あの世からのお迎えを待つばかりのおばあちゃんが、異世界の悪役令嬢と入れ替わったら

白柿

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残ライフ4

06.

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 王城は、たしかにとても立派で、すごいなとは思った。
 よくNHKでやっている〝世界遺産なんちゃら〟みたいな番組に出てくる、中世に建てられた城のように。
 その門は巨大でその周辺には薔薇が咲き誇り、尖塔は夜空に向かってそそり立ち、衛兵は礼儀正しく筋肉隆々、中に入れば飾られている絵は西洋美術館のもののよう、回廊にずらりと並ぶ甲冑は紛れもなく本物で、客間は私の実家の居間の3倍は広さがあり──。
 たしかに、中世ヨーロッパにタイムスリップしたかのような素晴らしい体験ではある。
 しかし、紅茶に映りこむ私は、見るからに沈んだ顔をしていた。

「……マクベス様は現在ペペンシー邸で開かれているパーティーにご出席中ですが、マーサ様が無事到着されたとご報告するため、使者を出しました。王家の方々もみな今宵はパーティーにご参列されているので出払っておられます」
「……うん」
「マーサ様が今、王宮にいらっしゃることはくれぐれも内密にとのマクベス様のご指示ですので、念のため今夜はこの客間から出ないようお願い申し上げます」
「……。」
「どうかされたのですか?」

 ──ジルさんは、分かって聞いているのだ。

「なんでもないよ」

 なんでもないわけがない。
 このティーカップには口をつけられない。
 毒が、入っているかもしれない。
 ──そう疑ってしまう自分がいやだ。
 ジルさんが私を殺した犯人だなんて、いちばん考えたくなかったことだ。
 同じ顔をしていても、やはり満鶴さんとは全く違う人物なのだと、思い知らされるから。
 ──を、いま私がこうして推理しているのも、おかしなことだが。
 刑事や探偵や科捜研といっしょに犯人を推理することは好きだったが──、私を殺した犯人を私が見つけ出さなければならないなんて。
 ばかげているにもほどがある──と思っていると、何やら視界のすみでボードゲームを弄っていた男が、話に割り込んできた。

「どうかされたのですか?って……子どものころから決まってた王太子との婚約を破棄されちゃったんだから落ちこむに決まってんでしょ、おじ~いちゃんっ♪」

 そしてこちらにやってきてジルさんを背後からぎゅうと抱きしめると、にこりと笑った。
 なぜいま、ジルさんを抱きしめる必要が──? 

「……じいさんじゃない」

 どこか嫌そうな呟きが聞こえた。
 これは何だか──私がなので、申し訳ない。
 しかしこの男は止まらない。

「いや~、たしかにじいさんっぽいよね、なんか朴訥としてるし、言うこともなんか悟ってるし、健康マニアなとこあるし、なんかときどきボケてるし、すごい早寝早起きだし……」

 もうやめてくれ、ゲ-ルズよ──私たちの気まずい表情に、早く気付いてくれ──と祈っていたとき、毅然とした声が響いた。

「……早寝早起きは騎士の基本だ。おまえがだらしないだけだ。毎朝おまえを起こしに行くおれの身にもなれ」

 そしてとても嫌そうにゲールズの腕を振り払った。
 ──意外だ。勝手に、物静かで大人しい性格なのかと思っていた。
 しかしこの男はこの男である。

「それについては、毎朝ありがとね、おれのおじいちゃん♪」
「……いい加減怒るぞ」

 そう宣言して、ゲールズの〝ほっぺたにチュウ〟攻撃を何とか防いでいるが──私にはふたりがじゃれ合っているようにしか見えない。
 ──そういえば、満鶴さんにも、昔、ひとり特別に仲の良かった幼馴染の男がいたな。
 ここまで過度なスキンシップはなかったが、ふたりの間には、妻である私は入り込めないふたりだけの空気がたしかにあったのだ。

「……おまえたちは、仲がいいんだな。なんだか羨ましいよ」

 そう言った途端、ゲールズの動きが止まった。
 私たちの間のテーブルに頬杖をつき、私を見ると、皮肉げに笑って言った。
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