あの世からのお迎えを待つばかりのおばあちゃんが、異世界の悪役令嬢と入れ替わったら

白柿

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残ライフ4

07.

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「ていうかさ、マーサちゃん。あんたずっと、ヘンだよ。いつものあの、超~気取ったお嬢様口調はどうしちゃったの? 倒れたときほんとに頭打っちゃったわけ?」
「おい、ゲールズ……」

 え──。
 そ、そうだったのか。
 〝マーサ〟は、そんなに気取った口調をしてたのか。
 たしかに、あの大屋敷やら絹の衣装やら侍女がいることやら、どう考えてもお姫さんだもんな──。
 今から取り繕うのでも、遅くはないかも?

「では、お聞きしますが……貴方様は、私のことを……どうお感じでしたのでございますでしょうか?」
「……あは、馬鹿にしてんの?」

 うわあ、ゲールズ、笑顔なのに目は完全に据わっている──あきらかに間違った──。
 やっぱり私がお嬢様になりきるのは不可能だ──。

「……私のことを、あんたはどう思っていたか教えてくれ」

 できるなら、この子がどんな子だったのか知りたい。
 殺されるまでの恨みを買うような人間だったのか、それとも──。
 ゲールズは見定めるように私を見たあと、言った。

「こういうの、本人に言っていいもんかなあ? なあ、ジル」
「……おれにふらなくてもいいだろ」

 え──ジルさんまでも、言うのも憚られるような子だったのか──?

「え~? じゃあ……またヒステリー起こさないって約束してよ?」

 ヒ、ヒステリー?
 よく分からないがここは頷いておこう。

「分かった。……私は〝もう公爵家の人間じゃない〟んだから、気兼ねなく言ってくれ」

 そう言うと、ゲールズはひとつ頷き、安心したのか、口を開いた。

「そう、あんたは……」

 あんたは──?

「……ハッキリ言って、いけ好かないね。もっとハッキリ言えば……強者や金持ちにへりくだり、弱者や貧乏人をいじめるサイテー女だね」
「…え……」

 ──ガーン……。
 ほ、本当なのか、それは──そんな嫌なやつだなんて──ちょっと話を盛っていたりしないか──?
 しかしこの男は止まらないのだ。

「あんたの悪行は数知れず、だもんな。まああれは間接的にだったけど、卒業パーティーでカナリア様がそれを暴いてくれて……取り巻きに指示してカナリア様を階段から突き落とすとか、おれもさすがにそこまでの最低陰湿クズ女だとは思ってなかったからビックリしたわ」

 え──カナリアっていえばたしか、王太子の新しい婚約者だったよな?
 階段から突き落としただなんて──それは本当なのか? 打ちどころが悪ければ、死んでしまうぞ。
 し、信じたくない──。

「だから、マジで王太子サマのことしか見えてない、ただの馬鹿だと思ってた」

 ──ん?
 

「でもさっき、この国の次期国王になるっていうあいつに、なかなかの暴言吐いてたじゃん? たしか〝あんたみたいな姑みたいな嫌味男こっちから願い下げ〟だっけ? あれ、けっこう笑えた。……全校生徒の前で、あんなにハデに婚約破棄されて、ちょっと懲りたのかなあと」

 ゲールズはポリポリと頬を掻きながら、言った。

「まあ、おれ、あんたも嫌いだったけど王太子様のことも好きじゃないから、さっきのはちょっと、爽快だったかな?」

 おお──最後は、何だかとても良い言い方をしてくれるじゃないか。
 それまでなかなかひどい言われようだったが、でも──うれしい。

「……ありがとう、ゲールズ」
「なあ、ほんとにあんたマーサちゃんなの? 中身誰かと入れ替わってたりしない?」
「……。」

 ここで「はい、そうです。」と言っても、だれも信じてはくれないことはたしかだ。
 これは、私だけしか抱えることのできない秘密。
 ──ああ、どうしようもない。
 一人になりたい。

「茶化すなよ。ところで、そろそろ眠くなってきたんだが……」
「え~!? まだ9時前だよ!? おれ、みんなで遊ぼうと思ってトランプ持ってきたのに!」

 ゲールズがほらほら、とポケットからトランプを取り出して見せてくる。
 ──いつもの私なら、職員さんに誘われて大喜びでするのだが。

「ゲールズ、わるい。また今度」
「え~、今度っていつだよ!?」
「マーサ様、長居してしまい申し訳ありませんでした。ゲールズ、ほら、行くぞ」
「やだやだあ、大貧民しようよ~!」

 すると、駄々をこねるゲールズの首根っこをジルさんがむんずと掴み、キャリーバッグのように引きずっていく。
 そしてドアを開け、廊下のほうをちらと左右確認したあと、放り投げた。

「わ~、ジルのすかぽんたん!」
「では、失礼いたします」
「あ、ありがとう。じゃあ……」
「……。」

 ん?
 なぜ、閉めようとしたドアを押さえる?
 何かまだ用でもあったか?
 
「どうした? ジル」
「……そんなに、落ちこまないでください」
「え?」
「ずっと、お顔が暗いので」
「……。」

 私が落ちこんでいるのはあんたのせいだと言ってやりたいが、これがどっこい、言えないのである。
 この男の腹のうちがさっぱり分からないが、ここは無難な言葉を返しておくか。

「……心配してくれてありがとう、ジル。でも、私は大丈夫だよ」 
「……そうですか。では、この部屋の鍵です。念のため忘れずに施錠してください」
「おう、ありが……」

 そう言って、その差し出された手から鍵を受け取ろうとした、そのとき。
 出した右手を握られたと思ったら、いきなりぐいっと引っ張られた。

「わっ……」

 するとたちまち、視界いっぱいにジルさんの顔が──。
 わあ!! 完全に間合いを詰められてしまった──!
 もうダメだ、この距離では攻撃されたらもう避けきれない──。
 もっとこの男を警戒すべきだったのだ。でも後悔してももうダメだ、遅すぎる──私はまた、死ぬのか──ときつく目を閉じた瞬間。
 頬のあたりに、羽根みたいな柔らかい感触。

「……っえ…?」

 なっ──も、もしや、これは──。
 もしかしなくとも、せ、接吻された──?

「マーサ様……」

 呼ばれてその目を見やれば、「今すぐ殺してやる!」などそんな殺気は全くなく──むしろ、まるで恋人か何かにでも向けるような、優しい目で見つめられている──。
 つまりこれは、外国で親しい人の間で行われるという、別れの挨拶!
 だとするとこれは同じように挨拶を返すべきか否か──でも生粋の日本人の私には恥ずかしすぎる──と脳内が大わらわのところで、ジルさんの顔がさらに近づいてきてしまった。
 どうしてか、うっと息を止めた瞬間、耳元で囁かれた。

「……それなら、よかったです」
「?」

 それなら、って、何がだ?

「だって、あいつなんかにあなた様はもったいない」
「え……?」
「ジル~、何してんの?」

 もはや何を言われているかもよく理解できないまま、バッと身体を離された。
 
「ほら、誰もいないうちに早く!」
「……では、おやすみなさいっ」
「お、おやすみ……」

 そうおやすみの挨拶を返したものの、絶対にこちらを見ようとはしてくれない。
 それでも、ドアが完全に閉めきられて姿が見えなくなるまで、目が離せなかった。
 そっぽを向いていて表情は分からないが──耳が、まるでりんごのように赤かった。
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