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21.ダークエルフ・ノヴァの決着
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アダムの発言から魔族達に衝撃が走った。
一斉に僕へと注目が集まる。
「えっと……何か問題があるの?」
状況が上手く把握できず、僕が首を傾げていると、アダムが威勢よく言い放つ。
「はなからおかしいとは思っていたのだ。最下位の劣等種であるダークエルフごときが、人型の使い魔を使役していること事態、異様だったのだから……」
確信を持ったアダムの発言に、魔族達は何事かとざわめきだす。
アダムは声を張り、ノヴァを指差して告発する。
「この淫魔は遥か昔に失われた古代魔術、禁忌とされる合成魔術を使って、魔族でも魔獣でもない、理に反する生物を生み出したのだ!」
「!?」
突拍子もない発言に困惑し、ノヴァは声を上げる。
「何を言っているんだ……いくらなんでもそんなことできるわけがないだろう! 俺は魔導書に記されていた召喚魔法で使い魔を呼び寄せただけだ。第一、生命を弄ぶようなそんな恐ろしい魔術に手を出すわけがない!!」
アダムはゆらりと立ち上がり、魔族達に語って聞かせる。
「この世に万物を生み出す行為は人間にのみ許された御業、魔族に許された領域ではない。禁を犯せばこの魔族社会は混沌の渦に呑み込まれ、崩壊する……そして、その混沌と崩壊を招く存在が、そこにいる使い魔だ! 混ざり者を材料に魔眼の効かない合成生物を生み出したのだ!!」
「!!?」
僕達に指差して、アダムは禁忌を犯した罪人だと主張する。
「私の魔眼が効かないのが何よりの証拠! どんな魔族であろうとも、エルフ以外に抗える者は存在しないはずだ。なのに、その使い魔は人型であるにもかかわらず、魔眼の力が効かなかった……魔族ではない何よりの証だ!!」
「違うっ! こいつは――」
ノヴァの言葉を遮り、アダムははっきりと明言する。
「よって、決闘の勝敗は不正だ……魔族でも魔獣でもない者が、この世界に存在するべきではない……この世の理を正すため、秩序を守るため、そいつらはただちに裁かれるべき、粛清されるべきなのだ」
魔族達は僕達の姿を見て息を呑み、審査員は様子を伺いながら考え込んでいた。
疑いの目を向けられ、僕は黙っていられなくて叫ぶ。
「僕は合成生物なんかじゃないよ!」
そう言うのが、今の僕には精一杯だった。
(本当は魔族ではなく人間なのだと主張したいところだけど、これまでの魔族達の反応から人間だと主張しても信じてもらえないだろうし、余計に怪しい生物だと思われても困る……)
どうしたものかと考えあぐねていると、ノヴァが僕の前に出てきて叫ぶ。
「こいつは、俺が長年かけて練り上げた魔力で召喚した! 俺の使い魔だ!!」
グレイ、ブラッド、リュウ、仲間達も僕達の前に出てきて庇ってくれる。
「そうだぜ。合成生物なんて、てめぇの勝手な妄想じゃねぇか」
「負け惜しみで不正を主張するとは、元・学園最強の名が廃るのう」
「マナト殿が合成生物などと、世迷い言にもほどがあるでござる」
すると、アダムは一度閉ざした目を大きく見開き、仲間達を見すえた。
妖しい緑色の眼光を放ちながら、アダムは仲間達に命じる。
「そいつらを粛清しろ!」
「!!」
魔眼に見すえられた仲間達は硬直し、ゆっくりと僕達の方へと振り返った。
「くそっ……お前ら、正気に戻れっ!」
その目は虚ろで、正気ではないように見えた。
「みんな、しっかりしてよ!!」
近づいてくる仲間達を見上げ、僕が懸命に訴えれば、みんなの虚ろだった目に光が宿る。
「……見苦しいぜ」
グレイがボソリと呟いた。
仲間達は立ち止まり、再びアダムを見返して言い放つ。
「まさに負け犬の遠吠えってやつじゃねぇか。キャンキャン吠えてねぇで観念しろよ」
「エルフの魔眼は絶対ではないようじゃのう。それとも、ワシらのことまで合成生物だと言い張るのか、のう?」
「いい加減に無様を晒すのはやめるでござる。そなたの立場が悪くなる一方でござるよ」
睨みつけられたアダムは唖然とした表情で喚く。
「なっ、なぜだ! なぜ魔眼が効かない?!」
傍観していた審査員達が前へと出できて、アダムに告げる。
「他の魔族にも君の魔眼は通用していない様子ですね。これでは、いくら学園最強であった君の主張でも、不正とは認められません」
「君の言動は、長年一位を維持してきたエルフの権威を貶める行為だ。秩序を重んじるエルフにあるまじき所業……学園の厳正な審判を覆し、混乱を招こうとしたのだからね」
「エルフ代表であった君は決闘に敗北し、エルフはカースト順位・一位の座から失墜したのだよ。これは魔族社会の制度に則った覆せない事実だ」
一連のやり取りを傍観していた魔族達は、見苦しい敗北者アダムを蔑んだ目で見下す。
冷ややかな視線に晒されて、アダムはようやく自分の置かれる状況を理解し、絶望して崩れ落ちる。
「そんな……エルフの権威が失墜しただなんて……私が敗北したから……」
エルフの未来を憂う憐れなアダムの姿を見て、ノヴァが歩み寄っていく。
「俺は敗者を貶めたり、下位魔族に酷な扱いを強いたりはしない」
そう言って、ノヴァはアダムに手を差し伸べた。
差し出された手を見つめ、アダムは心底悔しそうな表情を浮かべる。
「……っ…………ふざけるな!」
バシンと手を払い退け、アダムは叫んだ。
「情けでもかけているつもりか、私を侮辱するな! 私は誇り高きエルフ、貴様などに媚びへつらうつもりはない!!」
「……そのくらいの気概があるなら大丈夫だな」
啖呵を切るアダムの姿を見て、ノヴァはフッと笑った。
「必ずしも上位種に追従する必要はない。底辺から這い上がればいいだけの話だ。お前の言う出来損ないの劣等種にできたんだから、お前にできない理由にはならないだろう?」
「当然だ……この屈辱は必ず晴らす! 必ず貴様を這いつくばらせて、エルフの権威を取り戻してみせる!!」
「楽しみに待っていてやるよ……それでも、最後に勝つのは俺だけどな」
上位魔族を何人も従えるノヴァは不敵な笑みを浮かべ、アダムに宣言したのだった。
それから、ノヴァは僕の方に向き直り、笑って小さく囁く。
一斉に僕へと注目が集まる。
「えっと……何か問題があるの?」
状況が上手く把握できず、僕が首を傾げていると、アダムが威勢よく言い放つ。
「はなからおかしいとは思っていたのだ。最下位の劣等種であるダークエルフごときが、人型の使い魔を使役していること事態、異様だったのだから……」
確信を持ったアダムの発言に、魔族達は何事かとざわめきだす。
アダムは声を張り、ノヴァを指差して告発する。
「この淫魔は遥か昔に失われた古代魔術、禁忌とされる合成魔術を使って、魔族でも魔獣でもない、理に反する生物を生み出したのだ!」
「!?」
突拍子もない発言に困惑し、ノヴァは声を上げる。
「何を言っているんだ……いくらなんでもそんなことできるわけがないだろう! 俺は魔導書に記されていた召喚魔法で使い魔を呼び寄せただけだ。第一、生命を弄ぶようなそんな恐ろしい魔術に手を出すわけがない!!」
アダムはゆらりと立ち上がり、魔族達に語って聞かせる。
「この世に万物を生み出す行為は人間にのみ許された御業、魔族に許された領域ではない。禁を犯せばこの魔族社会は混沌の渦に呑み込まれ、崩壊する……そして、その混沌と崩壊を招く存在が、そこにいる使い魔だ! 混ざり者を材料に魔眼の効かない合成生物を生み出したのだ!!」
「!!?」
僕達に指差して、アダムは禁忌を犯した罪人だと主張する。
「私の魔眼が効かないのが何よりの証拠! どんな魔族であろうとも、エルフ以外に抗える者は存在しないはずだ。なのに、その使い魔は人型であるにもかかわらず、魔眼の力が効かなかった……魔族ではない何よりの証だ!!」
「違うっ! こいつは――」
ノヴァの言葉を遮り、アダムははっきりと明言する。
「よって、決闘の勝敗は不正だ……魔族でも魔獣でもない者が、この世界に存在するべきではない……この世の理を正すため、秩序を守るため、そいつらはただちに裁かれるべき、粛清されるべきなのだ」
魔族達は僕達の姿を見て息を呑み、審査員は様子を伺いながら考え込んでいた。
疑いの目を向けられ、僕は黙っていられなくて叫ぶ。
「僕は合成生物なんかじゃないよ!」
そう言うのが、今の僕には精一杯だった。
(本当は魔族ではなく人間なのだと主張したいところだけど、これまでの魔族達の反応から人間だと主張しても信じてもらえないだろうし、余計に怪しい生物だと思われても困る……)
どうしたものかと考えあぐねていると、ノヴァが僕の前に出てきて叫ぶ。
「こいつは、俺が長年かけて練り上げた魔力で召喚した! 俺の使い魔だ!!」
グレイ、ブラッド、リュウ、仲間達も僕達の前に出てきて庇ってくれる。
「そうだぜ。合成生物なんて、てめぇの勝手な妄想じゃねぇか」
「負け惜しみで不正を主張するとは、元・学園最強の名が廃るのう」
「マナト殿が合成生物などと、世迷い言にもほどがあるでござる」
すると、アダムは一度閉ざした目を大きく見開き、仲間達を見すえた。
妖しい緑色の眼光を放ちながら、アダムは仲間達に命じる。
「そいつらを粛清しろ!」
「!!」
魔眼に見すえられた仲間達は硬直し、ゆっくりと僕達の方へと振り返った。
「くそっ……お前ら、正気に戻れっ!」
その目は虚ろで、正気ではないように見えた。
「みんな、しっかりしてよ!!」
近づいてくる仲間達を見上げ、僕が懸命に訴えれば、みんなの虚ろだった目に光が宿る。
「……見苦しいぜ」
グレイがボソリと呟いた。
仲間達は立ち止まり、再びアダムを見返して言い放つ。
「まさに負け犬の遠吠えってやつじゃねぇか。キャンキャン吠えてねぇで観念しろよ」
「エルフの魔眼は絶対ではないようじゃのう。それとも、ワシらのことまで合成生物だと言い張るのか、のう?」
「いい加減に無様を晒すのはやめるでござる。そなたの立場が悪くなる一方でござるよ」
睨みつけられたアダムは唖然とした表情で喚く。
「なっ、なぜだ! なぜ魔眼が効かない?!」
傍観していた審査員達が前へと出できて、アダムに告げる。
「他の魔族にも君の魔眼は通用していない様子ですね。これでは、いくら学園最強であった君の主張でも、不正とは認められません」
「君の言動は、長年一位を維持してきたエルフの権威を貶める行為だ。秩序を重んじるエルフにあるまじき所業……学園の厳正な審判を覆し、混乱を招こうとしたのだからね」
「エルフ代表であった君は決闘に敗北し、エルフはカースト順位・一位の座から失墜したのだよ。これは魔族社会の制度に則った覆せない事実だ」
一連のやり取りを傍観していた魔族達は、見苦しい敗北者アダムを蔑んだ目で見下す。
冷ややかな視線に晒されて、アダムはようやく自分の置かれる状況を理解し、絶望して崩れ落ちる。
「そんな……エルフの権威が失墜しただなんて……私が敗北したから……」
エルフの未来を憂う憐れなアダムの姿を見て、ノヴァが歩み寄っていく。
「俺は敗者を貶めたり、下位魔族に酷な扱いを強いたりはしない」
そう言って、ノヴァはアダムに手を差し伸べた。
差し出された手を見つめ、アダムは心底悔しそうな表情を浮かべる。
「……っ…………ふざけるな!」
バシンと手を払い退け、アダムは叫んだ。
「情けでもかけているつもりか、私を侮辱するな! 私は誇り高きエルフ、貴様などに媚びへつらうつもりはない!!」
「……そのくらいの気概があるなら大丈夫だな」
啖呵を切るアダムの姿を見て、ノヴァはフッと笑った。
「必ずしも上位種に追従する必要はない。底辺から這い上がればいいだけの話だ。お前の言う出来損ないの劣等種にできたんだから、お前にできない理由にはならないだろう?」
「当然だ……この屈辱は必ず晴らす! 必ず貴様を這いつくばらせて、エルフの権威を取り戻してみせる!!」
「楽しみに待っていてやるよ……それでも、最後に勝つのは俺だけどな」
上位魔族を何人も従えるノヴァは不敵な笑みを浮かべ、アダムに宣言したのだった。
それから、ノヴァは僕の方に向き直り、笑って小さく囁く。
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