33 / 38
ep.33 弱みは欠点ではない。強みに集中しないことが欠点である
しおりを挟む
「カンパーイ!」
皆が声を上げ、居酒屋で飲みかわす。
僕たちは盛大に打ち上げをした。スコリィは相変わらずイゴラの隣に座っている。僕もちゃっかりガディの隣に座ったけど。
程よく食べ、酒が回ってきたころ、僕は立ち上がった。本当はこんなことしたくないけど、僕が店長だからしなければならない。
「皆、今回はイゴラくんがMVPだ。褒めたたえるように!」
ぱちぱちぱち。
「さすがっす! 感涙を禁じ得ないっす!」
「いいぞ!」
「レンガパン、おいしいです!」
「だけど倒れるまで何も言わないのは今回限りだよ。みんな、何か弱みなどあるなら先に言っていてほしい。僕は粘土をこねるのと多少速く走れるくらいしかできない。あとは全部だめだ」
周囲の苦笑いをスルーしてスコリィを促す。
「あたしは完璧っすね。ピクシーにしては背が高いっすけど。まあ女としてはモテないっすけどそれ以外は完璧っす」
「ちょっとまって。でかい女性は需要があるぞ。……その話はあとで時間を作ってじっくりするから、次」
次に、イゴラを促す。
「ボクは背が低いし、力も体力もないから、欠点だらけです。今回も体力不足でこんなことになってしまって」
「身長はこの先に伸びるかもしれないし、体力はこれからついていくよ。一緒に頑張ろう」
そしてガディを促す。
「ワタクシも魔法以外は全然だめで。あと、デビルガーゴイルの娘として、本当はもっと迫力が欲しいのですが。この見た目のせいで、魔法を活かせる戦闘系の仕事に就けなくて」
「なるほど。美しさは罪ってやつ、だね」
最後にペッカ。
「俺様は、……特にないぞ。お前らより長生きしているしな」
「そっか。頼もしいな」
首をゆっくりと動かしながらみんなをぐるりと見る。背が高い、背が低く体力がない、美しすぎる、という欠点。戦いでは弱みかもしれないが、商売にはあまり関係がない。むしろ、強みにすらなる。
このパーティなら、魔王ショッピングモールにも一矢報いることができるかもしれない。
「ちなみにこの世界って魔王が一番強いの?」
よくぞ聞いてくれたという感じでペッカがしゃべりだす。
「異世界人はよく勘違いするが、魔王はもう力で世界を支配する方向を変えて、経済力で世界を支配する方向にいっている。その代表がショッピングモールだ。あいつらは経済で支配するのが一番楽だと気が付いたんだ。ドラゴン族も伝統工芸などで対抗しようとしたがまったくかなわなかった。今では世界中にショッピングモールを作っている。一号店から4号店までがでかくて、『ショッピングモール四天王』と言われている。三号店がこの前来た、その、ガディの父だ」
ガディが頭を下げる。膝の上に置いたこぶしに血管が浮いている。こわい。キレないで。
スコリィが唐揚げを口に放り込みながらしゃべる。
「悪い奴だとはわかっているっすけど。安くて使いやすいからつい買ってしまうっす。コラボもよくしてくれるし」
完全に掌の上の消費者だ。でもそれが一番幸せなのかもしれない。
「なるほど。なんとなくわかった。で、魔王の支配が続いて何年なの?」
「大戦争が終わったのは80年前だ。はっきりしてきたのは、ここ30年といったところか。魔王は大戦争からもう6代目だが経済拡大に余念がない。こちらの田舎のほうには興味ないみたいだが」
「そっか。こちらの世界の様子がちょっとわかったよ。ありがとう。さ、僕の顔みたいに暗い話はやめにして、今日はたくさん食べて飲もう」
そのあとは皆で飲んで食べて、気分良く酔っ払った。
爪の突き立てたような細い月が、窓の外に少しだけ見えていた。
皆が声を上げ、居酒屋で飲みかわす。
僕たちは盛大に打ち上げをした。スコリィは相変わらずイゴラの隣に座っている。僕もちゃっかりガディの隣に座ったけど。
程よく食べ、酒が回ってきたころ、僕は立ち上がった。本当はこんなことしたくないけど、僕が店長だからしなければならない。
「皆、今回はイゴラくんがMVPだ。褒めたたえるように!」
ぱちぱちぱち。
「さすがっす! 感涙を禁じ得ないっす!」
「いいぞ!」
「レンガパン、おいしいです!」
「だけど倒れるまで何も言わないのは今回限りだよ。みんな、何か弱みなどあるなら先に言っていてほしい。僕は粘土をこねるのと多少速く走れるくらいしかできない。あとは全部だめだ」
周囲の苦笑いをスルーしてスコリィを促す。
「あたしは完璧っすね。ピクシーにしては背が高いっすけど。まあ女としてはモテないっすけどそれ以外は完璧っす」
「ちょっとまって。でかい女性は需要があるぞ。……その話はあとで時間を作ってじっくりするから、次」
次に、イゴラを促す。
「ボクは背が低いし、力も体力もないから、欠点だらけです。今回も体力不足でこんなことになってしまって」
「身長はこの先に伸びるかもしれないし、体力はこれからついていくよ。一緒に頑張ろう」
そしてガディを促す。
「ワタクシも魔法以外は全然だめで。あと、デビルガーゴイルの娘として、本当はもっと迫力が欲しいのですが。この見た目のせいで、魔法を活かせる戦闘系の仕事に就けなくて」
「なるほど。美しさは罪ってやつ、だね」
最後にペッカ。
「俺様は、……特にないぞ。お前らより長生きしているしな」
「そっか。頼もしいな」
首をゆっくりと動かしながらみんなをぐるりと見る。背が高い、背が低く体力がない、美しすぎる、という欠点。戦いでは弱みかもしれないが、商売にはあまり関係がない。むしろ、強みにすらなる。
このパーティなら、魔王ショッピングモールにも一矢報いることができるかもしれない。
「ちなみにこの世界って魔王が一番強いの?」
よくぞ聞いてくれたという感じでペッカがしゃべりだす。
「異世界人はよく勘違いするが、魔王はもう力で世界を支配する方向を変えて、経済力で世界を支配する方向にいっている。その代表がショッピングモールだ。あいつらは経済で支配するのが一番楽だと気が付いたんだ。ドラゴン族も伝統工芸などで対抗しようとしたがまったくかなわなかった。今では世界中にショッピングモールを作っている。一号店から4号店までがでかくて、『ショッピングモール四天王』と言われている。三号店がこの前来た、その、ガディの父だ」
ガディが頭を下げる。膝の上に置いたこぶしに血管が浮いている。こわい。キレないで。
スコリィが唐揚げを口に放り込みながらしゃべる。
「悪い奴だとはわかっているっすけど。安くて使いやすいからつい買ってしまうっす。コラボもよくしてくれるし」
完全に掌の上の消費者だ。でもそれが一番幸せなのかもしれない。
「なるほど。なんとなくわかった。で、魔王の支配が続いて何年なの?」
「大戦争が終わったのは80年前だ。はっきりしてきたのは、ここ30年といったところか。魔王は大戦争からもう6代目だが経済拡大に余念がない。こちらの田舎のほうには興味ないみたいだが」
「そっか。こちらの世界の様子がちょっとわかったよ。ありがとう。さ、僕の顔みたいに暗い話はやめにして、今日はたくさん食べて飲もう」
そのあとは皆で飲んで食べて、気分良く酔っ払った。
爪の突き立てたような細い月が、窓の外に少しだけ見えていた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる