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残ライフ3
14.
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弟はこの部屋に虫など飛んでいないことが確認できたのか、私に向き直って言った。
「いいですか、義姉上。まず、侍女はこの国の王太子様の婚約披露パーティーなんて大層なものに出席などできないし、僕も断固、お断りです。どうして捨てられた女の弟がそんなパーティーにのこのこ出席しなければならないんですかっ!」
「……。」
捨てられた女、という言葉が引っかかるが、まあいいだろう。
たしかに彼の言い分にも一理ある。
マリアは身分というものが足りなくて出られない。弟には外聞というものがあって出られないというわけだ。
「……じゃあ、仕方がない。私ひとりで行ってくるしかないね。じゃあマリア、支度を手伝ってくれないか」
「ちょっと待ってください義姉上」
そう言うと、速攻で弟がタンマをかけてきた。
どうしてだ?
「……本気ですか?」
「何がだ?」
そう問えば、弟は呆れたようにぐるりと目を回すと、言った。
「本気で、あなたを捨てた男が新しい女との婚約を発表するパーティーに出るおつもりですか、という意味に決まってるでしょう」
「そういう意味なら、そうだが?」
素直にそう答えるも、弟はどうしてか納得できないらしく、難しい顔で口を開いた。
「それだけじゃないですよ。これは、王太子様とあなただけの問題じゃない。みんな、あなたがこの国の次期国王になる男に捨てられたということを知っているし、あなたが出れば、さらにそれをみなに知らしめることになるだけじゃないですか。お父様やお母様の顔に、泥の上塗りでもする気ですか?」
捨てた捨てられたなどと、うるさいなあ。女はモノじゃないぞ。
でも──妻に選ばれなかったのは事実だから、仕方がないか。
「弟よ、それは仕方がないんじゃないか? 事実なんだから」
「……。」
それにどうせ家族は娘と縁を切ろうとしているんだから、心配無用じゃないのか。
しかし、弟はまだ諦めきれないような顔をしている。
──というかこれはつまり、セザリエの優しさではないか?
これは姉を心配してくれているというふうにも取れる。
勝手に出席してろと、何も言わず知らん顔をしていれば、別にいいことだ。
まあ、弟の顔にも〝泥の上塗り〟になっているのかもしれないが──。
するとセザリエはジト目で言った。
「……義姉上にプライドってものはないんですか」
プライドか──。
このくらい年老いれば、ひとりで立つこともできなくなるし、ひとりで小便もできなくなるし、ひとりで満足に食べることも難しくなってくる。
できなくなることばかりが増えていって、誰かに手伝ってもらうしかないのに、変な誇りなんか持っていたら生きていかれないよ。
「私にはいらんかな」
「……ああ~っ、もう! これだから義姉上は!」
セザリエは突然叫んだかと思うと、とうとう言った。
「出ます、出ますよ。出ればいいんでしょ、パーティーに!」
「ありがとう、セザリエ!」
その優しさがありがたくて、嬉しくて、弟を抱き寄せて額にキスしてしまった。
「ぎゃっ!」
弟はもがいて何とか抜け出そうとしているが──私の腕力を侮るんじゃないぞ。
そのとき、それまで私たちのやり取りを静観していたマリアが口を開いた。
「やはり仲良しさんでいらっしゃるんだから! でも、見張るってもしかして……」
そうだ、肝心なのはそこなのだ。
対象者は──。
「見張るのは、王太子と、その騎士たちだ。私は彼らがクサいと思ってる。頼む、私が殺されないように、彼らを見張っててくれ!」
「……本当にナンセンスだ…」
弟はもはや、私の腕の中で弱り果てたようなか細い声を出している。
すると、マリアが畳みかけるように言った。
「ああ、私も出られればいいのですが……そうすればマーサお嬢様の不安を、少しでも取り除けるのに……本当に申し訳ありません……」
そんなふうに言ってもらってこちらのほうが申し訳なくなる──。
マリアになんて声をかけようか悩んでいるうちに、弟に絡みつけていた腕が厄介そうに振り払われ、言われた。
「もういいです、もう何も聞かないです、僕が見張ればいいんでしょ見張れば!」
「いいですか、義姉上。まず、侍女はこの国の王太子様の婚約披露パーティーなんて大層なものに出席などできないし、僕も断固、お断りです。どうして捨てられた女の弟がそんなパーティーにのこのこ出席しなければならないんですかっ!」
「……。」
捨てられた女、という言葉が引っかかるが、まあいいだろう。
たしかに彼の言い分にも一理ある。
マリアは身分というものが足りなくて出られない。弟には外聞というものがあって出られないというわけだ。
「……じゃあ、仕方がない。私ひとりで行ってくるしかないね。じゃあマリア、支度を手伝ってくれないか」
「ちょっと待ってください義姉上」
そう言うと、速攻で弟がタンマをかけてきた。
どうしてだ?
「……本気ですか?」
「何がだ?」
そう問えば、弟は呆れたようにぐるりと目を回すと、言った。
「本気で、あなたを捨てた男が新しい女との婚約を発表するパーティーに出るおつもりですか、という意味に決まってるでしょう」
「そういう意味なら、そうだが?」
素直にそう答えるも、弟はどうしてか納得できないらしく、難しい顔で口を開いた。
「それだけじゃないですよ。これは、王太子様とあなただけの問題じゃない。みんな、あなたがこの国の次期国王になる男に捨てられたということを知っているし、あなたが出れば、さらにそれをみなに知らしめることになるだけじゃないですか。お父様やお母様の顔に、泥の上塗りでもする気ですか?」
捨てた捨てられたなどと、うるさいなあ。女はモノじゃないぞ。
でも──妻に選ばれなかったのは事実だから、仕方がないか。
「弟よ、それは仕方がないんじゃないか? 事実なんだから」
「……。」
それにどうせ家族は娘と縁を切ろうとしているんだから、心配無用じゃないのか。
しかし、弟はまだ諦めきれないような顔をしている。
──というかこれはつまり、セザリエの優しさではないか?
これは姉を心配してくれているというふうにも取れる。
勝手に出席してろと、何も言わず知らん顔をしていれば、別にいいことだ。
まあ、弟の顔にも〝泥の上塗り〟になっているのかもしれないが──。
するとセザリエはジト目で言った。
「……義姉上にプライドってものはないんですか」
プライドか──。
このくらい年老いれば、ひとりで立つこともできなくなるし、ひとりで小便もできなくなるし、ひとりで満足に食べることも難しくなってくる。
できなくなることばかりが増えていって、誰かに手伝ってもらうしかないのに、変な誇りなんか持っていたら生きていかれないよ。
「私にはいらんかな」
「……ああ~っ、もう! これだから義姉上は!」
セザリエは突然叫んだかと思うと、とうとう言った。
「出ます、出ますよ。出ればいいんでしょ、パーティーに!」
「ありがとう、セザリエ!」
その優しさがありがたくて、嬉しくて、弟を抱き寄せて額にキスしてしまった。
「ぎゃっ!」
弟はもがいて何とか抜け出そうとしているが──私の腕力を侮るんじゃないぞ。
そのとき、それまで私たちのやり取りを静観していたマリアが口を開いた。
「やはり仲良しさんでいらっしゃるんだから! でも、見張るってもしかして……」
そうだ、肝心なのはそこなのだ。
対象者は──。
「見張るのは、王太子と、その騎士たちだ。私は彼らがクサいと思ってる。頼む、私が殺されないように、彼らを見張っててくれ!」
「……本当にナンセンスだ…」
弟はもはや、私の腕の中で弱り果てたようなか細い声を出している。
すると、マリアが畳みかけるように言った。
「ああ、私も出られればいいのですが……そうすればマーサお嬢様の不安を、少しでも取り除けるのに……本当に申し訳ありません……」
そんなふうに言ってもらってこちらのほうが申し訳なくなる──。
マリアになんて声をかけようか悩んでいるうちに、弟に絡みつけていた腕が厄介そうに振り払われ、言われた。
「もういいです、もう何も聞かないです、僕が見張ればいいんでしょ見張れば!」
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