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ep.16 異世界でも相手の土俵に立つのは愚策
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雄叫び。咆哮。
体が小さいとはいえ、ドラゴンのそれだ。迫力がある。
「おい人間。怒りを思い出させてもらったぞ……!」
そう言って咆哮を上げ、目の前の魔法陣から自分の分身のような存在を召喚した。
――召喚されたのは、木でできたドラゴン。2メートルはある巨体だ。
「ウッドドラゴンよ! ゆけ!」
その声に反応し、俺のほうへ襲いかかってきた。
〈ブンッ!〉
大きく腕を振るウッドドラゴン。
俺は大きく後ろに飛んで避ける。
小さいドラゴンが独り言をつぶやく。
「そうか、魔王か……。面白くなってきたな! 正式な契約は、俺様のウッドドラゴンを倒してからにしてもらおう。油断をしていると命に関わるぞ」
とにかく戦うことになったようだ。
――その戦闘を通して、経営戦略と戦いの戦略は似ている、と思い知らされることになる。
***
ウッドドラゴン。木でできたドラゴン。
木でできているとはいえ、2メートルの巨体。迫力がある。
ゆったりとした動きで上空へ腕を構えた後、振り下ろすようにこちらに攻撃をしてくる。
――速い。
まるで上段までゆっくり構えた達人が、剣で攻撃しているようだった。
「ちょ、ちょっとまって。もう契約はしたんだから! 攻撃停止!」
「一時保留だ! そもそもお互い名前も知らんやつと契約できるか!」
確かに、そうだ。
説得されてしまい、何故か構えてしまい、戦闘体勢に入ってしまった。
……戦闘できないのに。
ああ、相手の土俵に立ってしまった。愚策だとわかっているのに。
「俺様と契約したいなら、単純な強さこそ前提条件! 小手先の技術でごまかす戦術は決して長続きしない! まずは強さを見極めさせてもらう!」
〈ブンッ!〉
また、同じような攻撃をしてくる。
ブラック企業で木刀で殴られたことがある俺はその痛みを思い出し、必死に避けた。
――ブラック企業の上司は、顔を避けて殴ってきてた。半分洗脳し、暴力で支配するのだ。他に行くところがないと洗脳させて、この企業以外ではやっていけないと洗脳する。
しかしそんな戦略に俺はもう負けない。
「負けない……!」
急に怒りがこみ上げる。
状況は違うけど、力を証明しなきゃいけないのは同じ。
あのとき、俺は理不尽でも木刀の痛みに耐えなければならなかった。
相手の土俵に立つのは愚策。
だけど、将来の頼もしい味方かもしれない。真剣に戦うことが重要だ。
決意を固めるも、反撃の糸口が掴めない。ウッドドラゴンは予備動作が遅いものの、何度も仕掛けてくる攻撃をよけるたびに、体力が削られていく。
〈ブンブンッ!〉
俺は避けながらも相手を観測し続ける。
――戦略に基本は弱点をつくことだ。ただそれは読まれていることも多い。
相手の気がつかないうちに、相手の弱点をつくことが重要だ。
だから多くの企業は新規参入がないように、阻止戦略を取っている。
新規参入がないように対策を立てておくのは重要である。最初はどうしても脅しになる。
タイマンでの戦いで意外と重要なのは戦意喪失。
いや、経営対決では常にそれこそが重要戦略の一つ。
……とネットで得た知識を思い出す。
しかし不思議なことにドラゴンのくせにブレスを使った攻撃をしてこない。
「いけー! テンチョー! そいつは物理攻撃しかしてこないっす! 懐に潜り込んでカウンターっす!」
後ろからスコリィが競馬客のように応援してくる。
安全なところから応援しやがって、経済評論家かよ、と憎まれ口を返す余裕すらなく俺は攻撃を避け続ける。
しかしそのスコリィにも相手の長い尻尾が攻撃を繰り出す。近くの地面をえぐり、土砂をスコリィに投げつける。
「うおおっと!」
避けたスコリィはお返しとばかりに相手に石礫の魔法を放ったが、それはあまりに弱々しかった。
「今日はもうほとんど魔力切れっす。てへ」
可愛い顔をしたら許されると思っているな、このヤンキー娘。
そのとき。
〈ゴツン〉
相手の足の関節に石がぶつけられる。
後ろから見ていたイゴラくんがウッドドラゴンにレンガのような石を投げたようだ。
ドラゴンの注意がそれた隙に、俺にアドバイスをくれる。
「ドラゴンだろうとなんだろうと、ゴーレムの弱点は、関節です!」
ナイスなアドバイス。彼は言った直後にさっと木陰に隠れる。
俺はウッドドラゴンの関節を見る。西洋型のドラゴンの形である足や腕の関節。ぼんやりと光って何か防御魔法かなにかがかけられているような……。
「ムダだ! 関節には防御魔法がかけられている!」
ドラゴンがにやりと口の端をあげる。
「いやめっちゃ対策できてる!」
「弱点を強化しておくのは基本中の基本!」
もはや笑いを我慢できないという感じで、ドラゴンが高笑いをする。
「序盤の敵が余計なことをするなっ!」
俺は相手の攻撃を避けながら、なんとか木の棒で弱点と思われる関節を攻撃してみた。
〈バチッ〉
勢いよく弾かれる。
防御魔法が棒を弾いたのだ。
「うん、関節への攻撃は無理そうだな」
「さあどうする? 降参か?」
勝ち誇ったようなドラゴンのドヤ顔。結構腹立つな、爬虫類っぽいくせに。
**
予備動作が遅いのにもかかわらず、動き出した後の攻撃があまりに速いので俺は相手をするだけで精一杯だった。
〈ギシギシッ、ガシャ!〉
という音が何度も繰り返される。
「木でできているなら、炎が弱点か!?」
避けるだけで精いっぱいだった俺はようやく導いた推理を口にする。
「はっはっは。それも対策済みだ! 全身に耐火塗装をしてある!」
「余計なことしすぎだ!」
攻撃を避けながら俺がツッコミをする。しかしそのツッコミで生じたスキに爪で攻撃される。
〈ブンッ〉
かろうじてよける。
……だめだ、こんなことをしていたら本当に死ぬ。
防戦一方になっていたとき、思いもよらない助っ人たちが現れた。
体が小さいとはいえ、ドラゴンのそれだ。迫力がある。
「おい人間。怒りを思い出させてもらったぞ……!」
そう言って咆哮を上げ、目の前の魔法陣から自分の分身のような存在を召喚した。
――召喚されたのは、木でできたドラゴン。2メートルはある巨体だ。
「ウッドドラゴンよ! ゆけ!」
その声に反応し、俺のほうへ襲いかかってきた。
〈ブンッ!〉
大きく腕を振るウッドドラゴン。
俺は大きく後ろに飛んで避ける。
小さいドラゴンが独り言をつぶやく。
「そうか、魔王か……。面白くなってきたな! 正式な契約は、俺様のウッドドラゴンを倒してからにしてもらおう。油断をしていると命に関わるぞ」
とにかく戦うことになったようだ。
――その戦闘を通して、経営戦略と戦いの戦略は似ている、と思い知らされることになる。
***
ウッドドラゴン。木でできたドラゴン。
木でできているとはいえ、2メートルの巨体。迫力がある。
ゆったりとした動きで上空へ腕を構えた後、振り下ろすようにこちらに攻撃をしてくる。
――速い。
まるで上段までゆっくり構えた達人が、剣で攻撃しているようだった。
「ちょ、ちょっとまって。もう契約はしたんだから! 攻撃停止!」
「一時保留だ! そもそもお互い名前も知らんやつと契約できるか!」
確かに、そうだ。
説得されてしまい、何故か構えてしまい、戦闘体勢に入ってしまった。
……戦闘できないのに。
ああ、相手の土俵に立ってしまった。愚策だとわかっているのに。
「俺様と契約したいなら、単純な強さこそ前提条件! 小手先の技術でごまかす戦術は決して長続きしない! まずは強さを見極めさせてもらう!」
〈ブンッ!〉
また、同じような攻撃をしてくる。
ブラック企業で木刀で殴られたことがある俺はその痛みを思い出し、必死に避けた。
――ブラック企業の上司は、顔を避けて殴ってきてた。半分洗脳し、暴力で支配するのだ。他に行くところがないと洗脳させて、この企業以外ではやっていけないと洗脳する。
しかしそんな戦略に俺はもう負けない。
「負けない……!」
急に怒りがこみ上げる。
状況は違うけど、力を証明しなきゃいけないのは同じ。
あのとき、俺は理不尽でも木刀の痛みに耐えなければならなかった。
相手の土俵に立つのは愚策。
だけど、将来の頼もしい味方かもしれない。真剣に戦うことが重要だ。
決意を固めるも、反撃の糸口が掴めない。ウッドドラゴンは予備動作が遅いものの、何度も仕掛けてくる攻撃をよけるたびに、体力が削られていく。
〈ブンブンッ!〉
俺は避けながらも相手を観測し続ける。
――戦略に基本は弱点をつくことだ。ただそれは読まれていることも多い。
相手の気がつかないうちに、相手の弱点をつくことが重要だ。
だから多くの企業は新規参入がないように、阻止戦略を取っている。
新規参入がないように対策を立てておくのは重要である。最初はどうしても脅しになる。
タイマンでの戦いで意外と重要なのは戦意喪失。
いや、経営対決では常にそれこそが重要戦略の一つ。
……とネットで得た知識を思い出す。
しかし不思議なことにドラゴンのくせにブレスを使った攻撃をしてこない。
「いけー! テンチョー! そいつは物理攻撃しかしてこないっす! 懐に潜り込んでカウンターっす!」
後ろからスコリィが競馬客のように応援してくる。
安全なところから応援しやがって、経済評論家かよ、と憎まれ口を返す余裕すらなく俺は攻撃を避け続ける。
しかしそのスコリィにも相手の長い尻尾が攻撃を繰り出す。近くの地面をえぐり、土砂をスコリィに投げつける。
「うおおっと!」
避けたスコリィはお返しとばかりに相手に石礫の魔法を放ったが、それはあまりに弱々しかった。
「今日はもうほとんど魔力切れっす。てへ」
可愛い顔をしたら許されると思っているな、このヤンキー娘。
そのとき。
〈ゴツン〉
相手の足の関節に石がぶつけられる。
後ろから見ていたイゴラくんがウッドドラゴンにレンガのような石を投げたようだ。
ドラゴンの注意がそれた隙に、俺にアドバイスをくれる。
「ドラゴンだろうとなんだろうと、ゴーレムの弱点は、関節です!」
ナイスなアドバイス。彼は言った直後にさっと木陰に隠れる。
俺はウッドドラゴンの関節を見る。西洋型のドラゴンの形である足や腕の関節。ぼんやりと光って何か防御魔法かなにかがかけられているような……。
「ムダだ! 関節には防御魔法がかけられている!」
ドラゴンがにやりと口の端をあげる。
「いやめっちゃ対策できてる!」
「弱点を強化しておくのは基本中の基本!」
もはや笑いを我慢できないという感じで、ドラゴンが高笑いをする。
「序盤の敵が余計なことをするなっ!」
俺は相手の攻撃を避けながら、なんとか木の棒で弱点と思われる関節を攻撃してみた。
〈バチッ〉
勢いよく弾かれる。
防御魔法が棒を弾いたのだ。
「うん、関節への攻撃は無理そうだな」
「さあどうする? 降参か?」
勝ち誇ったようなドラゴンのドヤ顔。結構腹立つな、爬虫類っぽいくせに。
**
予備動作が遅いのにもかかわらず、動き出した後の攻撃があまりに速いので俺は相手をするだけで精一杯だった。
〈ギシギシッ、ガシャ!〉
という音が何度も繰り返される。
「木でできているなら、炎が弱点か!?」
避けるだけで精いっぱいだった俺はようやく導いた推理を口にする。
「はっはっは。それも対策済みだ! 全身に耐火塗装をしてある!」
「余計なことしすぎだ!」
攻撃を避けながら俺がツッコミをする。しかしそのツッコミで生じたスキに爪で攻撃される。
〈ブンッ〉
かろうじてよける。
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防戦一方になっていたとき、思いもよらない助っ人たちが現れた。
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