32 / 38
ep.32 露店で商品が売り切れるなんて普通はない
しおりを挟む
スコリィはその夜ずっと看病していると言ってきたので俺はさすがに徹夜はと止めたけど、ピクシーはもともと夜行性だからいいらしい。
俺らは宿に戻った。狭いが個室だ。俺が夜まで作業するから、部屋は分けている。
注文された看板のため、粘土をこねる。
こねるこねる。
こねこね。
……。
ああ、やはりこの時間が一番落ち着く、粘土サイコー。
予約されていたデザイン通りに看板を作り、予備の皿や花瓶も多めに作り、ついでにハニワもいくつか作る。
「ああ、粘土をこねるのってなんでこんなに気持ちいいのだろう」
俺は至極の気分で独り言を言う。
店長業務なんてやらずにこういうことをずっとしていたい。
……しかし胸ポケットからツッコミが入る。
「変態ね」
「誉め言葉だ」
「結果として仕事になっているからいいけど……」
窓からの月明りにルルドナをおいて、寝床に潜り込む。
今日はいろいろとあって疲れた。楽しかったとかよかったとかいう感想よりなにより疲れたという感想が出てきてしまうのは歳の証拠かもしれない。
**
三日目の朝。天気は少し回復し、薄曇りといった感じだ。
朝早くにイゴラを見舞いに行く。横になっていたが、案の定まったく同じに見えた。スコリィはイゴラの寝ているベッドの脇に突っ伏してよだれを垂らして寝ていた。
「まあこれはこれで」
俺は彼女に上着をかけ、皆で静かに外に出た。
**
午前中、メンバーには情報収集とビラ配りを軽くしてもらって自由行動にした。
情報収集に関しては、娘のガディが仲間になったから、そこまで必要ないんだけど。
商売人に商売をするのが一番儲かる。特にミニ看板など特注品は。
各自、担当エリアを決めてビラを配ってもらう。
俺は頼まれた看板をすべて届けて、10時半前に、コーヒーを楽しみに『ムーンバックス』へ駆け込んだ。いや、ミニ看板を届けに来たのだ。
マスターは客席の一番奥でうとうとしていた。もともと夜営業のこの店のマスターは、とても眠そうであった。いつも眠そうだが。半眼の目を何度も瞬きさせて俺の看板を見つめる。
俺はここの落ち着いた雰囲気に合わせて、常滑焼っぽい感じでかつ青みがかったベージュの色合いにした。これなら路地裏からでも目立つし、雰囲気を損ねない。
「へぇ。悪くないね」
少しだけ目を大きく開けたマスター。眠そうな顔のままコーヒーを手早く淹れてくれる。
「いいでしょ?」
コーヒーを二人ですすりながらミニ看板を鑑賞する。
相変わらず店内には誰もない。経営は成り立っているのだろうか。
「色もよくこんないい感じに出たね。白藤色というか。どうやって着色料を手に入れたの?」
「それは……」
俺はネタを言ってしまっては、値切られないか心配になる。マスターの顔をちらりと見る。……そんなことをする人には見えない。
「実は異世界転生スキルで、焼き物をすぐに作り上げるというか土器や陶器を作れて、色も自在に出せるみたいで。そういうのはイメージ着色できるんですよ。今は薄い色しか出ないですけどレベルアップしたらもっと濃淡も自在かもしれないです」
「そうなんだね。そりゃ便利だ。材料いらずってすごいスキルだよ。戦いには向かなさそうだけど」
「まあ……、そうですね。マスターは、異世界人です?」
「そうかもしれないね」
微妙な言い方をしてこちらを見るマスター。
「……いや、君になら言ってもいいか。俺は常滑・ヘーヒスト。異世界に転生して、……ヒモになった。この辺の地主ヘーヒスト家の娘に気に入られて、婿入りした」
俺は目をカッと見開く。
「ヒモ! 最高ですね! ……というか同じオーラを感じます!」
「うん、俺も君には同じオーラを感じていたよ。一番薄暗いあの席に二日連続で座って、ハニワ人形に話しかけて」
熱い握手を交わす。
俺は名刺をもらう。裏には大きな家紋が描かれていた。すごい家柄のヒモになったみたいでうらやましい。俺の10億借金とは大違いだ……。
「何かあったら連絡してよ」
コーヒー代金を支払って、店を後にする。
さあ、噴水広場――戦場へいこう。
**
揚げジャムパン、ジャム、俺の作った皿、コップ、ハニワ、そして陶器のミニ看板、……かなり変わった品揃えだけど、今はこういうものを売るしかない。
「これらを売りさばけば、みんなで馬車に乗ってショッピングモールまでいけるぞ! さあ、最後だ、頑張ろう! 油断しないように!」
「おう!」「はい!」
昼前、売り始めてすぐに、人が集まってきた。揚げパンを中心にかなり売れた。ハニワは売れなかったが、ミニ看板は3枚追加で注文が入った。
ペッカもガディもノリノリで売っていた。だんだんと堂に入っており、とても人里離れて過ごしていたとは思えない。異世界も変わってきているのかもしれない。
ドラゴンにウンディーネ。古代伝説級の異世界民にこんなことさせているのは俺だけではないだろうか、天罰など当たらなければいいが、とやや心配になる。
お昼が過ぎたころイゴラとスコリィが合流した。
「お騒がせしてすみません。ちょっと力が入りすぎてたみたいで。もうすっかり大丈夫です!」
イゴラが深く頭を下げる。やはりゴーレムとしてはかなり小さい。なんとなくゴーレムは体力があると勘違いしていた自分を反省する。
「いいよいいよ。売り上げ目標は達成したし。俺と交代で、ゆっくりパンを作ろう」
こういうとき、無駄に休ませてはいけない。少しでいいから、手を動かさねばならない。とネットに書いてあった。
一緒にレンガパンと揚げパンを作る。
「さあ、一流のパン屋が焼いたおいしいレンガパンっすよ!」
スコリィが声を張り上げる。まるで俺が二流みたいだが、事実なので何も言わない。実際、レンガパンが出てきてさらに客層に幅ができて、どんどん売れた。陶器も売れた。ハニワも少し売れた。
――とまあこんな感じで売りさばき、目標を大幅に上回ることができた。
「よし、終わり! 目標達成!」
夜7時。俺は皆に声をかけ、露店販売を終わりとした。
今夜は、飯がうまそうだ。
俺らは宿に戻った。狭いが個室だ。俺が夜まで作業するから、部屋は分けている。
注文された看板のため、粘土をこねる。
こねるこねる。
こねこね。
……。
ああ、やはりこの時間が一番落ち着く、粘土サイコー。
予約されていたデザイン通りに看板を作り、予備の皿や花瓶も多めに作り、ついでにハニワもいくつか作る。
「ああ、粘土をこねるのってなんでこんなに気持ちいいのだろう」
俺は至極の気分で独り言を言う。
店長業務なんてやらずにこういうことをずっとしていたい。
……しかし胸ポケットからツッコミが入る。
「変態ね」
「誉め言葉だ」
「結果として仕事になっているからいいけど……」
窓からの月明りにルルドナをおいて、寝床に潜り込む。
今日はいろいろとあって疲れた。楽しかったとかよかったとかいう感想よりなにより疲れたという感想が出てきてしまうのは歳の証拠かもしれない。
**
三日目の朝。天気は少し回復し、薄曇りといった感じだ。
朝早くにイゴラを見舞いに行く。横になっていたが、案の定まったく同じに見えた。スコリィはイゴラの寝ているベッドの脇に突っ伏してよだれを垂らして寝ていた。
「まあこれはこれで」
俺は彼女に上着をかけ、皆で静かに外に出た。
**
午前中、メンバーには情報収集とビラ配りを軽くしてもらって自由行動にした。
情報収集に関しては、娘のガディが仲間になったから、そこまで必要ないんだけど。
商売人に商売をするのが一番儲かる。特にミニ看板など特注品は。
各自、担当エリアを決めてビラを配ってもらう。
俺は頼まれた看板をすべて届けて、10時半前に、コーヒーを楽しみに『ムーンバックス』へ駆け込んだ。いや、ミニ看板を届けに来たのだ。
マスターは客席の一番奥でうとうとしていた。もともと夜営業のこの店のマスターは、とても眠そうであった。いつも眠そうだが。半眼の目を何度も瞬きさせて俺の看板を見つめる。
俺はここの落ち着いた雰囲気に合わせて、常滑焼っぽい感じでかつ青みがかったベージュの色合いにした。これなら路地裏からでも目立つし、雰囲気を損ねない。
「へぇ。悪くないね」
少しだけ目を大きく開けたマスター。眠そうな顔のままコーヒーを手早く淹れてくれる。
「いいでしょ?」
コーヒーを二人ですすりながらミニ看板を鑑賞する。
相変わらず店内には誰もない。経営は成り立っているのだろうか。
「色もよくこんないい感じに出たね。白藤色というか。どうやって着色料を手に入れたの?」
「それは……」
俺はネタを言ってしまっては、値切られないか心配になる。マスターの顔をちらりと見る。……そんなことをする人には見えない。
「実は異世界転生スキルで、焼き物をすぐに作り上げるというか土器や陶器を作れて、色も自在に出せるみたいで。そういうのはイメージ着色できるんですよ。今は薄い色しか出ないですけどレベルアップしたらもっと濃淡も自在かもしれないです」
「そうなんだね。そりゃ便利だ。材料いらずってすごいスキルだよ。戦いには向かなさそうだけど」
「まあ……、そうですね。マスターは、異世界人です?」
「そうかもしれないね」
微妙な言い方をしてこちらを見るマスター。
「……いや、君になら言ってもいいか。俺は常滑・ヘーヒスト。異世界に転生して、……ヒモになった。この辺の地主ヘーヒスト家の娘に気に入られて、婿入りした」
俺は目をカッと見開く。
「ヒモ! 最高ですね! ……というか同じオーラを感じます!」
「うん、俺も君には同じオーラを感じていたよ。一番薄暗いあの席に二日連続で座って、ハニワ人形に話しかけて」
熱い握手を交わす。
俺は名刺をもらう。裏には大きな家紋が描かれていた。すごい家柄のヒモになったみたいでうらやましい。俺の10億借金とは大違いだ……。
「何かあったら連絡してよ」
コーヒー代金を支払って、店を後にする。
さあ、噴水広場――戦場へいこう。
**
揚げジャムパン、ジャム、俺の作った皿、コップ、ハニワ、そして陶器のミニ看板、……かなり変わった品揃えだけど、今はこういうものを売るしかない。
「これらを売りさばけば、みんなで馬車に乗ってショッピングモールまでいけるぞ! さあ、最後だ、頑張ろう! 油断しないように!」
「おう!」「はい!」
昼前、売り始めてすぐに、人が集まってきた。揚げパンを中心にかなり売れた。ハニワは売れなかったが、ミニ看板は3枚追加で注文が入った。
ペッカもガディもノリノリで売っていた。だんだんと堂に入っており、とても人里離れて過ごしていたとは思えない。異世界も変わってきているのかもしれない。
ドラゴンにウンディーネ。古代伝説級の異世界民にこんなことさせているのは俺だけではないだろうか、天罰など当たらなければいいが、とやや心配になる。
お昼が過ぎたころイゴラとスコリィが合流した。
「お騒がせしてすみません。ちょっと力が入りすぎてたみたいで。もうすっかり大丈夫です!」
イゴラが深く頭を下げる。やはりゴーレムとしてはかなり小さい。なんとなくゴーレムは体力があると勘違いしていた自分を反省する。
「いいよいいよ。売り上げ目標は達成したし。俺と交代で、ゆっくりパンを作ろう」
こういうとき、無駄に休ませてはいけない。少しでいいから、手を動かさねばならない。とネットに書いてあった。
一緒にレンガパンと揚げパンを作る。
「さあ、一流のパン屋が焼いたおいしいレンガパンっすよ!」
スコリィが声を張り上げる。まるで俺が二流みたいだが、事実なので何も言わない。実際、レンガパンが出てきてさらに客層に幅ができて、どんどん売れた。陶器も売れた。ハニワも少し売れた。
――とまあこんな感じで売りさばき、目標を大幅に上回ることができた。
「よし、終わり! 目標達成!」
夜7時。俺は皆に声をかけ、露店販売を終わりとした。
今夜は、飯がうまそうだ。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる