丘の上の雑貨屋と魔王モール

toseki.yunomi

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ep.23 ビギナーズラックが続くことはほとんど無い

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――少し時間が戻って、ミッドライフシティでの最初の夜。

俺達はささやかな打ち上げをしていた。

「かんぱーい!」

初の露店販売記念というか、決起会というか。

ルルドナがいないから乗り気ではなかったけど。こういうのって結構大事らしい。
ガディも入れて、打ち上げをすることにした。

ガディの母親が助っ人に来てくれることを少し期待していたが、立場上色々とあって動けないらしい。

「でも……ワタクシなんかが一緒に来てよろしいのでしょうか?」

「もちろん!」

と機嫌よく言ってご当地ビールを煽る。
程よい苦みと微炭酸が喉を潤す。久々に旨い酒を飲んでいるような気がする。

この世界にアルコールの年齢制限はないらしく、スコリィもイゴラもペッカもグビグビと飲んでいる。酒癖の悪いメンバーがいなければいいのだが。

俺は心は少年だが、それとは別にお酒は大好きであった。酒にはめっぽう強く、いくら飲んでも言動が乱れることはない、はずだ。
「でもそんなにうまく取り返せるんすかね。あの魔王モールっすよ」
ちゃっかりイゴラくんの隣に座ったスコリィが尋ねる。
「全体の決定ってことは無いんじゃないのかな? 帰省ついでにやったことだし」

そこにペッカが口を挟む。
「内部の事情を推測してもきりがない。三号店くらい俺が破壊してやる!」
――酒癖が悪そうなのがいた。

俺が話題を変える。

「ともかくお金だ。移動に馬車を使っても、普通なら5日もかかるようなところに行くんだから、移動宿泊でもかなりの金額になる」

そう、俺たちの最大の問題は戦力ではなく、お金である。たどりつくまでの移動宿泊費が足りない、という金銭的問題が大きい。

「ワタクシの水移動魔法が使えればいいんですが、……実は、迎撃魔法ばかり練習して移動はこの近くの水場にしかできなくて……」

「気にしなくていいよ。出張費は、持ってきた金額と今日の売上を合わせておよそ20万。この安宿でも数泊程度しかできない。町を巡って売りながら、仕入れと販売を繰り返して出張費にする」

「そんなの成り立つんすか。このご時世、魔王通販があるのに」

「俺のハニワ人形が売れれば……。ほぼ原料無料でこんなに美しいんだからこれが爆売れするのが一番いいんだけど……」

俺はハニワ人形を取り出して色んな角度から眺める。美しい。

「それはやめておくべきっす!」

スコリィのツッコミに、イゴラがすぐさま同意する。

「そうです!」

なぜかハニワ人形に異様なほど相性の悪さを感じているようだ。やはりゴーレムとハニワは相性がわるいのだろうか。

「これだけじゃないにしても、通販しにくい商品とかでやると良いと思うよ。割れ物とか新鮮なものとか。ネットで見たマーケティング戦略だけど」

「また元世界のネットっすか。そんな聞きかじった知識ばかりでうまくいくんすかね」

焼き鳥の串をくわえているスコリィ。似合うなおい。

「俺様はそういうの全然わからんから任せる」

犬のサイズで可愛らしい声を出すペッカ。器用に子供用の椅子に座ってロールキャベツみたいなものをつまんでいる。雑食らしい。

「ボクも少しは所持金を持ってきましたが、馬車の移動費となるとちょっと」

イゴラくんもしゅんとして謙虚な食べ方をしている。ゴーレムの食事が同じというのは本当に不思議だけど、きっとこの異世界の創造主がメモリの節約のために統一したんだろう。それに偏見は良くない。

「みな心配しているようだね。今日のような売上をしても、確かに旅費を貯めるだけで、かなりに日数が必要になる……。そこで考えたが、この焼き物!」

俺は自分の焼き上げた自慢の小皿を取り出す。呆れた顔でスコリィが言う。彼女は明らかに遠慮して食べている。隣に座るからだ。

「……まさか、できたての焼き物で勝負をかけるんすか。できたてが喜ばれるのは食べ物だけっすよ」

「ちがうな! 昨日、試しに月の明かりの当たるように寝てたら、スキルレベルが上がったみたいなんだよね」

俺は焼き物を突き出して皆に見せる。釉《うわぐすり》をしていないのに、陶器のようになっていた。

「よく見てみるのだ。表面がツルツルしているだろう。これを陶器という」

「……地味なレベルアップすね。まあでもこれも魔王モールで見たことあるっすよ」

「そう、これだけではそこまで希少価値はない。安物の使い捨ての焼き物で十分だ。もっとアピールが必要なんだ。そこで、ゴーレムのイゴラくんだ!」

「え、ボクですか?」

「彼のこの体を陶器で包みこんで可愛らしくする! きっと目立つ! 売れる!」

「……悪くないっすね」

すぐさま同意するスコリィ。オロオロするイゴラくんをみてニコニコしている。

「ええ、そんなあ。ボクは裏方がいいのに……」不安そうなイゴラくんに激励の言葉をかける。

「いいかい、君は自分で思っているより魅力的なんだ。俺の作品に包まれたらもっと魅力的になる」

自分がこんなアイドルスカウトのようなセリフを吐くことになるとは思わなかった。しかもオスのモンスターに。

「少しの工夫が、売上を伸ばす! ナッジ戦略だ!」

(※ナッジ戦略とは肘でつつくという意味のナッジを販売戦略に組み合わせるもの。この場合、単に目立つよう向けいているだけなので使い方が違う)

「……またネットっすか。まあ今回は良さそうっすけど」呆れた感じのスコリィがビールを飲み干して言う。

「皆さん、難しい話をどんどん広げられてすごいです……!」

デビルウンディーネのガディが尊敬の眼差しを向ける。俺は得意になってジョッキを煽った。

**

――てのが昨日のことで、今日は昨日の繁盛が嘘みたいに閑古鳥になっていた。原材料もすべて3倍近く仕入れたのに、本当に売れなかった。

白い陶器で身を包んだイゴラくんは半べそをかいている。

「ボクがこんな格好をしているから……」

「ちがうっす! 神々しすぎて近づけないだけっす!」

意味不明のフォローをして慰めようとしているスコリィが痛々しい。手伝っているつもりなのか、俺の作った陶器のドンブリを頭に被っている。

――広場を見渡し、深く息を吐く。

「……悪いのは俺だ。そもそも広場に人がいない。昨日はあんなに人がいたのに……。この都市の人びとの行動パターンも調べずにやってしまった俺が悪いんだ」

曇った空。少し肌寒い。天候のせいかもしれない。

だがそれ以上に、そもそも午前中には、この広場にほとんど人の姿がなかったのだ。

この広場には午前中、賑いがないのだ。これではいくら目立っても意味がないだろう。

時計を見る。まだ午前9時すぎ。しかし朝の通勤ラッシュは終わっている時間帯だ。チラチラと通る人はいたけど店に立ち寄る人はいなかった。

「……ちょっと2時間ばかり店を閉めよう。お昼前にまた再開しよう。各自、情報収集をしてて。いったん、解散」

俺は、明らかに覇気をなくして、解散することにした。
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