっ!」
細剣を構え、再び魔道士に斬りかかる。
だが、ランサスの剣は、またしても魔道士に届く事は無かった。
「姫様、御免!」
「が……」
ルートの謝罪の声と共に、ランサスの視界が暗転した。力が抜け、身体が崩れ落ちる。
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